堂崎くんの由利さんデータ

豊 幸恵

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おかしな由利さん

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 何となく、最近の由利さんの様子がおかしい。

 あれだけ頻繁だった浮気もなりを潜め、逆に僕の方が彼のち○こが爆発するのではないかと心配する有様だ。

 しかし由利さんの体調は特に悪いこともなく、仕事上の悩みもない様子。だったらこの状況を素直に喜べばいいんだろうけれど、妙に寡黙で渋い顔をしている彼が気になった。

 今も向かいに座ってご飯を食べながら、むっつりと黙り込んでいる。
「どうしたの、由利さん。近頃ずっと眉間にしわが寄ってるけど」
「……何でもねえ。数日前の夢見が悪くて、未だに引きずってるだけだ」
「夢見って……そんな状態になってから結構な日にち経ってるよね。よっぽど嫌な夢見たの?」
「……嫌というか、ショッキングというか……」
 そう呟いて、由利さんがじろりと僕を睨んだ。

「何?」
「堂崎、お前ちょっと……眼鏡取ってみろ」
「眼鏡ですか? 僕の顔をちゃんと見たいなんて珍しい。はい、どうぞ。カラコン入れてるから裸眼じゃないけど」
 素直に眼鏡を取って由利さんを見る。どうせファッション目的のダテ眼鏡、外したところで問題ない。

 そうやって目を合わせた由利さんは、何故か苦虫を潰したような顔をした。
「……あー……、もういい……」
 何なんだ、僕の顔を見た直後に俯いて額を抑える、まるで見てはいけないものを見てしまったような反応は。

「ほんと、最近変だよ? 由利さん。そもそも浮気を全然しないなんて、僕が由利さんデータを取り始めてから一度もなかったことだし、とうとう使いすぎでち○こ壊れたのかと心配になるよ?」
「ふざけんな、俺のは変わらず超高性能波動砲だわ。……ただ、浮気はなんかそういう気分にならないだけだ。……あいつら相手には何か、近頃勃たないんだよ」

「ええ!? いつもなら無差別発砲で捕まりそうな由利さんが……。あの色気むんむんの人たちに勃たないんじゃ、僕で性的興奮を覚えて頂くなど夢のまた夢じゃないですか……」
 がくりと項垂れる僕に、由利さんは小さく唸った。
「……逆だっつーんだよ」
「ん? 何ですか?」
「何でもねえ」
 吐き捨てるように言ってご飯をかき込む。

「由利さん、引き続きA君は捜してるんですよね? もしかして今後A君としかヤる気しないとか? 何ですかもう、その操立て。恋人の僕には全然お構いなしだったのに、その対応の違い、傷つくなあ」
 少し拗ねてみせると、彼が眉間にしわを寄せた。
「そんなんじゃねえよ。……でもとっととあいつを捜し出して、この気の迷いを断ち切りてえわ」
 独りごちながら空になった茶碗をテーブルの上に置いて、由利さんが再びちらりと僕を見る。

「しかし……まさかとは思うが、こいつが……ってことはないよな。うん、ちょっと似てる気がするだけだ。大体、堂崎とは出会いだって違……」
 何事かを呟いた彼は、ふと何かを思い出すように天を仰いだ。
「……ん? えーと……おい、堂崎。お前と俺の初対面ってどんなんだっけ?」

「何ですか、突然。数ヶ月前告白した時に、僕が二年前に由利さんに会ったとき一目惚れしたんですって言ったら、じろじろ僕のことを見て、『お前なんて全く覚えてない』って言ってたでしょ。どんなも何も、今更由利さんが二年前のこと覚えてるわけないじゃん」
「……二年前……」
「同時期のA君との出会いは未だに忘れられないくせに、ほんと、酷いんだから」
「あー……うん」
 由利さんが何かを思い悩むようにこめかみを抑えた。

「いや、まさか……まさかだよな。ありえねえ、嘘だと言ってくれ」
「何かよくわかんないけど言ってあげます。はい、嘘ですよ」
「だよな、やっぱり嘘だよな!」
 由利さんが何か必死で自分を納得させている。
「俺、明日またアマンダ行ってくるわ。さっさとはっきりさせねえと、俺の精神がやられる」

「何で一人でそんなにMP減らしてるのか分かりませんが、じゃあ明日は飲んでくるんです? 遅めのご飯、用意しておきますか?」
「ああ、夜九時には帰ってくる」

「……あーあ、A君は由利さんにそんなに想われて、懸命に捜されて、良いなあ。まあ、それでも僕は戦いますけどね! A君、早く見つかるといいですね」
 闘志とジェラシーを込めて言うと、由利さんはまた複雑そうな顔をした。
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