<完結>【R18】深窓の令嬢は美麗なピアニストの叔父と禁忌の恋に堕ち、淫らに溺れる

奏音 美都

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84.世間への暴露

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 だが、サラは……ステファンに包まれた手の温かさを手放すことは出来なかった。

「お父、様……ごめん……ごめんなさい。
 私は……ステファン以外の人は、愛せないんです。彼と一緒にいることが、私の幸せなんです。今の私には、ステファンの存在なくしては生きることさえも出来ないんです。

 どうか、分かってください……」

 結婚できなくてもいい。
 子供が産めなくてもいい。

 普通に考えられる「女の幸せ」を感じることは出来なくても、ステファンさえ傍にいてくれれば、それでいいのです。

 サラは、精一杯の自分の気持ちを伝えた。

 認めて、なんて言いません。
 許して、とも言えません。

 どうか。どうか、何も言わず……そっとしておいて下さい。

 お願い。
 お願い、ですから……

 藁にもすがる思いで父を見つめる。

 重く、長い沈黙がこの空間を支配する。時計が秒針を刻む音、エアコンの室内機の音、自分の呼吸の音。普段意識することのない僅かな音ですら、鼓膜を震わせ、やけに大きく響いて聞こえる。

「……だめだ。
 許すことは、できん……」

 大きな溜息と共に吐かれる、ジョージの言葉。

 サラは、禁忌の関係がどれ程重いものなのか、今以上に感じたことはなかった。

「分かっているのか、これは家族だけの問題じゃない。クリステンセン財閥そのものの存亡の危機なんだぞ!
 明日にはこの記事が世間にでて大騒ぎになる! おまえ達だけじゃない、家族も、財閥もマスコミの餌食だ!!」

 ジョージはタブロイド誌のコピーをテーブルから手で払いのけ、頭を抱えた。

「お父様、が……調べ、させたのですか……」

 呆然と父を見つめる娘に、ジョージは苦しそうに俯き、唇を噛んだ。

「私がこんなこと、するはずないだろう!
 今朝ポストを見たら、これが投函されていたんだ。監視カメラを確認したが、知らない男だった」
「その映像、見せてもらえますか?」

 ジョージがスマホを取り出し、アプリを立ち上げて、今朝の映像までスクロールする。

「これだ」

 ジョージにスマホを向けられ、映像に目をやったステファンは小さく声を上げた。

「この男は……以前に私のスクープ写真を売りつけ、私が新聞社から解雇させたカメラマンです。現在は、フリーのパパラッチとして活動しているはず。
 私のことを恨みに思い、ずっと付け回していたのでしょう」

 ステファンが舌打ちすると、ジョージに顔を向けた。

「新聞社に連絡はしたのですか?」
「もちろんしたさ! 必死に説得し、それなりの金も払うと言った!
 だが……もう既に製版されたものが各所に配送されており、今からそれを回収することなど無理だと言われた。私たちに出来るのは、明日記事が出たらどうすべきか、対策を考えるだけだ……」

 そ、んな……

 サラは、目の前が真っ暗になった。

 私たちの関係が、世間に晒される。
 ステファンのピアニストとしての立場だけでなく、お父様の率いるクリステンセン財閥にまで影響が……

「おか……さまは?」

 サラは、掠れた声で尋ねた。

「私が、ステファンとふたりで話したいからと遠慮してもらったのだ。ナタリーには、明日の重役会議とその後の緊急株主総会の準備をしてもらっている」
「そう、ですか……」

 クリステンセン財閥は、直接経営しているグループ企業や傘下企業だけを数えても相当な数になる。そこに下請け会社や提携企業や取引先となる企業を合わせて考えればそれは膨大な数となり、その下には何百万、いや、それ以上もの従業員がいるのだ。

 スキャンダルが露わになれば、クリステンセン財閥グループ企業、関連企業だけでなく、社会や国の経済さえも揺るがす大事件に発展してしまう。
 
 サラは今後、自分達やその周囲に巻き起こる事態を想像するだけで、自分達の犯してしまった罪の重さに改めて恐ろしくなった。

 この気持ちに、決して偽りなどない。ステファンを、心の底から愛しています。決して、離れたくない……

 けれど……こんな形で一緒になってもいいのでしょうか。
 お父様が私を愛してくださる、その気持ちに背いて……

 家族間の問題、だけではない。
 社会全体をも巻き込むスキャンダルへと発展するかもしれないのに……


「サラ、行きましょう」


 ステファンがすっくと立ち上がり、サラの腕を掴んだ。

「え、どこへ……」

 サラは、驚いてステファンを見上げた。

「明日には、マスコミが大挙して押し寄せることになります。その前にここを出なければなりません」
「待て! そうはさせんぞ!!」

 ジョージが手を伸ばし、空いている方のステファンの手首を掴んだ。

 掴まれたステファンの手がジョージの手を逆に掴み返し、グッと床に押し付ける。サラを掴んでいた手を離し、背広のポケットから手錠を取り出した。

 ガチャリ……と金属音が響き、ジョージの手首とローテーブルの脚が手錠で繋がれた。あまりにも素早く鮮やかな手腕に、抵抗する隙さえも与えられなかった。

「ステファン! どういうつもりだ!?」

 ステファンは手錠の鍵をハイチェストの上に乗せると、にこやかに微笑んだ。

「手荒な真似はしたくありませんので、こうしたまでです。
 それでは兄様、ごきげんよう」

 サラは父に対して申し訳ない気持ちになるものの、ステファンに引かれた手から抗うことは出来なかった。父から目を背け、肩を震わせた。

「お父様、ごめんなさい。本当に……ごめん、なさい」

 リビングを抜けると、父が自分の名を呼ぶ絶叫が聞こえ、サラは耳を塞いで玄関へと向かった。
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