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126.逃げ場のない状況
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この日、ロンドンロイヤルホテル『絢爛の間』にはクリステンセン財閥創立150周年を祝う為に、華やかなドレスやタキシードで正装した人々が集っていた。世界各国から客人が集まっており、会場には様々な言語が飛び交っている。それだけでなく、報道陣達も取材に訪れていた。
壁際には、招待客に合わせた世界各国の豪華な料理がブッフェスタイルで用意されていた。その中には、イスラム教徒の為のハラルミート(イスラム法に則った屠殺法で処理された精肉)やベジタリアン、ビーガンの為の料理も含まれている。もちろんバーカウンターもあり、高級酒から珍しい酒まで各種取り揃えていた。
会場にはピアノと弦楽四重奏の生演奏が流れ、煌びやかで格式高い雰囲気に華を添えていた。
そのパーティーの中心にいるのが、サラとアイザックだった。サラは深紅のカクテルドレス、アイザックはタキシードで客人たちを和やかにもてなしていた。ふたりは笑顔を交わし、微笑み合い、傍目からは仲の良い婚約者として見えていることだろう。
7月に大学を卒業したサラは、3ヶ月後にアイザックと結婚式を挙げる予定となっていた。
結婚式は、エリザベス女王陛下がフィリップ殿下と挙式を挙げたロンドンのウェストミンスター寺院で行われる。挙式後の披露宴には800名を招待しており、経済界だけでなく政界、芸能界からさまざまな著名人、有名人を招いてる。
ステファンを見送った日から、実に3年の月日が流れていた。サラのステファンへの想いは決してなくなることはなかったが、一方で諦めの気持ちも生じていた。
今日のパーティーは、将来財閥を背負って立つ夫婦となるふたりの社交界への顔見せの場でもある。
もう、覚悟を決めなくてはいけないのですね……
会場の招待客に向けて案内が入る。
「皆様、本日はクリステンセン財閥150周年記念パーティーにご足労下さり、誠にありがとうございます。
それでは、財閥代表取締役社長であるジョージ・クリステンセンより、皆様にご挨拶となります」
盛大な拍手が鳴り響く中、ジョージが会場正面に設けられたマイクの前に立つ。その表情は誇らしげだった。
「本日はクリステンセン財閥150周年の式典へご多忙の所、多数の皆様にご出席賜りまして誠に御礼申し上げます。
クリステンセン財閥が創業したのは1869年のことでした……」
ジョージは財閥のこれまでの歴史について簡単に説明すると、招待客に向けてお礼を述べた。
「昨今の厳しい経済の中でも皆様方の温かいご支援やご協力により、当社は本日まで存続することができ、お陰様で150周年を迎えることができました。本当にありがとうございます。
今後も社員一同、いっそうの努力をし、皆様のご愛顧にお答えして行く所存でございますので、皆様の変わらぬご支援やご協力をいただけますようにお願い申し上げます。
ではここで、私より皆様に発表があります。
既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、娘のサラが3ヶ月後に結婚し、結婚相手である現在副社長を務めているアイザック・ヒューストンに社長職を譲り、私は会長職に就任します。これからは、影から財閥を支えていく所存です。どうぞ若いふたりを支えてやってください」
ジョージの紹介を受け、アイザックが前に進み出ると彼の隣に立った。歓声と拍手が沸く中、アイザックはマイクを受け取ると深々とお辞儀をした。
「ただいまご紹介にあずかりましたアイザック・ヒューストンです。社長が長年にわたり粉骨砕身し、ここまで成長させたクリステン財閥をお引き受けするのは、身の引き締まる思いがいたします。
不慣れな部分もありますが、義父となる社長からの教えを胸に、皆様に愛される、信頼していただけるクリステンセン財閥のために新しい気持ちで全力を尽くす覚悟でいます。それにはみなさまのご協力が必要不可欠ですので、どうぞよろしくお願いいたします」
会場が大きな歓声に包まれ、司会者が案内する。
「どうぞ、サラさんも横にお並びください」
呼ばれたサラは、皆からの羨望と祝福を受けながら会場前へと進んだ。新社長夫妻としてお祝いの言葉をかけられながら、報道陣からのフラッシュを浴びる。
司会者のアナウンスが力強く響き渡る。
「サラさんはお母様と同じように夫を公私共に支えるべく、秘書業を学んでいる最中です。
皆様、これからのクリステンセン財閥を背負って立つ若き新社長夫妻をどうぞよろしくお願い致します」
私たちが仲のいい夫婦であることをアピールすることは、世間に好印象をもたらします。新社長の妻としての役目を果たさなければ……
サラは、アイザックの隣で華やいだ笑顔を見せた。
壁際には、招待客に合わせた世界各国の豪華な料理がブッフェスタイルで用意されていた。その中には、イスラム教徒の為のハラルミート(イスラム法に則った屠殺法で処理された精肉)やベジタリアン、ビーガンの為の料理も含まれている。もちろんバーカウンターもあり、高級酒から珍しい酒まで各種取り揃えていた。
会場にはピアノと弦楽四重奏の生演奏が流れ、煌びやかで格式高い雰囲気に華を添えていた。
そのパーティーの中心にいるのが、サラとアイザックだった。サラは深紅のカクテルドレス、アイザックはタキシードで客人たちを和やかにもてなしていた。ふたりは笑顔を交わし、微笑み合い、傍目からは仲の良い婚約者として見えていることだろう。
7月に大学を卒業したサラは、3ヶ月後にアイザックと結婚式を挙げる予定となっていた。
結婚式は、エリザベス女王陛下がフィリップ殿下と挙式を挙げたロンドンのウェストミンスター寺院で行われる。挙式後の披露宴には800名を招待しており、経済界だけでなく政界、芸能界からさまざまな著名人、有名人を招いてる。
ステファンを見送った日から、実に3年の月日が流れていた。サラのステファンへの想いは決してなくなることはなかったが、一方で諦めの気持ちも生じていた。
今日のパーティーは、将来財閥を背負って立つ夫婦となるふたりの社交界への顔見せの場でもある。
もう、覚悟を決めなくてはいけないのですね……
会場の招待客に向けて案内が入る。
「皆様、本日はクリステンセン財閥150周年記念パーティーにご足労下さり、誠にありがとうございます。
それでは、財閥代表取締役社長であるジョージ・クリステンセンより、皆様にご挨拶となります」
盛大な拍手が鳴り響く中、ジョージが会場正面に設けられたマイクの前に立つ。その表情は誇らしげだった。
「本日はクリステンセン財閥150周年の式典へご多忙の所、多数の皆様にご出席賜りまして誠に御礼申し上げます。
クリステンセン財閥が創業したのは1869年のことでした……」
ジョージは財閥のこれまでの歴史について簡単に説明すると、招待客に向けてお礼を述べた。
「昨今の厳しい経済の中でも皆様方の温かいご支援やご協力により、当社は本日まで存続することができ、お陰様で150周年を迎えることができました。本当にありがとうございます。
今後も社員一同、いっそうの努力をし、皆様のご愛顧にお答えして行く所存でございますので、皆様の変わらぬご支援やご協力をいただけますようにお願い申し上げます。
ではここで、私より皆様に発表があります。
既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、娘のサラが3ヶ月後に結婚し、結婚相手である現在副社長を務めているアイザック・ヒューストンに社長職を譲り、私は会長職に就任します。これからは、影から財閥を支えていく所存です。どうぞ若いふたりを支えてやってください」
ジョージの紹介を受け、アイザックが前に進み出ると彼の隣に立った。歓声と拍手が沸く中、アイザックはマイクを受け取ると深々とお辞儀をした。
「ただいまご紹介にあずかりましたアイザック・ヒューストンです。社長が長年にわたり粉骨砕身し、ここまで成長させたクリステン財閥をお引き受けするのは、身の引き締まる思いがいたします。
不慣れな部分もありますが、義父となる社長からの教えを胸に、皆様に愛される、信頼していただけるクリステンセン財閥のために新しい気持ちで全力を尽くす覚悟でいます。それにはみなさまのご協力が必要不可欠ですので、どうぞよろしくお願いいたします」
会場が大きな歓声に包まれ、司会者が案内する。
「どうぞ、サラさんも横にお並びください」
呼ばれたサラは、皆からの羨望と祝福を受けながら会場前へと進んだ。新社長夫妻としてお祝いの言葉をかけられながら、報道陣からのフラッシュを浴びる。
司会者のアナウンスが力強く響き渡る。
「サラさんはお母様と同じように夫を公私共に支えるべく、秘書業を学んでいる最中です。
皆様、これからのクリステンセン財閥を背負って立つ若き新社長夫妻をどうぞよろしくお願い致します」
私たちが仲のいい夫婦であることをアピールすることは、世間に好印象をもたらします。新社長の妻としての役目を果たさなければ……
サラは、アイザックの隣で華やいだ笑顔を見せた。
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