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不意打ち
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ホテルに戻っての打ち合わせが終わったのは、午後7時だった。
「みきさぁん、ごはんたべにいきましょー!」
ソユンが食事に誘ってくれたが、美姫は眉を下げた。
「せっかくだけど、ごめんね。友達と会う約束してるから」
ソユンは内田と一緒にご飯に出かけることになり、美姫とは別のタクシーに乗り込んだ。
「じゃ、また明日ね」
「はぁい!」
「来栖チーフ、お気をつけて」
美姫は日本で約束した通り、今夜小百合と会うことになっていた。タクシーの運転手は日本語も英語も通じなかったが、お店の名前と地図を見せると分かってくれたようだった。
小百合から指定されたのは、学生街である新村(シンチョン)にある焼肉屋だった。黄色の看板にコミカルな豚が親指を立てている絵が描かれており、庶民的な店だった。
中に入ると狭い店内にはテーブルが8つしかなく、満席で賑わっていた。待っている客もいる。
きょろきょろする美姫を見つけた小百合が大きく手を振る。
「オルチャーム!」
周りにいた客たちが一斉に美姫を振り返り、恥ずかしさで顔を赤らめつつ、小さく手を挙げた。
各鉄板の中央には煙を吸い取るための換気扇が天井からぶら下がっているので煙は抑えられているものの、匂いはかなり服に染み込みそうだった。客層は学生街らしく若い男女で溢れており、中には日本からの留学生もいるらしく、日本語が聞こえてきた。
小百合の座っているテーブルにつくと、彼女の隣にはスマホで見せてもらったのとは違う男性が座っている。
「チョウム ペッケッスムニダ?(はじめまして)」
慣れない韓国語で挨拶すると、男性は少し困惑した表情を浮かべながら笑みを見せた。
「あ、俺日本人っす」
小百合が嬉しそうに紹介する。
「日本から韓国に留学で来てる、ヨシくんです。私たち、1週間前から付き合い始めたの。
やっぱり日本人同士の方が習慣とか文化とか同じだし、親のこととか考えるといいかなぁって思って」
「そ、そっか......」
塩顔男子くんのこと、夢中になってるみたいだったのに。
すごいな、小百合さん......恋愛体質って、こういう人のことを言うんだろうな。
「さっ、焼肉食べよー! 日本では牛肉が人気だけど、韓国なら絶対豚肉だよ!
とりあえず、さっき適当にオーダーしといたから、オルチャムもどんどん食べて!! ここのサムギョプサル(三枚肉)は肉が分厚くて柔らかいのー!! さぁ、いっぱい食べるぞぉっ!!」
小百合はヨシくんと紹介した彼氏に腕を絡ませ、頬を緩ませた。
炭火で焼いた分厚い肉を、コチュジャンで味付けされたネギと焼いたニンニクと一緒にサンチュ(チシャ菜)に包む。タレは韓薬や果物等を溶かし込んだ秘伝の醤油タレときな粉、焼き塩、ごま油の4種類がある。
ジューシーな肉汁が口の中に広がり、それが甘辛のタレと上手く絡み合う。しつこく感じないのは一緒に巻かれたサンチュの程よい苦味とネギの辛みのお陰だ。にんにくを丸ごと食べることに抵抗があったが、焼いたにんにくはじゃがいものようにほくほくして柔らかく、肉の美味しさをより引き出していて、癖になりそうな美味しさだった。
「んんぅ、おいしぃっっ!!」
感激のあまり、思わず歓声を上げた。
「でしょー? ほら、まだお肉追加するから、どんどん食べて!!
オルチャム痩せすぎだから、もっと食べないと!!」
小百合は自身も食べながら肉をどんどん焼き、彼氏の世話も焼いた。
久々に美姫の食欲が刺激され、次々に手が伸びる。食事と一緒にマッコリを勧められ、いつの間にか飲むピッチも上がっていった。
マッコリは、米を主原料とする韓国伝統のにごり酒だ。アルコール度数はビールと変わらないほど低めだが、繊維質が豊富でビタミンやミネラル、乳酸菌、タンパク質が他の酒よりも豊富。低カロリーで美容や便秘効果もあることから、若い女性にも人気がある。
小百合との会話は楽しかった。学生らしく奔放なさゆりの発言に戸惑いながらも、そんな彼女を羨ましく眩しくも感じる。美姫は久々に心から楽しむことが出来た。
1週間前に付き合い始めたというヨシは日本の大学からの短期留学生で、8月末には日本に戻るという。
ヨシの地元も小百合と同じ東京なので遠距離にならなくていいと安心していたが、彼女の父である長谷川が本社に戻るのは来年4月だから、日本に戻るのは3月になる。それを思うと、9月から7ヶ月間遠距離になる間にふたりが別れてしまうのではないかと美姫は密かに心配になった。
もっとも、小百合の恋愛観はあっけらかんとしていそうなので、心配することはないのかもしれないが。
「もっとゆっくり会いたかったんだけど、どうしても今夜しか調整がつかなくてごめんね。
でも、会えてよかった」
「私も! 今度は東京で会おうよ!」
小百合にバーに誘われたが、美姫はこれ以上お酒を飲む気にはなれず遠慮することにした。焼肉を食べながら飲んだマッコリが、結構きいたようだった。
「みきさぁん、ごはんたべにいきましょー!」
ソユンが食事に誘ってくれたが、美姫は眉を下げた。
「せっかくだけど、ごめんね。友達と会う約束してるから」
ソユンは内田と一緒にご飯に出かけることになり、美姫とは別のタクシーに乗り込んだ。
「じゃ、また明日ね」
「はぁい!」
「来栖チーフ、お気をつけて」
美姫は日本で約束した通り、今夜小百合と会うことになっていた。タクシーの運転手は日本語も英語も通じなかったが、お店の名前と地図を見せると分かってくれたようだった。
小百合から指定されたのは、学生街である新村(シンチョン)にある焼肉屋だった。黄色の看板にコミカルな豚が親指を立てている絵が描かれており、庶民的な店だった。
中に入ると狭い店内にはテーブルが8つしかなく、満席で賑わっていた。待っている客もいる。
きょろきょろする美姫を見つけた小百合が大きく手を振る。
「オルチャーム!」
周りにいた客たちが一斉に美姫を振り返り、恥ずかしさで顔を赤らめつつ、小さく手を挙げた。
各鉄板の中央には煙を吸い取るための換気扇が天井からぶら下がっているので煙は抑えられているものの、匂いはかなり服に染み込みそうだった。客層は学生街らしく若い男女で溢れており、中には日本からの留学生もいるらしく、日本語が聞こえてきた。
小百合の座っているテーブルにつくと、彼女の隣にはスマホで見せてもらったのとは違う男性が座っている。
「チョウム ペッケッスムニダ?(はじめまして)」
慣れない韓国語で挨拶すると、男性は少し困惑した表情を浮かべながら笑みを見せた。
「あ、俺日本人っす」
小百合が嬉しそうに紹介する。
「日本から韓国に留学で来てる、ヨシくんです。私たち、1週間前から付き合い始めたの。
やっぱり日本人同士の方が習慣とか文化とか同じだし、親のこととか考えるといいかなぁって思って」
「そ、そっか......」
塩顔男子くんのこと、夢中になってるみたいだったのに。
すごいな、小百合さん......恋愛体質って、こういう人のことを言うんだろうな。
「さっ、焼肉食べよー! 日本では牛肉が人気だけど、韓国なら絶対豚肉だよ!
とりあえず、さっき適当にオーダーしといたから、オルチャムもどんどん食べて!! ここのサムギョプサル(三枚肉)は肉が分厚くて柔らかいのー!! さぁ、いっぱい食べるぞぉっ!!」
小百合はヨシくんと紹介した彼氏に腕を絡ませ、頬を緩ませた。
炭火で焼いた分厚い肉を、コチュジャンで味付けされたネギと焼いたニンニクと一緒にサンチュ(チシャ菜)に包む。タレは韓薬や果物等を溶かし込んだ秘伝の醤油タレときな粉、焼き塩、ごま油の4種類がある。
ジューシーな肉汁が口の中に広がり、それが甘辛のタレと上手く絡み合う。しつこく感じないのは一緒に巻かれたサンチュの程よい苦味とネギの辛みのお陰だ。にんにくを丸ごと食べることに抵抗があったが、焼いたにんにくはじゃがいものようにほくほくして柔らかく、肉の美味しさをより引き出していて、癖になりそうな美味しさだった。
「んんぅ、おいしぃっっ!!」
感激のあまり、思わず歓声を上げた。
「でしょー? ほら、まだお肉追加するから、どんどん食べて!!
オルチャム痩せすぎだから、もっと食べないと!!」
小百合は自身も食べながら肉をどんどん焼き、彼氏の世話も焼いた。
久々に美姫の食欲が刺激され、次々に手が伸びる。食事と一緒にマッコリを勧められ、いつの間にか飲むピッチも上がっていった。
マッコリは、米を主原料とする韓国伝統のにごり酒だ。アルコール度数はビールと変わらないほど低めだが、繊維質が豊富でビタミンやミネラル、乳酸菌、タンパク質が他の酒よりも豊富。低カロリーで美容や便秘効果もあることから、若い女性にも人気がある。
小百合との会話は楽しかった。学生らしく奔放なさゆりの発言に戸惑いながらも、そんな彼女を羨ましく眩しくも感じる。美姫は久々に心から楽しむことが出来た。
1週間前に付き合い始めたというヨシは日本の大学からの短期留学生で、8月末には日本に戻るという。
ヨシの地元も小百合と同じ東京なので遠距離にならなくていいと安心していたが、彼女の父である長谷川が本社に戻るのは来年4月だから、日本に戻るのは3月になる。それを思うと、9月から7ヶ月間遠距離になる間にふたりが別れてしまうのではないかと美姫は密かに心配になった。
もっとも、小百合の恋愛観はあっけらかんとしていそうなので、心配することはないのかもしれないが。
「もっとゆっくり会いたかったんだけど、どうしても今夜しか調整がつかなくてごめんね。
でも、会えてよかった」
「私も! 今度は東京で会おうよ!」
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