僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

最終章

14

ーside 桐生玲人ー


この男。

慶太のことを「ケイ」と呼んだ。

そう呼ぶことを慶太が許しているのだろうか。


そうだよな。

こいつのところに居るんだ。


もう今更なのに。慶太はもう俺の元を去っていったのに。

それなのに、ふつふつと俺の中に湧きあがってくる感情がある。


この男を殴りたい。

消してしまいたい。

二度と慶太の名前を口にすることがないように。


ふと我に返る。


玲人、お前は何でここにいるんだよ。

お前のしたいこと、そんなんじゃねぇだろ。


一度瞳を閉じて心を落ち着かせる。

軽めに深呼吸をして。

そして閉じていた目をまた開ける。


「慶太に…会わせてください」


ちゃんと正面からその男を見据えてそう言った。


目を決してそらさない。

相手もそらしはしない。


数秒。間があってから。

「いやだね」と言われた。


分かりきっていた答え。

裏切ることなく返ってくる。


「お願いします！慶太に、会わせてほしいんです」

「は？無理」


回りくどい事など何も言わず。

ただひたすら「だめだ」と告げられる。


「なんで会わせないといけないわけ？まさか今更自分の元に取り戻そうとかいうんじゃねぇよな。」

「……そうじゃ…」

「あたりまえだよな。自分のしてきたこと考えたらそんなことできるわけねぇし」

「…」

「…とにかく。会わせねぇから、ケイとは」


これ以上話すことはないとでも言うかのように俺に背を向けて歩き出した。


ダメ…なのか？

会わせてはもらえないのか。


でも。


「俺、毎日ここに来ますから。会わせてもらえるまで。ずっと何日でも来ますから！」

あいつの背中に向かってそう叫んだ。


男は一瞬だけ足を止めたが

すぐにまた歩き出す。


慶太に会う。

会うんだ。


だから。

絶対に諦めない。