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脱却
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今、最も美姫に精神的苦痛を与えているのは、礼音から受けた屈辱やRTS(レイプトラウマ症候群)による男性恐怖症ではない。
秀一との別れだ。
自分で決断したこととはいえ、未だ罪悪感に苦しめられ、悩ませ続けられている。にも関わらず、カウンセリングを受けている際、美姫はそれを話すことが出来なかった。
それは、隣に大和がいたからだった。
大和には秀一のことを打ち明けているし、自分の気持ちは伝えている。それでも、全てを包み隠さず話したわけではない。秀一との生々しい激しい交わりについては、言及することなく濁した。
それは羞恥心だけでなく、大和に知られたくない、彼を傷つけたくないという気持ちがあったし、心のどこかに秀一とのふたりだけの思い出にしておきたいという思いもあった。
それだけではない。
大和に、自分が淫らな女だと思われたくないと思ったのも、事実だった。
秀一との別れを乗り越えられない限り、大和との夫婦関係を築くことなど出来ない。昨日のように、いつまでも秀一の夢に魘され、幻影に脅かされることになってしまう。
そのためには、まず原因を追求していかなければならない。どうして美姫と秀一がそこまで互いの存在に執着するようになり、激しく、狂気を帯びたように溺れていったのか。
両親に隠れて付き合うことの背徳感を感じながらも、逆にその禁忌の関係が二人の欲情を更に煽ることになったこと。
礼音との事件から肉体関係を結ばなくなった一方で、精神的な繋がりを強く求めるようになったこと。
世界的に有名なピアニストで大勢の人から愛される秀一を誇りに思いながらも、過去にすら嫉妬し、自分の元に繋ぎ止めておきたいという激しい独占欲を感じていたこと。
悠の事故により、罪悪感と彼が死んでしまうかもしれないという恐怖に怯え、それを忘れるために激しく求めるようになったこと。
久美にふたりの関係を暴露され、両親に別れを説得されようとも秀一との関係を断つことなど考えられなかったこと。
そして......
彼の狂気に触れてさえも、一緒に堕ちたいと願ったこと。
そのためには、秀一との生々しい話はどうしても避けることは出来ない。
美姫は、今日初めて会ったにも関わらず、優子になら秀一とのことを打ち明けたいという気持ちになっていた。
たとえ美姫が秀一とのことを相談したとしても、大和なら隣で静かに聞いていてくれるだろう。だが、いくら大和が全てを受け止める覚悟でいるからと言って、美姫はそれを聞かせたくはなかった。そのためにも、美姫は優子との二人きりのカウンセリングを望んだのだった。
優子は、美姫を柔らかく見つめ、微笑んだ。
「私は先生ではないので、さん付けで大丈夫ですよ。
では、次回からはふたりでお話しましょう。気が変われば、いつでも言って下さいね」
優子に見送られ、美姫と大和は部屋を後にした。
秀一との別れだ。
自分で決断したこととはいえ、未だ罪悪感に苦しめられ、悩ませ続けられている。にも関わらず、カウンセリングを受けている際、美姫はそれを話すことが出来なかった。
それは、隣に大和がいたからだった。
大和には秀一のことを打ち明けているし、自分の気持ちは伝えている。それでも、全てを包み隠さず話したわけではない。秀一との生々しい激しい交わりについては、言及することなく濁した。
それは羞恥心だけでなく、大和に知られたくない、彼を傷つけたくないという気持ちがあったし、心のどこかに秀一とのふたりだけの思い出にしておきたいという思いもあった。
それだけではない。
大和に、自分が淫らな女だと思われたくないと思ったのも、事実だった。
秀一との別れを乗り越えられない限り、大和との夫婦関係を築くことなど出来ない。昨日のように、いつまでも秀一の夢に魘され、幻影に脅かされることになってしまう。
そのためには、まず原因を追求していかなければならない。どうして美姫と秀一がそこまで互いの存在に執着するようになり、激しく、狂気を帯びたように溺れていったのか。
両親に隠れて付き合うことの背徳感を感じながらも、逆にその禁忌の関係が二人の欲情を更に煽ることになったこと。
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久美にふたりの関係を暴露され、両親に別れを説得されようとも秀一との関係を断つことなど考えられなかったこと。
そして......
彼の狂気に触れてさえも、一緒に堕ちたいと願ったこと。
そのためには、秀一との生々しい話はどうしても避けることは出来ない。
美姫は、今日初めて会ったにも関わらず、優子になら秀一とのことを打ち明けたいという気持ちになっていた。
たとえ美姫が秀一とのことを相談したとしても、大和なら隣で静かに聞いていてくれるだろう。だが、いくら大和が全てを受け止める覚悟でいるからと言って、美姫はそれを聞かせたくはなかった。そのためにも、美姫は優子との二人きりのカウンセリングを望んだのだった。
優子は、美姫を柔らかく見つめ、微笑んだ。
「私は先生ではないので、さん付けで大丈夫ですよ。
では、次回からはふたりでお話しましょう。気が変われば、いつでも言って下さいね」
優子に見送られ、美姫と大和は部屋を後にした。
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