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16 5年後
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5年後。
ある地方都市での華やかな舞踏会に2人はいた。
アドウェナ…元アウィス伯爵夫人は38才に。
エクアの婚約者だったアーテル…元コルニクス侯爵令息は23才になっている。
隣国から逃れてきた2人は新天地であるこの地方都市で結婚し4才になる女の子がいる。
アーテルはコルニクス侯爵家から廃嫡されたもののこの国でコルウゥ子爵位を用意してもらい本人も優秀で努力家であるのでコルウゥ子爵として成功し親子3人裕福で幸せな生活を送っている。
(幸せ――か…
いや、そうだ。
これでいいのだ。
私は夢に見た金髪に赤い瞳の女性と結婚した幸せ者なのだ。
それが全てなはずだ…)
1度はその本性のおぞましさにもう顔を見るのも嫌だと思ったアドウェナだが。
『全てはあなたの為よ!
あなたを愛しているから!
初めて会った瞬間、恋に落ちたの!
そして悩んだ末に私は娘よりも愛するあなたを選んだのよ!
あなたに愛される為なら何だってやれた――
その結果、今、私のお腹には愛するあなたとの愛の結晶が宿っているのよ!
あなたの子よ!
お願い、この新しい命の為に私と生きて!』
子供が出来た――
それは血縁を大切にするコルニクス侯爵家の者として何よりも優先しなければならない事。
アーテルは腹を決めた。
アドウェナと新たな命と共に生きようと。
そうしなければならないと。
両親に子供が出来た事を告げればやはり両親もその事実を重く見てアーテルとアドウェナの逃亡を助け隣国で生きる為の資金と爵位を用意してくれたのだ。
そして必死に生き5年が過ぎた――
「王族が来るって噂のせいか凄い人だね…
飲み物を取って来ようか?」
「そうね。お願い。
…早くねぇ?」
アドウェナの年齢不相応の甘えた話し方は変わらない。
見た目は随分と老け込んでいるというのに…
いや、5年前からこんなだったか。
自分はアドウェナの髪色と瞳の色しか見ていなかっただけだ――
5年間――自分は随分と頑張って来た。
母国に居ればしないであろう苦労も沢山した。
対してアドウェナは――
いまだにこの国の言葉が話せず1人では何も出来ない。
4才の娘の方が話せるというのはどういう訳だ。
努力すると死ぬ生き物なのか――?
抑えても抑えても湧いてくる妻への不満――
そんな思考を止める話し声が聞こえて来る。
「何と運がいい!
今宵は金髪に赤い瞳の女神がいらっしゃっているそうですよ!」
「それは素晴らしい!
金髪に赤い瞳と言えばヒュドランゲア王族の末裔――
もはや幻とさえ言われている存在ですからね!」
「しかも女神の様に美しいそうですよ!」
(…私にとってはもう何の魅力も感じられないアドウェナでも他人から見れば女神様か…)
アーテルは苦笑いし。
それでも少し気分が上がるのを感じながらアドウェナの所へ戻り飲み物を渡し。
『金髪に赤い瞳の女神の様な女性が来ていると皆が噂している。
君のことだね』
と誇らしげに言う。
アドウェナも満更でもない感じで口角を上げるがその時‥
わぁぁーーー‥
第3通路側入場口の方から歓声が上がり。
反射的にざわめきの方へ振り返りながら
「ッ!?」
アーテルは息を呑む。
(これ‥この感じ‥知ってる‥
――これはッ!)
大勢の人を引き連れてその人は優雅に歩いて来る。
余りにも美しいその姿に人々が付いて来てしまうのだ。
人だかりの真ん中でその人は光り輝いている。
赤いドレスをフワフワと揺らして
輝く太陽の様な緩いウェーブの金髪が眩しくて
神秘的な赤い瞳は奇跡の様な美しさ――
(エクア…!)
彼女だ!
間違いない!
全くあの夢のままだ!
あれは正夢だったのだ!
アーテルは夢の中と同様に1歩も動けず
声をかけることも出来ずただ見つめるだけ…
(だけど何故!?
彼女の髪は茶色で瞳は赤茶だったはず)
髪と瞳の色が変化している理由は飛び交う噂で直ぐに分かった。
「何と美しい!‥
それにあの金髪に赤い瞳!
奇跡の様な美しさですな!」
「あの輝きはヒュドランゲア王族の末裔で間違いないでしょう!」
「ヒュドランゲア王族は成長過程で髪と瞳の色が変化するのだそうですね?」
「そうです!
茶髪に赤茶の瞳で生まれて…
15~16才で金髪に赤い瞳に変化するそうですよ」
「神秘ですなぁ」
「色もそうですがあの美しさこそ神秘ですよ!」
「ッ!」
強い力で頭を殴られたような感覚がアーテルを襲い。
真っ白になった頭の中であの時。
頬を淡く染めた11才のエクアが僅かに弾ませた声で言い掛けたあの言葉。
『それなら良かったです。
私も4~5年後には‥』
アドウェナに邪魔され聞けなかったあの言葉の続きが分かった!
『‥金髪に赤い瞳になりますから』
ある地方都市での華やかな舞踏会に2人はいた。
アドウェナ…元アウィス伯爵夫人は38才に。
エクアの婚約者だったアーテル…元コルニクス侯爵令息は23才になっている。
隣国から逃れてきた2人は新天地であるこの地方都市で結婚し4才になる女の子がいる。
アーテルはコルニクス侯爵家から廃嫡されたもののこの国でコルウゥ子爵位を用意してもらい本人も優秀で努力家であるのでコルウゥ子爵として成功し親子3人裕福で幸せな生活を送っている。
(幸せ――か…
いや、そうだ。
これでいいのだ。
私は夢に見た金髪に赤い瞳の女性と結婚した幸せ者なのだ。
それが全てなはずだ…)
1度はその本性のおぞましさにもう顔を見るのも嫌だと思ったアドウェナだが。
『全てはあなたの為よ!
あなたを愛しているから!
初めて会った瞬間、恋に落ちたの!
そして悩んだ末に私は娘よりも愛するあなたを選んだのよ!
あなたに愛される為なら何だってやれた――
その結果、今、私のお腹には愛するあなたとの愛の結晶が宿っているのよ!
あなたの子よ!
お願い、この新しい命の為に私と生きて!』
子供が出来た――
それは血縁を大切にするコルニクス侯爵家の者として何よりも優先しなければならない事。
アーテルは腹を決めた。
アドウェナと新たな命と共に生きようと。
そうしなければならないと。
両親に子供が出来た事を告げればやはり両親もその事実を重く見てアーテルとアドウェナの逃亡を助け隣国で生きる為の資金と爵位を用意してくれたのだ。
そして必死に生き5年が過ぎた――
「王族が来るって噂のせいか凄い人だね…
飲み物を取って来ようか?」
「そうね。お願い。
…早くねぇ?」
アドウェナの年齢不相応の甘えた話し方は変わらない。
見た目は随分と老け込んでいるというのに…
いや、5年前からこんなだったか。
自分はアドウェナの髪色と瞳の色しか見ていなかっただけだ――
5年間――自分は随分と頑張って来た。
母国に居ればしないであろう苦労も沢山した。
対してアドウェナは――
いまだにこの国の言葉が話せず1人では何も出来ない。
4才の娘の方が話せるというのはどういう訳だ。
努力すると死ぬ生き物なのか――?
抑えても抑えても湧いてくる妻への不満――
そんな思考を止める話し声が聞こえて来る。
「何と運がいい!
今宵は金髪に赤い瞳の女神がいらっしゃっているそうですよ!」
「それは素晴らしい!
金髪に赤い瞳と言えばヒュドランゲア王族の末裔――
もはや幻とさえ言われている存在ですからね!」
「しかも女神の様に美しいそうですよ!」
(…私にとってはもう何の魅力も感じられないアドウェナでも他人から見れば女神様か…)
アーテルは苦笑いし。
それでも少し気分が上がるのを感じながらアドウェナの所へ戻り飲み物を渡し。
『金髪に赤い瞳の女神の様な女性が来ていると皆が噂している。
君のことだね』
と誇らしげに言う。
アドウェナも満更でもない感じで口角を上げるがその時‥
わぁぁーーー‥
第3通路側入場口の方から歓声が上がり。
反射的にざわめきの方へ振り返りながら
「ッ!?」
アーテルは息を呑む。
(これ‥この感じ‥知ってる‥
――これはッ!)
大勢の人を引き連れてその人は優雅に歩いて来る。
余りにも美しいその姿に人々が付いて来てしまうのだ。
人だかりの真ん中でその人は光り輝いている。
赤いドレスをフワフワと揺らして
輝く太陽の様な緩いウェーブの金髪が眩しくて
神秘的な赤い瞳は奇跡の様な美しさ――
(エクア…!)
彼女だ!
間違いない!
全くあの夢のままだ!
あれは正夢だったのだ!
アーテルは夢の中と同様に1歩も動けず
声をかけることも出来ずただ見つめるだけ…
(だけど何故!?
彼女の髪は茶色で瞳は赤茶だったはず)
髪と瞳の色が変化している理由は飛び交う噂で直ぐに分かった。
「何と美しい!‥
それにあの金髪に赤い瞳!
奇跡の様な美しさですな!」
「あの輝きはヒュドランゲア王族の末裔で間違いないでしょう!」
「ヒュドランゲア王族は成長過程で髪と瞳の色が変化するのだそうですね?」
「そうです!
茶髪に赤茶の瞳で生まれて…
15~16才で金髪に赤い瞳に変化するそうですよ」
「神秘ですなぁ」
「色もそうですがあの美しさこそ神秘ですよ!」
「ッ!」
強い力で頭を殴られたような感覚がアーテルを襲い。
真っ白になった頭の中であの時。
頬を淡く染めた11才のエクアが僅かに弾ませた声で言い掛けたあの言葉。
『それなら良かったです。
私も4~5年後には‥』
アドウェナに邪魔され聞けなかったあの言葉の続きが分かった!
『‥金髪に赤い瞳になりますから』
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