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番外編 勇者と聖女とお泊り会1
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今、俺達は沖合の小さな島の別荘に来ている。
殿下に誘われて、二泊三日のお泊まりに連れてきてもらったんだ。
許可を得るとき、オーナーは案の定しぶしぶで、ハザナさんに「いい大人が」って窘められてた。
「港から1時間も掛からない島じゃないですか。領主の別荘を借りるんでしょう? 殿下の護衛もいるし、間違いはありませんよ」
最後は、俺にも休みも友達と遊ぶことも必要だって説得してくれた。
また、二泊三日っていうのも絶妙なラインだと思う。
オーナーもぎりぎり許せる範囲だし、一泊では慌ただしくて俺達も楽しめない。
「僕達まで誘ってくれるなんて。殿下いい人だね」
行きの船の中、船首で北小路くんの腰を抱いていちゃつく殿下の後ろ姿を見ながら、灯さんが言う。
視察と言いつつ、最近では海の見える宿屋に泊まって二人の旅行を満喫しているからな。
もう聖女の調査ってのも二人旅行のための口実だったとしか思えないよ。
「俺達、北小路くんに近づきすぎたって孤島で秘密裏に始末されたりしてね」
「ま、まさかぁ、そんな」
まぁ、冗談なんだけど。
あのストーカー疑惑があるから、あながち違うとも言い切れなくて怖い。
でも、島に着いてしまえば、不穏な妄想も忘れてしまうくらいに楽しかった。
その小さな島丸ごとが領主の所有で、いわゆる無人島ってやつだった。
別荘は見晴らしがいい丘にあって、砂浜の海岸もある。暑い時期は海水浴にもってこいだ。
隣の島から管理人夫婦が船で来て、泊まり込みで俺達の世話もしてくれる。至れり尽くせりだ。
灯さんとの二人部屋も楽しくて、つい夜中まではしゃぎすきて、気がついたら寝落ちしていたくらいだ。
そして、2日目。
今日は海岸で陸釣りをしている。
昼は海岸で収穫物を焼いて食べて、そのあとボート遊びをする予定だ。
けど、飽きっぽい俺は早々に釣りを諦めて、浅瀬で貝を獲ったりしていた。
殿下達の周りには、いつも大勢の護衛と付き人がいる。それも慣れないから、俺は一人で茂みの奥に入ってみた。
木の実を探したり小鳥を見つけたり、うろうろしていたら、茂みの奥で小さな鳴き声がするのに気づいた。
そこにいたのは仔猫だった。
虎模様のミケ猫で脚が6本あるけれど、すごく可愛い。
震えていたので、抱き上げてみた。
両手に余るくらいの小ささだ。まだ生まれたてなのかも。
「かーわいいなぁ! お前、お母さんどこだよ。はぐれたのか?」
もしかしたら、寒いのかも知れない。ここ、木が生い茂って日陰だから。
日向に連れ出したら、親が心配するかな。
そのとき、後ろでバキッと枝を踏みしめる音がした。
軽い音じゃない。なにか重いものが大きな枝を踏んだ音だ。
振り返ると、唸り声を上げる大型の虎もどきが、ゆっくりとこちらを威嚇して近づいていた。
「ひぃぃっ」
つい手にした仔猫に力を込める。
ミィと、か細く泣いた仔猫に応えるように虎もどきが咆哮を上げた。
おおおお母さんだ、この仔の。
ごごごめん、盗るつもりはないんだよ。
「か、返すから。ごめん」
真っ赤な口から長い牙が覗いてる。
すごく長過ぎませんかね? 口からはみ出てるよ。
俺は、仔猫もとい仔虎を地面に降ろした。でも、ミィミィ鳴くばかりで親の元へ行こうとしない。
母虎の怒りのオーラが募ってくる。あれ?! 俺のせい?
逃げないといけないのに、足が竦んで動かない。
たたた助けて、オーナー!
こういうとき、もっとも頼りにならないだろう人が頭に浮かんだ。
殿下に誘われて、二泊三日のお泊まりに連れてきてもらったんだ。
許可を得るとき、オーナーは案の定しぶしぶで、ハザナさんに「いい大人が」って窘められてた。
「港から1時間も掛からない島じゃないですか。領主の別荘を借りるんでしょう? 殿下の護衛もいるし、間違いはありませんよ」
最後は、俺にも休みも友達と遊ぶことも必要だって説得してくれた。
また、二泊三日っていうのも絶妙なラインだと思う。
オーナーもぎりぎり許せる範囲だし、一泊では慌ただしくて俺達も楽しめない。
「僕達まで誘ってくれるなんて。殿下いい人だね」
行きの船の中、船首で北小路くんの腰を抱いていちゃつく殿下の後ろ姿を見ながら、灯さんが言う。
視察と言いつつ、最近では海の見える宿屋に泊まって二人の旅行を満喫しているからな。
もう聖女の調査ってのも二人旅行のための口実だったとしか思えないよ。
「俺達、北小路くんに近づきすぎたって孤島で秘密裏に始末されたりしてね」
「ま、まさかぁ、そんな」
まぁ、冗談なんだけど。
あのストーカー疑惑があるから、あながち違うとも言い切れなくて怖い。
でも、島に着いてしまえば、不穏な妄想も忘れてしまうくらいに楽しかった。
その小さな島丸ごとが領主の所有で、いわゆる無人島ってやつだった。
別荘は見晴らしがいい丘にあって、砂浜の海岸もある。暑い時期は海水浴にもってこいだ。
隣の島から管理人夫婦が船で来て、泊まり込みで俺達の世話もしてくれる。至れり尽くせりだ。
灯さんとの二人部屋も楽しくて、つい夜中まではしゃぎすきて、気がついたら寝落ちしていたくらいだ。
そして、2日目。
今日は海岸で陸釣りをしている。
昼は海岸で収穫物を焼いて食べて、そのあとボート遊びをする予定だ。
けど、飽きっぽい俺は早々に釣りを諦めて、浅瀬で貝を獲ったりしていた。
殿下達の周りには、いつも大勢の護衛と付き人がいる。それも慣れないから、俺は一人で茂みの奥に入ってみた。
木の実を探したり小鳥を見つけたり、うろうろしていたら、茂みの奥で小さな鳴き声がするのに気づいた。
そこにいたのは仔猫だった。
虎模様のミケ猫で脚が6本あるけれど、すごく可愛い。
震えていたので、抱き上げてみた。
両手に余るくらいの小ささだ。まだ生まれたてなのかも。
「かーわいいなぁ! お前、お母さんどこだよ。はぐれたのか?」
もしかしたら、寒いのかも知れない。ここ、木が生い茂って日陰だから。
日向に連れ出したら、親が心配するかな。
そのとき、後ろでバキッと枝を踏みしめる音がした。
軽い音じゃない。なにか重いものが大きな枝を踏んだ音だ。
振り返ると、唸り声を上げる大型の虎もどきが、ゆっくりとこちらを威嚇して近づいていた。
「ひぃぃっ」
つい手にした仔猫に力を込める。
ミィと、か細く泣いた仔猫に応えるように虎もどきが咆哮を上げた。
おおおお母さんだ、この仔の。
ごごごめん、盗るつもりはないんだよ。
「か、返すから。ごめん」
真っ赤な口から長い牙が覗いてる。
すごく長過ぎませんかね? 口からはみ出てるよ。
俺は、仔猫もとい仔虎を地面に降ろした。でも、ミィミィ鳴くばかりで親の元へ行こうとしない。
母虎の怒りのオーラが募ってくる。あれ?! 俺のせい?
逃げないといけないのに、足が竦んで動かない。
たたた助けて、オーナー!
こういうとき、もっとも頼りにならないだろう人が頭に浮かんだ。
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