夢の中にいさせて~今日からイケメンと添い寝生活始めます!~

sae

文字の大きさ
58 / 71

白鹿視点④

しおりを挟む
 話をするほどに思い描いていたイメージが剥がれていく素顔はむしろ好感度しか上がらなかった。俺もかなりの外面詐欺だが、彼女もなかなかの愛想仮面。仕事柄仕方のないことだがニコニコした人当たりの良さに隠されていたのは案外勝ち気な性格だった。人を変態、変人と罵りかなり失礼な発言もする。でも受付で見せる貼り付けた様な笑顔よりも俺的には感じが良くてずっと可愛かった。

 戸惑いながらも始まったソフレ関係。すぐそばに感じる熱と香りが慣れた空気の中、邪魔されることなく同調するような感覚は居心地がいいしかなくて、まるで新しい香りとして生まれ変わったようだ。孤独の中で見つけた香りは温かくて、優しい。それが不思議でたまらなくてもっとこの香りを知りたい、そうまで思うほど。
 抱きしめて眠ればまた香りが色を変えて、今度は微かに甘さを帯びる。その甘さは本当に微かなもので、探さないと見つけられないほどの消えそうな匂い。だからより探そうとしてしまう。抱きしめる力が強まる、彼女が熱を帯びるほど甘さの糸口を掴めそうで……ぎゅっと身体を抱きしめていた。

 それでも彼女がまだ苦し気にうなされる夜がある。苦し気に眉をひそめ、額に汗を滲ませることもある。その時放たれる香りは不安に揺れるようなストレス性のものか、甘さはない。ただその香りにだって俺はひどく惹かれるのだ。この香りは自分こそ放っている同じものと感じるから。

 寄り添っていたってひとりだ。
 孤独を埋める術などそう簡単には得られない。それはひとりで生きてきて身をもって知っていることだ。

 いつか彼女が何にも苦しまずに穏やかに眠れる夜がきたらいいのに、そう願わずにはいられない。そしてまたフト思う。

 どうして俺はこんなに彼女のことを思うのだろうと。

 眠れるようになってきた彼女からまた新たな香りを感じ取る。ソワソワと落ち着かない緊張感、それは初めて添い寝を始めた時とは似ているようで似ていない。なにかしらの変化を感じ取るものの真意は読めず、結果また眠れなくなってしまったようで……。
 
(警察はまだ本格的な調査に乗りだしてくれない、ストーカー男が接触した?)

 なんにせよ、俺は彼女の甘い香りが嗅ぎたい。あの香りに包まれて、抱きしめながら過ごす夜がどうしようもなく心地いのだ。その時間を取り戻すためにも……そんな邪な気持ちがヒートアップしてしまった。

 抱きしめているだけだった彼女にもっと密に触れだしたら……俺自身が眠れなくなるほどの興奮する濃い香りを放ちだすことを知ってしまった。触れた分だけ、香りが濃くなるのか? 抱き寄せたら、もっと? 首筋から溢れる熱が喉を灼いた。すり寄るだけで、俺の神経はすべて嗅覚に支配されて、もっとと要求してくるようで。

 彼女の身体から立ちのぼる香りに、俺の理性はゆっくりと麻痺していく。この香りの源に、もっと触れたい。汗ばんだ肌の奥に沈む甘さを、直接舌で確かめたくなるほど。そしてなにより思ったのだ。

(この香りは俺が放たせられているなら……)

 頭ではそんなことはダメだと分かっている。踏み越えてはいけないソフレのボーダーだって知っている。これはソフレだ……ソフレ……ってなんだ?
 自分で考えたベストな関係性、そう思って辿り着いたソフレだったけれどなんだかよくわからなくなる。

 ドキドキと心臓が高鳴る身体を抱きしめてビクビクと震え出す敏感な場所を撫でたり弄ると甘い香りが充満する様で。理性なんかあるようでない気がした。どこかでかろうじて繋がれているような頼りない手綱。それでもそれを握っているのは結局俺自身だ。

(あー、無理……)

 理性ギリギリの中、触れられる部分に触れて彼女の感度を高めていく。これは彼女を寝かせるため、そんな言い訳と屁理屈をグダグダと並べても本音はどうだ。もっと飽きるほどにこの香りに包まれたい、もっと俺の手で感じてくれたなら……そんな欲望だらけで抱きしめる俺こそが本当のゲス野郎な気がした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」 (三度目はないからっ!) ──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない! 「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」 倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。 ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。 それで彼との関係は終わったと思っていたのに!? エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。 客室乗務員(CA)倉木莉桜 × 五十里重工(取締役部長)五十里武尊 『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...