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04 アーテルの気付き
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エクアは泣きながら眠り微熱は高熱に
1週間苦しんだ後目覚め
ベッドの上でキョトンとする。
熱はすっかり下がっている様だ。
ハッとしてベッドを飛び降りガウンも羽織らず裸足のまま部屋を飛び出す。
まるで幼児の様――
そう、エクアの精神は幼児の頃に退行してしまった。
13才の物静かで知的だった少女は
疑いを知らない幼女に
忖度も委縮する事も知らない子供に
自己肯定感を粉々に砕かれ踏みにじられる前に
『イヤだベタベタしないで気持ち悪い』
『私は子供が嫌いなのよ』
そんな風に言われながら押しのけられても
真っ直ぐに母の愛を求めたあの頃に返ってしまった――
――家の中は1週間前と全く同じ。
メイド達の姿が見えず窓の外には婚約者の馬車が留まっている。
アッと思い出すエクア。
また私を仲間外れにして2人だけで遊んでいるんだわ!
「お母さまぁ、お兄さまぁ!ねぇ、私も一緒に遊んで!」
そう叫んで部屋の戸から中を夢中で覗いていたメイド達の隙間をかいくぐり母の部屋へ突入するエクア。
「「‥あッ」」
「‥やっぱりッ!」
1週間前は誰にも気付かれない様にそっと自室に戻りひっそりと声を殺しながら枕を濡らしたエクアは。
「イヤ、だめぇッ!」
今回は迷うことなくベッドに走り寄り裸の婚約者の背中を打った。
「わたしのお母さまよ!
お兄さまにはお兄さまのお母さまがいるじゃないの!
わたしのお母さまをとったらダメぇ!」
自分の、当然の権利を主張するエクアだが――
≪バシッ!≫
「‥キャァッ」
「なッ‥アドウェナさん!?」
エクアの母アドウェナはあろうことかエクアの頬を力任せに張った。
倒れ込んで母を見上げるエクア。
その瞳は傷つき震えている。
何故!?
母の所業が信じられない…
アドウェナは怒りで狂いそうになりながら娘を怒鳴りつける。
「‥邪魔しないでよッ1週間に1度しか会えないのよッ!?
1週間待って待ってやっとこうして抱き合えているのに!
子供はあっちへ行ってなさい!
2度と邪魔しないで!
次は許さないからね!
お前なんかいつだって消せるんだから!」
素っ裸で仁王立ちする鬼の形相の母にエクアは声も出ず。
(私を邪魔にしているのはお母様の方!?)
「さぁさぁお嬢様!
いくら子供でも許されないことがあるんですよ!
大人の世界に首を突っ込むなんて浅ましい!
さ、奥様の邪魔をしないでお部屋に‥」
そう言いながらエクアを乱暴に立たせるメイドのぺクス。
エクアはその手を振り払い『うわぁぁーッ』と大声で泣きながら部屋を出ていく。
青ざめるエクアの婚約者アーテル。
突然気付いたのだ。
自分が何と愚かなことをして来たのか。
婚約者を欺き婚約者の母と毎週末に体を重ねてきた――
アドウェナに導かれるままに。
いつの間にかそれが当たり前の様に。
いつも大人しく儚げなエクアは明らかに様子が変だった。
アドウェナはそんなエクアに暴力を振るい暴言を浴びせた。
自分が悪いにもかかわらず――
自分を慕う娘を顧みず男との性交に夢中な愚母…
自分の親がこんなだったら殺意が芽生えるだろう。
今まで女神だと憧れてきたアドウェナの醜さを目の当たりにしてアーテルは吐き気を感じる。
「――出て行け」
部屋の中に突っ立っているメイド達に苛立たし気に命じれば。
ぺクスが厭らしい笑顔で耳障りな高音の声を発する。
「そうですわねッ!
お楽しみはまだまだこれからでございましょう!
お邪魔虫は退散いたしますッどうぞごゆっくり‥」
「うるさい!
さっさと行け!」
あまりにも低俗な空気に耐え切れず怒鳴ればぺクスは舌を出してアドウェナと共犯者の視線を交わし部屋を出て行く。
「そんなにカッカしなくたって私は逃げやしないわよぉ?」
醜い笑顔を張り付けたアドウェナ。
汗のために化粧が剥げ落ちたその顔を見てアーテルはゾッとする。
(‥ば、化け物‥
私はエクアを欺いてこんな化け物と‥)
何故こんな化け物を女神だなどと思い込んでいたのか!?
自分は金髪と赤い瞳しか目に入っていなかったのか――
一刻も早くこの部屋から立ち去りたいと願ったアーテルだが叶わなかった。
『落ち着いて。さ、お茶を飲んで』
そう言われてお茶を飲み干した後。
カッと燃える様に変化する体――
これは!
――そうだ。
自分は最初はちゃんと断っていた。
侯爵家の跡取りとしてこんな常識はずれなことするはずがなかったのだ――
「――私に媚薬を盛っていたんですね?
最初から!
あなたは…
何て恐ろしいッ‥」
信じられないものを見るアーテルの目だが直ぐに焦点が合わなくなる。
「あなたがなかなか素直になれない様だから心を軽くしてあげただけ…
嫌だったら幾らでもやめれたはずよ?‥
でもあなたは2年間毎週末を私と楽しんで来た…
それがあなたの答え――
あなたはエクアではなく私を選んだのよ!」
『違う』
そう叫ぼうとする口はアドウェナの唇に塞がれればもうどうしようもなくて――
アドウェナは彼女にとって何よりも大切なもの――
性交による快感と満足を存分に得るのだった…
1週間苦しんだ後目覚め
ベッドの上でキョトンとする。
熱はすっかり下がっている様だ。
ハッとしてベッドを飛び降りガウンも羽織らず裸足のまま部屋を飛び出す。
まるで幼児の様――
そう、エクアの精神は幼児の頃に退行してしまった。
13才の物静かで知的だった少女は
疑いを知らない幼女に
忖度も委縮する事も知らない子供に
自己肯定感を粉々に砕かれ踏みにじられる前に
『イヤだベタベタしないで気持ち悪い』
『私は子供が嫌いなのよ』
そんな風に言われながら押しのけられても
真っ直ぐに母の愛を求めたあの頃に返ってしまった――
――家の中は1週間前と全く同じ。
メイド達の姿が見えず窓の外には婚約者の馬車が留まっている。
アッと思い出すエクア。
また私を仲間外れにして2人だけで遊んでいるんだわ!
「お母さまぁ、お兄さまぁ!ねぇ、私も一緒に遊んで!」
そう叫んで部屋の戸から中を夢中で覗いていたメイド達の隙間をかいくぐり母の部屋へ突入するエクア。
「「‥あッ」」
「‥やっぱりッ!」
1週間前は誰にも気付かれない様にそっと自室に戻りひっそりと声を殺しながら枕を濡らしたエクアは。
「イヤ、だめぇッ!」
今回は迷うことなくベッドに走り寄り裸の婚約者の背中を打った。
「わたしのお母さまよ!
お兄さまにはお兄さまのお母さまがいるじゃないの!
わたしのお母さまをとったらダメぇ!」
自分の、当然の権利を主張するエクアだが――
≪バシッ!≫
「‥キャァッ」
「なッ‥アドウェナさん!?」
エクアの母アドウェナはあろうことかエクアの頬を力任せに張った。
倒れ込んで母を見上げるエクア。
その瞳は傷つき震えている。
何故!?
母の所業が信じられない…
アドウェナは怒りで狂いそうになりながら娘を怒鳴りつける。
「‥邪魔しないでよッ1週間に1度しか会えないのよッ!?
1週間待って待ってやっとこうして抱き合えているのに!
子供はあっちへ行ってなさい!
2度と邪魔しないで!
次は許さないからね!
お前なんかいつだって消せるんだから!」
素っ裸で仁王立ちする鬼の形相の母にエクアは声も出ず。
(私を邪魔にしているのはお母様の方!?)
「さぁさぁお嬢様!
いくら子供でも許されないことがあるんですよ!
大人の世界に首を突っ込むなんて浅ましい!
さ、奥様の邪魔をしないでお部屋に‥」
そう言いながらエクアを乱暴に立たせるメイドのぺクス。
エクアはその手を振り払い『うわぁぁーッ』と大声で泣きながら部屋を出ていく。
青ざめるエクアの婚約者アーテル。
突然気付いたのだ。
自分が何と愚かなことをして来たのか。
婚約者を欺き婚約者の母と毎週末に体を重ねてきた――
アドウェナに導かれるままに。
いつの間にかそれが当たり前の様に。
いつも大人しく儚げなエクアは明らかに様子が変だった。
アドウェナはそんなエクアに暴力を振るい暴言を浴びせた。
自分が悪いにもかかわらず――
自分を慕う娘を顧みず男との性交に夢中な愚母…
自分の親がこんなだったら殺意が芽生えるだろう。
今まで女神だと憧れてきたアドウェナの醜さを目の当たりにしてアーテルは吐き気を感じる。
「――出て行け」
部屋の中に突っ立っているメイド達に苛立たし気に命じれば。
ぺクスが厭らしい笑顔で耳障りな高音の声を発する。
「そうですわねッ!
お楽しみはまだまだこれからでございましょう!
お邪魔虫は退散いたしますッどうぞごゆっくり‥」
「うるさい!
さっさと行け!」
あまりにも低俗な空気に耐え切れず怒鳴ればぺクスは舌を出してアドウェナと共犯者の視線を交わし部屋を出て行く。
「そんなにカッカしなくたって私は逃げやしないわよぉ?」
醜い笑顔を張り付けたアドウェナ。
汗のために化粧が剥げ落ちたその顔を見てアーテルはゾッとする。
(‥ば、化け物‥
私はエクアを欺いてこんな化け物と‥)
何故こんな化け物を女神だなどと思い込んでいたのか!?
自分は金髪と赤い瞳しか目に入っていなかったのか――
一刻も早くこの部屋から立ち去りたいと願ったアーテルだが叶わなかった。
『落ち着いて。さ、お茶を飲んで』
そう言われてお茶を飲み干した後。
カッと燃える様に変化する体――
これは!
――そうだ。
自分は最初はちゃんと断っていた。
侯爵家の跡取りとしてこんな常識はずれなことするはずがなかったのだ――
「――私に媚薬を盛っていたんですね?
最初から!
あなたは…
何て恐ろしいッ‥」
信じられないものを見るアーテルの目だが直ぐに焦点が合わなくなる。
「あなたがなかなか素直になれない様だから心を軽くしてあげただけ…
嫌だったら幾らでもやめれたはずよ?‥
でもあなたは2年間毎週末を私と楽しんで来た…
それがあなたの答え――
あなたはエクアではなく私を選んだのよ!」
『違う』
そう叫ぼうとする口はアドウェナの唇に塞がれればもうどうしようもなくて――
アドウェナは彼女にとって何よりも大切なもの――
性交による快感と満足を存分に得るのだった…
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