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39キャサリン。ささえられて(最終話)
しおりを挟むその翌日キャサリンはブルーノと一緒に騎士団の牢から出た。
前日でもよいと言われたがキャサリンにも心の準備が必要だった。
これからキャサリンはブルーノの騎士団の恩師であると言うラートンと言う人がやっているパン屋で働くことになっているらしい。
ラートンさんはもう年で騎士団を引退した後故郷のクワイエス騎士隊の訓練校で講師を務めた。
その後引退してクワイエス領で最も賑やかな街ロレンソでパン屋を始めた。ココロレンソには侯爵邸や騎士隊本部もあり、パン屋はいつも繁盛して人手が足りないらしい。
小さな家をそのまま使っているので朝早くから働く職人も間借りしているし、夫婦もここに住んでいるので何もわからないキャサリンでも色々教えてもらいながらやって行けるのではと言う事らしい。
ブルーノはキャサリンにとても優しかった。
「ブルーノ様。あの…ありがとうございます。私の身元引受人になってく下さって」
キャサリンは小さな声でお礼を言うと俯いた。
キャサリンはうれしかった。誰も自分など助けてくれる人はいないと思っていた。それにクワイエス侯爵家を恨む事が筋違いだったこともすでにはっきりわかっている。
おまけにクワイエス侯爵家の人が自分を助けてさえくれたのだ。
ブルーノは、はにかむように首を振る。
「いいんです。俺が勝手にしたことなんですから…それよりお腹減ってませんか?」
先に立って歩こうとしたブルーノを呼び止める。
「ブルーノ様。ごめんなさい。私が間違っていました。あんな事して本当に悪かったって思ってます。アンリエッタ様やエルディ様にはお詫びのしようもありません。心から本当に悪かったって思ってますから…」
「ああ、君は優しいって知ってるから…あの、それよりキャサリンさっきからその言葉使い辞めてほしいんだけど、俺、公爵家から追い出されたんだ。だからキャサリンと同じ平民だから」
「あの…ブルーノ様。それは私のせい?」
「違う!キャサリンのせいじゃない。いいかい、これは自分で決めた事。俺の責任。わかったらブルーノって呼んでくれないか」
「あの、近衛兵をやめたからでしょ?やっぱり私のせいじゃ…」
「違う。俺は自分のしたことに後悔なんかしない。キャサリン君を失うくらいなら死んだほうがいいってあの日君に振られてそう思った。王都に帰っても心は空っぽだった。もしかしてエルディ様達の結婚式に現れるかもって思ったらもう止まらなかった。君を止められて本当に良かった。取り返しのつかない事にならなくて良かった。なによりこうやってまた君と会えてうれしい」
ブルーノは嬉しそうにそう言った。
キャサリンの胸は面白いほど高鳴る。
「あなたって人は…いつも、いつも、そうやって私を守ってくれる。あなたに甘えていいの?」
「ああ、頼ってほしい。出なきゃ身元引受人になんかならない。あっ、これから働くパン屋は俺の先輩だった人ですごくいい人なんだ。奥さんも優しくて事情は話してあるから何も遠慮はいらないから」
「ありがとう。働いた事なんかないから本当に自信ないけど頑張るから。ブルーノさん」
「なぁキャサリン。ブルーノさんって言うのもやめてくれないか。どうも調子が崩れる。今まで見たいにブルーノって呼んでくれ」
「そう?私もいい慣れなくて…じゃあ、ブルーノこれからよろしくお願いするわ」
「ああ、俺もクワイエス騎士隊は初めてだから一緒に頑張ろうな」
キャサリンはブルーノだけは裏切れないと心に誓う。
そうやってキャサリンはパン屋で働き始めた。
最初は何もわからなくて洗濯や掃除身の回りの世話から始まり、仕事の事も教わりながら戸惑いながらも必死で頑張った。
ブルーノは朝は朝食と昼食を買いに顔を出してくれた。
夕方にはご飯でも食べに行かないかと連れ出してくれたり、ついでにと掃除や洗濯の仕方も教えてくれた。
「どうしてブルーノは掃除や洗濯が出来るのよ!」
キャサリンは驚いたり怒ったりした。
「どうしてって?騎士は何でも出来なきゃって自分の身の回りの世話は全部自分でするように教わるんだ」
「そうなの。私も出来るようになるかしら?」
「当たり前だろう。こんなの何度かやればだれでも出来るさ」
そうやって1か月もすると掃除や洗濯が出来るようになった。パン屋で働いているおかげで調理も出来るようになった。
2カ月たつとキャサリンはブルーノを夕食に招待した。
ブルーノは大層喜んでワインを持ってやって来た。
料理はそう手の込んだものではない。オムレツとスープだったが自分が作った料理をブルーノが美味しそうに食べる姿は格別だった。
食事が終わるとその後もワインを飲もうと椅子に座った。
するといきなりブルーノがキャサリンの前に跪いた。
驚くキャサリンにポケットから小さな箱を取り出した。
「こんな事気が早いってわかっている。けど…キャサリンは美人だしパン屋では人気があるって聞くし…その、もし他の奴に先を越されたらって思うと夜も眠れないんだ。キャサリン。どうか。どうか俺と結婚してくれないか?」
そう言って箱のふたを開いた。
中には金色の細いリング。その上にはキャサリンが大好きな赤色の宝石が輝いている。
「ブルーノ…ほんとに私なんかでいいの?」
「キャサリン君しかいないんだ。どうか俺と結婚してくれないか?」
この2か月ブルーノがどれほど自分の救いになっていたかキャサリンは知っていた。
なにも出来なくて不安な時にブルーノは毎日来ては洗濯や掃除を手伝ってくれた。食事を作れないと分かっているから夕食は外に連れ出してくれた。
そうやって少しずつ無理のないように色々ん事を教えてくれて、ラートン夫妻もすごく親切で店の従業員もみんな優しくて…ほんとにそれがすごくうれしくて、それだけでもすごく感謝してるのに…結婚?
「いいの?ほんとに?」
「ああ、君を俺の物だって確実にしておかなきゃ心配で夜も眠れないんだ。どうか頼むから…」
「ブルーノ。私まだ結婚とか考えれない。でも、もし結婚するとしたらあなたしか考えられないわ。だからいいわ。あなたと結婚する」
「ほんとか?キャサリン。ああ…キャサリンありがとう」
「それは私が言う事よ。ありがとうブルーノ。こんな私をずっと好きでいてくれて…これからどうぞよろしくね」
「ああ、生涯大切にすると誓う。よろしくなキャサリン」
「もう、ブルーノったら気が早いわ。それって誓いの言葉じゃない。でもすごく幸せ」
「ああ、俺も最高に幸せだ」
ブルーノはキャサリンを抱き締まるとたまらず口づけをした。
その3か月後ふたりは聖メディウス教会で結婚式を挙げた。
もちろんクワイエス侯爵家からマリアンヌ。アンリエッタとエリク夫妻。エルディとレオルカ夫妻も参列したのは言うまでもなかった。
みんながふたりの結婚を祝った。
キャサリンは本当に幸せになった。
それよりもブルーノが幸せになったと言うべきか。
~おわり~
今回もたくさんの方の応援、本当にありがとうございます。また次回、お目にかかれるよう頑張ります。はなまる
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