財閥造って少女を救う

のらしろ

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第三章 産業創造

採油作業の効率化へ向けて

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 ~採油作業の効率化へ向けて~

 陣屋の整備がある程度終わり次第、俺は芝島夫婦に新たな依頼をした。
 それは、手押しポンプの製造だった。精製された油は、地下から汲み上げる原油を加工して作られる。
 採油作業を効率化するためには、人力に頼るだけではなく、手押しポンプの導入が不可欠だったのだ。

 芝島夫婦は、オイルランプの製造で培った技術と経験を活かし、早速手押しポンプの製造を始めた。
 作り方などは、俺がEV車から印刷した図面を基にして、俺から説明している。
 彼らが手押しポンプの製造を進める傍ら、桜たちは駿府の商人を通して適当な鉄パイプも入手することができた。

 これは、油田から原油を吸い上げるための重要な資材となる。
 これで、いよいよ採掘の準備が整った。着々と油を使った商売の準備が整っていく。

 ~相良の地、文明開化の夜明け~

 そして、それは桜さんの思い入れが一段とある、相良の地での商売だった。
 尤も、実際に売りに行くのが相良の近場である駿府だ。
 焼津だと、お隣に近いので楽にあるが、あいにく焼津だと市場が小さすぎる。

 俺たちが売ろうとしているのはオイルランプとその燃料の油だ。
 まだ明治時代初期では地方都市までは西洋風がなじんでいなかった。

 尤も俺の知る話は、EV車に搭載しているローカル環境でのAIから引っ張て来た情報だ。
 それに何より、この俺たちが今いる時代はAIの知る明治ではなく、明冶時代だ。

 色々と細かな部分が違う並行世界にはなるが、俺の知る明治とそう大きく変わることは無く、唯一というか、焼津のはずれに桜の父親だった男爵が建てた洋館がぽつんとあるだけのどこにでもある地方都市だ。

 小さくはないが、決して大きくもなく、駿府と比べると半分以下の規模になる。
 駿府だって、正直不安があるのだ。
 横浜ならば完全に洋風に町が作られているので、俺たちが新たに油とランプを持ち込んでも商売はできるだろうが、いかんせん遠すぎる。

 近場で探そうものならば前の江戸時代の御三家の一つである尾張の城下町ならば駿府よりも大きな町なので、そろそろ洋風文化も入ってきているらしい。

 だが、それでも相良からだと距離に不安がある。
 実際には焼津からは駿府以外にも大阪や名古屋に江戸までも船は出ているが、俺たちが自身で商売を始めるにはリスクが伴う。

 駿府でダメならば考えないといけないが、そこはまず可能性のあるところから始めようとなっている。
 それに、相良からだと、どこに商材である油やランプを運ぶのに船を使うことになるので、焼津も、駿府も同じ相模湾内であるので航海にも不安が少ない。

 実際にその商路を確認すべく、桜は幸と一緒に近藤さんと駿府に船で向かった。
 後藤田と権蔵は既に現地入りし、商談を進めているはずだ。
 彼らの報告を聞き、今後の戦略を練るためにも、実際に駿府の様子を見ておく必要があった。

 ~駿府への航海、そして富士の絶景~

 穏やかな波に揺られながら、船は駿河湾を進んでいく。
 空はどこまでも青く、白い雲がゆったりと流れていた。
 遠くに見える山々は、墨絵のように繊細な濃淡で描かれ、その頂にはまだ雪が残っていた。

「また、由比に来れたな。もっとも今度は由比を海上から見ることになったが」

 俺は、かつて由比のパーキングエリアから見た景色を思い出しながら幸に向かって呟いた。
 あの時は、まだ見知らぬこの時代に飛ばされることなど全く想像すらできない状態で、これから向かう高専での商売のことしか考えてもいなかった。

「そうですね、主任。あ、富士山ですよ。きれいですね」

 幸が嬉しそうに俺に言ってきた。
 彼女が指差す先には、裾野を広げた雄大な富士山が、その姿をくっきりと現していた。
 前に由比から富士山を見たのはわずか数か月前の東名高速のパーキングエリアからだったが、今度は船上から見ることになった。

 前にパーキングエリアで見た富士山もきれいだったが、空気が澄んでいる今の方が断然きれいに見える。
 その雄大な姿は、見る者の心を洗うようだった。
 そして天気も穏やかだ。

 尤も素人の桜たちが船で移動するので、陽気のいい時を選んでの移動なので、当たり前だが、それにしてもきれいな富士山を見れたのは、なんだかとても良い気分にさせてくれる。

「主任、なんだか良いことが起きそうな気がしませんか」

 幸が、富士山を見て感動したのか、縁起が良いとでも言いたげだ。
 彼女の言葉に、俺はふと我に返った。

(富士山を見て縁起が良いのは夢の中だけだよな。あ、ひょっとして今俺が見ているのは夢の中か……現実逃避しても意味無いか)

 そう自嘲気味に考えたが、幸の純粋な笑顔を見ていると、自然と前向きな気持ちになれた。
 近藤さんを交えて、これから尋ねる駿府の商人たちの情報を幸と一緒に聞いているうちに、俺たちは無事に駿府の港町に着いた。

 港は活気に満ち溢れ、様々な船が行き交い、人々の喧騒が響いていた。
 少しづつではあるが、西洋の文化が入り込んではいるものの、まだ日本の伝統的な面影が色濃く残る町並みが広がっていた。




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