堂崎くんの由利さんデータ

豊 幸恵

文字の大きさ
57 / 85

由利VS三田

しおりを挟む
 何でこんなことになっているんだ。

 堂崎が随分早めに帰ってきたと思って出迎えたら、彼の後ろに三田がいた。それも何故かめっちゃ笑顔で。
「どうも、お久しぶり」
「……何でお前がここにいんだよ」
 こいつとは以前通っていたクラブで何度も顔を合わせていたが、できれば関わり合いたくない奴だった。





「……というわけで、僕と先輩は正々堂々と由利さんをかけて戦うことになったんです」
「そういうわけで、これからちょくちょく来るので宜しく」
「いやいやいや、待て待て……」
 三田が堂崎の言う仲の良い先輩だったと知って、俺はめまいを覚えた。その上堂崎と、俺を取り合うだと? そんなの有り得ない。

「三田、お前何を企んでる」
「何だい、人聞きが悪いな。以前一緒に一夜を明かした仲じゃないか」
「え!? や、やっぱり二人はそういう……?」
「誤解を与える言い方をするな!」
 わざとそうやって堂崎の動揺を誘っている、三田が厄介なことを考えているのは明白だ。俺は男を睨み付けた。

 そもそも、こいつのこの爽やか好青年みたいな格好は何だ。いつもの三田は髑髏のTシャツとダメージジーンズを着てサングラスを掛け、アクセサリーをじゃらじゃら付けている。
 到底俺の好みではないし、こいつの好みの範疇に俺が入ってないことも知っているのだ。

 ……そう、知っている。翌朝までこいつと飲み明かし、深酒をしたあの日、俺たちは互いに不要なカミングアウトをしていた。



「……堂崎、お前はもうキッチンに飯作りに行け」
 三田の真意を探ろうと先に堂崎をキッチンに追い立てる。余計な話を聞かれると藪蛇になるかもしれない。

「うん。夕飯、先輩も食べるよね?」
「いいの? 悪いね、克哉くん。俺も手伝おうか?」
「ふざけんな、てめえは座っとけ。話がある」
 堂崎について行こうとする三田を厳しく制止する。それに男は小さく舌打ちをした。全く、こんな奴が俺を好きなわけがないだろう。

「三田、てめえ何のつもりだ」
「何って、克哉くん公認の横恋慕」
 堂崎がキッチンに行くと、俺は声を抑えて三田を威嚇した。男はふんと鼻を鳴らして口角を上げ、同様に声を抑える。この男も堂崎に自身の本性を知られたくないのだ。

「横恋慕だと?」
「まあ、克哉くんは対象を間違ってるけどねえ。由利はもう分かってんだろ?」
「……てめえが堂崎狙いだってことか。だったら無駄だ、あいつ俺にしか興味ねえから。さっさと告白して振られろ」
「そう、今告白すると振られちゃうんだよ。だから今まで告白しなかった。それでもついこの間まではさ、克哉くんは恋人に見向きもされないし、触ってももらえないと言ってたから、捨てられるまで待って傷心につけ込もうと思ってたのに」

「残念でした。捨てねえし」
「克哉くんが自分の特徴そのままの人間を捜してって言ってきた時、嫌な予感がしたんだよ。恋人がその人を捜してるって、まんま克哉くんじゃん。……その後恋人がもう捜さなくていいって言ってるって連絡が来て、やばい見つかった、と思った」
 そう言って、三田が俺をぎろりと睨んだ。

「……そして今日久しぶりに会ったら、あのキスマークを隠す絆創膏。とうとう克哉くんに手を出しやがって」
「別にいいだろ、所有印付けたって。あれ俺のだしな」
 俺の返しにチ、とまた男が舌打ちする。
「……まあ、今はね。でもこれまではあんまり口実がなくて彼に会えなかったけど、これからは俺、由利に会う名目でここに克哉くんに会いに来るから」

「はああ!? 何馬鹿言ってんだ、てめえなんか出禁だ出禁!」
「そんなこと言っていいのかな? あんたが克哉くんに言えないこと、俺が暴露することになるよ? あの夜の話、忘れてないから」
 三田の脅し文句に、俺は一瞬言葉に詰まった。
「……み、三田だって堂崎にその本性ばらされてもいいのかよ?」
 どうにか意趣返しを試みる。しかし男はふふんと鼻で笑った。

「どうぞ。その瞬間に実力行使に出るから。出会ったときに下手にいい人演じちゃったせいでさ、なかなか手が出せないんだ、俺。自分からじゃ言いづらいけど、ばらされたらもう演じることなくなるだろ?」
 くそ、こいつマジで最悪だ。
 つまりばらしたら堂崎の身も危険になるってことだろう。

 この三田という男、優男っぽい顔をしているが実はかなりの腹黒ドSなのだ。
 以前の飲みの席で酔ったこいつが、狙っている子をいつか捕まえて拘束してぐちゃぐちゃに犯し、メス堕ちさせた上で自分専用にしたいなどとほざいていた。
 その対象が堂崎だったと分かった今、絶対にそれを成さしめるわけには行かない。

「てめえ、堂崎を強姦なんかしたらただじゃ置かねえぞ」
「そんなに心配しなくても、俺は自ら進んで克哉くんに嫌われるような無茶はしないよ。……由利が俺の邪魔をしなければね」
 三田はそう言うと、ふふふと笑った。

「そんなわけで、これからよろしくね、ライバルさん」
「……よろしくなんかできるか、くそ」
 これはもう、堂崎が俺を好きだからって余裕をかましてる場合ではなくなった。こんな変態に彼を盗られるわけにはいかないのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...