ガイアセイバーズ4 -狭間に咲く蒼の華-

独楽 悠

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本編

第13話_誘う嬌艶の香(R18)

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[鉛鎖エンサ]は金属質の両掌から鈍い光沢を放つ刃を生やし、再び『アズライト』へ接近する。それを間に入ったロードナイトが『紅蓮』で受け止めて押し返す。地力はロードナイトの方が一枚上手のようで、彼の腕力と紅蓮の出力に[鉛鎖]はじりじりと後退していくが、にわかに頭を振り髪の毛を刃の形に変える。
「!!」
敵の三つ目の得物が迫る直前で、ロードナイトは紅蓮の切っ先に炎の力を溜め、[鉛鎖]の眼前で爆発させる。
「……」
距離を取った[鉛鎖]はやや苛立つような面様を見せるが、『索敵』を続けるアズライトを一瞥して再び眼を剥くと、視線の直線上にアズライトを守るように構えているロードナイトへ二度にたびぶつかっていく。
そして彼らの周囲では、十数体の[異形]が[鉛鎖]の挙動に合わせるように動き、楕円の胴体全身から針状の突起を生やしてロードナイトへ向け一斉射出する。が、その一点に集約されていく軌道は逆方向からの金色の放射線に遮られ、蒸発して消え去った。
「てめぇらの相手は俺だよ」
異形に囲われるように中央に立ち、弓の装具『陽光』を頭上に配置したサルファーは、細剣の装具『閃光』を両手に構え、不敵に笑った。
「…初っ端から出力最大で相手してやるよ。涙流して拝みな」
彼へ向け標的を変えた[異形]たちからの第二波を、陽光から生み出される無数の光の矢が迎撃する。その弾幕の合間を光速に劣らぬ速さで縫うように飛び回りながら、サルファーは閃光で[異形]を一体ずつ仕留めていく。
[鉛鎖]は両腕と髪の刃の3点でロードナイトへ襲い掛かっていた。ロードナイトは太刀と火炎で渡り合うが、拮抗した状況が続く。頭の片隅で防御壁を気にかけるものの、攻め続けられ位置取りまで保つ余裕は無く、意図せず内[侵略者]に吸い寄せられるようにアズライトから離されていく。
わずかに焦燥感を表出した相手の変化を見逃さなかった[鉛鎖]は、背面から新たに三叉の鎖を生み出すと、ロードナイトの脇をすり抜けて後方へ向けて放った。
「…! アズライト、攻撃がいった、備えろ!!」
索敵中であったアズライトは、頭に降りかかった声にびくりと肩を上げる。瞬間、眼前に数本の鎖が真っ直ぐに迫り、銛のようになったその先端がたて続けに壁に刺さった。
穿たれた[侵略者]の刃は、壁の高熱で紅白く染まりながら、徐々に内側へ侵入していく。
すぐに索敵姿勢を解くが、銛が壁の中を侵食する速度は予想よりはるかに迅く、いち早く壁を抜けたひとつがアズライトへ向けて照準を合わせ襲いかかる。
「っ!」
間一髪で銛を避けるが、銛は意思を持つかのように向きを変え、鎖が輪を描いて手首に巻きつき、彼を後方へ振り飛ばした。『水面』は手から外れてかき消え、地に落とされた無防備な身体に二本目の銛が迫る。
「!! ああぁっ!!」
背中から左脇腹に大きく斬りつけられたような感覚が走り、アズライトは身体を反らせながら悲鳴をあげる。
更に三本目が襲うが、彼の身体を貫こうとする寸前ピンポイントで造られた壁に阻まれ、高熱に焼かれながら突き刺さった。
遠隔で能力を行使したロードナイトだったが、直後に[鉛鎖]の鋼化させた脚蹴を受け、鋼鉄の地にめり込む勢いで落とされる。
「ぐっ…!!」
「この俺との対峙中に余所へ気を回すとは、舐められたものだ。…判断を見誤ったな」
受け身を取れずに墜落した衝撃で動けないロードナイトを、[鉛鎖]は能面のような顔貌で空中から見下ろした。
「ロードてめぇっ…何してんだよ!!」
セイバー二人の異変にサルファーが吼えるが、彼は彼でいまだ手数の多い[異形]への対応に追われ、彼らの元へ駆けつける余裕は無い。膝をつき、頭を垂れて沈黙するロードナイトを横目にし、サルファーは歯噛みした。
「くっそ…! おい新人、装具をもう一度呼び出せ!! "属性技"を使え!!」
「……っ…!?」
脳内にサルファーの怒号が届く。倒れたままのアズライトは、彼のその言葉の半分を理解できずにいたが、些細な疑問符は捨てて彼の言葉に従い、痛みをこらえつつ再び手のひらに力を込める。
しかし既に三本目の銛は防御壁を突き破り、装具を呼び出す時間を与えぬまま、鎖がうつ伏せに転がるアズライトへ絡んでいき、持ちあげて宙吊りにした。
「お前たちがどんな算段を立てたところで、無駄だ。…アズライトは最早、俺の手中にある」
鎖は網目のように身体中を辿り、銛の一閃を受けた箇所を這うと、アズライトの顔が歪んだ。
「! うっ…!! …あぁっ…!」
徐々に絞られる鎖の圧と、皮膚を抉られるような熱い痛みに、アズライトから弱々しいうめき声が漏れる。
「…くぅっ…、あ、あぁぅっ…!」
「……」
その様子へ、耳の端で聞いていた[鉛鎖]の視線がゆっくりと流れていく。既に手札は押さえたとしてロードナイトをそのまま捨て置き、アズライトへと近付いていく。灼熱の防御壁に掌を当てて溶かし、容易にこじ開けると、その向こうの拘束された彼の前に立つ。
[鉛鎖]は、苦しげに悶えるアズライトを無表情で眺めていたが、ふいに手を彼の顔へ伸ばすと、顎を掴んで自分へ寄せた。
若干締めつけが緩んだ感覚にアズライトが薄目を開けると、[侵略者]の顔貌がすぐ正面に見えた。
「……!」
瞬きできずに固まる獲物を、[鉛鎖]は依然真顔で眺める。顎を掴んだ指の腹を頬と下唇へ辿らせ、そのまま視線を移し、彼の肢体を下から上へ撫であげるように観察すると、再びその美麗な顔を正面から見据えた。
「…思いの外、良い個体のようだな。やはり久方振りに数多から選り抜かれるだけのことはある訳か」
相手の言葉の意図がわからず、わずかに眉を寄せるアズライトへ視線をやったまま、[鉛鎖]は彼の股間を押し上げるように掴んだ。にわかに襲う想定外の感覚に、びくりと身体が跳ねる。
「っあ…!?」
「小振りだが、精通はしているはずだな。…搾取は他の奴で十分とも思ったが、時間を割く価値はありそうだ」
[鉛鎖]はアズライトを拘束する鎖を腕と脚の最小限にすると、腰を掴んで引き寄せ、小さな口を覆った。
「! っんぅ…!」
舌先で唇を突かれ、夢中で口を閉ざすがすぐに顎を押さえられ、こじ開けられた隙間から侵入を許してしまう。弾性ある舌が口腔を動き回る、その不快な感触に全身でもがくが、[鉛鎖]の硬化した腕は微動だにせず、更に締めつけるように圧迫した。
「んん゛っ…!!」
細い身体がきしみ、アズライトは喉の奥で呻く。
[鉛鎖]は一旦口から離れ、獲物の表情を眺める。解放され、短く吐息を漏らす濡れた唇と、透けるような白い肌に火照て紅く染まる頬、失神しそうになる己を懸命にこらえるように震える長い睫毛。沈着を保つ面様の中で[鉛鎖]はひとつ唾を飲み込むと、再び唇を合わせた。
「…っん…!」
華奢な身体が少し身じろぎするが拒める力は無く、侵入を許された舌が奥へと伸び、アズライトの口腔を犯す。ざらつく異物が歯列を辿り、思わず身体が反応してしまう中、行き場を失って口内を漂う舌を[鉛鎖]の舌が絡め取っていく。
「…んん…、んぅ…、…」
弄ばれ、次第に拒絶から別の感覚へいざなわれていく己の身体を抑え込むように、アズライトは硬く目をつぶった。
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