裏ルート攻略後、悪役聖女は絶望したようです。

濃姫

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悪役聖女の末路

長い、長い夜

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 朝は眩しく照り輝いていた太陽も夜が来ればまるで何か怖れるようにその姿を忽然と消してしまう。そしてそんな時には決まって、獣達の足音がするのだ。

 聖都ジャンヌではそんな冒頭から始まる童話が存在するが、実際自分がそんな目に合うとなると趣深いとも言えるのかも知れない。


 「ぁぁあ゛ぅ⁉! ぁ゛nぁあっ…、あぁっぁあ゛ぁ&$%‼!!」

 前言撤回する。趣深いも何もあったものではない。獣に生身のまま食い散らかされることのどこが趣深いだ。単なる捕食行為を美化するのは傍観する人間の立場だったときだけでいい。
 
 遠慮など皆無で自身の快楽だけを追い求めた行為の上で、その圧倒的暴力から少しでも快感を拾い集めようとする自分の身体に嫌気が差す。

 そしてそれ以上に、私の身体を道具か何かのように弄んでもなお満足しないこの男に嫌悪が増す。
 既に叫び果て日常にも支障をきたす辺りまでにいるので私の事情などとうに構わないのかさらに律動を再開するのだ。

 「ん? ちょっとナカゆるくなってきたかなぁ。シルちゃん、お腹に力入れられる?」
 「…っはぁ、hぁ…。だれっ、が…!⁉!」


 バチッ゛ツツ…⁉!!
 
 精一杯の力を込めて睨み悪態をついたその瞬間、右頬にまるで石を投げ打った程の焼けるような痛みが轟いた。

 視界がグラリと揺れ、世界は回っている。どう考えてもおかしいのに、それをおかしいと感じる警告塔まで壊れたみたいだ。

 「…っん。そうそうやればできるじゃん。あ゛ぁ~…、きもちぃ」
 
 まだ意識が朦朧としている私を置いて、ナカを侵食する獣。まるで壊れたテレビを叩くみたいに物を直したと言わんばかりのこの獣を、躾ける術など誰が持つのであろう。

 本人は本気で殴ったなど露にも思っていないが、回復力ばかりに優れ耐久力を持たないこの身体は全身から悲鳴を上げている。

 腫れた頬からは骨が砕けたような痛みと唇が切れた感覚が伝わる。それに鼻血でも出ているのか血の匂いが濃くなった。

 「シルちゃんの言う通りだ。言うことを聞かない悪い犬にはちゃんと躾けなきゃ。ね?」
 
 まさかこの男も私への復讐だと言うのだろうか。私は今まで何年と耐えてきたのに、たった数ヶ月で報復を受けるほどのことだったのだろうか。

 …ふざけるな、馬鹿にするのも大概にしろッ!!!
 ぼやけた視界のまま、視界に捉えた黒い人のカタチのようなものをキッと睨みつける。

 たとえそれがラクロスにとって瀕死のアリが無様に戦おうとする姿に見えたとしても、この怒りだけは沈められない。

 「ふーん、何? まだ躾け足りない?」
 「……ーッ゛、ふ…っ」
 
 両頬を鷲掴みにされて顔を目と鼻のすぐ先まで近づけられる。ぼやけていた視界もようやく視力を取り戻し、日食のように眩しい黒の眼光が私を捉える。

 「まぁいいや。俺だってあんまりシルちゃんを傷つけたいわけじゃないし、それにこの血。美味そう」
 
 ベロリと流れ出る鼻血を舐め取られれば、今までかいた滝のような汗が一瞬にして凍りつき寒気に変わる。

 「あぁ、ずっと裸のままだし冷えたよね。ほら、よいしょっ」
 
 寒気のせいでぶるりと震えた身体を、まるでぬいぐるみを抱きしめるかのように肌を密着させるラクロス。

 身体は確かに体温を分け与えられて熱がこもるのに、私の心はそれに相反してさらに冷たくなっていく。

 オルカは苦しいことを私にたくさんしたけど、ラクロスは痛みを私に与えた。純然なる暴力。あるときは顔が腫れるまで、身体中に青痣ができるまで。

 痛みは単純だ。人の意志を奪い、隷属させるのに最も効率的な方法。暴力から来る痛みに先に根を上げたのは私の身体だった。

 子どもの頃はまだセーブがかかっていたラクロスの暴力的な衝動を受け止めきれるほどの器は私にはなかった。

 だけどいくら謝っても止めてくれないから、私はこう考えることにした。痛いのは全部私のせい。私が悪いから、これはその罰なんだって。だから止められないのだと。

 そう思い込むことで多少の理不尽にも目を背けられた。仮にもこれが単純な獣の欲望を満たすための行為だと知ってしまえば、私は否応なく壊れるしかなかっただろうから。

 たすけて…っ、タスケテっ‼!
 心がどんなに叫んでも、その声に応じてくれる人は誰一人としていない。昨夜につけられた青痣はたった数時間で薄まり、内側に傷だけ作って消えていく。

 誰でもいい。この地獄から救ってくれる人、私を繋ぎ止めてくれる人。そして何より…、私を殺してくれる人。

 快感と暴力で頭がおかしくなってる。内側からこじ開けられる身勝手な律動を快感として捉えたら、次には脳を激しく揺さぶられるほどの暴力が襲う。

 オルカのように優しい言葉の一つもなくただ愛してるだの可愛いだのを繰り返して私をぐちゃぐちゃにしていくこの獣を、一体誰が殺してくれるのだろう…。

 カーテンが揺れて薄っすらと隙間から見えた満月。
 あぁ…、今日も貴方は私の心など露知らず美しく照り輝いている。いっそこの夜を消してしまえれば…、そんなことを柄にも考えてしまった。

 












 ######

 「…っ~~ぁぁッ!?! ぃ゛、ぃあっぁあ!」
 「はぁあ~~~ッ…、可愛すぎるッ!」
 
 快楽の波が防波堤を失ったかのように脳に送られた電気信号に身体を振動させる私と、それを焼き付けるかのような目で眺めるラクロス。

 何の思いつきか、私は今3日程放置された挙げ句ラクロスの目前で発情状態に陥っていた。まだ暴力がない分マシだと考えていた数十分前の自分が恨めしくも羨ましい。

 確かに暴力がないに越したことはないけど、これは無理だ。自分の身体が電気改造でもされたかのように高電圧の電流が流れて止められない。
 
 目はチカチカするし、何よりあの満たされた快楽を知った後ではあまりに遅すぎた。
 罪深い味とはまさにこのことだろう。知っていたのに、分かっていたはずなのに、味わされたその果実を食べる前にはもう戻れない。

 「~~はーッ、ハーっ、っぐ、ぁぅ゛う…?”!」
  
 波が去って、一呼吸を入れようと身体の力をゆるめた瞬間を狙ってさらなる快楽が私を襲う。
 これではいくら身体に力をこめたとしても硬直するだけで何の意味もなくなってしまった。

 涙と鼻水が混じってとても見せられるような顔じゃないのに、どんな感覚の持ち主かラクロスはジッと見つめては離さない。
 最初は最悪だと感じていた視線も今では熱い熱に変わってむしろ欲しているのだから恐ろしい。

 まるで脳が直接電流を浴びてるみたいに、透明な鼻水が流れ出て半開きになった口がどう見ても正気じゃないことを訴えている。

 ラクロスに伸ばそうとした手は救いを求めるかのように切実で、そしてそんな私をラクロスは嘲(あざけ)るように嗤った。

 「ん? どしたの、シルちゃん。ペットじゃないんだからちゃんと言葉で伝えないと」
 「~~~~……、~ッぁ、ぅ゛。も、おねがッ~^‼!」
 「あ゛ぁあ~、全然ダメ。見習い娼婦の方がマシなレベルじゃん」
 「ぃや…゛、もっ、ゃあぁぁあ゛aぁッ」

 現実では手に届かない快感が私の頭の中では想像として顕現し、それがより強い催淫(さいいん)効果をもたらす。
 この熱と同じようい身が朽ち果てるまで快楽に溺れる自分の姿を考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうなほど身体が疼いた。

 ついには言葉を発することですら快感の入口となり何か声を出そうとしても途中で嬌声へと変わってしまった。

 「~゛~ーーッー゛…、ぁ~~゛ー」
 「あ゛ー、ぶっ壊れちゃった? 大丈夫そ、シルちゃん?」
 
 拙い動きながらも首を左右に振り動かして否定の意志を明らかにする。それを見たラクロスは何を思ったのか私の口に指を二本突っ込んだ。

 「がフッ⁉!! ごッ…、ぁえ゛!?!」
 「ほら、好きに使っていいよ。あ、噛んだら殴るから」

 まさか慈悲だとでも思っているのか、強引に突っ込まれたせいで呼吸が乱れ喉が更に痛々しく感じる。噛み切ってやろうと思うにもそれほどの力も残っていない。

 ただラクロスの思い通りその太い指を自分の性感につながる箇所へと押し付けて少しでも快楽を上げるために使うだけ…。
 まるで媚びを売るような自分の姿を、誰が見ても【聖女】だとは思わないだろう。

 「n、んふっぇあ゛…。ぁ゛うx…んぐっぉ゛ぇ⁉!!」
 「ははッ、キッタない声だなぁ。シルちゃんって理性壊れると結構不細工だよね(笑)」

 好きにしていいと言った割に休もうとした隙を狙って喉奥に一切の躊躇なく指を押し入れるラクロスに、本気で人間の血が流れていないのだと確信する。

 「ォ゛がッ…、ぉ⁉ ぐぇえ゛…ッ⁉!!」
 「ハーッ゛、ガチで可愛過ぎる」

 ツー…と滴り落ちる血。私が流したわけでもない血の原因を見ればラクロスの鼻から鼻血が溢れ出いた。
 まさか私の藻掻き苦しむ姿に興奮して鼻血を出したとでも言うのか。一周回って気持ち悪さが上乗せされる。

 ズルリ…っと喉からゆっくり引き抜かれた指が遠目に映る。もう指一つですら動かせない。ただ内側に抱えた熱がのたうち回りたいぐらいに暴れて今にも暴発してしまうように感じる。

 「~~~゛っ、れて゛……」
 「ん? なんか言った?」
 
 絶対に聞こえているはずなのにわざと聞こえていない振りをするラクロスを憎む暇もなく、今は切実な助けを必要としていた。

 「も゛っ…、い゛れてッ゛⁉! ぉねがッ、ぐるうがらぁ…!!」
 「え~…、しょうがないな~。まぁ初めてだし、仕方ないから今日だけはこれで許してあげる」

 ぐぷぅ……と入ってくる熱い感覚が私の脳を直接撫でるみたいな奇妙な感覚に陥れた。
 最中嬌声ともとれない濁声を叫ぶ私を愛でながら、その一方で牙を突き立て血を啜るラクロス。

 気が狂うような痛みとようやく許された極上の快楽に頭がチカチカしたまま、何度目かの吐精(とせい)を終えた後私は強烈な衝撃とともに意識を失った。

 その後何度も意識の覚醒と失神を繰り返すとは夢にも思わず、その時ばかりは少しばかりの安らぎだと安心して私は目を深く閉じた…。

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