僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

文字の大きさ
278 / 327
最終章

8

しおりを挟む

三段目に手をかける。

ぐっと引き出しを引いた。

けれど、一段目、二段目と違いなかなか開こうとはしない。

少し力を入れて引いてみる。


「ん…なんか…はさまってんのか?」


それでもうまく開いてはくれず。

力任せに思い切り引き出した。


ガサッ!という音とともに勢いよく引き出しごと抜けて。

けれど中には何も入ってはいない。

変に思ってひざを突いてサイドボードの中を見てみた。


「……これ…慶太のか?」


奥のほうにあったのは、少しぐしゃぐしゃになってしまった小さめのノート。

よれた所を手で伸ばしてみる。

自分に見覚えがないところからこれが慶太のものであるのは間違いないだろう。

大学で使ってたやつだろうか。

それくらいの気持ちでページをめくった。


「…なんだよ………これ」


『9月23日。

夏ももう終わりなはずなのに今日は暑かった。

いつまで続くんだろう、この暑さ。

少しだけ季節はずれなような気もしたけど、夕飯は冷やし中華にしてみた。

それを見たときの玲人、変な顔してたなぁ。ちょっと笑えた。

きょうの「おいしい」はあまりそうでもないっぽい。

なんだろう?タレ、かな?今度はもうちょっと味濃くしてみよう。』


急いで次のページをめくる。


『10月15日。

バイト先に新しい子が入ってきた。大丈夫かな、あの子。

仕事、ちゃんとしてくれたらいいけど。

今日の夕飯は、すき焼き。

聞く前に「おいしい」と玲人が言ってくれた。

心の中でガッツポーズ。このレシピはキープしておこう。』


毎日。

一日も欠かさず書いてある。

慶太の日記。


そして。

毎日。

一日も欠かさず。

俺のことが書いてあった。


『10月21日。

今日は、バイトもなくて、大学も早く終わって少しのんびり。

夕飯、結構いい出来だと思ったんだけど、玲人から「遅くなる」のメール。

出来たて、食べて欲しかったな。』


『11月3日。

玲人…僕は、なんだろうね。

君にとってなんだろう。

またタバコの香りがした。』


『11月9日。

今日は、日記お休みしようかな。

あ…最近、ちょっと寒くなりだした。

終わり。



玲人。僕たちは…』


その後は一度何か書いたようだったが、上から黒く塗りつぶされていた。


何だよ、これ。

何だよ…。

慶太の想いが。

慶太の言葉によって。

俺の中に入る。


温かい何かが。

俺の頬を幾度もつたった。

しおりを挟む
感想 105

あなたにおすすめの小説

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

メビウスの輪を超えて 【カフェのマスター・アルファ×全てを失った少年・オメガ。 君の心を、私は温めてあげられるんだろうか】

大波小波
BL
 梅ヶ谷 早紀(うめがや さき)は、18歳のオメガ少年だ。  愛らしい抜群のルックスに加え、素直で朗らか。  大人に背伸びしたがる、ちょっぴり生意気な一面も持っている。  裕福な家庭に生まれ、なに不自由なく育った彼は、学園の人気者だった。    ある日、早紀は友人たちと気まぐれに入った『カフェ・メビウス』で、マスターの弓月 衛(ゆづき まもる)と出会う。  32歳と、早紀より一回り以上も年上の衛は、落ち着いた雰囲気を持つ大人のアルファ男性だ。  どこかミステリアスな彼をもっと知りたい早紀は、それから毎日のようにメビウスに通うようになった。    ところが早紀の父・紀明(のりあき)が、重役たちの背信により取締役の座から降ろされてしまう。  高額の借金まで背負わされた父は、借金取りの手から早紀を隠すため、彼を衛に託した。 『私は、早紀を信頼のおける人間に、預けたいのです。隠しておきたいのです』 『再びお会いした時には、早紀くんの淹れたコーヒーが出せるようにしておきます』  あの笑顔を、失くしたくない。  伸びやかなあの心を、壊したくない。  衛は、その一心で覚悟を決めたのだ。  ひとつ屋根の下に住むことになった、アルファの衛とオメガの早紀。  波乱含みの同棲生活が、有無を言わさず始まった……!

処理中です...