忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ

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01 婚約者とのお茶会

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「‥え?
‥聞いてなかった‥
なに?」

婚約者同士のお茶会の席で
対面に座る婚約者エクアを見もせず
気もそぞろな様子でそんな風に言ったのはアーテル・コルニクス侯爵令息。

(今回も同じね…)

エクア・アウィス伯爵令嬢は彼より5才年下。
18才の彼からすれば13才のエクアは年下過ぎて物足りないのかもしれないが…

(ううん、わざわざここまで足を運んでくれているのだから感謝しなきゃ!
きっと…そう、多分お疲れなのだわ)

エクアは気を取り直してもう1度同じ質問をする。

「…近況をお尋ねしたのです。
騎士学校を卒業されてからは領地経営の勉強をされているのですね。
領地に行かれたりもするのですか?」
「………」
「…お兄様?」
「‥え?
‥何か言った?」

忙しなく視線を彷徨わせるのにエクアと目が合うことのないアーテル。
エクアが悲しげに瞳を伏せた事に全く気付かない。

お茶会が始まって5分も経てば彼はいつもこんな感じになる。

お茶会は婚約した2年前から毎週日曜日に設けられている。

場所はいつもエクアが暮らす王都のアウィス伯爵邸。

アーテルは幼い婚約者とのお茶会の為に毎週末足を運んでくれる素晴らしい婚約者という事になっているが。

来た時はマトモな感じで挨拶してくれるので。
エクアは今日こそいいお茶会にしよう、頑張ろうと思うのだが。

挨拶して席について…
そこまでは感じのいい人なのに。
お茶を口にしてちょっとすると様子がおかしくなる。
エクアは心の中で『5分だけ誠実男』と呼んでいる。

今もとうとう貧乏ゆすりまで始めた。

(…この方は毎週末何をしにここへいらっしゃる…の…かし……)



≪ガチャリ≫
≪バッ!≫
(ん?
‥お兄様が立ち上がった?)

そう思うエクアだが確かめようにも目が開かない。
ここで初めて自分が目を閉じソファに座ったままうつらうつらしている事に気付く。
しかも体に全く力が入らず目を開けることすら出来ない。

「アドウェナ様ッ
‥あ‥
今日もお美しいです」
(お母様?)
「フフフッ、
目が血走っているわ…
うん?‥ダメ、
がっつかないの」
「奥様、大丈夫ですよ、お嬢様はもうお眠です」

誰か‥多分メイドのぺクスが乱暴に私の肩を掴み揺らす。
頭が大きく揺れるのに目を開けられない。

「‥ふん、まだボーっとしてるんじゃないの?
さっさと部屋に運んでおいて」
「はい、いつも通りに。心得ておりますとも、奥様」
「アドウェナ様ッあ、のッ」
「どうしたの可愛い人。
欲しいの?‥フフッ‥
私の部屋へいらっしゃい‥」



「………………あ?」

エクアは誰かに肩を乱暴に揺らされぼんやりと目を開ける。

「お嬢様、早くお支度を!」

若いメイドの声。
乱暴に肩を揺らし続けている。

「やめて、痛いわ」
「だったら早く!
学校に遅れてしまいますよ!」
「学校…
今は月曜の朝なの?」
「当たり前じゃないですか?
急いでください!」

(…まただわ…
お茶会の途中いつの間にか寝てしまって気付けば月曜の朝…
つまり昨日の午後から今日の朝まで眠り続けてしまったという事…
なのに体は疲れているしボーっとしているし…)
「…頭が痛いわ…」
「はぁ?
‥いいから急いでくださいッ!」

叱りつける様に怒鳴られ続けさすがにエクアもムッとするが…

(…いえ、仕方ないのでしょう。
私を時間通りに学校へ送り出すのがこの人達の仕事…
お母様のお気に入りのぺクスの口利きで雇われたこの人達が気を遣うのはぺクスだけ。
ぺクスは私がキチンと学校へ行く様に、成績を下げない様にとお母様に命令されている…
そうしないと学校からお父様に連絡が行ってしまうからって…
お父様は私を捨てているのだからそんな事気にしないでしょうに…)

メイドに急かされて玄関を出る時エクアはふと丁度通りかかった家令に尋ねる。

「…お母様は?」

ウッと息を呑んだ家令の代わりに家令と並び歩いていたメイドのぺクスが答える。

「奥様はまだお休みになっていらっしゃいますよ!
とぉ~~っってもお疲れでございましょうからねぇ‥
何たってぶっ通しで‥」
「おい!」

家令が険しい声を出すがぺクスはふふんと鼻で笑う。

「気ぃ使う事無いんですよ!
奥様は次がお出来になったんですからね!
…まぁまだ安定期じゃないから?
もう少し様子を見るとは仰ってましたけどね?
ククッ、次は侯爵夫人だってそれは楽しみにしておいでなんだから!
だからあの子はもう直ぐなんですよ!」

家令と話すぺクスの声は聞こえていたけれどエクアには全く意味が分からなかったし馭者に急かされ気付かなかった。

ぺクスが親指で首を掻っ切る動作をした事に――
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