CREATED WORLD

猫手水晶

文字の大きさ
51 / 58
第3話

第3話 出発 (33)

しおりを挟む
私達は機械足をもった青年の軍人の猛攻をなんとかくぐりぬけ、コントロールルームへと向かった。
私はここで一息つきたかったが、時間がないのは確かだった。これからこの要塞を脱出しなければならない。
ハッキングにかけられる時間はたった3分間、その3分の間にミサ、イリーアの安全の確保、そして彼女らと共に行動しているであろう派閥の人物の場所を予測し、そして、彼らと私達の脱出経路を確保したのち、私達はその限られた時間で作られた道を急いでたどり、そして脱出しなければならないのだ。
私の計画としては、ミサ達を空へと飛ばそうとしていた。

なぜ人間が空を飛ぶことができるのか?と思うかもしれないが、可能なのだ。
なぜなら、先程の大きな爆発がすでに歪んでいた時空をさらに歪ませ、間もなく自動的に時間の流れが遅くなることが予測できるからだ。そしてその時間すら、予測可能なものであるため、その時間に合うよう彼女らを誘導する事ができれば、十分に可能だ。
そして、彼女たちは、高い階からゆっくりと宙を舞い、空を飛ぶことができるのだ。

CeLEr-003の相手をしていたミサ達のいた場所は予測がついている。
おそらく広場から突っ切っていったであろう彼女らは、エレベーターに乗り、そのままエレベーターが自動で動いたであろう地点へと移動するはずだ。そして、私の計算が正しければ、彼女たちの足の速さからして、それは私達が裏口から侵入し、大型戦闘用ロボットの猛攻をかいくぐろうとしていた時間とちょうど重なると予測される。
また、その時は、私達が裏口に入ったのが向こうにバレ、向こうのシステムが私達へ攻撃するよう動かされたと考えられる。
なぜなら、あのCeLEr-003というロボットはすごく貴重であり、しょっちゅう前線に出すわけにはいけない秘密兵器なのだから。この世界ではあまり手に入らない特殊な白い外装、そして、青いランプの光る洗練された機器には、もはや美しさすら感じられるものだった。だからこそ、この資源の限られた世界では、よっぽどの事が起こらない限り出動する事はないのだ。
だから、そのロボットと戦闘を繰り広げたという事は、やはり、ミサ達はロボットのいる地点と重なる位置にいることになる。そして、機能停止前に、最後に発信器から発せられた際の場所も予測通り、橋の上にいるのがわかった。
それなら、その橋の上から、なんとか空を飛べるルートを模索し、時空の歪みを利用しそこへ導く必要があった。
そして、要塞に向かう際、私達の乗っている荷台には運よく穴が開いており、そこから外の様子を見ることができた。この要塞周囲の時空の狭間を観察した際、偶然その狭間にしか現れない、赤い外装の奇妙な逆関節をもつ6本足のロボットを確認できた。
おそらく今でもここの近くをさまよっているだろう。
先程起こった爆発により、時空の歪みが発生した今、ロボットは性質により大きな時空の歪みへと走って行くので、要塞をつっきろうと、ミサ達を追いかけるであろう。
だが、それは想定内の事であった。
ロボットが走ってくるであろう方向は、運よくミサ達の脱出経路と重なるのだ。
そして、ミサ達はここを脱出する可能性は高いといえる。
なぜなら、イリーアは良くも悪くも手段を惜しまない人間だからだ。
普通に走っていれば、ロボットの速度が速く、追いつかれるかミサイルにやられるかしてしまう。だが、彼女は脱出の為に他の無法者の乗り物すら奪う事ができるだろう。
この要塞では、少しでも戦況が良くなるようにと、無法者にも武器や、乗り物が支給されている。
その多くは周りの空間に落ちていた部品をつぎはぎ組み合わせ作った簡素なものが多いが、脱出に使うには申し分ないものだった。
そして無法者のリーダーである、イリーアは、ためらいなく他の無法者の使う乗り物を奪う事ができる。
そして、間もなく囚人達に私達を追うよう促す放送も流れるだろう。だが、それすらも私達にとって有用に働くだろう。なぜならミサ達を追う囚人には乗り物に乗った囚人も含まれるであろうという事だ。
そして、私は今、彼女らの脱出経路を、これから発生するであろう時空の歪みも考慮した上で、作り始めている。

よって彼女らが脱出する事は、可能であるといえるのだ。

そして私達はもうひとつ、脱出させるべき人々がいるのを知っている。
先程爆発がおきた原因である、人物のことだ。
おそらくその人物のいる地点は、この要塞のコントロールに関する重要な地点であるといえる。
そして、彼らの脱出可能なルートには、外部と通信可能な機器のある部屋へとつながっているという点にある。それはとても重要な事であり、私達の脱出には不可欠であるといえる。そして、その人物は、過去に私が関わったことのある派閥とつながっているという点で、脱出には不可欠であるといえるだろう。
そして、この要塞の付近には、私が過去に関わったことのある、「機械の国」と呼ばれる、マーキナという国の研究者達の遠征キャラバンがあるのを、この前に受信した信号により知る事ができた。彼らを要塞にある通信機器へと誘導する事ができれば、マーキナという国の研究者達に救出される事ができるのだ。
なぜそんな事が断言できるのかというと、おそらく爆発の原因となった人物は、おそらく機械の国と関係のある人物であり、少なくともその人物はその国の派閥と対立関係ではないという事がいえる。
よって、ここから救難信号を無差別に送れば、私達を救出するよう彼らは動くであろうという事が予測できるからだ。

私が端末を操作していると、時間が無いのにも関わらず、よそ見をしてしまっている私自身に驚いた。だが、そのよそ見は無駄なものではなかった。
先程まで扉の前で侵入しようとするものに対し、時間稼ぎとして銃弾を放ち続けていたはずのフィシャの手が止まっているのを発見した。
彼女の手は震えている。
扉の向こうには、1人の女性が立っていた。おそらくイリーアに脅され肩入れを強制される前は、フィシャは彼女と同じ派閥にいたのだろう。彼女がかつて仲間であろうことを想像できる要因としては、その女性も銃を握る手を震わせながら、ゆっくりと引き金を引こうとしていたからだった。
彼女の顔には一粒の涙を浮かべながら、苦渋の表情でフィシャを見つめていた。

ようやく彼女は気持ちが定まったのか、引き金を引き、荒い音と共に放たれた銃弾はフィシャの頭に向かって飛ぼうとしていた。

私は急いで彼女を銃弾からよけ、2弾目がくる前に、先に私は彼女に銃口を向け、引き金を引いた。

銃弾は彼女の胸を貫き、彼女の命を奪っていった。
命を奪わねばならないのなら、せめて楽に終わらせようと思ったのだ。
彼女は気持ちが定まっていたので、おそらく何弾も撃ち続けていただろう。ここで命を終わらせなければ、私達はやられてしまう。他に方法はなかった。

フィシャは唖然とし、無言のまま一瞬動かなくなった後、突然様子が変わったと思えば、突然扉の外に向かって銃を乱射し始めた。
「あああああ...!うわああああああ!!!」
もう彼女はやけくそになっていたのだ。彼女の額には涙が流れ続けている。銃を持っていない片手は、倒れたかつて味方であったであろう屍に抱きつきながら、ただ叫んでいた。
それは、泣き叫ぶ子供のようであった。

私がシステムのハッキングを終えた後、再びフィシャのほうを見ると、補填を行わないまま弾切れを起こしている銃の引き金を引きながら、涙を流しながら、ただ力なくたたずんでいるフィシャの姿があった。
叫び疲れたのか、もう彼女からは叫び声は聞こえず、無言のまま無気力に立ち尽くしている。
また、銃からも銃弾は出ておらず、引き金を引くカチカチという音だけが静寂な空間の中鳴り響いていた。
あたりが静かという事はおそらく追手もこなくなったのだろう。

「こんな時にすみません、そろそろ行きますよ。」
フィシャが気の毒ではあったが、今は感傷に浸っている場合ではない。ここでフィシャを見捨てるにしても、彼女にはこれからやってもらはなくてはならない事があり、私1人だけでは、その事はできないのだ。
「チッ...クソッ...」
フィシャはうつむきながらそう吐き捨て、表情を隠すようにしながら下を向いて走り出した。

私達が走り出そうとしたとき、私達は異変を感じた。
私達のいる部屋は揺れ始め、外からこの部屋へつながる橋はメキメキと音を立てている。おそらく先程までフィシャがトリガーハッピーになりながらも撃退し続けていた追手の屍があまりにも多く、その重量を超え、ここと別の橋をつないでいたたった1つの橋が今にも崩れそうになっていたのだ。
このままだと落ちてしまう。
私はフィシャの手を引きずったまま、とっさに横にあるガラスの窓に飛び込んだ。

2メートル下の地点に橋があったので、そのまま着地し走り出した。
私達はこれから先程爆発が起きていたコントロールルームで倒れたであろう仲間を回収し、そこにいるであろうもう1人の人物に伝言をするために、まず爆心地である中央のコントロールルームへ向かう必要があった。
私達は100メートルほど橋の上を走り、そして長い階段を登ると、その部屋があった。
やはり予想通り、上から降ってきた2人の人物が倒れており、その手前に私が伝言すべき白衣を着た人物と、オーバーオールを着た女性がいた。2人の人物は組み合っているようであり、おそらくその1人であるドクディスが白衣を着たサイボーグの人物の動きを封じたままこの部屋へ飛び込んだという事が想像できた。
そして、それを見ている2人の人物の表情は、穏やかなものでなく、1人は涙を流し、そしてもう1人は罪悪感を感じているかのごとくドクディスに対して謝っているようであった。

私はゆっくりと拍手をしながら、裏口から部屋へと入った。
こういった光景は相手を侮辱しているように見えるが、むしろ褒めているのだ。
なぜなら、彼らは1人の人物が犠牲になり、しようとしていた事が失敗したと勘違いしているようだが、実はそうではない。
全てうまくいっているのだ。

「よくやりましたね...もう大丈夫ですよ...」
私は手を叩きながら、絶望的な状況である2人の人物に対して励ますように微笑みながらゆっくり、かつ冷静に言葉をかけた。
「ドクディスさんに関しては、私とその連れの者がつれていくので大丈夫です。あなた達はただ逃げてくれれば大丈夫ですよ。」
フィシャの役割とはその事だった。彼女には彼の重い体を背負いながら走らなくてはいけない。私は彼女が安全に進めるよう、先行して走り、立ちふさがる敵を撃退しなければならない。
ドクディスは白衣を着たサイボーグの上で、倒れており、片足を損傷していた。彼の足は人間の関節ではありえない方向に曲がっており、脚を機械におきかえサイボーグにならない限り彼はもう両足で地を踏む事は叶わないだろう。そのままの脚で治るのは不可能な状況であった。
その事はさすがに想定外だったが、作戦の進行上問題はなかった。だが、彼には痛い思いをさせた事に関しては、多大な罪悪感を感じている。これがもし完全に私の思い通りだったら、ドクディスは白衣のサイボーグの撃退に成功し、そのまま私達と共に逃げていただろう。
爆発の直前にサイボーグがリディグに対して攻撃を行った事に関しては私でも予測できていなかったのだ。
だが、彼なら脚を機械に置き換えてまでイリーアを守ろうとする事を選択するだろう。
たとえ、衛生的な観点や使われてる物質が有害である可能性があることから、身体への危険性がある信用性の低いダークエンジニアによる施術(ダークエンジニアは無法者や浮浪者がよく利用しているが、その施術が原因で結局自らの身体を病に侵してしまったり、機械の自爆によりやられてしまう事がある)や、その辺のジャンクで作った自己流のつぎはぎな脚であったとしても、彼は迷う事なく義足を作る事を選択するであろう。
彼はそれくらい意思が強く、イリーアへの忠誠心も強い人間なのだ。
だからドクディスのことに関しては、今私達が安全な所に運びさえすれば、あとは彼自身でなんとかできるのだ。
もし無法者であったとしてもイリーアの勢力が大きく、財力もあれば、身分を隠す事さえできればちゃんとした施術を受けられる可能性だってある。だからドクディスに関しては希望が大きいのだ。

先程まで絶望を帯びた表情をしていた2人だったが、私の事を光を見るような目でみつめていた。
やはり、そうすればそういう反応が返ってくるものなのだ。人は、絶望的もしくは危機的な状況にたちあった時、それを助けてくれると思った存在に対し信頼をおきやすいものなのだ。人の命に関わるものならなおさらだ。たとえ話だが、外地で倒れ、虫の息となった浮浪者のもとに、もし医師を名乗る者が現れたら?おそらく藁にもすがる思いで自称医師の者を信じるであろう。私はそれを応用し、今彼らとかけひきを行っているのだ。

「来てくれたんだな...リディグ...」
脚を損傷し倒れているドクディスは、痛みの中でかろうじて言葉を発していた。
「ドクディスさん、あなたはうまくやりましたよ。私たちが連れて行って脱出しますので、安心してください。」
私はドクディスを安心させるように、ゆっくりとした口調で、微笑みながら冷静にそう言った。

「あ、そうです。」
私は先程まで落ち込んでいた白衣の男性に対して、去り際にこう言った。

「あなたは仲間を呼んでください。」

おそらくこう言いさえすれば伝わるはずだ。
おそらく彼は付近にある研究者達のキャラバンと接点があり、そして「仲間を呼ぶ」という言葉は、交信を送るという事と捉えられるからだ。そして、この距離ならばここからの交信は向こうにも届くだろう。
「機会があれば、また会いましょう。それでは。」
私はそう言って、この部屋を去った。
彼らとはまた会えそうな気がした。

私はドクディスをフィシャに託し、歩き出した。

部屋から出て、私達はしばらく走り続けていた。
フィシャの足取りは男の体をかついでいるぶん先程より重く遅いものになっており、なんとか勢いまかせで走り続けている感じであった。
どっちみち時間がないのは確実だった。
あと1分もすれば爆発によって大きくなった空間の歪みによる、身体的な症状が私達を襲うだろう。
そうならないようにするため、私達は1分以内に空間の歪みのない、安全な場所へ避難する必要があるのだ。
幸運にも空間の歪みが大きく、歪んだ空間からワープする事ができるが、その分それも踏まえた脱出経路の見極めが必要になる。
そして、これから来るであろうロボットの放つミサイルを避け、そして、これから追ってくるであろう追手から逃げながら、それを行わなくてはならない。
とても困難な事だった。
だが、やるしかなかった。

私達は走り出す。
後ろか
らミサイルが迫ってきたので、私達は橋を飛び降り、2メートル右方の別の橋へと飛び移る。
そこには追手が待ち構えていたが、片方にいる軍人の胸を打ち抜き、そして振り向きざまに後ろにいる軍人へと跳び蹴りをかまし、なんとか2人とも撃沈させる事ができた。
そして、私より少し遅れてフィシャが私のいる橋へと飛び移ってきた。先程いた橋は炎上し崩れそうになっていたため、フィシャはなんとか危機一髪で間に合ったようだ。
そして、右前方にあった階段の横の柵を滑り降り、そのままの勢いで待ち伏せていた軍人に蹴りをかます。
銃を構えていたものの、こちらへ来るとは気付いていなかったのか、引き金を引く前に私に蹴られてしまったのだろう。おそらく横から隠れて狙撃しようとしていたのだろう。
そして、私は再び走り出す。
そして、今度は前方からミサイルが降ってきた。
私達はとっさに橋から飛び降り、また、さらに3メートル下にある空間の歪みへと飛び込んだ。

そして次に着いたのは、また橋の上だったが、今度は先程よりも橋と橋の間が狭く、周りには無法者がはびこり、お互いに銃撃戦を繰り広げていた。
そして、こっちにまで銃弾の雨がかかってくる。
私達は銃弾の雨をよけながら、走り続ける。フィシャもかろうじて銃弾を避けることができていた。
私は走る足取りを早め、そしてその先にいた囚人に銃弾を放った。
なんとか前にいる囚人を撃退する事ができたが、まだ銃弾の雨は止んでいない。私達は依然として四方から降る銃弾を避け続けながら走っていた。
すると、ある放送が聞こえた。

ー逃走者を3人発見した。彼らを捕まえた囚人には我が軍に入る権利を与える。よって釈放が決まることになるー

その放送が聞こえたとたん、周りの囚人が目を光らせ、一斉に私達の方を見た。
囚人達は私達むかって一斉に飛びかかってきたり、銃弾を放ったりしている。
私は飛びかかってきた囚人に蹴りをかましたり、銃弾を放ったりしながら走ってているが、長くはもたないだろう。
このままではフィシャが危ない。
すると、引きちぎられた細いパイプを持ち、つぎはぎのバイクに乗った囚人が、上の橋から落ちてきて、鈍い音とともに着地した後、スピードをあげながら、私達に向かってくる。
その囚人は周りの事なんてつゆ知らず、周りにいる他の囚人すらもなぎ倒しながらこちらへ迫り来る。
釈放のチャンスを与えられたゆえか、我先に私達を追い詰めようとしているのだろう。
囚人の持つパイプにぶつかってしまえば、運が良くても重症、下手すると命を落とすだろう。
「かがんでください!」
私達は急いでかがみ、フィシャの髪をかすり、それを揺らしたが、間一髪のところでパイプにぶつからずに済んだ。
先程の囚人はスピードを落とせずバイクが制御不能になったのか、橋の最後にある柵を突き破り、そのまま真っ逆さまに落ちていった。

私達は再び走り出した。
先程囚人が落ちていった方向と同じ向き、突き破られた柵のほうへと。
なぜそうするのかというと、私はうるさい囚人達の叫び声の中に、かすかにゴオーという音が聞こえたからだ。
もう間もなくここはミサイルによって爆破されてしまうだろう。
そして、その橋の下にはおそらく空間の歪みが生成されている事が予測できた。
なぜなら、爆発がおこった周りの空間には、歪みができやすく、先程落ちていった囚人のバイクは、おそらく落ちた衝撃によって爆発している。
そして、爆発の光も目視でき、音も聞こえたので、それはあまり遠くないという事がいえた。空間の歪みができていたら、そこからワープできるし、その距離も遠くないなら、落下しても受け身をとることができる。
フィシャは戸惑いをあらわにしていたが、そんな場合でもなく、私に信頼をおいていたのか、黙ってついてきていた。
私達は50メートルほど、飛びかかってくる囚人達や、銃弾の雨をかわしつつ、橋の上を走った後、突き破られた柵から、下へと飛び降りた。
先程の予測は正しかったのか、3メートル下方に空間の歪みを確認する事ができた。
私達はすかさずそれに飛び込んだ。

すると、その向こうの空間は宙に浮いて建てられた、金網でできた床の広場のようになっており、その床は橋によって支えられていた。そして私達はその床に着地した。
「離れてください!」
広場の中心の方向から銃弾の気配を感じ、私は急いで銃弾をかわし、そして、射程の外へ出そうとするようにフィシャの体を押した。
フィシャは尻もちをつき、そのまま後ろへズザーッと滑ってしまったが、なんとか射程から出ることができていた。
私はロボットのガトリングが放つ大量の銃弾の残像から逃げながら、ロボットの背後へとまわる。
そして、ロボットの背後へとまわったその瞬間私はロボットに対し、一発の銃弾を放った。
燃料タンクを狙ったのだ。
その狙いはなんとか当てることができたが、まだ問題点が残っていた。

燃料タンクに銃弾を当てれば、ロボットを爆破する事ができるが、私とロボットの距離はわずか10メートルしかなく、爆発に巻き込まれてしまう可能性が高い。

ロボットはピカッと光った後、大きな音とともに爆炎と光を広げていった。
私はすかさず逃げようとするも、このままでは追いつかれてしまう。フィシャに逃げるよう指示しようとするも、そんな時間も残されていない。

そんな絶望的な状況の中、私は一筋の光を見た気がした。
爆炎の中に空間の歪みを見たのだ。
爆炎の中に飛び込むのはリスクを伴うが、一瞬触れる程度なら、軽いやけどで済む可能性もある。それに、空間の歪み自体、形が不定形なので、運がよければ爆炎の手前に歪みが現れ、やけども負わなくて済む事だってあり得る。

「爆炎へと走ってください!」
「お前...正気か...!?」
フィシャは流石に動揺を抑えきれずにいたのか、そんな言葉を叫んでいたが、他に方法がないことをさとったのか、「クソッ...どうなっても知らねえからな...!」と言って、私に同意してくれた。

私達は、息を合わせ、爆炎へと走った。
その瞬間は一瞬であり、痛みも何も感じなかった。

私が下からの風を感じ、再び目を覚ますと、私達は空中で落下していた。
うまくいったのだ。
空間は制御がきかなくなり、おそらくバグったのか、向こうにとって想定外の空間へとワープしていたのだ。
私達は、要塞の地下の、暗いが広い空間におり、そしてその空中で落ちていたのだ。
その下には、軍人達を護送しているであろう車が並んで走っており、私達はおそらくこのまま落ちればその車のひとつに強引な形で侵入できるだろうと思えた。
なぜなら、資源節約なのか、車の運転席以外は荷台に支柱を立て、その上に布をかぶせたような形になっていたからだ。だから落下の勢いのまま突き破ることができる。

私は落下の勢いのまま、一台の軍用車に突っ込み、車内で受け身をとった。
「うわああああ!?」
車内にいる軍人も上からの突然の侵入者に驚きを隠せなかったようであったが、その後すぐに通信機をとり、状況を伝えていた。
「車内に突然上からの侵入者を確認しました!只今対象の攻撃に移ります!」
運転手の軍人は車内の通信機に向かってそう言い、そして荷台にいたもう2人の軍人が一斉に私達に向かって銃を向けた。
フィシャ達はいまだ気絶したままであり、車内には突っ込めたものの落下の衝撃をもろに受けたので、状態はわからないが、息をしている事から、少なくとも2人とも生きている事がいえた。というより、そもそもそんな場合ではない。
今は私1人だけで軍人3人を相手しないといけないのだ。

軍人2人は一斉に銃弾を放つ。
私はそれを避け、振り向けざまに1人の軍人へと蹴りをかまし、気絶させた。
そしてもう1人の軍人がまた銃弾を放つも、私はまたそれを避け、彼に銃弾を放った。それは胸を直撃し、軍人の命を奪った。
「さて、あなたはどうしますか...?」
私はもう1人の、私を見ながら銃を構える事もできず、ただ絶望の表情のまま目を見開いている軍人に対して、交渉をするように冷静に話しかけた。
「すみません...逃げる私をどうかお許しください...!」
残った1人の軍人は何かに謝るようにそう言った後、車から身を投げた。
おそらく負傷は避けられていないだろうが、運が良ければ生きているだろう。
そして私は、倒れた軍人の服を剥ぎ、軍人に変装した。そして気絶しているフィ者達にも同様にそれを着せた。
そして私は運転席に座り、通信機に対してそう言った。
「侵入者は全員撃退成功しました。引き続き護送を継続致します。」
おそらくこの通信機器はトランシーバーのようになっているが、量産のためのコスト削減のためか音声はノイズが多く個人の識別ができなくなっているため、そもそも変声機を使う必要もないだろう。

私はしばらく車を走らせていた。
すると、向こうに光が見えた。もうすぐ要塞を出られるのであろう。
それは、それに見立てた朝日のようなものにすぎない人工の光にすぎなかった。だが、私はそれになにか明るいものを感じる事ができた。

「私とともに行きませんか?あなたを無法者にしたこんな世界が許せないでしょう?そして仲間の命すら奪った世界も許せないでしょう?」

「はぁ...」
フィシャはため息をついた後、こう続けた
「ミリィを奪ったのは世界じゃねえしお前だ...こんな言い方はつくづく腹立たしいな...」
この言葉には怒りを感じたが、同時にそれをぶつける場所がなく、ただ苦言を発しているようにも聞こえた。彼女の額には涙が伝っている。おそらくミリィという「かつて仲間だった」者の命を奪った私を憎みながらも、それは決して悪意のあるものでなかった事に対し、怒りをぶつける事ができないまま泣いているのだろう。
彼女は間をおいて、言葉を発しようと口を開いた。おそらく考えがまとまったのだろう。
「まぁ...いいぜ...もうイリーアの言うことにもついていけねえからな...それに私やミリィをこんな境遇に追いやった世界も許せねえ...だからその為ならなんだってやるさ...そもそも無法者になったのも生きる為ならなんだってやるの精神でやってきたし、今更足を洗うなんてできねえ。私も生きる為にたくさんの命を奪ってきたからな。」

「ありがとうございます。そして、おめでとうございます。今日からあなたは晴れて諜報員の仲間入りです。とはいえ、決していいものではありませんがねえ...」
私は微笑み、そう彼女に告げた。
諜報員、すなわちスパイは、結果や情報のためなら相手を欺く事だって平気でしないといけないのだ。
その結果がいくら偉大であったとしても、その過程は決して良いものになるとは限らない。

だが、確かに今日は旅立ちに最適な、明るい日にも思えた。
人をだましてばかりの私の汚れた目に、一筋の光が見えた気がした。
その光には、「これから世界を変えられるかもしれない」という期待があったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...