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マリアーノからの手紙
しおりを挟む黒髪に金色の瞳の若い男の背後に、赤茶色、水色、緑色の髪の男たちが付き従い、全員ヴァレンシアとレアンドラの二人の前に跪いた。
それぞれ肌の色も瞳の色も体格もずいぶん違う。
この国にはないことだ。
ヴァレンシアは沸き上がる好奇心を抑え、当主代理として彼らと相対した。
「…お前たちとお前たちの主が、我が兄マリアーノを連れ去ったと推測するが間違いないか」
仁王立ちして見下ろすヴァレンシアに対し、彼らはしおらしい態度で頷く。
「我が主がこの地で勝手に働いた数々の無礼をお詫びさせてください。八歳の時に番の誕生を察知して以来、この二十年探し続けておりました」
使者の代表を務める黒髪の青年は、この国の言葉を流暢に話した。
「番か…。南の大陸の種族にはそのような習慣…いや違うな、本能のようなものがあるとは聞き及んでいる」
「ご理解いただきありがとうございます。主から言付かった書簡をお渡しするよう命じられているものがございます」
彼が差し出してきたのは綺麗な組細工が施された小さな木箱だった。
受け取り開くと、クエスタ家嫡子のしるしとしてマリアーノがはめていた指輪がころりと転がっており、下には小さく折りたたんだ紙が入っていた。
「これは…」
指輪の入った木箱を隣に立つ母に渡し紙を開くと、そこには青いインクで不揃いな文字がびっしりと書き散らされていた。
「俺の可愛い可愛い可愛いヴィーへ
ヴィーだいすき
愛してる
ねえ、こっちに来てよ
エズの国ってなかなか悪くないよ
ごはんもおいしいし
きれいな花も咲いているし
みんなやさしいし
ねえねえ、俺とベイビーとスイートでラブなくらしをしようよう」
要約するとそんな感じで、紙にはキスマークとハートとスキとかそんな感じの文句が隙間なく詰め込まれている。
「…これは。このクソ…いや、下手…いや。とにかくこの筆跡と文章はまちがいなく兄のものですね」
何度も言い直しながら、ヴァレンシアはなんとか体面を保った。
実は王都に滞在している時にこんな感じの手紙を山ほど貰っている。
安定の、兄の手紙だ。
まちがいない。
「…本当に、一字の間違いなくマリアーノ様の筆跡と見受けます」
横から覗き込んだレアンドラものろのろと認める。
マリアーノは超絶字が汚い。
容姿の整った人の書く文字は美しいと思われがちだが、マリアーノに限っては当てはまらない。
細く長い指からとうてい想像できないが、子どものような…いや、習い始めの幼児のような字しか書けない。
絵を描くときは綺麗に線が引けるのになぜか文章を書かせるとからきしで、レアンドラすら匙を投げ、とりあえず公文書に記すサインのみ絵として覚えさせた。
そのことは幼いうちからレアンドラが執務を担い始めた理由の一つとなった。
「…ところで、ベイビーと、兄が手紙に書いているのですが」
「幸いなことにマリアーノ様はご懐妊されています」
「早! …失礼。兄は正真正銘の男で、一度女性を妊娠させたこともあるのだが、その兄が妊娠とはにわかに信じがたい」
「わが主は国および鳥族の長であり、聖力を有しております。それゆえ番となられるかたの性別は問いません」
「しかし」
「わかり易く言えば、主と交わった瞬間に番様の身体の構造が鳥類の雌のようなものに変化させられたということです」
「…つまりは、兄が尻から卵を産むということか」
至極真面目な顔でヴァレンシアは問うたが、レアンドラとその場にて立ち会う側近たち…ソシモも含め全員がげふっと空気の塊を吐き出した。
「ご明察…」
恭しく頭を下げる青年のつむじをじっと見つめ、ヴァレンシアは頷く。
「あいわかった。主の書状を読ませてもらえるか」
「御意」
咳き込む者が複数いるなか、ヴァレンシアと青年は淡々と会話をすすめた。
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