忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ

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18 可笑しくて笑ったの

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「あははははっ‥
あぁ、もう‥」

可笑しくて笑ったの

5年前のあの時みたいに
――子供みたいにね。


舞踏会が開かれている城の一室。
休憩室として用意された美しい部屋には他の招待客が入って来ることはない。
『やんごとなき御方の為の特別な休憩室』だからだ。
『やんごとなき御方』というのは勿論私エクアではない。


「‥本当にあなた様は困った御方ね?
ルーフス殿下」

跪いて私を見上げる金の瞳はあの時と同じ様にキラキラ輝いていて。

「何を困る?
私が嫌いか?」

ふぅ。

ちょっと恨めしそうにルーフス殿下を見て息を吐く。

ルーフス殿下が僅かに目を細める。

――それだけで私の心は揺れてしまう。

本当に本当に困った人!

「お戯れが過ぎますことよ?ルーフス殿下。
私は殿下が用意されたこのドレスを着て舞踏会会場を1周しました。
卒業試験で負けた罰ゲームはこれで終了のはずです」

罰ゲーム…
そう、私とルーフス殿下との間で。
卒業試験で負けた方が勝った方の言う事を聞く、という罰ゲームを決めて。

私が負けた!
~~~ッ、
何で?
今まで試験の順位はずっと私の方が良かったのに!
――と言うか、ルーフス殿下はいつも中位の成績で楽勝だと思っていたのに!!

ここはルーフス殿下の母国ポエニクス王国。
私は私の母国からかなり遠く私の母国より10倍以上国土も国力も大きいこの国に5年前から留学している。(ポエニクス王国からの多種多様なお誘いに屈して)
そして同い年のルーフス殿下とは5年間同級生として学んで来た。

そう!
あくまで同級生として!
5年前言っていた婚約の話なんて一切出なかったし!
恋愛絡みの話も1秒だってした事無かったのに!

なのに何で急に跪いて
『5年前のプロポーズの返事を聞かせてほしい』
なんて言い出すの!?

「ああ。
そのドレス、凄く素敵だ。
最高に似合っている!」
「真っ赤なドレスなんて…
一生の間で着る事なんて1度も無いと思っていました」
「何故?
君の瞳の色で――
私の髪の色なのに」
「ッ!
(地方都市の舞踏会とは言えルーフス殿下の髪色…迂闊だった?)」
「エクア嬢?」
「…目立つ色です。
目立ちたくないので」
「フフ‥君は何を着ても目立ってしまう。
どうせならうんと目立った方がいいのさ」
「え!?何を着ても?」
「あぁほら無自覚‥
困ったな」

!?
今すんごく困らされているのは私の方で‥

「痣が残っていた方がまだ安心できたな‥」
「え?どういう意味ですか?
――第一、痣を消したのはルーフス殿下なのに‥」
「ん――私が?」
「あ‥いえ‥んん‥
はい…医学的根拠は無いけど私はそう思っています」
「ッ‥ちょ、
ちょっと待って。
可愛すぎて呼吸忘れてた」

(………空耳?
空耳よね?
今『可愛すぎて』とか聞こえた気がしたのは)

「ン‥コホッ、
それで私が君の痣を消したとはどういう事かな?」
「え‥あぁそれは‥」

説明し辛い…

5年前、医師達が一生消えないと断言した私の頬の大きな痣…

ところがほんの1週間ほどできれいさっぱり消えたのだ。

医師達は私が奇跡の体質だとか言ってたけど治った理由は別のところにある。
私にはそう思うだけの根拠の薄い確信がある!

ハッ!
うぅ待ってる…
やっぱ説明しなきゃダメ?

「あの…殿下が」
「私が?」
「その…唇で私の痣に触れた行為によって‥」
「ああ…キスしたこと?」
「キッ‥キスに類似した行為をされたことで‥」
「うん。キスしたことで?
…ストップ。
涙目で睨まないで?
可愛すぎて私の理性が飛ぶよ?」
「!?可愛!?
(やっぱ言ってる!?
そんな事5年間言った事無かったのに!?)
あの、その、唇が痣に触れた直後急に体が正常な働きを取り戻した感じが‥
うぅあぁ帰ります!」

もう無理!
何かが限界!
とにかく侍女すらいないまるで人払いでもされた様なこの2人っきりの空間にこれ以上いられないッ!

「‥え!?」

≪ガチャガチャガチャッ‥≫
ドアが開かない!?

「どう‥あ!殿下!?
ドアを押さえないでください!
開かないじゃないですか!」

引くタイプのドアをルーフス殿下が手で押さえているから開かないのだ。
ちち近い!

「そ‥それと離れてください!
壁ドンみたいじゃないですか!」
「うん――
まだ返事を聞いていない」
「!…察して頂けませんか?」

僅かに首を振るこの世のものならぬ美しすぎる王子様。

「5年前君に恋した。
あれからずっと君に恋し続けている。
これから先もずっと君だけを想い続けることを許してほしい」

何てことを!
しかも壁ドン状態。
思考が乱れながらも――

…そうね。
ちゃんとお返事しなきゃいけないわね…
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