CREATED WORLD

猫手水晶

文字の大きさ
47 / 58
第3話

第3話 出発 (29)

しおりを挟む
私はリディグと呼ばれる男にただついてきていた。
私は困惑していた。始まりは昨日の事だった。上の「ミサという金髪の女がイリーアと共にいるだろう。彼女を脅して情報を引き出せ。」という命令に従い、それをただ遂行しただけであったが、今はそのチームを抜け、イリーアに協力している。
私は見事に失敗し、意識を失った後に、閉ざされた空間で拘束されていた。
あの時のイリーアは、本当に恐ろしく、睨んでおらずともわかる、影のかかった静かな威圧をともなうおそろしいながらも美しい顔は、ただ私を見下ろしていた。その手には銃が握られており、銃口は冷徹に私に向けられていた。
私は恐ろしさのあまり、ただ震えながら絶句し、味方を裏切り彼女に従う事しかできなかった。
ちくしょう…なんでこうなるんだよ…
私はただ生きるために奪っているだけだし、そのチームには信頼できる仲間もいた。
1日にしてそれは崩れ、いまや私はかつてのチームの裏切り者になってしまっていたんだ。
上の者の命令に背くと始末されてしまうし、だからといってイリーアに背いても命がない状態だった。
どうしようもなかったんだ。
確かにそれは屈辱的ではあったが、それ以上にこれから自分の身がどうなってしまうのかという恐怖心の方が大きかった。イリーアに逆らえば命はないが、この要塞で私がかつて仲間だったチームの一員に遭遇してしまっても始末されてしまうおそれがある。なので、かつて仲間だった者と会わないようにしながら要塞を突破するのは難しい事に思えた。だが、案外遭遇する事はなかった。
なぜなら私達は他の囚人が立ち入ることのないような、裏道を進んでいたからだ。
先ほど要塞に到着し、要塞に隠されたシステムルームへの通路を見つけ出し、そしてその先にあるトラップを突破し、私を連れてそこから脱出する。
それをするのにかかった時間は、たったの5分だった。
正直私にも意味がわからなかった。次々に絶体絶命な状態を軽々とこなし、元からわかっていたといわんばかりに正しい行動と私への指示を行う彼の動きは、もはや不気味に思えるほど無駄が削がれたものだった。
彼は私の前をただ歩き続けている。
時間がないというのに、やけに落ち着いた足取りで歩き続けている。
「もうすぐ私達の前に軍人が立ちはだかります、全部見られているという事ですね。ですが安心してください。戦闘を行う際の援護方法を私が戦いながら指示するので、私の指示にしたがって動けば切り抜けられますよ。」
悠長に説明するリディグに対し、私は口を開く。
「でも、どうすりゃいいんだ…?多分もう見られてんなら袋小路に私らが言ったとたんにリンチされるんじゃないのか…?」
すると彼は微笑み、笑いながら答えた。
「ハハハ、大丈夫ですよ。ご安心ください。ちゃんと事前にここを調べた上で最善の作戦を考えてありますので。」
彼には頼もしさもあったが、もはや不気味さすら感じた。
「おそらく今から5分後、このままのペースで歩き続ければ袋小路につきあたります。そしておそらく軍人が天井の空間を歪ませ上方から降ってきて、私達を追い詰めるでしょう。ですがそれは対策してあるのでご安心ください。私実はそこのシステムを少しいじらせて頂いておりましてね、追い詰められたとたん床の空間が歪み、床が抜けたみたいに下に落ちる事ができるんです、いわば落とし穴に自分から入っていくみたいな感じですね。」
「お前本当にすげえな…なんかもう怖さすら感じるぜ…」
「ハハハ、私はイリーアさんみたいなすさまじい身体能力には劣るかもしれませんがこういうのは得意なんですよ。向こうが小細工でしかけてくるならこっちも小細工で応じるまでです。おそらくこれから来る軍人も、身体に小細工を施している可能性は高いですし。」
「身体に小細工ってことは、その軍人はサイボーグってことか?」
「察しがいいですね、その通りです。その軍人はおそらく身体施術を受けており、並の人間の強さではないでしょう。また、空間の歪みを活用したり、最悪の場合時間の流れを遅くして私達に攻撃を仕掛ける可能性だってあります。こうなってしまうと私達は圧倒的に不利ですね。」
「ならどうするんだ…やばくねえか…?」
私は恐ろしくなって彼に聞いた。
「絶対に大丈夫…とは一概に言えないかもしれませんが、高確率で助かると予測できる方法がありますよ。なのでご安心ください。」
「絶対に」という保証がない事に少し不安をおぼえたが、それをしなければ助からないから結局やるしかねえって事だな。
「わかった。やるぜ、ところで私は何をすりゃいいんだ?」
「このまま私と一緒に袋小路まで歩き、軍人に追い詰められてください。その先は二手に分かれましょう。私が軍人をひきつけておくので、あなたはその隙を狙い影から撃ってください。なるべく軍人に見つからないようにしてくれると助かります。動く方向等や場所等は私がその都度通信で伝えるのでよろしくお願いします。」
「もし他にも軍隊がいたら…?」
私達に立ちはだかる軍人は1人とは限らない。逃げた先で包囲されてしまう可能性だってある。
「大丈夫ですよ、その際の対処法も考えてありますし、逃げた先の空間や設備だって大体把握してるんです。空間の歪みができやすい空間や向こうによって故意にコントロールできる空間や設備も大体把握しているので。」
その言葉には確かな信頼感があり、私達はこのまま歩き続けた。
「ここを切り抜けた後に私たちは複数あるシステムルームのうち、中心のシステムルームに直接繋がっている予備用の部屋があるので、そこでハッキングを行い中心の部屋に混乱を起こすのですが、そこに移動するのに2分、ハッキングに3分かかる事を想定すると、戦闘にかけられる時間はわずか5分です。短期決戦で挑みましょう。」
しばらく歩いた後、リディグは思い出したように言った。
「あと、これから私達を追い詰める軍人の命は奪わないでください、彼の命を奪ってしまっては私側としても面倒なので。」
何がリディグにとって面倒くさい事になるのか疑問には思ったが、どっちみち従わないと私の命はないだろうし、そもそももう時間がないので、その事は聞かない事にした。
すると、リディグが先ほど言った通り、行き止まりの袋小路にさしかかった。私が見る限り逃げ道はない。

「こんにちは、あなたに話があって来ました…もし不審な動きがあれば実力行使を行いますのでくれぐれも大人しくついて来るように…」
先ほどリディグが言っていた軍人の男が、私達の退路を塞ぐようにして立ちはだかった。
まだあどけなさが残る若い青年の軍人で、彼の片足は施術を施してあるからなのか、軍服が途切れ片足だけハーフパンツのようになっていた。その片足はくすんだ銀色で、鉄のような素材でできており、横には青いランプが点灯していた。まだ軍に入ったばかりの新人のせいか、言っている事とは裏腹に、声色は心許ないし体も震えていた。
リディグが彼に対して生かしておくと言っていたのは彼に対して憐れみを感じたのかと一瞬思ったがそうでもなさそうだ。
私達の前に立ち塞がる片足に施術を施した軍人の姿は、それだけで威圧感を与えるには十分だった。
「ごきげんよう、そして、さようなら。」
リディグはそう言って彼に向かって微笑み、そのまま下に落ちた。
私もリディグと共に下の空間へと落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...