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26エルディ落ち込む
しおりを挟むエルディの怪我は日に日に回復した。
だが、3月10日の結婚式は当然の如く行われることはなかった。
「あんなに楽しみにしてたのに…」
エルディは診療所のベッドでつぶやく。もちろん周りには人はいない。
アンリエッタお姉様はものすごくその事を気にしていて見るのもかわいそうなほど落ち込んでいる。
顔を見せれば「エルデごめんね。私の為に…結婚式が~ごめん」ただひたすら謝られてエルディはそれだけで怪我の治りが悪くなる気がした。
「エルディ。今日抜糸したんだって?」
明るい声で病室に入って来たのはレオルカ様だった。
「レオルカ様。仕事はいいんですか?」
まだ昼過ぎ彼は普段なら仕事をしている時間だ。
「ああ、今日はケネトとキャサリンの処分が決まったから報告がてら早く来た。ほら、お土産」
手には美味しそうな屋台で買って来たホットドッグがある。
さっき、昼食を食べたばかりなのに美味しそうな匂いを嗅いだ胃袋がどうぞとばかりに隙間を作った。
「美味しそうです」
「ああ、だろ?俺も昼飯まだなんだ。一緒に食べよう」
ふたりでホットドッグを頬張る。
幸せな時間が「むしゃむしゃ…」咀嚼音とともに流れる。
食べ終わるとケネトは平民になって辺境騎士団に配属になると決まった事とキャサリンは王都追放になった事を知らされた。
「ケネト殿下が‥そうですか。キャサリンは軽い罪で良かったです。彼女も言い換えれば被害者ですから」
エルディはキャサリンの母の事やケネトが国王の子ではなかった事も聞いていた。
何しろ今王都ではその話で持ち切りなのだから。
でも、当の本人たちは死んでいるので誰を責めるわけにもいかない状態できっと国王も頭を痛めているだろう。
そんな矢先ケネトが出した答えは平民になって辺境に行く事。彼なりにけじっめを突けて一からやり直したいって事なのだろうと思った。
キャサリンも傷ついているだろう。いろいろ嫌がらせがあったけどそれも今となっては許せると思える。
みんな幸せになってほしい。
ふっと顔を上げるとレオルカの瞳とぶつかる。
彼はあれから毎日時間の許す限り付き添ってくれた。
それも毎晩、診療所が用意してくれた簡易式の粗末なベッドに寝て夜通しそばにいてくれた。
そして朝早く自宅に帰って風呂と着替えをして騎士団に出勤すると言う毎日を過ごしていた。
エルディはあの翌日結婚式を取りやめることになってかなり落ち込んだ。
見ているのも怖いほどしょげていて、怪我より精神面の方が心配だと医者からも言われた。
数日は気持ちが和らぐ薬草茶を飲まされ叔母やアンリエッタはごちそうを持って来たり楽しい話をしてみたりと、エルディを励まそうと必死で努力した。
レオルカはケネトやキャサリンの事もあって仕事を休むわけにもいかずなるべく早く仕事を終えてエルディのところに駆けつける羽目になったので付き添って朝までいたいと思ったのは当然の事なのだろう。
そして一週間が過ぎたところだった。
「エルディ…その…結婚式残念だったけど、どうする?他の式場で良ければ予約入れてもいいんだけど」
レオルカ様が唐突に聞いた。
「あっ、けっこんしき…そうね。考えてみる」
素直にそう返事が出た。
あんなに楽しみにしていたルーズベリー教会での結婚式。
最初なレオルカ様にこんな気持ちを板ぐなんて思っていなかった。彼とは穏やかな関係になってありきたりの夫婦でやって行ければいいかなって。
ただ、結婚式だけはあの教会で出来れば幸せになれるってそう思い込んでいた。
でも、今は結婚ってそんな事じゃないってわかる。
お互いと必要として、それこそ…エルディは次の言葉を口にしていた。
「病めるときも健やかなときそばで寄り添い支え励まし合い愛し合うこと…」
「ん、なんだって?エルディおい、大丈夫か?」
レオルカ様の慌てようったら。
ベッドに身を乗り上がってエルディの真ん前で頬を両手で挟み込んでじっとエルディの顔を見据えた。
「結婚式はどこでもいいかなって。だって結婚式が大切なんじゃなくてふたりの気持ちが大切ってわかったから」
レオルカは手のひらの中でエルディの微笑みを感じる。
胸の奥がじ~んと熱くなって指先まで痺れたが、はっとして言葉を返す。
「ああ、当たり前だろう。結婚はその日だけじゃない。夫婦になってそれから何十年も一緒に暮らして…そうだな。楽しい事ばかりじゃないしけんかもするだろう?それに病気や怪我もするかもしれない。いい事はたくさんないかもしれないし辛い事もきっとある。でも、それをふたりで乗り越えて行こうって…結婚式はその誓いを宣言する日で…でも、やっぱりすごく大切な日だと思う」
「ええ、私もそう思うわ。でも、結婚式はどこでもいいって思えるようになったの。ルーズベリー教会で式を挙げなきゃ幸せになれないなんておかしいもの。子供の頃から憧れてずっとそれを夢見て来たけどそうじゃないってわかったの。だから式場はどこでもいいわ。レオルカ様私の怪我が治ったら一緒に式場を予約しに行きましょう」
「ああ、もちろん。エルディがそれでいいなら俺は一刻も早く結婚したいから…あっ、すまん。でも、ずっと一緒にいたいから…」
レオルカの顔が真っ赤になって行く。
「わたしもです」
エルディは自分の目の前にいる彼の首を引き寄せ唇を合わせる。
レオルカはぐっとエルディの腰のあたりを引き寄せ顔を傾け唇を密着させた。
何度も唇の中を探るように熱い舌を這わされ、ねっとりとして粘液をまとわりつかされ唇を吸い上げられた。
「…ぶ、ちゅうぅぅぅ…」そんな音がした気がした。
角度を変え何度も激しいキスを交わしてやっとレオルカは唇を離した。銀色の糸が後を引く。まるで名残惜しいと言っているかのようだ。
「エルディあんまり煽るな。俺だって男だ。ったく、ここは診療所だからな…」
レオルカはぶつぶつ言ってベッドから下りた。
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