【R18】ハロウィンナイトー吸血鬼に扮した英国子爵は天涯孤独な少女を甘い牙にかけ、陶酔させる

奏音 美都

文字の大きさ
2 / 13
ハロウィンナイトー吸血鬼に扮した英国子爵は天涯孤独な少女を甘い牙にかけ、陶酔させる

しおりを挟む
 高く澄み切った秋空に黄色と茜色を伴って太陽がその姿を隠すと、途端にどこか透明感をもった薄青の闇へと塗り替えられ、空には一番星が一際明るく輝きを放っていた。

 それを合図とばかりに、子供達が待ちきれないとばかりに扉へと向かった。お化けや魔女、妖精、小人、吸血鬼……それぞれ思い思いの衣装に身を包んだ子供達をマドレーヌは微笑ましく見つめていた。

 そして自身も子供達と共に魔女の衣装に身を包み、これから始まるイベントに胸を踊らせていた。両親がいなかったり、事情により預けられている孤児院の子供たちにとって、こういった非日常はなかなか味わうことができない。マドレーヌ自身もまた天涯孤独の身であり、同じ経験をしてきたからこそ、そんな子供たちの心情を誰よりも理解していた。

「ねぇ、ねぇ、扉の前で何て言うんだっけ?」

 初めてハロウィーンに参加する小さな子供が、クリスティアンのマントを引っ張りながら尋ねた。

「”Trick or Treat?”お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうよ、って意味だよ」

 村のあちこちには様々な顔の表情に切り取られ、キャンドルが中に灯されたかぼちゃが飾られ、ハロウィーンの夜を彩っていた。秋独特の少し肌寒さを感じる、寂しいような切ないような夜の雰囲気も、今日だけは特別な空気に包まれていた。

 いつもならとっくに寝ている時間に外へ出てみんなで村を歩くという行為だけで、既に子供達の興奮は高まっていた。道いっぱいに敷き詰められた落ち葉を踏みしめ、かぼちゃやお化けや骸骨の飾られた家々を練り歩く。

 それぞれの家の扉を叩き、

「Trick or Treat?」

 覚えたての言葉を得意そうに叫ぶその姿が愛らしい。そんな子供達を、列の後ろからマドレーヌとクリスティアンは見守っていた。

 クリスティアンが子供達に見られないようにそっと後ろから手を伸ばすと、マドレーヌの手を優しく握る。そんな行為が嬉しくて、マドレーヌもクリスティアンの手を握り返した。

 扉から出てきた村の人達は、抱えきれないほどたくさんのお菓子を用意してくれていた。

「あれ、ハロルド子爵卿じゃないですかい。
 今日は孤児院の慰問ですかい?」
「あぁ。子供たちと一緒に私もイベントを楽しみたくてね」

 どこに行っても、クリスティアンは村人たちに声を掛けられた。若くして子爵となったクリスティアンだったが、村人たちの暮らしが豊かになるために地域に根付いた事業を展開し、必要とあれば無利子でお金を貸し付けたりして、彼らから絶大な信頼を寄せられ、慕われている。

「子爵様もどうぞ。それから、マドレーヌもほらほら」

 子供だけでなく、引率であるマドレーヌとクリスティアンにまでお菓子を渡してくれる村人もいた。優しく、温かい人々の温もりを感じ、マドレーヌの胸が温かくなる。

 ご多忙なクリスティアン様とは、なかなかお会いすることができない。せめて今日だけは、クリスティアン様に公務を忘れていただき、楽しい時間を過ごしてもらいたい……

 孤児院に戻る頃には、子供達の持っていた籠はお菓子で埋め尽くされていた。

 孤児院の扉を開け中に入った途端、子供達は早速籠を逆さまにして、もらったお菓子を床にばら撒いていた。

 ひとつひとつどんなお菓子があるのかじっと眺める子。いくつもらったか数え始める子。どの子供達も本当に嬉しそうで、キラキラと目を輝かせている。

 またひとつ、子供達に楽しい思い出をつくることが出来てよかった。

 マドレーヌの胸に、安堵にも似た幸せな気持ちが心の底から湧いてくる。

「ねぇ、食べてもいい?」

 おそるおそる尋ねる子供達に、マドレーヌはにっこりと微笑んだ。

「じゃあ、今日は特別。一個だけよ」

 そう答えた途端、子供たちから一斉に歓声が上がる。

「わぁーっ!」
「やったぁっっ!!」

 マドレーヌはそんな子供たちに目を細めながら、優しく諭すように言った。

「ちゃーんと、歯磨きするのよ」

『はぁーい!』

 子供達が声を揃えて答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。 その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、 人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。 そして、今――再びその年が巡ってきた。 王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。 彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。 そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。 無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。 けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、 25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。 それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...