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第3話
第3話 出発 (28)
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ザックは深呼吸をしてそう言った。
「カンフィナさん、急に頼み事をしてしまってすまない...俺に良い考えがあるんだ。あんたの事は俺が絶対守るからそれに乗ってくれないか...」
ザックは私に向かってそう言った。
「ここの奥に大きな1つの建造物があるだろう。そこに向かって走ろう。きっとそこはこの要塞のシステムルームだろう。とにかくそこまで走ってクレッチュマー博士を強制停止させる。きっとあそこには要塞のエネルギーも集約されてるだろうから、わざとそこに攻撃させ、電磁パルスを発生させるんだ。おそらくそれではあそこは爆発しない。だが、電磁パルスによって機械のシステムは強制停止せざるをえなくなるんだ。だからそこに行けば俺たちにも勝算はあるし、クレッチュマー博士も大事には至らないだろう」
なんか話が難しくて私にはよくわからなかったが、そんな事は今考える暇などない。
「カンフィナさんには怖い思いをさせてしまうな…本当にすまない。だが、このままでは3人ともやられてしまう。だがあんたの意思も大事だ。どうする…?」
「わかった。やるよ。」
それに乗らない手はなかった。私にもできる事なら、みんなの力になりたい。
「もし危なかったら、すぐに駆けつけられるよう近くにいる。二手にわかれてて離れていてもワープで助けにいく、そういうルートはだいたい考えるようにするさ、すぐには考えきれないが、走りながらルートを考えるよ」
ザックは私を安心させるように、そういい聞かせた。
だが、私も助けられてばかりじゃいられないんだ。
「このリストバンドをつけてくれ、それがトランシーバーのようになっていて、逐次そこから連絡する」
私は男に渡されたリストバンドを腕につけた。
「よし、いくぞ!」
ザックがそう言った瞬間、私もその後について走った。ザックは柵を飛び越え、下の橋へと移った。私も怖かったがおそるおそる飛び降り、受け身をとってまた走り出す。
しばらく走っていると、今度は下りの階段があった。ザックはその横の柵に乗り、私もその後に続いた。するとその勢いで滑って一気に下へ移動した。するとそこは行き止まりになっており、柵を隔てた先には幅1メートルほどの細いパイブがあるだけであった。それはここから柵を隔てて2メートルほど離れている。
私たちはおそるおそる飛び、なんとかパイプへと飛び移った。
「俺は横のパイプに飛び移る、2手にわかれるからまっすぐ進んでくれ」
私はこのまままっすぐ走り続けた。しばらく走るとパイプは上方に曲がり、行き止まりとなっていた。
だがその行き止まりは様子が変わっており、空間自体が歪んだようになっていた。
私は一か八かでその空間へと飛び込んだ
すると一気に私のいる空間は変貌し、別の空間に飛ばされた。私とザックはクレッチュマー博士をはさんで別々の橋に立っており、挟み撃ちには絶好のチャンスであった。
「今だ!撃て!」
私とザックは一斉に銃弾をクレッチュマー博士に放つ。すると肩の部分に直撃したのか、白衣が破れ肩の部分から煙を出していた。
すると上方の空間から男が降ってきて、さらにクレッチュマー博士に向かって落ちた勢いのままのしかかる。男はクレッチュマー博士の動きを固めたまま、走り出し、柵を破ってまた橋の外の空中へと放り投げる。
私達3人は再び走りだし、クレッチュマー博士の飛んだ方向へと向かった。
私とザックはワープし、再び合流した。
すると急にクレッチュマー博士が横から飛んできて、そのまま飛び蹴りをくらわせようとする。
私はそれに気づかなく、ぶつかりそうになってしまったが、ザックが私の頭を押さえてしゃがませたので、なんとか2人ともよけられた。
再び私たちは走り出す。おそらく向こうもワープしてきたのだろう。
再び柵を飛び越え、そのまま2メートル下の斜面へ降り、そのまま滑ってからそこを飛び、パイプに飛び移る。
そして再びパイプの分かれ目で二手に分かれる。
すると、わたしのいるパイプの向こう側に男が走っており、狙いを私に変えたのか男を追っていたクレッチュマー博士は私のほうめがけて飛びかかってきた。
すると男は空中にいるクレッチュマー博士につかまり、そのまま一緒にここへ飛び移ったあと、勢い余ってパイプを突き破り、そのまま下へと落ちた。
私はなんとか後ろに退いたので避けられたが、前方のパイプが途切れ、飛び越えなければいけなくなってしまった。
ええいままよと覚悟を決め、私は2メートルある幅の空間を飛び越え、なんとかパイプの途切れ目を抜ける事ができた。
私はそのままパイプの上を走っていると、また道は途切れてしまった。
「無理な思いさせてすまない…ここを飛び降りてくれ…」
気でも狂ったのだろうかと私は思ったけど、下を見るとまたその空間が歪んでいた。
だがそれ歪みまでは下方5メートルもあり、飛び降りるのは恐ろしすぎた。
だが、今は怖気付いている場合じゃない。
私はみんなのためになりたいし、足手まといにもなりたくないんだ。この荒れ果てた世界では危険な事も乗り越えていかなくちゃいけないんだ。その勇気がなくちゃみんなやられちゃう。
私は一か八かで飛び降りた。
全身が風をつたい、その風は次第に勢いを増していく。そしてこれからどうなるのかわからない恐怖心も増していった。
私は歪んだ空間を越えた。
すると急にさっきまで下に落ちていたはずの体が落ちていた勢いのまま上に放り投げられた。
私は上にあったパイプにつかまり、空中ブランコのようにしてその勢いのまま、3メートル前方にある橋に飛び移った。
クレッチュマー博士はそこで男の体を押さえて拳を振り下ろそうとしていた。
「手を狙って撃て!」
私はザックと同時に銃弾を放ち、見事に手に的中して、なんとか男はクレッチュマー博士の殴打をかわすことができた。
クレッチュマー博士の手からは電流が走り、銃弾を弾いて壊れはしなかったものの、その部分の外装が焼け黒く焦げた。
その隙に男はクレッチュマー博士の後ろに回り、殴打をかました。
クレッチュマー博士は避けられなかったのか、橋の柵にぶつかり、それを歪ませた。
私たちは博士がひるんでいる間に、再び逃げ出した。
私たちは右、男は左方向に逃げ、橋を飛び降りた。
飛び降りた先にはまた空間の歪みがあり、そこに飛び込む。
次に抜けたのは、囚人たちが戦っている下の空間であった。
私たちは囚人や軍人たちの雑踏にまぎれてクレッチュマー博士の目をそらそうとした。
だが博士はそれ以上の速さで周りの人々を押し飛ばしながら進んでくる。
「こっちだ!」
そう言ったザックの声が雑踏の中から聞こえた。
なんとか私たちは合流し、逃げ続ける。
途中でクレッチュマー博士ががたいのいい、睨み顔で凄みを聞かせた大男のいかにもな感じのおそろしい囚人にぶつかり、「お前何やってんだ!」と怒鳴られ、囚人はクレッチュマー博士に拳をふるおうとする。
だがこれは不幸中の幸いであった。この乱闘が時間稼ぎになるかもしれない。
だが、この男とクレッチュマー博士とでは力の差は歴然であった。囚人の拳はあっけなく抑えられ、囚人は動きを封じられながらただ蹴りをくらうことしかできなかった。
「ぐわあアアッ!!!」
いかにもな男はそう嗚咽を漏らし、胴体を凹ませながらどこかへ吹き飛ばされていた。そのまま博士の攻撃を受ければ私たち3人もこうなるかもしれないのだ。そう思うと余計に恐ろしくなり、全身を寒気が走った。もうあの男は助からないだろう。
私とザックがしばらく走っていると、今度は大型戦闘用ロボットが私たちの前にたちはだかった。
そのロボットはものすごい勢いで銃弾を放ち周りの囚人達を無慈悲に圧倒していた。
私たちは銃弾を迂回した経路でよけながら、ロボットを挟んで二手にわかれて逃げた。
ロボットが狙ったのはザックらしく、なんとかザックは銃弾の残像から逃げながら進んでいた。
私たちがロボットの後を通り過ぎると、私たちのいる空間の床は一気に飛び出し、ジャンプ台のようにして私たちはもの凄い勢いでで空中に飛ばされた。
気づくと銃弾の向きがザックから変わったのか、私たちは狙われずに済んだ事にほっとした。
だがほっとしたのはつかの間だった。
空中から後ろの光景を見てみると、クレッチュマー博士はもの凄い速さで助走をつけながら直進のまま銃弾の残像から逃げ、跳んだ。
そしてロボットいとも簡単にロボットを飛び越え、そのロボットの頭上に乗って再びこちらへ飛んでくる。
ジャンプした時は飛んだ時の位置エネルギー?(この前博士から聞いたやつ)みたいなものが生まれ、減速するはずが、それを無視してこちらに飛んでくる。おそらく彼には飛ぶ動力源があるんだ。きっと。
そして私たちは上方にある歪みを抜け、さらに高い場所へと飛んだ。
先ほど私たちがいた場所は高さのあまりもう見えなかった。
私たちはパイプにつかまり足場へと飛び移る。今私とザックは別々の平行な橋にいる。
「3、2、1で足を撃ってくれ」
ザックの無線の声に対し、私は彼と目配せをして頷く。
「3…」
クレッチュマー博士が近づいてくるにつれ、激しかった私の心拍数はさらに緊張感を増し、けたたましく私の体を中から震わせていた。
「2…」
もうクレッチュマー博士と私たちの距離は下方30メートルしかない
「1…」
クレッチュマー博士は私たちと同じ高さまで飛ぶと、ザックに狙いを定め一気に距離をつめる
このままではザックが危ない
「0…!」
バアン!
二つの銃弾がクレッチュマー博士の足を貫き、暴発し、小さくボン!と爆発した後、足からの煙である、シュウウ…という音とともにクレッチュマー博士は下に落ちていった。
だが、それで終わりともいかなかった。
その下の橋にいる男が、落ちてきた隙を狙って蹴りをかまそうとする。
だが、それは避けられてしまい、博士は男に殴打をかまそうとした。
かすりはしていたがなんとか男は攻撃を避け、そこから逃げ出す事ができていた。
男はその下の空間の歪みへと飛び込んだ。男を見失った博士は私達のいる橋をめがけて階段を走って追いかけてくる。
私とザックは再び走り出した。しばらく走っていると、橋が途切れている所はあったが、そこに縦方向のパイプがあったので、それにつかまり下に移る事ができた。
クレッチュマー博士は減速が追いつかず、勢いあまってパイプを突き破り、そのままどこかへ落ちてしまった。
私はクレッチュマー博士の弱点がわかったような気がした。クレッチュマー博士はとてつもなく速い速度で走る事ができるし、飛ぶことだってできる。だけど、方向転換や複雑な動きに関してはその都度減速が必要になるので、なるべく直進ではなく、迂回したルートとか入り組んだ道をたどればいいんだ。
それがわかれば話は早かった。私達は右方に曲がり、途切れたパイプの蓋が飛び石のように並び、1メートルの間隔で足場になっている。また、パイプの蓋の配置は直線的ではないので、クレッチュマー博士の攻撃を避けるのに最適だった。
私達はそれを飛びながら進んでいく。
クレッチュマー博士は、何個か蓋を飛ばしながら大きな間隔で飛び、私達を追いかけ、その勢いで飛びかかってきた。
だが私は瞬時に横方向の蓋に避け、なんとか避ける事ができた。
だが、博士がパイプにぶつかり、パイプが破け、煙を出す。
「このままだとパイプの燃料が暴発して爆発する。ここから逃げろ!!!」
私たちはパイプの蓋を大急ぎで飛んで駆け抜け、20メートルほど向こうの足場を目指した。
煙から引火し、炎は次から次へと伝わっていく。
クレッチュマー博士も危険を感じたのか、そこからどこかへ跳び、空間の歪みからどこかへ消えていった。
私達がしばらく走っていると、最後のパイプの蓋と橋との間に、3メートルほど空間があることに気付いた。
私はザックに続いて向こうの足場を目指して最後のパイプの蓋から跳んだ。
足場が目前に近づいた時、恐怖感と絶望が走った。届かなかったのだ。私は足場につかまろうとするも届かず、ただ下に落ちることしかできないという恐怖が全身を伝う。
いやだ...まだ死にたくないよ...
恐ろしさのあまり私は目をつむった。
すると、手に感触が走り、その途端私を下から上へ伝う落下の風はやんでいた。
目を開けると、そこには私の手をつかむザックの姿があった。
「こんな無理な思いさせて本当にすまない...今助けるからな...」
ザックは私を持ち上げてくれた。
彼は申し訳なさそうな顔で私に謝罪する。だけどザックは悪くないなんて事は明らかだった。この「人工の新天地」では、ロボットや無法者、未知の病がはびこっており、そこを生き残るのは至難の業だ。そんな世界で今までミサに守ってもらって生きてこられていたってのは奇跡だった。いや、むしろ私はミサに危険な役割を負わせてしまっていたのだ。こんな世界でミサもザックも私を守ったり、私の強みをいかすために最善を尽くしているというのに私は何ができているのかな...
「本当にすまん...もう大丈夫だからな...俺がひきとめるから逃げてくれ...俺がなんとかするよ」
そんなの嫌だ。私は誰かに助けられてきたぶん今度は私が助けたい。
生きるだけなら逃げてもできるかもしれない。だが、こんな世界でも助け合う事ができるんだって事を証明したいんだ。
「いや、私やるよ...!大丈夫!私にまかせなよ!」
私は精一杯の笑顔をみせた。ザックには私のせいで暗い顔をしてほしくないし、何より楽観的な思考をすべて捨ててしまっては元も子もない。
「わかった...だが絶対無理住んじゃねえよ。俺が女性ひとり守れねえと男がすたるってもんさ。」
ザックは私に優しく、冗談めかしてそう言った。
「いくぞ!」
私たちは再び走り出した。システムルームのある巨大な構造物はもう目と鼻の先で、わずか300メートルほどだった。近づいたのもあり、私が最初に見た時よりもずっと高くそびえ立っていた。
もう少しだ。
私たちは柵の手すりに乗り、滑って下の空間へと移り、その勢いのまま空中の歪みへと飛び込んだ。
私とザックは再び別の空間へと移動し、今度は先ほどの男が、3メートルほど離れた橋でクレッチュマー博士と乱闘を繰り広げていた。
博士は私の存在に気づいたのか、私のいる方へ飛びかかってくる。
私はそれをなんとか横によける。
すると上の空間からザックが落ちてきて、クレッチュマー博士の背後から銃弾をくらわせる。
ザックはクレッチュマー博士をひきつけながら逃げて橋からパイプへと飛び移る。私はまた別の方向へと逃げ、柵の上から2メートルほど先のパイプめがけて跳び、着地した後その勢いのまま走り出した。
すると男が博士に狙われていないうちに加速途中の博士へとタックルをかまし、その勢いでクレッチュマー博士を空中へと吹き飛ばす。
「撃て!」
私とザックはその瞬間、博士が空中に舞った瞬間めがけて2方から銃弾を放つ。
私達は博士を挟むようにして別々のパイプに立っていたため、挟み撃ちする事ができた。
クレッチュマー博士はそのまま下の空間の歪みへと落ちていった。
だが、その後すぐに私の背後でおそろしい気配を感じた
「しゃがめ!」
わたしはそれをさとり、ザックの言葉の通りクレッチュマー博士の蹴りをかわした。
ザックはその隙にクレッチュマー博士の足に向けて銃弾を放つ。
少しづつではあるものの、確かにダメージは与えられており、足からは煙が出ており、体のあちこちに銃弾が当たった跡が焼きついており、白衣もところどころ破けている。
私たちは再び二手にわかれた。私は橋から縦向きのパイプへ飛び、そのままパイプにつかまり3メートルほど下まで滑ったあと、他の橋へと飛び移った。私はそのまま走り続け、階段を登った。
残り200メートル
私はその先にある空間の歪みへと飛び込む。
そこはまたパイプの上だった。
横を見ると向こうのパイプの上にいるザックをクレッチュマー博士がその上方から飛びかかろうとしているのが見えた。
私はすかさず銃弾を撃ち込む。
するとクレッチュマー博士はまたしても軌道がずれたのか、ザックをかすり、パイプにも飛び移る事ができないまま下へと落ちていった。
その先には男が待ち構えており、男は落ちてきた博士に向けて拳をふるい、クレッチュマー博士のみぞおちに命中した。
だが、クレッチュマー博士は体が機械でできているのか、また立ち上がる。
だが、クレッチュマー博士の胴体は凹んでおり、確かにダメージは与えることができていた。
男は博士がひるんでいるうちにその場から逃げる。
私も再び走り出した。
パイプが下に曲がっている所から足場へと飛び移り、そのまま建造物の方角へと駆けていく。
そのまま橋の柵から跳び、空間の歪みへと飛び込んだ。
のこり150メートル、もうすでに私たちと建造物は目と鼻の先であり、私たち3人と博士は建造物の上方10メートルにある高台の、広めの橋に立っていた。もう下を見下ろせば、巨大な建造物の屋上である、ガラス張りのシステムルームの屋上が見える。
おそらくガラスは簡単には破けないようになっていそうではあるが、おそらくこんな世界じゃいくら豊かな国とはいえど全面強化ガラスなんて贅沢は経済的な面や資源的な面で不可能だろうから、それを突き破ってもらうと、先程ザックは言っていた。
その時だった。
ワープしてきた直後、クレッチュマー博士が待ち構えでいたかのごとく私に蹴りをくらわせようとする。
終わった。と思った。
その瞬間、男が私の前に立ち塞がり、クレッチュマー博士の体を受け止めた。
「ガハッ!!!!グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
男はミシミシと全身から音を鳴らし、私から見ても危機的状況だとわかる身体を大声と共に無理に奮わせ、全身の力でクレッチュマー博士の体を受け止め、押しのける。
そして私たちはその隙にクレッチュマー博士の横にまわり、銃弾を左右双方から放つ。
クレッチュマー博士の体からは火花や電流が激しく舞い、バチバチと音を立てている。
そして再び男がひるんでいる博士にタックルをかましてたたみかけ、そしてクレッチュマー博士の身体をがっしりとおさえたまま、勢いに任せて橋の柵を突き破り、博士の身体を下にしてそのまま建造物に向かって落ちていく
その勢いはすさまじく、落ちていく所は弓矢の様なものであった。
だが、落ちる途中に突然、バチっとフラッシュの様な光が一瞬目の前を覆った。
その後は静寂が流れたが、それも一瞬のものであった。
ダアアアアアアアアンッッッッッ!!!!!!
とてつもなく大きな音が鼓膜をうるさく揺らす。
その後にはここ一帯が激しく揺れる。その揺れは細かいものであったが、その細かい揺れはとても早く激しいものであり、橋が崩れはしなかったものの、私の視界や意識、内臓や血等の身体の中の生物学的な構造物や液体といったあらゆるものが縦に振動し、ものすごく気持ち悪くなり、1秒ほどそれが続いたので吐きそうになった。
私はかがみ、なんとか意識を保とうとして、しばらく休んだ。
20秒ほどしてようやく、私は正気を取り戻す事ができた。
さっきは一体何が起こったのだろうか。
ザックも今なんとか立ち上がったようで、ふらふらした足どりでここまで来た。
「うええ…気持ちわりいな…カンフィナさん…だいじょおぶだった…か…?」
彼は顔を青くし、具合が悪そうだった。もうザックの方が心配だ。
「ザックさんこそ…だあいじょおぶ…?」
私も上手く呂律がまわらなかった。きっと先程身体に起こったこともそれを心配していることもお互いさまなんだろう。
私たちはしばらく休んだ後、下の様子を見に、階段を降りてシステムルームの裏口から入った。
システムルームは先程とは全くの別物に変貌しており、上部分に張られたガラスは派手に破壊され、そこからランプやパネルのものと思われる明かりが見えていたのも今は全く見えておらず消えてしまい、ただの暗い破屋となっていた。システムルームにつながっているパイプはところどころ破け、四方八方にオイルを撒き散らすだけのものになっていた
システムも無力化しており、扉のロック装置も破損していたから、案外簡単に入れた。
扉を開くと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
博士は機能を停止し、全く動かなくなっていた。
問題は、男の方だった。
クレッチュマー博士の上で見事にプレス技を決められていて、上によこたわっている所まではいい。
だが、それよりもおそろしい事がおこっていた。
「あ…来たか…うまくできたが…うっ!…足を…やってしまった…」
男は目覚め、痛みの中でかろうじて言葉を発した。
男の片足はクレッチュマー博士の脚に挟まれ、人間の関節ではありえない方向に曲げられている。
「クソッ…これだけは使わないと思ってたのに…親父は残ったわずかな燃料で時間を一瞬だけ遅くして最後にあがいちまった。」
「本当にすまない…俺のせいで…本当に…すまない…」
ザックもそれを予測していなかったのか、絶望の表情を浮かべ、ただ涙を流しながら男に謝罪し続けていた。
おそらくクレッチュマー博士は、一瞬だけ時間を遅くし、男の足を挟んで、彼の足をあのおそろしい状況にしたのだという
「下手すると命はなかった」と彼は言っており、その責任感に押しつぶされ絶望しているのか、先ほどまで頼もしく見えた彼の背中が、今は小さく見えた。
いや、ザックさんは何も悪くないよ…あんな状況で最善をつくせたんだもん…
もしあの場にザックがいなければ、私たちは全員やられていただろう。
私はそれを見て、ただ絶望した。
やっぱり私は、男もザックも戦いにまきこんだだけだったんだ。
「ごめん…ごめん…あ…あ…だいじょうぶ…?」
私は膝をつきながらこんな言葉しか出せなかった。大丈夫なわけないじゃん。
「ハハハ…俺は『あ…あ…』なんて名前じゃねえよ…ドクディスって名前がある…」
男は私を慰めようとしているのか、冗談を言って微笑んだ。
私はこんな状態のドクディスさんにすら気を遣わせてしまっている。
無力感と絶望が私の全身を冷たく伝った。
「よくやりましたね…もう大丈夫ですよ…」
先程私が通った裏口から、パチ、パチ、パチという拍手の音と共に冷静で品のある声が聞こえた。
「ドクディスさんに関しては、私とその連れのものが連れていくので大丈夫です。あなたたちはただ逃げてくれれば大丈夫ですよ」
誰ともわからない黒髪の男性は、初対面なのにも関わらず、なぜか信頼できるような安心感があった。だが、その安心感は黒く覆われたものであり、不気味でもあった。その黒い影は彼自身の顔にも影を反映していた。
私は、ただ、彼に承諾し、男を任せた。
「来てくれたんだな…リディグ…」
「ドクディスさん、あなたはうまくやりましたよ。私たちが連れて行って脱出しますので、安心してください。」
「機会があれば、また会いましょう。それでは。」
男はそう言って、ドクディスの体を背負ってどこかへ行ってしまった。
不気味ではあるものの、確かな信頼感、あの影をまとった下向きの顔の、黒髪のリディグという男。
あれは一体何者だったのだろうか。
だが、信頼感は確かにあり、私もザックも彼にドクディスを任せたというのは確かであった。
「カンフィナさん、急に頼み事をしてしまってすまない...俺に良い考えがあるんだ。あんたの事は俺が絶対守るからそれに乗ってくれないか...」
ザックは私に向かってそう言った。
「ここの奥に大きな1つの建造物があるだろう。そこに向かって走ろう。きっとそこはこの要塞のシステムルームだろう。とにかくそこまで走ってクレッチュマー博士を強制停止させる。きっとあそこには要塞のエネルギーも集約されてるだろうから、わざとそこに攻撃させ、電磁パルスを発生させるんだ。おそらくそれではあそこは爆発しない。だが、電磁パルスによって機械のシステムは強制停止せざるをえなくなるんだ。だからそこに行けば俺たちにも勝算はあるし、クレッチュマー博士も大事には至らないだろう」
なんか話が難しくて私にはよくわからなかったが、そんな事は今考える暇などない。
「カンフィナさんには怖い思いをさせてしまうな…本当にすまない。だが、このままでは3人ともやられてしまう。だがあんたの意思も大事だ。どうする…?」
「わかった。やるよ。」
それに乗らない手はなかった。私にもできる事なら、みんなの力になりたい。
「もし危なかったら、すぐに駆けつけられるよう近くにいる。二手にわかれてて離れていてもワープで助けにいく、そういうルートはだいたい考えるようにするさ、すぐには考えきれないが、走りながらルートを考えるよ」
ザックは私を安心させるように、そういい聞かせた。
だが、私も助けられてばかりじゃいられないんだ。
「このリストバンドをつけてくれ、それがトランシーバーのようになっていて、逐次そこから連絡する」
私は男に渡されたリストバンドを腕につけた。
「よし、いくぞ!」
ザックがそう言った瞬間、私もその後について走った。ザックは柵を飛び越え、下の橋へと移った。私も怖かったがおそるおそる飛び降り、受け身をとってまた走り出す。
しばらく走っていると、今度は下りの階段があった。ザックはその横の柵に乗り、私もその後に続いた。するとその勢いで滑って一気に下へ移動した。するとそこは行き止まりになっており、柵を隔てた先には幅1メートルほどの細いパイブがあるだけであった。それはここから柵を隔てて2メートルほど離れている。
私たちはおそるおそる飛び、なんとかパイプへと飛び移った。
「俺は横のパイプに飛び移る、2手にわかれるからまっすぐ進んでくれ」
私はこのまままっすぐ走り続けた。しばらく走るとパイプは上方に曲がり、行き止まりとなっていた。
だがその行き止まりは様子が変わっており、空間自体が歪んだようになっていた。
私は一か八かでその空間へと飛び込んだ
すると一気に私のいる空間は変貌し、別の空間に飛ばされた。私とザックはクレッチュマー博士をはさんで別々の橋に立っており、挟み撃ちには絶好のチャンスであった。
「今だ!撃て!」
私とザックは一斉に銃弾をクレッチュマー博士に放つ。すると肩の部分に直撃したのか、白衣が破れ肩の部分から煙を出していた。
すると上方の空間から男が降ってきて、さらにクレッチュマー博士に向かって落ちた勢いのままのしかかる。男はクレッチュマー博士の動きを固めたまま、走り出し、柵を破ってまた橋の外の空中へと放り投げる。
私達3人は再び走りだし、クレッチュマー博士の飛んだ方向へと向かった。
私とザックはワープし、再び合流した。
すると急にクレッチュマー博士が横から飛んできて、そのまま飛び蹴りをくらわせようとする。
私はそれに気づかなく、ぶつかりそうになってしまったが、ザックが私の頭を押さえてしゃがませたので、なんとか2人ともよけられた。
再び私たちは走り出す。おそらく向こうもワープしてきたのだろう。
再び柵を飛び越え、そのまま2メートル下の斜面へ降り、そのまま滑ってからそこを飛び、パイプに飛び移る。
そして再びパイプの分かれ目で二手に分かれる。
すると、わたしのいるパイプの向こう側に男が走っており、狙いを私に変えたのか男を追っていたクレッチュマー博士は私のほうめがけて飛びかかってきた。
すると男は空中にいるクレッチュマー博士につかまり、そのまま一緒にここへ飛び移ったあと、勢い余ってパイプを突き破り、そのまま下へと落ちた。
私はなんとか後ろに退いたので避けられたが、前方のパイプが途切れ、飛び越えなければいけなくなってしまった。
ええいままよと覚悟を決め、私は2メートルある幅の空間を飛び越え、なんとかパイプの途切れ目を抜ける事ができた。
私はそのままパイプの上を走っていると、また道は途切れてしまった。
「無理な思いさせてすまない…ここを飛び降りてくれ…」
気でも狂ったのだろうかと私は思ったけど、下を見るとまたその空間が歪んでいた。
だがそれ歪みまでは下方5メートルもあり、飛び降りるのは恐ろしすぎた。
だが、今は怖気付いている場合じゃない。
私はみんなのためになりたいし、足手まといにもなりたくないんだ。この荒れ果てた世界では危険な事も乗り越えていかなくちゃいけないんだ。その勇気がなくちゃみんなやられちゃう。
私は一か八かで飛び降りた。
全身が風をつたい、その風は次第に勢いを増していく。そしてこれからどうなるのかわからない恐怖心も増していった。
私は歪んだ空間を越えた。
すると急にさっきまで下に落ちていたはずの体が落ちていた勢いのまま上に放り投げられた。
私は上にあったパイプにつかまり、空中ブランコのようにしてその勢いのまま、3メートル前方にある橋に飛び移った。
クレッチュマー博士はそこで男の体を押さえて拳を振り下ろそうとしていた。
「手を狙って撃て!」
私はザックと同時に銃弾を放ち、見事に手に的中して、なんとか男はクレッチュマー博士の殴打をかわすことができた。
クレッチュマー博士の手からは電流が走り、銃弾を弾いて壊れはしなかったものの、その部分の外装が焼け黒く焦げた。
その隙に男はクレッチュマー博士の後ろに回り、殴打をかました。
クレッチュマー博士は避けられなかったのか、橋の柵にぶつかり、それを歪ませた。
私たちは博士がひるんでいる間に、再び逃げ出した。
私たちは右、男は左方向に逃げ、橋を飛び降りた。
飛び降りた先にはまた空間の歪みがあり、そこに飛び込む。
次に抜けたのは、囚人たちが戦っている下の空間であった。
私たちは囚人や軍人たちの雑踏にまぎれてクレッチュマー博士の目をそらそうとした。
だが博士はそれ以上の速さで周りの人々を押し飛ばしながら進んでくる。
「こっちだ!」
そう言ったザックの声が雑踏の中から聞こえた。
なんとか私たちは合流し、逃げ続ける。
途中でクレッチュマー博士ががたいのいい、睨み顔で凄みを聞かせた大男のいかにもな感じのおそろしい囚人にぶつかり、「お前何やってんだ!」と怒鳴られ、囚人はクレッチュマー博士に拳をふるおうとする。
だがこれは不幸中の幸いであった。この乱闘が時間稼ぎになるかもしれない。
だが、この男とクレッチュマー博士とでは力の差は歴然であった。囚人の拳はあっけなく抑えられ、囚人は動きを封じられながらただ蹴りをくらうことしかできなかった。
「ぐわあアアッ!!!」
いかにもな男はそう嗚咽を漏らし、胴体を凹ませながらどこかへ吹き飛ばされていた。そのまま博士の攻撃を受ければ私たち3人もこうなるかもしれないのだ。そう思うと余計に恐ろしくなり、全身を寒気が走った。もうあの男は助からないだろう。
私とザックがしばらく走っていると、今度は大型戦闘用ロボットが私たちの前にたちはだかった。
そのロボットはものすごい勢いで銃弾を放ち周りの囚人達を無慈悲に圧倒していた。
私たちは銃弾を迂回した経路でよけながら、ロボットを挟んで二手にわかれて逃げた。
ロボットが狙ったのはザックらしく、なんとかザックは銃弾の残像から逃げながら進んでいた。
私たちがロボットの後を通り過ぎると、私たちのいる空間の床は一気に飛び出し、ジャンプ台のようにして私たちはもの凄い勢いでで空中に飛ばされた。
気づくと銃弾の向きがザックから変わったのか、私たちは狙われずに済んだ事にほっとした。
だがほっとしたのはつかの間だった。
空中から後ろの光景を見てみると、クレッチュマー博士はもの凄い速さで助走をつけながら直進のまま銃弾の残像から逃げ、跳んだ。
そしてロボットいとも簡単にロボットを飛び越え、そのロボットの頭上に乗って再びこちらへ飛んでくる。
ジャンプした時は飛んだ時の位置エネルギー?(この前博士から聞いたやつ)みたいなものが生まれ、減速するはずが、それを無視してこちらに飛んでくる。おそらく彼には飛ぶ動力源があるんだ。きっと。
そして私たちは上方にある歪みを抜け、さらに高い場所へと飛んだ。
先ほど私たちがいた場所は高さのあまりもう見えなかった。
私たちはパイプにつかまり足場へと飛び移る。今私とザックは別々の平行な橋にいる。
「3、2、1で足を撃ってくれ」
ザックの無線の声に対し、私は彼と目配せをして頷く。
「3…」
クレッチュマー博士が近づいてくるにつれ、激しかった私の心拍数はさらに緊張感を増し、けたたましく私の体を中から震わせていた。
「2…」
もうクレッチュマー博士と私たちの距離は下方30メートルしかない
「1…」
クレッチュマー博士は私たちと同じ高さまで飛ぶと、ザックに狙いを定め一気に距離をつめる
このままではザックが危ない
「0…!」
バアン!
二つの銃弾がクレッチュマー博士の足を貫き、暴発し、小さくボン!と爆発した後、足からの煙である、シュウウ…という音とともにクレッチュマー博士は下に落ちていった。
だが、それで終わりともいかなかった。
その下の橋にいる男が、落ちてきた隙を狙って蹴りをかまそうとする。
だが、それは避けられてしまい、博士は男に殴打をかまそうとした。
かすりはしていたがなんとか男は攻撃を避け、そこから逃げ出す事ができていた。
男はその下の空間の歪みへと飛び込んだ。男を見失った博士は私達のいる橋をめがけて階段を走って追いかけてくる。
私とザックは再び走り出した。しばらく走っていると、橋が途切れている所はあったが、そこに縦方向のパイプがあったので、それにつかまり下に移る事ができた。
クレッチュマー博士は減速が追いつかず、勢いあまってパイプを突き破り、そのままどこかへ落ちてしまった。
私はクレッチュマー博士の弱点がわかったような気がした。クレッチュマー博士はとてつもなく速い速度で走る事ができるし、飛ぶことだってできる。だけど、方向転換や複雑な動きに関してはその都度減速が必要になるので、なるべく直進ではなく、迂回したルートとか入り組んだ道をたどればいいんだ。
それがわかれば話は早かった。私達は右方に曲がり、途切れたパイプの蓋が飛び石のように並び、1メートルの間隔で足場になっている。また、パイプの蓋の配置は直線的ではないので、クレッチュマー博士の攻撃を避けるのに最適だった。
私達はそれを飛びながら進んでいく。
クレッチュマー博士は、何個か蓋を飛ばしながら大きな間隔で飛び、私達を追いかけ、その勢いで飛びかかってきた。
だが私は瞬時に横方向の蓋に避け、なんとか避ける事ができた。
だが、博士がパイプにぶつかり、パイプが破け、煙を出す。
「このままだとパイプの燃料が暴発して爆発する。ここから逃げろ!!!」
私たちはパイプの蓋を大急ぎで飛んで駆け抜け、20メートルほど向こうの足場を目指した。
煙から引火し、炎は次から次へと伝わっていく。
クレッチュマー博士も危険を感じたのか、そこからどこかへ跳び、空間の歪みからどこかへ消えていった。
私達がしばらく走っていると、最後のパイプの蓋と橋との間に、3メートルほど空間があることに気付いた。
私はザックに続いて向こうの足場を目指して最後のパイプの蓋から跳んだ。
足場が目前に近づいた時、恐怖感と絶望が走った。届かなかったのだ。私は足場につかまろうとするも届かず、ただ下に落ちることしかできないという恐怖が全身を伝う。
いやだ...まだ死にたくないよ...
恐ろしさのあまり私は目をつむった。
すると、手に感触が走り、その途端私を下から上へ伝う落下の風はやんでいた。
目を開けると、そこには私の手をつかむザックの姿があった。
「こんな無理な思いさせて本当にすまない...今助けるからな...」
ザックは私を持ち上げてくれた。
彼は申し訳なさそうな顔で私に謝罪する。だけどザックは悪くないなんて事は明らかだった。この「人工の新天地」では、ロボットや無法者、未知の病がはびこっており、そこを生き残るのは至難の業だ。そんな世界で今までミサに守ってもらって生きてこられていたってのは奇跡だった。いや、むしろ私はミサに危険な役割を負わせてしまっていたのだ。こんな世界でミサもザックも私を守ったり、私の強みをいかすために最善を尽くしているというのに私は何ができているのかな...
「本当にすまん...もう大丈夫だからな...俺がひきとめるから逃げてくれ...俺がなんとかするよ」
そんなの嫌だ。私は誰かに助けられてきたぶん今度は私が助けたい。
生きるだけなら逃げてもできるかもしれない。だが、こんな世界でも助け合う事ができるんだって事を証明したいんだ。
「いや、私やるよ...!大丈夫!私にまかせなよ!」
私は精一杯の笑顔をみせた。ザックには私のせいで暗い顔をしてほしくないし、何より楽観的な思考をすべて捨ててしまっては元も子もない。
「わかった...だが絶対無理住んじゃねえよ。俺が女性ひとり守れねえと男がすたるってもんさ。」
ザックは私に優しく、冗談めかしてそう言った。
「いくぞ!」
私たちは再び走り出した。システムルームのある巨大な構造物はもう目と鼻の先で、わずか300メートルほどだった。近づいたのもあり、私が最初に見た時よりもずっと高くそびえ立っていた。
もう少しだ。
私たちは柵の手すりに乗り、滑って下の空間へと移り、その勢いのまま空中の歪みへと飛び込んだ。
私とザックは再び別の空間へと移動し、今度は先ほどの男が、3メートルほど離れた橋でクレッチュマー博士と乱闘を繰り広げていた。
博士は私の存在に気づいたのか、私のいる方へ飛びかかってくる。
私はそれをなんとか横によける。
すると上の空間からザックが落ちてきて、クレッチュマー博士の背後から銃弾をくらわせる。
ザックはクレッチュマー博士をひきつけながら逃げて橋からパイプへと飛び移る。私はまた別の方向へと逃げ、柵の上から2メートルほど先のパイプめがけて跳び、着地した後その勢いのまま走り出した。
すると男が博士に狙われていないうちに加速途中の博士へとタックルをかまし、その勢いでクレッチュマー博士を空中へと吹き飛ばす。
「撃て!」
私とザックはその瞬間、博士が空中に舞った瞬間めがけて2方から銃弾を放つ。
私達は博士を挟むようにして別々のパイプに立っていたため、挟み撃ちする事ができた。
クレッチュマー博士はそのまま下の空間の歪みへと落ちていった。
だが、その後すぐに私の背後でおそろしい気配を感じた
「しゃがめ!」
わたしはそれをさとり、ザックの言葉の通りクレッチュマー博士の蹴りをかわした。
ザックはその隙にクレッチュマー博士の足に向けて銃弾を放つ。
少しづつではあるものの、確かにダメージは与えられており、足からは煙が出ており、体のあちこちに銃弾が当たった跡が焼きついており、白衣もところどころ破けている。
私たちは再び二手にわかれた。私は橋から縦向きのパイプへ飛び、そのままパイプにつかまり3メートルほど下まで滑ったあと、他の橋へと飛び移った。私はそのまま走り続け、階段を登った。
残り200メートル
私はその先にある空間の歪みへと飛び込む。
そこはまたパイプの上だった。
横を見ると向こうのパイプの上にいるザックをクレッチュマー博士がその上方から飛びかかろうとしているのが見えた。
私はすかさず銃弾を撃ち込む。
するとクレッチュマー博士はまたしても軌道がずれたのか、ザックをかすり、パイプにも飛び移る事ができないまま下へと落ちていった。
その先には男が待ち構えており、男は落ちてきた博士に向けて拳をふるい、クレッチュマー博士のみぞおちに命中した。
だが、クレッチュマー博士は体が機械でできているのか、また立ち上がる。
だが、クレッチュマー博士の胴体は凹んでおり、確かにダメージは与えることができていた。
男は博士がひるんでいるうちにその場から逃げる。
私も再び走り出した。
パイプが下に曲がっている所から足場へと飛び移り、そのまま建造物の方角へと駆けていく。
そのまま橋の柵から跳び、空間の歪みへと飛び込んだ。
のこり150メートル、もうすでに私たちと建造物は目と鼻の先であり、私たち3人と博士は建造物の上方10メートルにある高台の、広めの橋に立っていた。もう下を見下ろせば、巨大な建造物の屋上である、ガラス張りのシステムルームの屋上が見える。
おそらくガラスは簡単には破けないようになっていそうではあるが、おそらくこんな世界じゃいくら豊かな国とはいえど全面強化ガラスなんて贅沢は経済的な面や資源的な面で不可能だろうから、それを突き破ってもらうと、先程ザックは言っていた。
その時だった。
ワープしてきた直後、クレッチュマー博士が待ち構えでいたかのごとく私に蹴りをくらわせようとする。
終わった。と思った。
その瞬間、男が私の前に立ち塞がり、クレッチュマー博士の体を受け止めた。
「ガハッ!!!!グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
男はミシミシと全身から音を鳴らし、私から見ても危機的状況だとわかる身体を大声と共に無理に奮わせ、全身の力でクレッチュマー博士の体を受け止め、押しのける。
そして私たちはその隙にクレッチュマー博士の横にまわり、銃弾を左右双方から放つ。
クレッチュマー博士の体からは火花や電流が激しく舞い、バチバチと音を立てている。
そして再び男がひるんでいる博士にタックルをかましてたたみかけ、そしてクレッチュマー博士の身体をがっしりとおさえたまま、勢いに任せて橋の柵を突き破り、博士の身体を下にしてそのまま建造物に向かって落ちていく
その勢いはすさまじく、落ちていく所は弓矢の様なものであった。
だが、落ちる途中に突然、バチっとフラッシュの様な光が一瞬目の前を覆った。
その後は静寂が流れたが、それも一瞬のものであった。
ダアアアアアアアアンッッッッッ!!!!!!
とてつもなく大きな音が鼓膜をうるさく揺らす。
その後にはここ一帯が激しく揺れる。その揺れは細かいものであったが、その細かい揺れはとても早く激しいものであり、橋が崩れはしなかったものの、私の視界や意識、内臓や血等の身体の中の生物学的な構造物や液体といったあらゆるものが縦に振動し、ものすごく気持ち悪くなり、1秒ほどそれが続いたので吐きそうになった。
私はかがみ、なんとか意識を保とうとして、しばらく休んだ。
20秒ほどしてようやく、私は正気を取り戻す事ができた。
さっきは一体何が起こったのだろうか。
ザックも今なんとか立ち上がったようで、ふらふらした足どりでここまで来た。
「うええ…気持ちわりいな…カンフィナさん…だいじょおぶだった…か…?」
彼は顔を青くし、具合が悪そうだった。もうザックの方が心配だ。
「ザックさんこそ…だあいじょおぶ…?」
私も上手く呂律がまわらなかった。きっと先程身体に起こったこともそれを心配していることもお互いさまなんだろう。
私たちはしばらく休んだ後、下の様子を見に、階段を降りてシステムルームの裏口から入った。
システムルームは先程とは全くの別物に変貌しており、上部分に張られたガラスは派手に破壊され、そこからランプやパネルのものと思われる明かりが見えていたのも今は全く見えておらず消えてしまい、ただの暗い破屋となっていた。システムルームにつながっているパイプはところどころ破け、四方八方にオイルを撒き散らすだけのものになっていた
システムも無力化しており、扉のロック装置も破損していたから、案外簡単に入れた。
扉を開くと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
博士は機能を停止し、全く動かなくなっていた。
問題は、男の方だった。
クレッチュマー博士の上で見事にプレス技を決められていて、上によこたわっている所まではいい。
だが、それよりもおそろしい事がおこっていた。
「あ…来たか…うまくできたが…うっ!…足を…やってしまった…」
男は目覚め、痛みの中でかろうじて言葉を発した。
男の片足はクレッチュマー博士の脚に挟まれ、人間の関節ではありえない方向に曲げられている。
「クソッ…これだけは使わないと思ってたのに…親父は残ったわずかな燃料で時間を一瞬だけ遅くして最後にあがいちまった。」
「本当にすまない…俺のせいで…本当に…すまない…」
ザックもそれを予測していなかったのか、絶望の表情を浮かべ、ただ涙を流しながら男に謝罪し続けていた。
おそらくクレッチュマー博士は、一瞬だけ時間を遅くし、男の足を挟んで、彼の足をあのおそろしい状況にしたのだという
「下手すると命はなかった」と彼は言っており、その責任感に押しつぶされ絶望しているのか、先ほどまで頼もしく見えた彼の背中が、今は小さく見えた。
いや、ザックさんは何も悪くないよ…あんな状況で最善をつくせたんだもん…
もしあの場にザックがいなければ、私たちは全員やられていただろう。
私はそれを見て、ただ絶望した。
やっぱり私は、男もザックも戦いにまきこんだだけだったんだ。
「ごめん…ごめん…あ…あ…だいじょうぶ…?」
私は膝をつきながらこんな言葉しか出せなかった。大丈夫なわけないじゃん。
「ハハハ…俺は『あ…あ…』なんて名前じゃねえよ…ドクディスって名前がある…」
男は私を慰めようとしているのか、冗談を言って微笑んだ。
私はこんな状態のドクディスさんにすら気を遣わせてしまっている。
無力感と絶望が私の全身を冷たく伝った。
「よくやりましたね…もう大丈夫ですよ…」
先程私が通った裏口から、パチ、パチ、パチという拍手の音と共に冷静で品のある声が聞こえた。
「ドクディスさんに関しては、私とその連れのものが連れていくので大丈夫です。あなたたちはただ逃げてくれれば大丈夫ですよ」
誰ともわからない黒髪の男性は、初対面なのにも関わらず、なぜか信頼できるような安心感があった。だが、その安心感は黒く覆われたものであり、不気味でもあった。その黒い影は彼自身の顔にも影を反映していた。
私は、ただ、彼に承諾し、男を任せた。
「来てくれたんだな…リディグ…」
「ドクディスさん、あなたはうまくやりましたよ。私たちが連れて行って脱出しますので、安心してください。」
「機会があれば、また会いましょう。それでは。」
男はそう言って、ドクディスの体を背負ってどこかへ行ってしまった。
不気味ではあるものの、確かな信頼感、あの影をまとった下向きの顔の、黒髪のリディグという男。
あれは一体何者だったのだろうか。
だが、信頼感は確かにあり、私もザックも彼にドクディスを任せたというのは確かであった。
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