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10 母の日記が示すもの
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やっと学園長が口を開く。
「いやまさか、誰も君を殺そうなんて‥そ、そうか…君にとっては死んだも同然の辛い生活という事なんだね‥」
エクアはポカンとした後眉を寄せる。
「…やっぱり。
こうして面と向かって話しても伝わらないのですね。
信じて頂けないのですね。
私が子供だからですか?
私は実際に危機が迫っていることを訴えているのです。
母の日記に書いてありました。
…あ、盗み読みではありませんよ?
何故か伯爵家の地下の蔵書庫に並べて置いてあって。
装丁が立派で本の様だからメイドが間違えて運び込んだのかもしれません。
兎に角私はそれと知らず読んでしまったのです。
余りにも恐ろしい母の胸の内を。
私自身、私の名前が散見されたにも関わらずその手書きの本が母の日記であると判断したのは昨日…
鬼の様な形相の母に殴られた後でした。
その日記によると――」
エクアはここで学園長の目を真っ直ぐ見つめる。
真剣に聞いてくれている…
そう判断して続ける。
「母は『次』を…
次の子を妊娠している様です。
私の婚約者であるアーテル・コルニクス侯爵令息との子供を。
次は侯爵夫人になれるのが嬉しいと文字も弾んでいました。
ですからもう私が要らないとの事です。
…それならただ捨てればいい…
何も殺さなくてもいいようなものですが、母は名実ともに伯爵夫人になれると思って私を産んだのに…
『自分は亡くなった妻を永遠に愛する。
君はエクアの母としてエクアをしっかり育ててほしい』
父にそう言われて閨を拒否され父を恨み、父に面立ちが似た私も憎いのだと書いています」
学園長は頷く。
「ああ。
アウィス伯爵にとって女性は亡くなった奥方だけだ…
そして君はアウィス伯爵によく似ている。
面立ちもそうだがちょっとした仕草も似ているんだよ…
領地にいる君の兄上達は母親似だから伯爵に似ている子供は君だけなんだ…」
今度はエクアが頷く。
「そのせいで私の殺害計画は既に進行しています。
先ずは私を国境沿いにあるダエモン精神病院に入れる。
後は時機を見て始末してもらうと。
僅かなお金で済むそうです」
「ダエモン精神病院!?
…そこは!」
「たしか悪い噂が絶えない病院ですね。
入ったら生きて出られないとか‥」
「ああ!国としても調査しているが尻尾を出さないのだ!」
学園長と彼の護衛騎士が顔を見合わせて興奮気味に話す。
王弟である学園長は国の問題にも多岐にわたって関わっている様だ。
忙し過ぎて学園に来られないのも頷ける。
それより何より。
『ダエモン精神病院』が学園長も知っている程悪名高い――実在する病院なのだと改めて分かりエクアはグッと手を握る。
「…母は既に私の殺害を依頼する手紙を出したと――宛先は『影様』。
前後の文脈から院長の息子の様です」
「それは!それは凄い情報だよ!エクア嬢!」
「…そうですか。証拠となるか分かりませんがアウィス伯爵邸地下の蔵書庫、入って左奥の書棚の下段に16冊並べられている緋色の立派な装丁のものが母の日記です。
1番右が最近のものでダエモン精神病院に関する記述が1番多いです。
他は左から3冊目、6、7冊目、僅かですが11、12、15冊目にも記述があります」
淡々と話すエクアに学園長始め教師達が目を瞠る。
「――ああそうだったね。君は記憶力が素晴らしいのだったね…
確かその場をそのまま再現出来るのだっけ?」
「目に映ったもの、聞こえたものをそのまま伝えることなら出来ますが…」
『それが何か?』という様子のエクアにエクアを敵視していた若い代理教師はゾッとする。
何故エクアを停学処分にするべきだと主張する自分の意見が通らずエクアが教師達から特別視されているのかその理由の一端を見た訳で。
顔色がますます悪くなる。
(カッとして教師にあるまじき暴言を吐いてしまった事もある…それをあの子は全部覚えているという訳?)
その他の教師達も。
ついさっきの自分達の言動を全て記憶されており、学園長に証言されてしまうかもしれないのだと思い至り頭が真っ白になる。
教師達は震えあがるがエクアは彼女達など眼中に無い。
そんな余裕は無いのだ。
「いやまさか、誰も君を殺そうなんて‥そ、そうか…君にとっては死んだも同然の辛い生活という事なんだね‥」
エクアはポカンとした後眉を寄せる。
「…やっぱり。
こうして面と向かって話しても伝わらないのですね。
信じて頂けないのですね。
私が子供だからですか?
私は実際に危機が迫っていることを訴えているのです。
母の日記に書いてありました。
…あ、盗み読みではありませんよ?
何故か伯爵家の地下の蔵書庫に並べて置いてあって。
装丁が立派で本の様だからメイドが間違えて運び込んだのかもしれません。
兎に角私はそれと知らず読んでしまったのです。
余りにも恐ろしい母の胸の内を。
私自身、私の名前が散見されたにも関わらずその手書きの本が母の日記であると判断したのは昨日…
鬼の様な形相の母に殴られた後でした。
その日記によると――」
エクアはここで学園長の目を真っ直ぐ見つめる。
真剣に聞いてくれている…
そう判断して続ける。
「母は『次』を…
次の子を妊娠している様です。
私の婚約者であるアーテル・コルニクス侯爵令息との子供を。
次は侯爵夫人になれるのが嬉しいと文字も弾んでいました。
ですからもう私が要らないとの事です。
…それならただ捨てればいい…
何も殺さなくてもいいようなものですが、母は名実ともに伯爵夫人になれると思って私を産んだのに…
『自分は亡くなった妻を永遠に愛する。
君はエクアの母としてエクアをしっかり育ててほしい』
父にそう言われて閨を拒否され父を恨み、父に面立ちが似た私も憎いのだと書いています」
学園長は頷く。
「ああ。
アウィス伯爵にとって女性は亡くなった奥方だけだ…
そして君はアウィス伯爵によく似ている。
面立ちもそうだがちょっとした仕草も似ているんだよ…
領地にいる君の兄上達は母親似だから伯爵に似ている子供は君だけなんだ…」
今度はエクアが頷く。
「そのせいで私の殺害計画は既に進行しています。
先ずは私を国境沿いにあるダエモン精神病院に入れる。
後は時機を見て始末してもらうと。
僅かなお金で済むそうです」
「ダエモン精神病院!?
…そこは!」
「たしか悪い噂が絶えない病院ですね。
入ったら生きて出られないとか‥」
「ああ!国としても調査しているが尻尾を出さないのだ!」
学園長と彼の護衛騎士が顔を見合わせて興奮気味に話す。
王弟である学園長は国の問題にも多岐にわたって関わっている様だ。
忙し過ぎて学園に来られないのも頷ける。
それより何より。
『ダエモン精神病院』が学園長も知っている程悪名高い――実在する病院なのだと改めて分かりエクアはグッと手を握る。
「…母は既に私の殺害を依頼する手紙を出したと――宛先は『影様』。
前後の文脈から院長の息子の様です」
「それは!それは凄い情報だよ!エクア嬢!」
「…そうですか。証拠となるか分かりませんがアウィス伯爵邸地下の蔵書庫、入って左奥の書棚の下段に16冊並べられている緋色の立派な装丁のものが母の日記です。
1番右が最近のものでダエモン精神病院に関する記述が1番多いです。
他は左から3冊目、6、7冊目、僅かですが11、12、15冊目にも記述があります」
淡々と話すエクアに学園長始め教師達が目を瞠る。
「――ああそうだったね。君は記憶力が素晴らしいのだったね…
確かその場をそのまま再現出来るのだっけ?」
「目に映ったもの、聞こえたものをそのまま伝えることなら出来ますが…」
『それが何か?』という様子のエクアにエクアを敵視していた若い代理教師はゾッとする。
何故エクアを停学処分にするべきだと主張する自分の意見が通らずエクアが教師達から特別視されているのかその理由の一端を見た訳で。
顔色がますます悪くなる。
(カッとして教師にあるまじき暴言を吐いてしまった事もある…それをあの子は全部覚えているという訳?)
その他の教師達も。
ついさっきの自分達の言動を全て記憶されており、学園長に証言されてしまうかもしれないのだと思い至り頭が真っ白になる。
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