財閥造って少女を救う

のらしろ

文字の大きさ
4 / 38
第一章 昇進

 残業と、まさかの急接近

しおりを挟む

 ~残業と、まさかの急接近~

 ある日の残業中のことだ。
 営業部のフロアには、俺と幸の二人だけ。
 定時で帰るのがモットーの俺だが、この日はどうしても終わらせなきゃいけない資料があって、仕方なく残ってたんだ。
 俺が黙々とPCに向かっていると、背後から幸の声がした。

「主任、まだお仕事されてるんですか?」

 振り返ると、幸がコーヒーカップを二つ持って立っていた。
 その手には、湯気が立ち上るマグカップ。

「ああ、ちょっと片付けなきゃいけないのがあってな」

「よかったら、どうぞ。私が淹れました」

 差し出されたコーヒーは、ふわりと甘い香りがした。
 俺は普段、ブラックしか飲まないんだが、幸が淹れてくれたとなると話は別だ。

「……悪いな」

 マグカップを受け取ると、幸は俺のデスクの斜め向かいの椅子に座った。
 二人きりのオフィスは、昼間とは違う、妙な静けさに包まれてる。
 PCのタイピング音と、コーヒーを啜る音だけが響く。

「主任って、いつもそんなに遅くまで残業してるんですか?」

 幸が、ふいに尋ねてきた。

「いや、俺は基本、定時で帰る主義だからな。めったにこんな時間までは残らねぇ」

「へぇ……そうなんですか。てっきり、主任は仕事人間なのかと」

「……見えるか?」

「はい!すごく真面目ですし、仕事も完璧にこなされてますし!」

 幸の言葉に、俺は少し照れた。
 完璧だなんて、そんな大袈裟な。
 俺はただ、俺の邪魔が入らないよう、サッと仕事を終わらせてるだけだ。

「そうでもねぇよ」

 言葉とは裏腹に、俺の口元は少し緩んでたかもしれない。
 自分で言うのもなんだが、俺は普段、あまり他人から褒められることがない。
 特に、仕事ぶりに関してなんて。
 だから、幸の素直な言葉が、妙に心に響くんだ。

「そういえば、主任って、趣味とかあるんですか?」

 幸が、身を乗り出すように尋ねてきた。
 しまった、これは危険な質問だ。
 俺の趣味は、隠れ厨二病にとっての一級機密情報だぞ。

「いや、別に……」

「えー、何かあるでしょう?ほら、主任って、なんかこう……神秘的なオーラがあるじゃないですか!」

 し、神秘的!?俺が!?
 なんとなく埃っぽいスーツ着て、冴えない顔でPCいじってるおっさん(29歳)に、神秘的なオーラがあるわけねーだろ!
 幸は、俺のポーカーフェイスの奥底に秘められた、厨二病の炎を感じ取ってるのか!?

「……ゲームとか、漫画とか、そういうのは好きだけどな」

 少しだけ正直に答えた。
 まさかラノベも大好きで、異世界転生を夢見てるなんて、口が裂けても言えるわけない。

「えっ、そうなんですか!?私もゲーム好きですよ!最近だと〇〇とか、〇〇とかやってます!」

 幸の目が、キラキラと輝き出した。
 まさか、幸もゲーム好きだったとは!
 これは共通の趣味フラグじゃないのか!?
 やばい、俺の防御壁が、またしても崩壊の危機に瀕している!
 
 そこから、俺たちは延々とゲームや漫画の話で盛り上がった。
 幸は意外にも多趣味で、俺が知らなかった作品にも詳しかった。
 会話が弾むにつれて、俺の口数も普段より増えていった。
 まるで、何年も前から知ってる友達みたいに。
 気がつけば、時計の針は深夜を指していた。

「あ、すみません!私、こんな時間まで主任を足止めしちゃって!」

 幸が、はっとしたように時計を見て、慌てた。

「いや、俺も別に構わねぇから。おかげで、気分転換になった」

 本当にそう思ってた。
 普段の残業は苦痛でしかないのに、幸と話していると、あっという間に時間が過ぎた。

「あの、主任。よかったら、今度、会社帰りとかに、一緒にゲームの話しませんか?私、主任と話すの、すごく楽しいです!」

 幸が、顔を少し赤らめて、上目遣いで言ってきた。
 な、なんだと……!?
 これって、お誘い!?
 俺の脳内では、またしても警報が鳴り響く。

『緊急事態発生!恋愛フラグ、最大級の警告!』

「……まあ、気が向いたらな」

 なんとか冷静を装って答えたが、俺の耳は熱かった。
(もちろん気が向く!めちゃくちゃ気が向いてる!今すぐ話したい!)
 って心の中で叫びながら、俺は必死でポーカーフェイスを保った。

 幸は、俺の言葉に、少しだけ残念そうな顔をしたけれど、すぐにまた笑顔に戻った。
 その笑顔に、俺の心臓は再び**「ドクン!」**と鳴り響く。

 これは、もう、本格的にマズいんじゃないのか?
 俺の平穏な魔法使いライフが、まさかのラブコメ展開に巻き込まれていく……?

 ~展示会の喧騒と初金星の輝き、そして俺の動揺~

 秋風が都会のビル群を駆け抜け、俺の心にも一抹の寂しさを運んでくる今日この頃。
 東京・晴海の巨大な展示場じゃ、年に一度の「教育・研究設備EXPO」が開催されてた。

 広大なホールにひしめく企業ブース、飛び交う活気あるBGM、プレゼンターの熱い声。
 まるで巨大な生命体だ。
 社運を賭けた戦場ってやつで、俺ら社員は皆、「契約」の二文字を背負い、熱弁を振るいまくってた。
 
 周りを見渡せば、大手企業のブースはもう、目を疑うレベルだ。
 最新鋭の機器がキラッキラに輝いてて、コンパニオンのお姉さんたちが花を添えてる。
 まるで未来都市にでも迷い込んだ気分だ。
 それに比べて、俺らのブースときたら……うん、まあ、アットホームというか、手作り感満載というか……。

(正直、手作り感が過ぎるだろ!もう少し予算かけろよ、部長!)

「瓶田主任!こちらの電子顕微鏡、A大学の研究室の方が非常に興味をお持ちで!」

 そんな喧騒の中でも、幸の声は一際響き渡る。
 まるで初めての遠足に来た子どもみたいに目を輝かせて、ブース内を駆け回ってた。
 入社半年足らずの新人なのに、その溌溂とした態度と人懐っこい笑顔は、来場者の心を掴むのに十分すぎるほどだ。
 正直、俺は彼女のそのコミュ力に舌を巻いてる。

(俺も見習いたい、なんて一ミリも思わないけど。だって、俺は魔法使いだもん)

 俺はというと、一歩引いた場所から幸の活躍を静かに見守ってた。
 俺の担当は主に法人顧客の接待や、大口案件の最終調整だ。
 幸のように精力的に動き回るタイプじゃない。
 まあ、一言で言えば、陰キャ担当ってやつだな。

 陽キャの輝きは眩しすぎるんで、俺は日陰でひっそり咲くタイプの陰の花なんで。
 展示会初日、幸は早速、いくつもの小さな商談をまとめてきた。
 そのたびに営業部長の甲高い声がブースに響き渡る。

「素晴らしい!」

「さすがだ!」

 ……正直、耳が痛い。
 でも、小さな商社の命運を左右するのは、やはり**「大型案件」**だ。
 誰もがそれを狙って動いてた。
 俺もまた、いくつかの目星をつけてた案件の感触を探ってたが、なかなか決定打には至らない。
 焦りはねぇが、このままじゃ魔法使いになる前に部長の雷が落ちそうだ。

「主任、お疲れ様です!」

 休憩時間、幸がペットボトルのお茶を二本手に、俺のそばにやってきた。
 一本を差し出される。俺は無言でそれを受け取った。

「すごいですね、主任。あんなに難しい顔してた教授が、主任と話したら笑顔になってました!」

 幸は屈託のない笑顔で言った。
 俺が相手にしていたのは、以前から取引のある大学の教授だ。
 新たな研究室の立ち上げに伴う設備投資の相談だったが、予算が厳しく、なかなか話が進まなかったんだ。

「ああ。まあ、世間話の延長だ」

 俺は素っ気なく答えたが、内心では、幸が俺の仕事ぶりをよく見ていることに少し驚いてた。
 まさか、俺の地味な営業トークが、彼女の目にはそんな風に映ってたとは。
 俺のポーカーフェイス、完璧じゃなかったのか?

 いや、俺の地味さ加減が、逆に幸にとっては新鮮だったのか?
 そんなアホな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

追放勇者の土壌改良は万物進化の神スキル!女神に溺愛され悪役令嬢と最強国家を築く

黒崎隼人
ファンタジー
勇者として召喚されたリオンに与えられたのは、外れスキル【土壌改良】。役立たずの烙印を押され、王国から追放されてしまう。時を同じくして、根も葉もない罪で断罪された「悪役令嬢」イザベラもまた、全てを失った。 しかし、辺境の地で死にかけたリオンは知る。自身のスキルが、実は物質の構造を根源から組み替え、万物を進化させる神の御業【万物改良】であったことを! 石ころを最高純度の魔石に、ただのクワを伝説級の戦斧に、荒れ地を豊かな楽園に――。 これは、理不尽に全てを奪われた男が、同じ傷を持つ気高き元悪役令嬢と出会い、過保護な女神様に見守られながら、無自覚に世界を改良し、自分たちだけの理想郷を創り上げ、やがて世界を救うに至る、壮大な逆転成り上がりファンタジー!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...