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意図せぬ再会②
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「行きましょう、アニス」
『早く避難しないと』と呼び掛け、私は手を差し出した。
と同時に、アニスはようやくこちらを向く。
「あ、ああ」
まだ動揺が収まらないのか声を震わせているものの、アニスは素直に応じた。
僅かに身を乗り出して手を伸ばしてくる彼の前で、私は何とも言えない高揚感を覚える。
『アニスの方から触れてくるのは、数ヶ月ぶりね』と頬を緩める中────
「アニス!」
────私じゃない誰かが、彼の名を呼んだ。
ハッと息を呑む私は、慌てて視線を上げる。
聞き覚えのある声だったので……どうしても、正体を確かめなければならなかった。
「────迎えに来たわ、私の愛する人!」
そう言って、こちらへ歩み出てきたのはローブの集団の中でもかなり小柄な女性。
『まさか、本当に……?』と驚く私を他所に、彼女はフードを取り払う。
それにより、オレンジがかった金髪と太陽のような瞳が露わになった。
「私と一緒に逃げましょう!」
他の誰でもないミモザ・バシリス・フスティーシアが、手を差し伸べる。
駆け落ちという選択肢を挙げる彼女に、アニスは大きく瞳を揺らした。
かと思えば、ミモザ王女殿下の方へ向き直り彼女の手を取ろうとする。
本来であれば、私の手を取る筈だったのに……よりにもよって、恋敵へ方向転換するだなんて。
嗚呼、心がざわめく。
不快な気持ちが胸に広がり、私は無造作にベッドのシーツを引っ張った。
それにより、アニスは見事にバランスを崩す。
「なっ……!?」
空色の瞳に焦りを滲ませ、アニスは背中を強打した。
と言っても、ベッドの上なのであまりダメージはないだろうが。
「絶対に行かせないわよ、アニス」
私は真っ直ぐに前を見据え、彼の手首を掴んだ。
『決して放さない』という意思を込めて、強く……強く。
「貴方は私のものなんだから」
思い切り手を引いて、私は強引にアニスの体をこちらへ近づけさせた。
『我ながら、凄い力ね』と驚いていると、ミモザ王女殿下が顔を顰める。
「アニスはモノなんかじゃないわ!今すぐ、手を離してちょうだい!」
「ミモザ王女殿下に命令される謂れは、ありません。私は貴方の家臣じゃないので」
傍まで引き寄せたアニスを抱き締め、私はニッコリと微笑んだ。
その途端、ミモザ王女殿下は強く奥歯を噛み締める。
「そういう話をしているんじゃないの!人として、当たり前の常識を……」
「常識、ですか。今まさに他人の夫を奪って、駆け落ちしようとしている人のセリフとは思えませんね」
「っ……!」
一応非常識な真似をしている自覚はあるのか、ミモザ王女殿下は言葉に詰まった。
が、決して引き下がることはなく
「いいから、アニスを解放して!」
と、再度要求する。
どこまでも頑固で融通の利かないミモザ王女殿下は、少し身を屈めた。
アニスを奪うために。
「────お下がりください!」
黒のローブの一人がミモザ王女殿下の肩に手を掛け、後ろに押す。
勢い余って転倒しそうになる彼女を前に、彼は剣を振るった。
そのおかげで、こちらの騎士が投げたナイフを防ぐことに成功。
『早く避難しないと』と呼び掛け、私は手を差し出した。
と同時に、アニスはようやくこちらを向く。
「あ、ああ」
まだ動揺が収まらないのか声を震わせているものの、アニスは素直に応じた。
僅かに身を乗り出して手を伸ばしてくる彼の前で、私は何とも言えない高揚感を覚える。
『アニスの方から触れてくるのは、数ヶ月ぶりね』と頬を緩める中────
「アニス!」
────私じゃない誰かが、彼の名を呼んだ。
ハッと息を呑む私は、慌てて視線を上げる。
聞き覚えのある声だったので……どうしても、正体を確かめなければならなかった。
「────迎えに来たわ、私の愛する人!」
そう言って、こちらへ歩み出てきたのはローブの集団の中でもかなり小柄な女性。
『まさか、本当に……?』と驚く私を他所に、彼女はフードを取り払う。
それにより、オレンジがかった金髪と太陽のような瞳が露わになった。
「私と一緒に逃げましょう!」
他の誰でもないミモザ・バシリス・フスティーシアが、手を差し伸べる。
駆け落ちという選択肢を挙げる彼女に、アニスは大きく瞳を揺らした。
かと思えば、ミモザ王女殿下の方へ向き直り彼女の手を取ろうとする。
本来であれば、私の手を取る筈だったのに……よりにもよって、恋敵へ方向転換するだなんて。
嗚呼、心がざわめく。
不快な気持ちが胸に広がり、私は無造作にベッドのシーツを引っ張った。
それにより、アニスは見事にバランスを崩す。
「なっ……!?」
空色の瞳に焦りを滲ませ、アニスは背中を強打した。
と言っても、ベッドの上なのであまりダメージはないだろうが。
「絶対に行かせないわよ、アニス」
私は真っ直ぐに前を見据え、彼の手首を掴んだ。
『決して放さない』という意思を込めて、強く……強く。
「貴方は私のものなんだから」
思い切り手を引いて、私は強引にアニスの体をこちらへ近づけさせた。
『我ながら、凄い力ね』と驚いていると、ミモザ王女殿下が顔を顰める。
「アニスはモノなんかじゃないわ!今すぐ、手を離してちょうだい!」
「ミモザ王女殿下に命令される謂れは、ありません。私は貴方の家臣じゃないので」
傍まで引き寄せたアニスを抱き締め、私はニッコリと微笑んだ。
その途端、ミモザ王女殿下は強く奥歯を噛み締める。
「そういう話をしているんじゃないの!人として、当たり前の常識を……」
「常識、ですか。今まさに他人の夫を奪って、駆け落ちしようとしている人のセリフとは思えませんね」
「っ……!」
一応非常識な真似をしている自覚はあるのか、ミモザ王女殿下は言葉に詰まった。
が、決して引き下がることはなく
「いいから、アニスを解放して!」
と、再度要求する。
どこまでも頑固で融通の利かないミモザ王女殿下は、少し身を屈めた。
アニスを奪うために。
「────お下がりください!」
黒のローブの一人がミモザ王女殿下の肩に手を掛け、後ろに押す。
勢い余って転倒しそうになる彼女を前に、彼は剣を振るった。
そのおかげで、こちらの騎士が投げたナイフを防ぐことに成功。
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