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思い知らせて
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「ワルツ王」と呼ばれたヨハン・シュトラウス2世が作曲したワルツ、「ウィーン気質(かたぎ)【Wiener Blut】」が流れる。このワルツのダンスは通常のワルツと言われる「スローワルツ」よりもテンポの早いウィンナ・ワルツと呼ばれている。「ウィーン気質」は、ウィンナ・ワルツの代表的な曲だ。
美姫は来栖財閥令嬢として一通りのマナーを身につけるため、小さい頃からダンスを学ばされていた。それと良家の子女が通うということもあり、学園でもダンスを習う時間があった。高等部の卒業式にはプロムがあり、そこで卒業生を中心に、在校生も交えてダンスを披露するのだった。
そのため一応ワルツは踊れるものの、久しぶりに踏むステップと通常のワルツよりも早いウィンナ・ワルツのリズムになかなか足がついていかず、足が絡まりそうになる。
あ……
蹌踉めきそうになる美姫の躰を秀一がしっかりと支えてくれた。
「美姫、私のリードに身を委ねて下さい」
そう耳元で囁かれ、ステップとリズムに遅れないことで頭がいっぱいだった美姫は、ハッとした。
秀一が美姫に微笑む。
「ダンスは競技ではなく、コミュニケーションなのですよ。楽しく踊って下さい」
「は、はい……」
改めて秀一に右手を合わせ、胸をしっかりと引き上げ、秀一のリードに合わせてステップを踏み始める。
すると、先程まであんなに苦労していたステップが軽快になり、くるくると回る度に揺れる白いワンピースのフレアスカート共に美姫の気持ちもフワフワと舞い始めた。
ダンスって、こんなに楽しいものだったんだ……
荘厳で華やかな舞踏会の会場で秀一とふたりで踊っているような気分で、華麗な音楽にのせられて美姫の気持ちが高揚する。
「美姫、上手ですよ。リズムが掴めてきたようですね」
秀一に褒められて、素直に嬉しい気持ちが込み上げてくる。秀一に触れられているのは重なった右手と腰に軽く添えられた左手だけなのに、その手から伝わる熱と感触が美姫の躰の内部にまで浸透し、ダンスをしながら美姫を見つめる秀一の熱い視線が、美姫の内部を焦がしていく……
気持ちよくて……でも、もどかしくて……
美姫も秀一を熱く見つめ、ステップを踏み、軽やかに円舞した。
「ウィンナ・ワルツ」の曲が終わり、続いて美しく優しい音色の曲へと代わる。
リストの「愛の夢 第3番」。流れるような美しいピアノの奏でとともに秀一がぐっと腰を引き寄せて、美姫の躰を密着させた。耳元に、秀一の甘い吐息と低い囁きが落とされる。
「では…二人で、『愛の夢』に溺れましょうか……」
ワルツの時よりも格段に近づいたその距離に、熱気が高まる。スローテンポな曲に合わせ、躰を揺らしているうちに淫らな欲情に囚われていく……
呼吸が…苦しい……
ハァ…と、息をついた美姫にクスリと笑みを溢した秀一の指が、美姫の髪を掻き上げた。掻き上げられた髪の毛がサラリと首筋を撫で、ピクリと震えると、そこに秀一が接吻を落とす。
「ん……」
美姫は思わず声を漏らした。
「可愛い人ですね……」
秀一の指先が背中へとかかり、ゾクゾクとした粟立ちを齎しながらドレスのファスナーが下ろされた。
「あ!……しゅう、いち…さん……」
両肩からドレスが外されると、パサリ…と床に落ちた。下着姿を見られるのが恥ずかしくて躰を隠そうとした美姫に無慈悲な秀一の声が響いた。
「美姫、何をしているのです?まだダンスは終わっていませんよ」
美姫は来栖財閥令嬢として一通りのマナーを身につけるため、小さい頃からダンスを学ばされていた。それと良家の子女が通うということもあり、学園でもダンスを習う時間があった。高等部の卒業式にはプロムがあり、そこで卒業生を中心に、在校生も交えてダンスを披露するのだった。
そのため一応ワルツは踊れるものの、久しぶりに踏むステップと通常のワルツよりも早いウィンナ・ワルツのリズムになかなか足がついていかず、足が絡まりそうになる。
あ……
蹌踉めきそうになる美姫の躰を秀一がしっかりと支えてくれた。
「美姫、私のリードに身を委ねて下さい」
そう耳元で囁かれ、ステップとリズムに遅れないことで頭がいっぱいだった美姫は、ハッとした。
秀一が美姫に微笑む。
「ダンスは競技ではなく、コミュニケーションなのですよ。楽しく踊って下さい」
「は、はい……」
改めて秀一に右手を合わせ、胸をしっかりと引き上げ、秀一のリードに合わせてステップを踏み始める。
すると、先程まであんなに苦労していたステップが軽快になり、くるくると回る度に揺れる白いワンピースのフレアスカート共に美姫の気持ちもフワフワと舞い始めた。
ダンスって、こんなに楽しいものだったんだ……
荘厳で華やかな舞踏会の会場で秀一とふたりで踊っているような気分で、華麗な音楽にのせられて美姫の気持ちが高揚する。
「美姫、上手ですよ。リズムが掴めてきたようですね」
秀一に褒められて、素直に嬉しい気持ちが込み上げてくる。秀一に触れられているのは重なった右手と腰に軽く添えられた左手だけなのに、その手から伝わる熱と感触が美姫の躰の内部にまで浸透し、ダンスをしながら美姫を見つめる秀一の熱い視線が、美姫の内部を焦がしていく……
気持ちよくて……でも、もどかしくて……
美姫も秀一を熱く見つめ、ステップを踏み、軽やかに円舞した。
「ウィンナ・ワルツ」の曲が終わり、続いて美しく優しい音色の曲へと代わる。
リストの「愛の夢 第3番」。流れるような美しいピアノの奏でとともに秀一がぐっと腰を引き寄せて、美姫の躰を密着させた。耳元に、秀一の甘い吐息と低い囁きが落とされる。
「では…二人で、『愛の夢』に溺れましょうか……」
ワルツの時よりも格段に近づいたその距離に、熱気が高まる。スローテンポな曲に合わせ、躰を揺らしているうちに淫らな欲情に囚われていく……
呼吸が…苦しい……
ハァ…と、息をついた美姫にクスリと笑みを溢した秀一の指が、美姫の髪を掻き上げた。掻き上げられた髪の毛がサラリと首筋を撫で、ピクリと震えると、そこに秀一が接吻を落とす。
「ん……」
美姫は思わず声を漏らした。
「可愛い人ですね……」
秀一の指先が背中へとかかり、ゾクゾクとした粟立ちを齎しながらドレスのファスナーが下ろされた。
「あ!……しゅう、いち…さん……」
両肩からドレスが外されると、パサリ…と床に落ちた。下着姿を見られるのが恥ずかしくて躰を隠そうとした美姫に無慈悲な秀一の声が響いた。
「美姫、何をしているのです?まだダンスは終わっていませんよ」
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