<完結>【R18】深窓の令嬢は美麗なピアニストの叔父と禁忌の恋に堕ち、淫らに溺れる

奏音 美都

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46.秘めた思い

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 ステファンが去ってから暫くしてジョージとナタリーがロビーへ戻り、3人はまず昼食をとることにした。

 ホテル周辺の地理はだいぶ分かってきたので、サラはホテルから徒歩15分程の場所にあるパラチンケンが人気のレストランへ行くことにした。パラチンケンとは、肉や野菜、チーズをクレープ生地で包んだ料理だ。

「こうして家族で旅行なんて、本当に久しぶりだな」

 ジョージはワクワクした様子で、ウィーン風と頭に名前のついたパラチンケンを口にした。

 サラはステファンが隣にいない寂しさを感じつつも、夜には会えるのだと思うと、両親への罪悪感を感じながらも、先程までの不安が払拭されていくのを感じていた。

「私もお父様とお母様との旅行、楽しみにしていました」

 ジョージは、可愛い愛娘の言葉に目尻を緩ませた。

「おぉ! 旅行の間、どんどん我儘を言っていいんだぞ。サラにはいつも寂しい思いをさせているからな」
「まぁ、貴方ったら。ステファンに、サラを甘やかし過ぎだと窘められますよ」

 ナタリーから出た恋人の名前に鼓動が跳ねつつも、サラは無邪気を装って笑った。

 ステファンの名前が出るたびにチクリと胸が痛み、罪悪感が募っていきますわ。
 秘密の関係を続けていくためには、慣れていかないといけないのですよね……

 ランチを済ませた後、ホーフブルク王宮へと向かうことにした。サラの視界の先には両親の姿がある。

 ステファンとの関係は、何があっても知られないようにしなくては。

 私とステファンの為にも。
 そして、ふたりの為にも。

 誰も、傷つくことのないように……

 考え事をしていて足取りが遅くなったサラに気づいたふたりが振り向き、足を止めて待っている。

 サラは、笑顔でふたりの元へと駆け寄った。

 ホーフブルク王宮ミヒャエル門へと辿り着くと大勢の観光客で賑わっており、長蛇の列が出来ていた。だが、ステファンが事前に「シシィチケット」という前売り券を3人分購入しておいて渡してくれたため、3人は混み合っている正面入口ではなく、王宮中庭にあるカフェの隣の入口からスムーズに入ることが出来た。

「さすが、ステファンだな」

 サラも、ステファンがチケットを購入していたことは知らなかったため、その手際のよさに驚いた。

 外観からもかなり広いとは感じていたが、中にはたくさんの建物や広場があり、想像以上の広大さだった。

 宮廷銀器コレクションを見学した後、シシィ・ミュージアムへ。フランツ・ヨーゼフ1世の妃エリーザベト、愛称シシィはその類稀なる美貌によって人々から賞賛され、今や宗教的な崇拝の対象にまでなっている程だ。そんな彼女をめぐる伝説と史実を対比した展示品は非常に興味深かった。

 マリア・テレジアも住んでいたレオポルト宮をまわり、そこからスイス門へ。左側にある階段を上ったところに王宮礼拝堂があった。

 サラはガイドブックを片手に両親に話しかけた。

「ここで、毎週日曜と祝祭日のミサには世界でも有名な少年合唱団が賛美歌を歌うそうですよ」
「『天使の歌声』と称される程ですもの。近くで聴いたら、とても美しいんでしょうね」
「えぇ、そうですね。聴いてみたいですわ」

 ナタリーの言葉にさらが頷いて、微笑んだ。

 王宮中庭にあるカフェで休憩し、新宮殿のある英雄広場ヘルデンプラッツを見学した。アドルフヒトラーが「ドイツによるオーストリア併合」演説をした新宮殿のバルコニーに立った時、ここは大勢の市民で埋め尽くされていたという。
 
 世界一美しい図書館の一つと言われている国立図書館プルンクザールはバロック様式の建物で、天井には美しいフレスコ画、それぞれの本の高さに合わせて本が収納された木製の本棚などは息を呑むほどの壮麗さだった。

 数々の観光名所をまわるのに両親は夢中で、サラは建物や美術品についての感想や意見などをふたりと話すことに終始し、ステファンの話題が上がることはなかった。

 だがサラは、両親と一緒にいてもステファンのいない寂しさが常に付き纏い、今頃何をしているのだろう……と、ことあるごとに考えずにはいられなかった。
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