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119.ステファンの居場所
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ある日、サラが仕事を終えてタクシーを降りてエントランスに向かって歩いていると、目の前に人が立ちはだかった。
なぜ、ここに!?
プラチナブロンドの髪に透き通るような白い肌、ガラス玉のようなクリスタルブルーの瞳には人を見下すような高圧的な雰囲気が漂っている。
「遅いんだよ!」
「ノア! どうして、ここにいるのですか!?」
驚くサラに背を向け、ノアが肩をいからせながらエントランスへずかずか向かう。
「ここじゃ寒いから、中に入れてよ」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんなこと言われても困ります。ちゃんと、理由を聞かせてくれませんか」
サラは焦って追いかけながら、華奢な背中を呼び止めた。
ノアが振り向くと、クリスタルブルーの瞳が揺らめいた。眉を寄せ、顔を俯かせる。
「ステファンの居場所を、やっと突き止めたんだ……」
ステファンが失踪してから、実に半年もの月日が流れていた。この頃ではもう彼のことは話題に上らなくなり、世間は次々に持ち上がる目新しい話題へと興味が移り、彼の存在は風化しつつあった。
ただサラだけは、ステファンのことが常に心の中で騒めいていた。今頃どうしているのだろう、どこにいるのだろうかと、度々彼のことを思っていた。
やっと、突き止めたって……ステファンに何があったのですか!?
サラは問いかけるようにじっとノアを見つめたが、彼は目を合わそうとしない。わざわざ英国に、しかもあれほど嫌っていた自分を訪ねてくるなど、よっぽどのことに違いない。
サラはゴクリと唾を飲み込むと、ピンと張り詰めた固い声でノアに呼び掛けた。
「どうぞ、入ってください」
サラは現在、両親とは離れたコンドミニアムにひとりで住んでいる。だが、アイザックと結婚したらここが新居となることが決まっていた。
受付のコンシェルジェが顔を上げると、一瞬サラの後ろに立つノアを見てハッとしたような表情を浮かべたが、すぐに何事もなかったかのように目を逸らした。芸能人や様々なセレブリティが住んでいることもあり、住民のプライバシーには関与しないというのがここでコンシェルジェとして働く上での条件なので、サラがノアを連れていたことを婚約者のアイザックや他の人間に知られることはないだろう。
サラは自室の扉を開け、ノアに中に入るよう促した。
「ステファンの居場所を突き止めたって、どういうことですか!?
やっぱり、ステファンは失踪してたのですか?」
サラの問いかけに、ノアは軽蔑するような目つきで息を吐いた。
「あんた、バカなの? もしステファンが本当に世界ツアーの準備のために練習に打ち込んでたなら、今頃とっくに回ってるはずだろ!」
「そう、ですよね……」
サラとて、そんなはずはないともう分かっていた。だが、ステファンが失踪したのだと認めたくない気持ちがあったのだ。
「ステファンは今、Desire Islandにいる」
「Desire Islandって?」
サラは訝しげな表情を見せた。
欲望の、島……
そんな島、聞いたことありません。
なぜ、ここに!?
プラチナブロンドの髪に透き通るような白い肌、ガラス玉のようなクリスタルブルーの瞳には人を見下すような高圧的な雰囲気が漂っている。
「遅いんだよ!」
「ノア! どうして、ここにいるのですか!?」
驚くサラに背を向け、ノアが肩をいからせながらエントランスへずかずか向かう。
「ここじゃ寒いから、中に入れてよ」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんなこと言われても困ります。ちゃんと、理由を聞かせてくれませんか」
サラは焦って追いかけながら、華奢な背中を呼び止めた。
ノアが振り向くと、クリスタルブルーの瞳が揺らめいた。眉を寄せ、顔を俯かせる。
「ステファンの居場所を、やっと突き止めたんだ……」
ステファンが失踪してから、実に半年もの月日が流れていた。この頃ではもう彼のことは話題に上らなくなり、世間は次々に持ち上がる目新しい話題へと興味が移り、彼の存在は風化しつつあった。
ただサラだけは、ステファンのことが常に心の中で騒めいていた。今頃どうしているのだろう、どこにいるのだろうかと、度々彼のことを思っていた。
やっと、突き止めたって……ステファンに何があったのですか!?
サラは問いかけるようにじっとノアを見つめたが、彼は目を合わそうとしない。わざわざ英国に、しかもあれほど嫌っていた自分を訪ねてくるなど、よっぽどのことに違いない。
サラはゴクリと唾を飲み込むと、ピンと張り詰めた固い声でノアに呼び掛けた。
「どうぞ、入ってください」
サラは現在、両親とは離れたコンドミニアムにひとりで住んでいる。だが、アイザックと結婚したらここが新居となることが決まっていた。
受付のコンシェルジェが顔を上げると、一瞬サラの後ろに立つノアを見てハッとしたような表情を浮かべたが、すぐに何事もなかったかのように目を逸らした。芸能人や様々なセレブリティが住んでいることもあり、住民のプライバシーには関与しないというのがここでコンシェルジェとして働く上での条件なので、サラがノアを連れていたことを婚約者のアイザックや他の人間に知られることはないだろう。
サラは自室の扉を開け、ノアに中に入るよう促した。
「ステファンの居場所を突き止めたって、どういうことですか!?
やっぱり、ステファンは失踪してたのですか?」
サラの問いかけに、ノアは軽蔑するような目つきで息を吐いた。
「あんた、バカなの? もしステファンが本当に世界ツアーの準備のために練習に打ち込んでたなら、今頃とっくに回ってるはずだろ!」
「そう、ですよね……」
サラとて、そんなはずはないともう分かっていた。だが、ステファンが失踪したのだと認めたくない気持ちがあったのだ。
「ステファンは今、Desire Islandにいる」
「Desire Islandって?」
サラは訝しげな表情を見せた。
欲望の、島……
そんな島、聞いたことありません。
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