39 / 44
恨力
奥底にある記憶
しおりを挟む
京夜を狙った奴はどこだ? 周りを見るが誰もいねぇ。
鳥とかは翼を広げて空を飛んでいるが、それ以外の動物はいない。それどころか人の気配すら感じねぇな。
「おい、今日はもう帰ったんじゃねぇの?」
「可能性はあるが、今は一応相手にとってはチャンスだ。そう簡単に姿を眩ませるとは思えねぇよ」
チャンス? なんでチャンスだよ。
「妖裁級の一人である京夜がここまで傷を負っている。殺すなら今が最適だろう。そこまで頭が回る相手ならの話になるがな。恨呪なら突っ込んできそうだが……」
ソワソワと風織が京夜の傷を見ながら説明してくれてるが……。その視線がある意味気になる。
心配してんならオーバーに心配しろよ。そんな風織の説明は納得のできるものだから良いけどよ。
でもよぉ。思ったより京夜は元気だし、風織も俺達は特に問題ないだろ。
風織も強いだろうし、京夜は体を上手く動かせないにしろワイヤー銃で援護が出来る。
「怪我しているにしろ、妖裁級が二人も居るからどうにかなりそうな気がするがっ──」
な、なんだ。この重苦しい空気。体にのしかかる……。おもてぇ!!
額から汗が落ちる。膝に手を置いて倒れねぇように耐えているが無理だ。膝が震える。力が抜けちまう。
「くっそ……。なんだよこれ……」
立っていらんねぇ。膝から崩れ落ちる。体を横に倒すな。これ以上バランスを崩すな。耐えろ耐えろ耐えろ!!
なんなんだよ、なんだよこれ。一体どこから感じている気配なんだよ!!
「ん~。ここまで簡単に動きを封じることが出来るなんてねぇ。拍子抜けにも程があるんじゃないのかい。妖殺隊の諸君よ」
聞き覚えのねぇ声……? すっげぇ低く、重圧のある声だ。
押しつぶされそうになるが、負けるわけにはいかねぇ。誰だ。この声の主。誰なんだよクソが。
――……ゾクッ
……は? 無理やり顔を上げたはいいが、誰だよこいつ。なんか、"不気味"という言葉が具現化したような奴だ。俺達を見下ろしながら立ってやがる。口元にはきっしょい笑み。
目は全く笑ってはいない、体が震える。なんだこいつ。いや、ダメだ。こいつを敵に回すのは危険だ。
確実に、殺される。
「そんな怯えたような顔で見ないで欲しいなぁ。悲しくなるよ」
コツッ……コツッ……と革靴を鳴らしながら、俺に近付いてくる。何をする気だ。やめろ、こっちに来るな。
くそっ。動け、体。動けよクソが!!!!
「そんな無理やり動こうとしなくても大丈夫だから安心して。ほぉら、大丈夫だよ」
顎に添えられた手は冷たく、無理やり顔をあげさせられ……。
「はぁ……っ、はぁ……」
目の前には不気味な男の顔。憎悪が込められている赤と青の瞳。
や、めろ。そんな目で、俺を見るな。見るな。
「お、俺を……。俺を、見るなぁぁぁあああああ!!!!!」
────シュッ
っ?! ワ、ワイヤー?? いきなりワイヤーが目の前を横切った?
はぁ、はぁ……。いや、助かった。ワイヤーのおかげであいつが後ろへと下がったから距離を置くことが出来た。一体、なんだったんだよ。
あの視線から外れたおかげか、体にのしかかっていた重圧が軽くなった。
はぁ、あいつの目。俺の全てを見ているような、不気味で気持ちの悪い目。
ダメだ。今回は本当に俺、何の役にも立てん。体が震える。思うように動けない。
「おい、輪廻!」
「──悪い京夜。俺は戦線離脱する。こいつはダメだ。俺は、戦えない」
「なっ、おい!!!」
戦えない、戦えない。いや、違う。戦えないんじゃない。
俺はあいつと──戦いたくない。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
────ん? あれ。
「ここって、もう怨呪居なくなっ──って、ぇぇぇええええ?!?!! はははははははは幡羅さん?!?! 背中の怪我どうしたんですか!? 今どういう状況ですかこれぇぇぇえええ?!!!?」
なんで幡羅さんはこんなに大きな傷を負ってんの!? 白い包帯が真っ赤に染っているんですけど相当深いみたいですね大丈夫ですかぁぁぁああ!?!?
「黙れ。今はお前のコントに付き合う余裕はない」
「待ってください。私は一度もコントした覚えはっ──え、誰ですかあの高身長男性」
煙草を咥え、私達を舐め回すような気味が悪い目で見てくる。まるで蛇のような目、吐き気がするよ。
不気味と言う言葉が擬人化したような人だな。
って。な、なになになに? まだ戦闘終わってないし……。私、何をすればいいの?!
あ、幡羅さんと美輝さんが前に出て武器を構え始めた。私、二人の後ろに立っているのに鋭い殺気を感じる。
いや、状況が分かりません。あの男性が敵ということはわかるけど。
恨呪ってわけじゃなさそう。あれは本当にただ気持ち悪いだけだったし。今回のあの男性は気持ち悪いじゃなくて、不気味って感じ。
というか、なんでもう一人の私は引っ込んでしまったの? まだ戦闘は続きそうなのに。こんなこと初めてだ。
入れ替わろうと集中しても、底なし沼にでもはまってしまいそうな感覚になる。入れ替わることが出来ないな。もう一人の私が入れ替わるのを拒否しているようだ。
今までは外に出たがって仕方がなかったのに。まぁ、押さえ込んでいたから、無理やり出るのは途中で諦めたみたいだけど。
「やぁ、お嬢さん。目が覚めたみたいだね。お疲れ様」
「え。あ、はい。ども……」
目が覚めた? 確かにさっきまで寝てたけど、なんでわかるんだろう。もう一人の私が私の体を動かしていたはずだから、そうやって言ってくるのはおかしい。
……………………ん? この男性の声。どこかで聞いたことがある気がする。
記憶の奥底、今まで触れてこなかった記憶の蓋。その蓋の中に閉ざされてしまっている、思い出してはいけない記憶。その中に、この男性は存在する。
そんな気が、する。
鳥とかは翼を広げて空を飛んでいるが、それ以外の動物はいない。それどころか人の気配すら感じねぇな。
「おい、今日はもう帰ったんじゃねぇの?」
「可能性はあるが、今は一応相手にとってはチャンスだ。そう簡単に姿を眩ませるとは思えねぇよ」
チャンス? なんでチャンスだよ。
「妖裁級の一人である京夜がここまで傷を負っている。殺すなら今が最適だろう。そこまで頭が回る相手ならの話になるがな。恨呪なら突っ込んできそうだが……」
ソワソワと風織が京夜の傷を見ながら説明してくれてるが……。その視線がある意味気になる。
心配してんならオーバーに心配しろよ。そんな風織の説明は納得のできるものだから良いけどよ。
でもよぉ。思ったより京夜は元気だし、風織も俺達は特に問題ないだろ。
風織も強いだろうし、京夜は体を上手く動かせないにしろワイヤー銃で援護が出来る。
「怪我しているにしろ、妖裁級が二人も居るからどうにかなりそうな気がするがっ──」
な、なんだ。この重苦しい空気。体にのしかかる……。おもてぇ!!
額から汗が落ちる。膝に手を置いて倒れねぇように耐えているが無理だ。膝が震える。力が抜けちまう。
「くっそ……。なんだよこれ……」
立っていらんねぇ。膝から崩れ落ちる。体を横に倒すな。これ以上バランスを崩すな。耐えろ耐えろ耐えろ!!
なんなんだよ、なんだよこれ。一体どこから感じている気配なんだよ!!
「ん~。ここまで簡単に動きを封じることが出来るなんてねぇ。拍子抜けにも程があるんじゃないのかい。妖殺隊の諸君よ」
聞き覚えのねぇ声……? すっげぇ低く、重圧のある声だ。
押しつぶされそうになるが、負けるわけにはいかねぇ。誰だ。この声の主。誰なんだよクソが。
――……ゾクッ
……は? 無理やり顔を上げたはいいが、誰だよこいつ。なんか、"不気味"という言葉が具現化したような奴だ。俺達を見下ろしながら立ってやがる。口元にはきっしょい笑み。
目は全く笑ってはいない、体が震える。なんだこいつ。いや、ダメだ。こいつを敵に回すのは危険だ。
確実に、殺される。
「そんな怯えたような顔で見ないで欲しいなぁ。悲しくなるよ」
コツッ……コツッ……と革靴を鳴らしながら、俺に近付いてくる。何をする気だ。やめろ、こっちに来るな。
くそっ。動け、体。動けよクソが!!!!
「そんな無理やり動こうとしなくても大丈夫だから安心して。ほぉら、大丈夫だよ」
顎に添えられた手は冷たく、無理やり顔をあげさせられ……。
「はぁ……っ、はぁ……」
目の前には不気味な男の顔。憎悪が込められている赤と青の瞳。
や、めろ。そんな目で、俺を見るな。見るな。
「お、俺を……。俺を、見るなぁぁぁあああああ!!!!!」
────シュッ
っ?! ワ、ワイヤー?? いきなりワイヤーが目の前を横切った?
はぁ、はぁ……。いや、助かった。ワイヤーのおかげであいつが後ろへと下がったから距離を置くことが出来た。一体、なんだったんだよ。
あの視線から外れたおかげか、体にのしかかっていた重圧が軽くなった。
はぁ、あいつの目。俺の全てを見ているような、不気味で気持ちの悪い目。
ダメだ。今回は本当に俺、何の役にも立てん。体が震える。思うように動けない。
「おい、輪廻!」
「──悪い京夜。俺は戦線離脱する。こいつはダメだ。俺は、戦えない」
「なっ、おい!!!」
戦えない、戦えない。いや、違う。戦えないんじゃない。
俺はあいつと──戦いたくない。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
────ん? あれ。
「ここって、もう怨呪居なくなっ──って、ぇぇぇええええ?!?!! はははははははは幡羅さん?!?! 背中の怪我どうしたんですか!? 今どういう状況ですかこれぇぇぇえええ?!!!?」
なんで幡羅さんはこんなに大きな傷を負ってんの!? 白い包帯が真っ赤に染っているんですけど相当深いみたいですね大丈夫ですかぁぁぁああ!?!?
「黙れ。今はお前のコントに付き合う余裕はない」
「待ってください。私は一度もコントした覚えはっ──え、誰ですかあの高身長男性」
煙草を咥え、私達を舐め回すような気味が悪い目で見てくる。まるで蛇のような目、吐き気がするよ。
不気味と言う言葉が擬人化したような人だな。
って。な、なになになに? まだ戦闘終わってないし……。私、何をすればいいの?!
あ、幡羅さんと美輝さんが前に出て武器を構え始めた。私、二人の後ろに立っているのに鋭い殺気を感じる。
いや、状況が分かりません。あの男性が敵ということはわかるけど。
恨呪ってわけじゃなさそう。あれは本当にただ気持ち悪いだけだったし。今回のあの男性は気持ち悪いじゃなくて、不気味って感じ。
というか、なんでもう一人の私は引っ込んでしまったの? まだ戦闘は続きそうなのに。こんなこと初めてだ。
入れ替わろうと集中しても、底なし沼にでもはまってしまいそうな感覚になる。入れ替わることが出来ないな。もう一人の私が入れ替わるのを拒否しているようだ。
今までは外に出たがって仕方がなかったのに。まぁ、押さえ込んでいたから、無理やり出るのは途中で諦めたみたいだけど。
「やぁ、お嬢さん。目が覚めたみたいだね。お疲れ様」
「え。あ、はい。ども……」
目が覚めた? 確かにさっきまで寝てたけど、なんでわかるんだろう。もう一人の私が私の体を動かしていたはずだから、そうやって言ってくるのはおかしい。
……………………ん? この男性の声。どこかで聞いたことがある気がする。
記憶の奥底、今まで触れてこなかった記憶の蓋。その蓋の中に閉ざされてしまっている、思い出してはいけない記憶。その中に、この男性は存在する。
そんな気が、する。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる