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第12話、あれ?
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ざっくりと経緯を話してひと息吐いた。目の前の白鹿さんは整う綺麗な顔を伏せたまま黙っている。
「……駅近の人通りの多いところに引っ越しました。それからメモは届かなくなって少しホッとしてますが、職場は知られているので全く安心はできません。転職も考えましたが引越しもしてお金も使ってしまったし……」
「……なるほど」
「眠れなくなったのは完全にストレスです。環境を変えて少し落ち着いたので病院に行きました。睡眠薬を初めて飲んだらすごくよく眠れました。久々にゆっくり寝て、徐々に自然と眠れたらいいなってお薬としてうまく活用していたんです」
そこで言葉を切った私に白鹿さんがジッと見つめてきて聞かれた。
「でも、飲むのはやめた。身体に合わないではないのに?」
「……むしろ合ってました。ぐっすり……朝までよく眠れたある朝出勤するときに、玄関ドアのノブに私の好きなスイーツやハンカチなどが入った袋が下がっていました」
「……」
「中にメッセージが入っていて」
――何度インターホンを押しても出てこないからよく寝てるんだね。また来るね。
「……怖くて。もし深い眠りに落ちて気配に気づけないまま鍵でも開けられたらと思ったら……」
眠れない。眠るのが怖い。夜が怖くてたまらない。
「……それが理由です。すみません、こんな話……」
白鹿さんには全く関係のないことで、聞かされて迷惑だろうと思った。変に聞かされて余計に気を遣わせてしまったのではないだろうか、そんな思いでチラリと白鹿さんの表情を覗いてみると、飲み物を手に取り形のいい唇にグラスを口付けている。
コクリ、喉元に流し入れられたお酒が白鹿さんの体内に流れていく。静かな時間の中で白鹿さんの身体の中にいろんなものが滲んでいく。聞かされた私の言葉をどう受け止めているのだろう……そう思っていたらその赤い唇がポツリと言った。
「……そいつ、クソだねぇ」
(は?)
今のは空耳?
なんだかとてつもなく白鹿さんには似合わない品のない言葉が聞こえた気がした。パチクリとした目で白鹿さんを見つめる私ににこりと微笑んでいる目の前の人はやはりいつも知った白王子だ。安定の白鹿さんの優しい笑顔。
(な、なんだ。やっぱり空耳か。そんな言葉吐くわけないよな、白鹿さんが……)
うんうん、とどこか自分を納得させるように脳内で頭を振っていたら微笑む白鹿さんは続けてくる。
「本気で気持ち悪い男だねぇ。君を理解してるって言えば、支配できると思ってる。自分が唯一の味方だと刷り込んで、逃げ道を塞いで……まるで独占欲と支配欲の塊だ、ね?」
「……は、はい」
「害でしかないな」
(ん? な、なんか……なに?)
白鹿さんの言っていることは正論だ。でもなんだろう、白鹿さんが本当に言っているの? と、疑いたくなるこの違和感はなんだろうか。
「不倫してる分際でどの面下げて言うんだろうか。舐めてるなぁ。うまく隠されていたのかもしれないけど、もう少し疑っても良かったかもね?」
「……」
「社名、どこだって?」
「あ、アスター&グラント・ジャパン……」
「アスター……二課が絡んでる再開発プロジェクトのやつか。あそこはあまりいい噂は聞かない。国内企業の再建案件でも非情なリストラ手法で知られていて、業界では人を切るために呼ばれる外資、なんて陰口も叩かれてる。外面だけはいいけど、裏じゃ結構エグいことしてるって……社内政治力がものを言う会社だよ」
「え……?」
「引き抜きは派手だけど、半年以内に半分は辞めてるって噂。夢見る憧れの場所は、実際は泥水啜ってるやつが多いってこと。俺に言わせたら、ただのブラック。詐欺と紙一重の企業だよ、あそこは」
(待って……)
「……駅近の人通りの多いところに引っ越しました。それからメモは届かなくなって少しホッとしてますが、職場は知られているので全く安心はできません。転職も考えましたが引越しもしてお金も使ってしまったし……」
「……なるほど」
「眠れなくなったのは完全にストレスです。環境を変えて少し落ち着いたので病院に行きました。睡眠薬を初めて飲んだらすごくよく眠れました。久々にゆっくり寝て、徐々に自然と眠れたらいいなってお薬としてうまく活用していたんです」
そこで言葉を切った私に白鹿さんがジッと見つめてきて聞かれた。
「でも、飲むのはやめた。身体に合わないではないのに?」
「……むしろ合ってました。ぐっすり……朝までよく眠れたある朝出勤するときに、玄関ドアのノブに私の好きなスイーツやハンカチなどが入った袋が下がっていました」
「……」
「中にメッセージが入っていて」
――何度インターホンを押しても出てこないからよく寝てるんだね。また来るね。
「……怖くて。もし深い眠りに落ちて気配に気づけないまま鍵でも開けられたらと思ったら……」
眠れない。眠るのが怖い。夜が怖くてたまらない。
「……それが理由です。すみません、こんな話……」
白鹿さんには全く関係のないことで、聞かされて迷惑だろうと思った。変に聞かされて余計に気を遣わせてしまったのではないだろうか、そんな思いでチラリと白鹿さんの表情を覗いてみると、飲み物を手に取り形のいい唇にグラスを口付けている。
コクリ、喉元に流し入れられたお酒が白鹿さんの体内に流れていく。静かな時間の中で白鹿さんの身体の中にいろんなものが滲んでいく。聞かされた私の言葉をどう受け止めているのだろう……そう思っていたらその赤い唇がポツリと言った。
「……そいつ、クソだねぇ」
(は?)
今のは空耳?
なんだかとてつもなく白鹿さんには似合わない品のない言葉が聞こえた気がした。パチクリとした目で白鹿さんを見つめる私ににこりと微笑んでいる目の前の人はやはりいつも知った白王子だ。安定の白鹿さんの優しい笑顔。
(な、なんだ。やっぱり空耳か。そんな言葉吐くわけないよな、白鹿さんが……)
うんうん、とどこか自分を納得させるように脳内で頭を振っていたら微笑む白鹿さんは続けてくる。
「本気で気持ち悪い男だねぇ。君を理解してるって言えば、支配できると思ってる。自分が唯一の味方だと刷り込んで、逃げ道を塞いで……まるで独占欲と支配欲の塊だ、ね?」
「……は、はい」
「害でしかないな」
(ん? な、なんか……なに?)
白鹿さんの言っていることは正論だ。でもなんだろう、白鹿さんが本当に言っているの? と、疑いたくなるこの違和感はなんだろうか。
「不倫してる分際でどの面下げて言うんだろうか。舐めてるなぁ。うまく隠されていたのかもしれないけど、もう少し疑っても良かったかもね?」
「……」
「社名、どこだって?」
「あ、アスター&グラント・ジャパン……」
「アスター……二課が絡んでる再開発プロジェクトのやつか。あそこはあまりいい噂は聞かない。国内企業の再建案件でも非情なリストラ手法で知られていて、業界では人を切るために呼ばれる外資、なんて陰口も叩かれてる。外面だけはいいけど、裏じゃ結構エグいことしてるって……社内政治力がものを言う会社だよ」
「え……?」
「引き抜きは派手だけど、半年以内に半分は辞めてるって噂。夢見る憧れの場所は、実際は泥水啜ってるやつが多いってこと。俺に言わせたら、ただのブラック。詐欺と紙一重の企業だよ、あそこは」
(待って……)
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