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第三章 産業創造
駿府の活気と新たな商機
しおりを挟む~駿府の活気と新たな商機~
駿府の港に到着すると、後藤田と権蔵が既に待っていた。
彼らの顔には、幾分かの疲労と、しかし確かな手応えが浮かんでいた。
「嶺さん!ようこそ駿府へ!」
後藤田が桜に深々と頭を下げた。
「どうだ、そちらの進捗は?」
俺は逸る気持ちを抑え、尋ねた。
「はい、お陰様で。何軒かの商人と話をつけ、まずは試験的に油とランプを置いてもらえることになりました。特に、老舗の紙問屋である『駿河屋』の旦那さんが、我々の油に強い興味を示してくださり、本格的に取引を考えてくださるとのことです」
後藤田の言葉に、幸の顔に安堵の表情が浮かんだ。
老舗の紙問屋が興味を示すということは、彼らの商品がこの時代の商人にも価値を認められた証拠だ。
紙問屋がなぜ油に興味を示したのかと尋ねると、後藤田は丁寧に説明した。
「駿河屋さんは、元々和紙の製造にも携わっており、最近は西洋紙の需要も増えているとのことです。それに伴い、夜間の作業が増え、より明るい照明を求めていらっしゃいました。我々のオイルランプは、従来の行灯やろうそくと比較して格段に明るく、煙も少ないため、作業効率の向上に繋がると評価していただきました」
桜は納得した。紙問屋という意外な接点から、新たな販路が拓けたのだ。
これもまた、未来の知識を持つ俺たちにとっても予期せぬ展開だった。
権蔵も、得意げに加えた。
「旦那さん、最初は何だか怪しい舶来品だ、なんて訝しげな顔をしてましたがね、実際にランプを灯して見せたら、目の色が変わりましたよ!これは使える、ってね!」
権蔵の言葉に、一同から笑みがこぼれた。
実際にその目で見て、その効果を実感してもらえれば、この油とランプの価値は必ず伝わる。俺は改めてそう確信した。
その後、桜たちは駿河屋を訪れ、旦那と直接顔を合わせた。
旦那は恰幅の良い、見るからに商売人といった風貌の男だった。
「これはこれは、桜様。この度は遠路はるばるお越しいただき、誠に恐悦至極に存じます。後藤田殿と権蔵殿からは、貴殿が携わられたという『洋灯』と『油』の素晴らしさを伺いました。まさか、これほどまでに明るく、そして煙の少ない灯りがこの世に存在しようとは、正直驚きを隠せません」
旦那はそう言って、改めてオイルランプの光をじっと見つめた。
その眼差しには、純粋な好奇心と、ビジネスチャンスを見出した商人の顔が同居していた。
「旦那様、恐縮でございます。この油とランプは、単に明るいだけでなく、これからの世の中を明るく照らす、新たな文明の光となると信じております」
桜は、現代で培ったプレゼンテーション能力を駆使し、この油がもたらす未来の可能性を熱く語った。
夜間の作業効率の向上、識字率の向上、そして何よりも人々の生活を豊かにする力。
旦那は、桜の言葉に真剣に耳を傾け、時折大きく頷いた。
「なるほど、なるほど。貴殿のお話、非常に興味深い。正直なところ、この『洋灯』と『油』が、この駿府の地でどれほど受け入れられるかは未知数ではございますが、このわたくし、駿河屋は、この新しい時代の波に乗る所存にございます。つきましては、まずは試験的な販売ということで、貴殿の油とランプを置かせていただきたく存じます」
旦那の言葉に、桜は思わず顔をほころばせた。
これは大きな一歩だ。
「ありがとうございます、旦那様!必ずや、旦那様のご期待に沿えるよう、我々も精一杯努めさせていただきます」
桜は深々と頭を下げた。これで、駿府での販売の足がかりができた。
後藤田と権蔵の努力が実を結んだ瞬間だった。
その後、桜たちは他の商人たちとも顔を合わせた。
中には懐疑的な者もいたが、駿河屋が取り扱うという話を聞くと、態度を軟化させる者もいた。
やはり、この時代の商売においては、信頼のおける老舗の存在が大きい。
~文明開化の準備、着々と~
駿府での商談を終え、相良に戻った俺は、その成果を皆に伝えた。
陣屋の改修作業は順調に進み、手押しポンプの製造も大詰めを迎えていた。
芝島夫婦の工房からは、常に金槌の音が響き渡り、金属が研磨される匂いが漂っていた。
彼らは、俺が説明したポンプの構造を理解し、この時代の技術で可能な限り再現しようと、昼夜を問わず作業に没頭していた。
「これで、いつでも採掘に取り掛かれますね、主任!」
幸が、完成したばかりの手押しポンプを嬉しそうに見つめながら言った。
そのポンプは、まだ粗削りではあったが、力強く、そして確かな存在感を放っていた。
「ああ、いよいよだ」
桜は頷いた。油田採掘の開始と相良の未来、そして俺たちの文明開化が始まる!その思いが、桜の胸に熱く込み上げてきた。
~油田採掘の開始と相良の未来~
いよいよ、油田採掘の日が来た。
相良の地から、新たなエネルギーが生まれる瞬間だ。
その日は、空は高く澄み渡り、心地よい風が吹いていた。
芝島夫婦が精魂込めて作り上げた手押しポンプは、どっしりと大地に据え付けられ、その存在感を放っている。
周辺には、陣屋の改修に携わった若者たちも集まり、皆が期待と興奮の入り混じった表情でその光景を見守っていた。
桜は、以前に油を採取した場所へと向かった。
この場所は、もともと地域住民が「燃える水」と呼んでいた場所で、昔からわずかながら油が湧き出ていたという。
しかし、その利用方法は知られておらず、ただの珍しい現象として認識されていたに過ぎない。
桜は、その「燃える水」が、現代の石油であることを俺たちから知らされていた。
「さあ、始めようか」
桜の合図で、作業が始まった。
まずは、鉄パイプを地面に打ち込む作業だ。
幸と数人の若者が、大きなハンマーを振り上げ、一本一本慎重にパイプを打ち込んでいく。
硬い地面にパイプが食い込むたび、鈍い音が響き渡る。
汗が噴き出し、腕は痺れるような疲労感に襲われるが、誰もがその手綱を緩めることはなかった。
「もう少しだ!頑張れ!」
桜は声を枯らしながら指示を出す。彼の指示は、常に的確で、皆の士気を高めた。
やがて、一本のパイプが十分に地中へと到達した。その先端からは、わずかながら、しかし確かに、原油の匂いが漂ってくる。
次に、そのパイプに手押しポンプを接続する。芝島夫婦が細心の注意を払って接続部分を確認し、幸がポンプのレバーを握った。
「幸、ゆっくりと、丁寧に動かしてみてくれ」
俺の言葉に、幸は大きく頷いた。彼女の表情は真剣そのものだ。
「はい、主任!」
幸がポンプのレバーをゆっくりと押し下げ、そして引き上げた。
最初は何も起こらない。
二度、三度と繰り返すうちに、ポンプの吸い込み口から、ゴボゴボという音が聞こえ始めた。
そして、ポンプの先端から、俺が前に採取したような、粘り気の無い薄茶色の液体が、ゆっくりと流れ出してきたのだ。
「出た!出たぞー!」
誰かが歓声を上げた。
それは、紛れもない原油だった。
地中深く眠っていたエネルギーが、今、この相良の地で、人々の手に触れられる形となって湧き出てきたのだ。
若者たちは、その光景に目を輝かせた。
彼らにとって、それは単なる黒い液体ではない。
自分たちの手で作り上げたポンプによって、大地から引き出された「希望」の光だった。
彼らがこれまで経験したことのない、全く新しい未来の始まりを予感させるものだった。
桜は、その原油が流れ出る光景を、感慨深く見つめていた。
彼女は俺たちがこの世界に持ち込んだ『未来知識チート』と『童貞魔法』によって、この時代に革命が起きようとしている事実を、その、そのまますべてを受け入れようとしていた。
相良の地が、新たなエネルギーの中心地となる。
そして、そのエネルギーが、この国の文明開化を加速させるのだ。
「よし、この調子で、さらに採掘を進めるぞ!」
俺の号令に、皆が力強く応えた。
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