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第二章 知らぬ間に
メイドとの邂逅と時空の歪み、そして俺の童貞危機!?
しおりを挟む~メイドとの邂逅と時空の歪み、そして俺の童貞危機!?~
俺は一歩、また一歩と慎重に近づいていく。
足元の枯れ葉が、サクリと音を立てた。
その音に気づいたのか、少女はゆっくりと顔を上げた。
そこにあったのは、冷たい印象を与える、無表情な美しさだった。
整った顔立ちだが、感情の起伏をほとんど感じさせない。
その瞳は、まるでガラス玉のように透き通っていて、俺と幸の姿を映し出す。
後で主人の桜さんから家人の紹介をされたが、彼女こそ、洋館に務めるメイドの**萩原 愛(はぎわら あい)**だ。
(なんかこう、クールビューティーってやつか。おいおい、こんな美人なメイドさんがいるとか、この世界、俺にとっては天国か?それとも地獄か?主に俺の童貞にとって)
「あの、すみません……」
俺は、戸惑いを押し殺し、努めて穏やかな声で話しかけた。
愛は何も言わず、ただじっと俺を見つめ返している。
その視線は、まるで異星の生物を見るかのようだ。
(俺はエイリアンか?いや、童貞魔法使いだからか。そうだ、これが俺の『童貞オーラ』か!?強大すぎて相手が怯んでるのか!?)
彼女の視線が、俺の後方に停められたEV車へと移った瞬間、彼女の瞳が僅かに見開かれた。
無表情だった顔に、初めて微かな動揺が走る。
(おお、感情があるじゃないか。よし、少しは人間らしい反応があったな!これは攻略の糸口になるか!?)
次の瞬間、彼女は信じられないものを見たかのように、ゆらりと後ずさった。
そして、まるで何かに突き動かされるように、くるりと踵を返し、洋館の奥へと走り去ってしまったのだ。
その足取りは、まるで獣に追われた小鹿のように必死で、一目散だった。
……まさか、俺がそんなに恐ろしい存在に見えたのか?
確かに、普段から表情筋は死んでるけど。
(くそっ、俺のポーカーフェイスが、ここでは『恐怖の表情』と認識されてんのか!?こんなイケメン(自称)が恐ろしいとか、この世界の常識どうなってんだ!?)
「え?行ってしまったね?」
俺は呆気に取られ、幸も驚いて目を丸くしている。
「行ってしまいましたね……。何か、まずかったんでしょうか?」
幸が不安げに呟く。俺は顎に手を当て、考える。
「見たことのない我々と、あの車、大きいからね。見た目がバスより一回り小さいだけだし、警戒するのも無理はないか。だが……」
彼は首を傾げた。あそこまで露骨に逃げられるほどの存在なのだろうか、自分たちは。
俺ってば、そんなに威圧感あるかな?いや、まさかな。
(まさか、俺の童貞力が、相手の第六感を刺激して『ヤバい奴センサー』を発動させたとか?いやいや、それはないだろ、流石に!)
その時、洋館の奥から、別の足音が聞こえてきた。
先ほどの和装メイドの慌ただしい足音とは異なり、落ち着いた、しかし急ぎ足の音だ。
そして、角を曲がって現れたのは、愛よりも少し年上に見えるが、それでも16歳といったところだろうか、もう一人の少女だった。
先ほどの彼女とは対照的に、柔らかな雰囲気を持ち、その顔には少し幼さが残っている。
彼女は、先ほどのメイドと同じく洋館に務めるメイドの**芳原 由美(よしはら ゆみ)**とのことだった。
そして、その由美さんとか言った彼女の後をおっかなびっくりと後ろを先ほど逃げたメイドが付いてきていた。
(二人は仲が良いのかな。由美さんは、癒し系メイドか!これでハーレム確定か!?いや、落ち着け俺。まだ二人目だ。ラノベのハーレムは最低でも三人からだ!)
由美は、息を切らせて駆け寄ってくると、俺と幸を見て、驚きに目を見開いた。
しかし、その瞳には愛のような純粋な恐怖よりも、強い好奇心が宿っているように見えた。
彼女は、俺たちがいるにもかかわらず、辺りをきょろきょろと見回し、何かを探している。
「あの、すみません、わたくしの同僚の愛が、何かひどく慌ててお嬢様のもとへ走って行かれたのですが……何かございましたか?」
由美は、目を白黒させながら尋ねた。
「ああ、いや、私たちが話しかけたら、急に走り去ってしまって……」
俺が説明しようとすると、由美の視線が、俺の背後に停められたEV車に吸い寄せられた。
その瞬間、由美の顔から血の気が引いた。
彼女の瞳は、これ以上ないほど驚愕に見開かれ、口が半開きになる。
「あれは……?」
彼女は、言葉にならない声を漏らした。
指が震え、その先にはEV車がある。
由美は、ゆっくりと、まるで夢遊病者のようにEV車の周りを歩き始めた。
光沢のある流線型の車体、空気を読んでいないかのように静かに佇むタイヤ、見る者を映し出す窓ガラス。
どれをとっても、この風景にマッチする存在するどの乗り物にも似つかわしくない。
彼女は、恐る恐る手を伸ばし、車のボディに触れようとした。
しかし、触れる寸前でビクリと手を引っ込め、まるで熱いものに触れたかのように飛び退いたのだ。
(……って、幽霊かなんかだと思われてる?俺の愛車(社用車だけど)が泣くぞ)
その様子を見た幸が、由美に近づき、少しはにかみながら声をかけた。
「これ、EV車っていうんです。私たちは、これに乗って遠くから来たんですよ。燃料を燃やしたりしないので、環境にも優しいんです」
幸の無邪気な笑顔と、現代用語が混じった説明に、由美はさらに困惑した様子で目を丸くする。
車という言葉も、燃料を燃やさないという概念も、環境という言葉も、ここが俺が考えているような状況ならば彼女にとっては未知のものだったのだろう。
そして、幸と俺の服装。機能的でシンプルな現代の洋服は、この時代の和服や、西洋風のドレスとも異なる、異質な存在だった。
(うわあ、幸、それは悪手だ。一気に情報量多すぎてパンクしそうになってるぞ。由美の脳内OSがブルースクリーンになりかけてるぞ!)
由美は、警戒しながらも、好奇心に抗えない様子で、車の周りをぐるりと回ってみる。
そっと触れようとして、やはり思いとどまった。
その姿は、まるで珍しい動物に遭遇したかのような、純粋な驚きに満ちていた。
(これはもう、完全に異世界人認定だろ。俺たちが異世界から来た、っていうのは確定路線だな!やったぜ、俺のラノベライフ、ついに始まるんだ!)
「あの……」
俺が再び口を開こうとした時、由美はハッと我に返ったように、慌てて頭を下げた。
「ひ、大変失礼いたしました!あの、お話しは、わたくしではなく、お嬢様にお伺いいただくのがよろしいかと存じます。すぐに、お嬢様にご報告してまいりますので、少々お待ちくださいませ!」
そう言い残すと、由美はくるりと踵を返し、洋館の奥へと駆け去っていった。
その足取りは、まるで驚きを隠しきれない幼子のようだった。
愛は、その場にじっと立ち尽くし、俺と幸、そして俺たちの車を、感情の読めない瞳で見つめ続けていた。
彼女の瞳には、ほんの僅かに、好奇心とも畏怖ともつかない光が宿っているようだった。
「主任、お嬢様って言いましたね。この洋館のお嬢様かな?」
幸が、由美が消えていった洋館の奥を指差した。
「ああ。いずれにせよ、まともな説明ができる人物だろう。この状況が何なのか、聞かせてもらう必要がある」
俺はそう答えながらも、俺の内心は波立っていた。
由美たちの反応は、俺たちの予感を確信へと変えつつあった。
この場所は、やはり俺たちが知る「日本」ではない。
ましてや「令和」ではない。
見たことのない洋館、奇妙な服装のメイドたち、そして、自動車という概念すら存在しないかのような反応。
全ての要素が、俺たちを既知の現実から引き離し、得体の知れない場所へと誘っている。
(これはもう、チート能力の発現を待つしかないな!俺の童貞魔法、早く力を示せ!この可愛いヒロインたちのために!)
車の周囲を見渡す。
緑濃い木々の向こうに広がるのは、田園風景と、遠くに見える茅葺き屋根の民家。
電線も、アスファルトの道も、看板も、現代的なものが何一つ見当たらない。
空には、ひこうき雲一つなく、ただ青い空がどこまでも広がっている。
空気は澄み切っていて、どこかひんやりとする。
幸は、不安そうに俺を見上げた。
「主任、本当にここ、どこなんでしょう……。私、ちょっと、ゾッとしてきました」
俺もまた、全身の毛穴が開くような悪寒を感じていた。
それは、単なる寒さからくるものではない。未知の領域に足を踏み入れてしまった、本能的な恐怖だった。
だが、同時に、この状況は俺の「魔法使い」としての血を騒がせる。
いよいよ、俺の真価が問われる時が来たのかもしれない。
二人は、由美が戻ってくるのを待つ間、沈黙のまま、目の前の洋館と、その奥に広がる見慣れない景色を眺めていた。
この出会いが、そしてこの洋館の主との対面が、俺たちの運命を、そして遠い未来の日本の姿を、大きく変えることになることを、俺たちはまだ、知る由もなかったのだ。
やがて、洋館の奥から、複数の足音が聞こえてきた。
由美の声と、もう一人、凛とした、しかしどこか冷たさを秘めた女性の声が混じり合っている。
いよいよ、この奇妙な洋館の主との対面が迫っていた。
俺と幸の胸の鼓動は、速まっていく。
ああ、このドキドキは、恐怖か、それとも新たな物語の始まりへの期待か……!?
いや、もしかしたら、『童貞魔法使い、ついに覚醒か!?まさかのハーレム展開!?』っていう俺の胸の高鳴りか!?
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