忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ

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09 7通の手紙

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エクアは昨日、幼児退行した状態で母に打たれて――
その理由を必死に考えているうちに思考が本来の13才に戻った。

とは言え感情は幼児のまま。
久しぶりに大人に親切にされてどうしたらいいか分からなくて涙が止まらない。

「さ、では行こうか」
「はい…あ!あの、お父様達に手紙を届けたいのですが!」

学園長に優しく促され移動しようとしてハタと思い出すエクア。
昨日の夜中に書いた大量の手紙を届けなければ!

「伯爵に手紙?…なら伯爵家の家令に頼むのが一番‥」
「伯爵家には信用出来る者がいません。家令は手紙を握りつぶすと思います」

そう言われて学園長は『確かに』と思う。

頬の腫れを差し引いてもエクアは深刻な状態。
この事態を伯爵に報告していない、何とかしようとしていない時点で全く信用出来ない。
家令としても人としても最低だ。

「我が公爵家の優秀な騎士に届けさせる。
私が責任を持つ。
それでいいかな?」
「はい!ありがとうございます!
え…と全部で7通あるのですが大丈夫でしょうか?」
「な‥7通も書いたのかね!?」

驚く学園長にエクアは頷く。

「内容はほぼ同じです。
『子供の言う事』と信用されない場合を想定して関係者である大人全員に書きました。
父と兄達は私を捨てているので無駄かと思いましたが未成年の私のこの先の身の振り方には嫌でも関わらなければならないでしょうから事の詳細を伝えておく必要があると思い書きました。
後は父方の祖父母…数度しか会った事はありませんがその時は優しかった方々です。
もしかしたらあの母に私を丸投げした父の愚行を理解してくれるかもしれません…
勿論期待はしませんけど。
もう大人を信用して傷つくのは真っ平ですから。
人によるのかもしれませんが私の周りの大人達は信用に値しません」

これは、たった今エクアを見捨てた教師達にも言っている。
今までのエクアなら忖度して別の言い方をするか口には出さず胸の内に留めただろう。
だけど心が幼児のエクアはこう考える。

(いつも周りに気を使って思った事も言わず『きっとああだったんだろう、こうだったんだろう』と周りの人の言い訳を私が用意して納得してきた。
誰も私に言い訳なんて言わなかったのに。
誰もが私がどう考えどう感じるかなんてどうでもよかったのに。
それなのに私は無意味な忖度を続けた挙句に殺されようとしていた。
もう忖度なんかしない!
相手の立場に立って考える様にして来たけど…
そういうの、自分の立場がある人だけすればいい事でしょう?
私は立場どころか存在さえ風前の灯火。
そんな私が忖度とか馬鹿すぎる!
自分で自分にムカつく!
もう忖度なんかしない!)

が、言われている彼女達の耳には届いていない。
学園長が口にした自分に対する『処罰』で頭がいっぱいでそれどころではない。

エクアの言葉を重く受け止めたのは学園長だけ。

グッと息を呑み。
自分も『信用できない大人』側で…
何の言い訳も許されないと唇を噛む。

エクアは教師達には何を言っても無駄と悟り学園長にだけ言葉を続ける。

「‥婚約者の家であるコルニクス侯爵家の侯爵と侯爵夫人にも書きました。婚約者のご両親であるお二方にはこの2年間、婚約者が私に会いに来る振りをして母とベッドインしていた事実、2人の逢引の為に私を眠くなるお茶やお菓子で強制的に眠らせていた事、そのせいで頭痛と睡眠障害に悩まされ続けていることを中心に書きました。眠り薬は私の母が行った事とはいえ婚約した2年前彼は16才…既に成人していたわけですから私に対する数々の裏切り行為とそれによる私の体調不良に関して責任がゼロとは言えないはずですから。格下の伯爵家の娘になら何をしてもいいとお思いになる御方達かもしれませんけど。とにかく事の仔細を誰か一人でも分かってくれたら…私は殺されずに済むかと」

止まらない感じで話し続けたエクアが言葉を切っても誰も何も言えずにいる。

鞄を開けノートに挟んだ手紙を取り出し学園長に差し出すエクア。

その1通1通が。
意味的にも物理的にもズシリと重い7通の手紙達の宛名の所々が滲んでいる。

(ッ――涙…)

昨夜泣きながら必死に手紙を書いたのであろうエクアの姿が想像できて。

手紙を受け取る学園長の手は震えるのである…
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