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最終章
8
しおりを挟む三段目に手をかける。
ぐっと引き出しを引いた。
けれど、一段目、二段目と違いなかなか開こうとはしない。
少し力を入れて引いてみる。
「ん…なんか…はさまってんのか?」
それでもうまく開いてはくれず。
力任せに思い切り引き出した。
ガサッ!という音とともに勢いよく引き出しごと抜けて。
けれど中には何も入ってはいない。
変に思ってひざを突いてサイドボードの中を見てみた。
「……これ…慶太のか?」
奥のほうにあったのは、少しぐしゃぐしゃになってしまった小さめのノート。
よれた所を手で伸ばしてみる。
自分に見覚えがないところからこれが慶太のものであるのは間違いないだろう。
大学で使ってたやつだろうか。
それくらいの気持ちでページをめくった。
「…なんだよ………これ」
『9月23日。
夏ももう終わりなはずなのに今日は暑かった。
いつまで続くんだろう、この暑さ。
少しだけ季節はずれなような気もしたけど、夕飯は冷やし中華にしてみた。
それを見たときの玲人、変な顔してたなぁ。ちょっと笑えた。
きょうの「おいしい」はあまりそうでもないっぽい。
なんだろう?タレ、かな?今度はもうちょっと味濃くしてみよう。』
急いで次のページをめくる。
『10月15日。
バイト先に新しい子が入ってきた。大丈夫かな、あの子。
仕事、ちゃんとしてくれたらいいけど。
今日の夕飯は、すき焼き。
聞く前に「おいしい」と玲人が言ってくれた。
心の中でガッツポーズ。このレシピはキープしておこう。』
毎日。
一日も欠かさず書いてある。
慶太の日記。
そして。
毎日。
一日も欠かさず。
俺のことが書いてあった。
『10月21日。
今日は、バイトもなくて、大学も早く終わって少しのんびり。
夕飯、結構いい出来だと思ったんだけど、玲人から「遅くなる」のメール。
出来たて、食べて欲しかったな。』
『11月3日。
玲人…僕は、なんだろうね。
君にとってなんだろう。
またタバコの香りがした。』
『11月9日。
今日は、日記お休みしようかな。
あ…最近、ちょっと寒くなりだした。
終わり。
玲人。僕たちは…』
その後は一度何か書いたようだったが、上から黒く塗りつぶされていた。
何だよ、これ。
何だよ…。
慶太の想いが。
慶太の言葉によって。
俺の中に入る。
温かい何かが。
俺の頬を幾度もつたった。
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