CREATED WORLD

猫手水晶

文字の大きさ
53 / 58
第3話

第3話 出発 (35)

しおりを挟む
またあの光景が目の前に広がってきた

僕は人の肌に包まれており、人工の物質ではなくなっている。

だけど僕の体をはっきりと認識する事はできない。自身の体すら、どんな姿だったのかわからない。
だが、肌のような生命を感じる有機物で構成された生物である、という事は認識する事はできた。
それは記憶の断片のようなデジャヴを感じた。だけどそれは記憶と呼べるものなのかもわからない、曖昧なものだった。

そして、僕の体が少しづつ薄くなり、やがて人のものではなくなっていく。
そして、僕の体は僕の魂から離れ、そして僕の体は僕の支配から抜けたように、どこかへ走っていってしまった。

そして、また孤独感と、僕が僕でなくなってしまうような、そして、体だけでなく、僕が魂と認識しているこの意識や精神すらなくなってしまうような気がして怖くなる。

そして、僕は目を覚ました。この機械仕掛けの体に涙は伝う事がなかったけど、泣きたくなった。そして、目の前がノイズでかすむ。いつもこんな夢を見るたびにこうなった。

鏡の向こうには、白い無機質で構成されたロボットが一体、ベッドから起き上がった寝起きの状態でこちらを見ていた。頭の上には長い耳が立っており、鼻もすこし出っ張っている。誰が好んでこんな不思議な肉体を授けたのか知らないが、これが今の僕なのだ。
はるか昔に存在していた動物、「ウサギ」というものをモデルにしているらしい。
でも正直それがなんなのかわからない。外には少なくともロボットしかいない。それに、その「ウサギ」とやらは、人間のように髪の毛のように形を整えたアタッチメントはついているのだろうか?そして、それにはロボットについているようなランプや、青く光る脈のような模様はついているのだろうか?そもそも「ウサギ」は生物なのか?
そして、人間にそんなにも似ているものなのか?「ウサギ」というものは二足歩行できるのかな?
そもそも、僕の体は、研究者やエンジニアのみんなとは違い、少年のような見た目と、「ウサギ」という得体の知れないものをブレンドした、二足歩行のロボットになっている。そして、その体には、シャツと黒いサスペンダーのショートパンツといった軽装をまとっている。僕はいつもそれに白いマントを羽織り、過ごしている。
開発者の趣味嗜好という可能性も否めないが、記憶がない僕にはなんともいえなかった。
だが、確かにこの肉体を僕が気に入っているっていうのは間違いではない。
この白い外装は、この「人工の新天地」では、そうそう取れた代物ではない高級品なのだろう。周りにいるサイボーグのエンジニアや研究者達がつけている義足や義手は、周りの資源からとっているのか、錆び付いた鉄や、プラスティックでできているものが多い。まぁダークエンジニアにこしらえさせたヤバいものに比べればマシではあるが、材料コストを抑えるために粗悪な材料で妥協しているのは伺う事ができた。

「リトゥ様、大変です!」
機械の腕をつけたエンジニアの声がし、僕は走って彼の案内する方向へと駆け足で進む。
テントの中に設置されたモニターには、周囲に強力な信号を感知したというアラートが、僕の頭の上にある耳のマイクをうるさく震わせていた。
「何さ...正気を失ったロボットがまたその辺をほっつき歩いているの...?」
僕は先程目を覚ました(この場合はスリープモードから起動したというべきか)ばかりなので、しっかりと僕の脳、つまりコンピュータが麻痺していたのか、この状況を把握できなかったけど、僕のコンピュータの処理速度が正気に戻ったとき、事態の深刻さを痛感した。

「もしかして...信号を受信したってこと...!?」
動揺のあまり目の前に一瞬ノイズがかかる。
「その通りですリトゥ様...時空の歪みの中に強大な信号を感知しました...!」
その信号はどっちのものなのだろうか。味方の救難信号だとしたら至急そこへ向かわなければならないが、敵対しているハッカーや、無法者達が僕達をおびき寄せるために発信しているものだとしたら、決してそこへ向かってはいけないという事になる。
最悪の場合、その場で宣戦布告をされてしまい、僕達だけではなく、僕達の国すら危うくなる恐れだってある。
「それは味方のもの...?それか敵のものかはわかる...?」
僕は冷静を保とうとしながら、震えるノイズ混じりの声で聞いた。動揺が隠しきれなかったみたいだ。
「わかりません...」
エンジニアはたった一言、頭をかかえてそう言った。

「わかったごめん...何か他に手がかりはあるかい...?」
「この前、関所を通り国を出た人物が、我々のキャラバン以外に2人だけいました...彼らの発する救難信号という可能性もあります...ですが、その信号の地点は敵対している勢力の要塞であり、確率は五分五分といった具合ですね...」
エンジニアは問いかけた僕に向かって、データを参照しながらそう言った。

「どうしますか...行きますか...?」
エンジニアは、僕に向かって問いかける。今僕には、キャラバンのみんなの命と責任を背負っているのだ。
僕は思わず震えた。自身がストレスが身体に影響を与えないロボットである事にむしろ安心するほど、緊張している。
僕達は時空の歪みの付近、高低差の多いリフトや建造物が入り組んだ林にいた。
そしてそこから400メートルほどの地点から時空の歪みが広がっており、その向こうは歪みで見えない。
その向こうはデータによると時空の歪みの始まりから200メートルほど向こうに要塞がある。わずか600メートルしかなく、逃げられる可能性もある。だが、全員の生還を考えると正直難しいものがある。また僕のせいで国民が命を失ってしまうかもしれない。そう考えると怖くて泣きたくなってくる。
だが、その距離だと、敵対する派閥の信号だったとしても、向こうから襲ってくる可能性もある。

だから僕はそう考えた。
行くべきだ、と。

「行こう。だけど命の危険を感じたら無理せず逃げてね...僕は少なくともみんなよりも丈夫だし、みんなを守れるよう僕も最善を尽くす。」
僕は全身機械でできた意識のある機械人間なので、コアさえやられなければ身体がやられて動けなくなったとしても、残った自我のデータは残るので体を直せば復旧させる事ができる。だが、みんなは別だ。僕みたいに完全に全身が機械だっていう者はこの国に他にいない。まあ顔以外の身体のほぼ全体を機械にしたっていう研究者も聞いた事はあるけど...
だから、みんなは身体をやられてしまえば、命はそこで終わってしまう。僕が最善を尽くさなければみんなを守ったり、被害を軽減させる事はできる。
だけど行ったとしても、少なくとも犠牲を出してしまうというのは考えられた。この人数を僕1人が守るには荷が重すぎる。そして、物理的にも不可能だった。彼ら自身も最善を尽くさなければならない。

僕はこう聞いた。
「僕はその判断でいくけど、みんなはどう...?みんなに委ねるよ...」

「いえ、私達はただリトゥ様の判断に従います。大丈夫ですよ。この世界、自分の身は自分で守らねばなりません。だからリトゥ様、1人でプレッシャーなんか感じないでくださいよ!」
エンジニアは僕を安心させるよう、笑ってこう言った。

「わかった。行こう。」
僕は一言、深呼吸をした後にそう言った。
「リトゥ様の意のままに。」
エンジニアは微笑み、僕に膝をついてお辞儀をし、こう言った。

僕は端末のマイクに向かってそう言った。
「先程600メートル先方、時空の歪みの中から強力な信号を受信しました。只今から私達はそちらへ向かう事にいたします。また、これは命令ではあります。ですが、みなさんの命の為、逃亡するのは自由であり、私はそれに干渉しません。」
僕はこう続ける。
「ただ、死なないでください。それだけです。」
その言葉はキャラバンを覆い尽くし、みんなに聞こえただろう。
その命令はただの僕の利己的なわがままだったのかもしれない。それでみんなの命が終わってしまうかもしれない。
だが、ただ1人のエンジニアの発言によって、そのプレッシャーが少し軽くなったような気がした。
そうだ。みんなが絶対に僕の命令に従わなければいけないわけじゃないんだ。ひとりひとりの国民の命はそれぞれ自身で守る事ができるんだ。だからこそ、独裁になってしまわないように、命令に従うか否かはみんなに託す事にした。
行く人が僕だけならばそれはそれでかまわない。少なくともみんなはそれで生き残れるから。

・リトゥのイラスト

キャラバンにいた20人程の約半数、10人程の人間が、要塞へと向かう事となった。
僕達はエンジニアや研究者と共に、リフトや工場の天井、煙突等が入り組んだ複雑な地形を分散して走っていた。
作戦としては、一方の仲間達が要塞へと侵入し、要塞内にいるであろう人物の特定と、交渉または負傷時の救出、もう一方の仲間達が要塞で起こったであろう事態によって、空間がバグった理由の特定そしてそのバグった空間をコントロールし、僕の進む道を作る。そして、僕がその空間のバグが起こった原因を掃討もしくは無力化する。という事になっていた。
空間がバグった原因については特定が追いついてないものの、通信を発した者にとって脅威になりうるものであろう事は想定できた。
空間がバグる原因には、爆発、空間の過剰なハッキング、そして、ロボットの干渉というものがある。そして、そのどれもが人間にとって危険な、命を奪われかねない重大な困難になるからだ。

「これから時の狭間へと飛び込みます!」
僕達は分散していながらも、同時に時の狭間の入り口をくぐった。
作戦にかけられる時間は、戦闘や救出に使うエネルギー量や個人の免疫によって時空の歪みの人体への影響を考慮して、わずか5分しかかけられない事になっている。
リフトの林を抜け、歪みへと足を踏み込んだ瞬間、景色は一変した。
歪んだ比較的平地になっている工場の大地に、歪んだ巨大な建造物が見える。
おそらくそこが要塞なのだろう。

仲間達はここにはいない。
なぜなら、入り組んだリフトの林で、分散して走っていたため、おそらく別の場所にワープしたのだろう。
下の階層にいるか、上方に建っている比較的高い工場の屋根の上か、中にいるのだろう。
仲間達は先行し、それぞれの入り口から要塞へと侵入する。
要塞は崩れ始めており、本来はセキュリティがかかっているゲートががら空きになっていたり、壁が崩れ穴になっていたり、そもそも空間が歪んでいるので、歪みから中に入れそうになっていた。だが、リスクとして崩壊に巻き込まれるリスクもある。だからこそ迅速に事を済ませなければならなかった。
僕は要塞と工場の屋根をつないでいたであろう、途切れた橋の上から、5メートル斜め下方にある空間の歪みに飛び込み、要塞へと侵入した。
僕は白い外装に中心の細長いコアが青く光る大剣を持ちながら走り続ける。僕の脚の速さと跳躍力といった素早さには自信があり、資源が限られているながらも燃費が良く、最高で時速100キロ以上を継続して出せるという強みがあった。

橋が崩れ始めたので、5メートル上方へと跳躍し、上のパイプへと飛び移る。
だが、それも当たったミサイルにより発火し、こちらへ猛スピードで爆炎を広げた。
僕は下方10メートルにある空間の歪みへと飛び込んだ。
次にきた空間は、閉塞的な空間で、後ろから猛スピードで大量のがれきが次々と落ち、この狭い廊下を埋め尽くそうとしていた。僕はスピードを上げ、迫り来るがれきから逃げ続けた。おそらく生身の人間であれば逃げられなかっただろう。ますますみんなの事が心配になった。
300メートル程走った頃、僕の目の前の空間が歪み、それにすかさず突っ込むと、次は開けた空間にいた。
僕はみんなが道を作ってくれていた事を察し、つかの間の安心を得た。
そんな安心もつかの間、僕はその空間で真っ逆さまに落ち始める。
なんとか体勢を立て直し、10メートル下の崩れかけの橋へと着地する。
向こうには、この強大な歪みを発生させた原因であろう、巨大なロボットが佇んでいた。
僕は傾き始める橋を走り、その橋から空中のがれきへと移る、そして、そのがれきから、またパイプへと飛び移った。
そして、ロボットからこちらへミサイルが発されているのを僕は見つけた。
とにかく、ロボットの弱点であろう、首の部分になんとか接近し、ミサイルに当たらないようにしつつ、落ちてしまわないように、空中のがれきや崩れかけの橋やパイプの上を走らなければいけない状態であった。

僕とロボットの距離は100メートル、その距離の空中をなんとか駆け抜けなければならなかった。
そして、僕のいるパイプにミサイルが衝突し、またしても爆炎があがる。
僕はなんとかして飛び、爆炎からは逃げられたものの、どこにも床も空間の歪みもない
このままでは落ちてしまう。
そんな事を考え始めたその時、10メートル斜め下方に空間の歪みが現れた。
僕はすかさず運よく落ちてきたがれきを蹴り、空中で方向転換をした後、一気に歪みへと飛び込んだ。

そして、僕はロボットから50メートルの距離にある傾いた橋の上にワープした。
だが、運悪くロボットがこちらに気付いたのか、ロボットはこちら向かって突進してきた。
まずい。
僕はすかさず橋から横に飛び、ロボットの巨体にぶつからずに済んだ。
僕は後方10メートルの地点にあるパイプへと飛び、そして、その崩れはじめのパイプの上を一気に駆け上がり、ロボットの頭上まで迫る。
パイプは崩れ始めてはいたものの、傾いていたのもあって、運よくロボットの頭上100メートルの地点までつながっていた。
だが、そのパイプはまもなく崩れてしまうであろうものだったので、僕はスピードを一気に上げて、その勢いのままパイプの最後の地点まで走り、そのまま跳んだ。
そして、一気にロボットの首めがけて跳び、大剣をロボットに向ける。
そして、僕の持つ大剣はロボットの首を引き裂き、内部のコアをも真っ二つにして貫通し、僕はその裂け目をくぐるように、ロボットの首の中だった空間を飛んでいた。
ロボットの中にあるコアは、青く光る球体をしており、僕の大剣はそれを中心をとらえて真っ二つにした。

この巨大なロボットを倒す方法としては、この方法が一番効率的で資源も集めやすい。
ロボットの弱点である、首の内部に位置するコアを正確に捉え、そしてそこを局所的に破壊すれば、ロボットを爆破させずにロボットを破壊する事ができる。首の部分が切れるだけであって、それ以外の部分は無事なので、資源集めをする点で考えても良い。だけど、そもそも倒し方を選んでいる余裕もないので、だいたいは首を攻撃して爆破させるって事のほうが多いらしいけど...
そもそも崩れ続ける要塞の中では資源を集める時間もなさそうなので逃げるしかなかった。

その後に、僕にまた次の困難が降りかかってきた。
僕は依然として落ち続けているのだ。僕には不運にも飛行能力はない。
だが、僕はこの耐久性に優れたしなやかな外装と、受け身のとりやすさから、上空100メートルまでなら落下が可能であった。
今一番近い足場は下方20メートルにある。
これなら受け身はとれる。
僕は全身を空中で横に傾け、なるべく体と足場との接地面積をなるべく広くして構える。
僕の体は地面に一直線に落ち続ける。
戦闘時に何回もこんな場面に遭遇した事はあるけど、いまだにそれには恐怖を感じるし慣れないものだった。

そして、僕の体は地面を弾いた。衝突したのだ。
だが、僕の体は無傷だった。衝突したとはいえ、僕の外装は、機械とは思えないほどに滑らかに衝撃を受け止めたのだ。衝撃を緩和させるため、外装は柔らかい皮膚のような金属でできているからだ。部位損傷を警告するウィンドウも僕の視界には表示されていない。
僕は地面を転がり、そのすぐ後に立ち上がって、落ちた勢いと爆風を生かしてさらにスピードをあげて走り続けた。
僕のスピードもそうだが、要塞が崩れる激しさも増しているようで、がれきが落ち続ける音は、僕のマイクを音割れさせ、時々キーという大きく鋭いハウリングの音が鳴り響くほどにうるさく、急いで音量を下げなければ精神がやられそうだった。

このままでは僕のいるこの足場すら崩れ落ちてしまうだろう。果たしてみんなは大丈夫なのかな。
僕は時速を50キロまであげ、崩れる500メートルの橋を駆けた後、そこから右上方へ10メートル跳び、そしてその地点にある落ち続けるがれきを蹴ってさらに跳んだ。
そして、さらに10メートル上方のパイプへと飛び移った。
そして、そのパイプはまたギギーという音と共に傾き始めた。
僕はまたそこを200メートル走った。だがその時、上から大きながれきが落ちているのが見えた。
僕は後ろ上方10メートル程跳び、周りにあった崩れたパイプの残骸を蹴り、そこから前方5メートルにあるがれきの上に飛び移った。そして、そこからさらに5メートル上の巨大な橋へと飛び移った。
そして僕は、崩れゆく長い長い一直線の橋の上をスピードを上げながらただ走り続けた。
なぜなら、その向こうには外から差し込む光が見えたからだった。
僕の速さはやがて時速100キロを超える。この速さになると、周りの景色すらものすごい速さで流れていくように見える。もう今の僕にはがれきとか足場の情報を正確に捉えられていない。
僕の眼前には、スピードが著しく早い事への警告のウィンドウが表示されていた。だけど、もう今となってはそのウィンドウも邪魔でしかなかった。
だけど、それと同時に橋は崩れ、つぎはぎとなった。また、上からもがれきの雨が降りしきる。
僕はそれを無視して、一気にその勢いのまま、橋の途切れた場所すら落ちずに水平に走り続けいていた。そもそもこの速さでは、急な方向転換は困難だし、無理に方向転換をすると、僕の燃料の過活動によって、発熱を起こしてしまうことすらありえる。最悪自爆のリスクもあり、下手するとコアにすら悪影響を与えかねない。
なんとか出口から100メートルの地点までさしかかった時、またしても困難が降りかかった。
高さが足りないのだ。また、背後5メートルでは、パイプが爆炎をあげ始めていた。
この速さでは無理な方向転換はできない。しかも、背後の爆発に巻き込まれるリスクもある。なら方法はひとつしかなかった。
この20メートルある高さの空間をひとっ飛びで飛ばなくてはならない。幸い上には降りしきるがれきの雨が空中に舞っている。そして、幸か不幸か、後ろの爆風すら生かす事もできるかもしれない。もう賭けるしかないだろう。
僕はスピードを落とさずに、斜め上方へ体を飛ばした。
そして、先程起こったであろう爆発の爆風が、一気に僕の体を押した。今の僕の速さはとてつもないものになっているのだろう。メーターが振り切っているのでわからないけど、おそらく時速150キロはいってる。
先程の橋から上方10メートルの地点まで飛んだ。早すぎて認識する事ができなかったが、僕の計算ではこの地点にがれきがある。

僕は視界ではない、もう1つの位置関係を感知するセンサーを張り巡らせ、周りの空間を把握する。
僕は目を閉じると、時空の形を感知するもう一つの感覚を覚ますことができるんだ。だけど、それを使うとエネルギー使用量が急激に増え、燃費が悪くなってしまうのでしょっちゅうは使えない。
僕にはグリッドで生成されているように見えている、がれきと思われる物体に足を置き、そして他のがれきにぶつからない最善の進路を計算し、そして跳んだ。
そして、目の前に一筋の線が一直線に見えた。適切なルートが概算できたのだ。
ここだ。
僕はすかさず跳び、先方30メートルの地点にある出口と思われる光へと、ルート通りにスピードを上げながら向かっていった。
グリッドの格子で見えている、がれきをくぐり抜けるたびに、僕は恐怖心に苛まれた。
実際に視覚で捉えているわけではないが、だからこそこのグリッドにぶつかればひとたまりもないというのを考えると怖くて仕方ない。まだ今は止むを得ない状態であり、生物でいう所のドーパミンのような、緊急時における興奮を促すプログラムがあったおかげでかえって冷静にいられたけど。

僕は風と共に、スピードを上げながら出口をくぐった。
僕は視界を戻すと、出口の外の空間が見えた。
そして、上空50メートルの、高い空中へと放り投げられた。
僕は少しでも前に進めるよう。液体に飛び込むように、姿勢を変えて空気抵抗を少なくした。
そして数秒後、斜め下方40メートルの地点に僕は受け身をとりながら、工場の屋根に身体を弾いて、そのまま転がった後、時速100キロ程の速さで再び屋根を蹴って走り出す。
僕は少しづつスピードを落としながら走り続けた。
僕は崩れゆく要塞を、走りながら眺めていた。もうすでに要塞としての形は残っておらず、ただ崩れゆく石の塊と化していた。
果たしてみんなは無事なのだろうか。
そんな事を思いながら、僕は少しづつスピードを落としながら走る。
走っている途中、僕はこのままではスピードを落としきれない事をさとった。
このままではキャラバンに突っ込んでしまう。最悪の場合仲間を轢きかねない。
僕は右斜めへ方向転換し、おそらく何もないであろう、貨物テントのほうへと向かった。おそらくこちらのテントには、人間もいないし、デリケートな機械の類はないであろう。

僕は時空の歪みに向かって走り、狭間を抜け、リフトの林を跳びながら可能な限り少しづつスピードを下げていき、そして、1つの空中につり下がっている1つのリフトに壁を破って突っ込んだ。

僕の背中に衝撃が走る。ぶつかった場所がクッション質だったので無傷で済んだけど。それでもこれ程の衝撃が外装を弾いたということは、やっぱりものすごい速さで走っていたということだろう。
そこは布団や食料を格納している場所であり、布団の山がクッションの役割を果たして僕の事を受け止めてくれていた。
僕はリフトのレバーを引き、10メートル程上昇した。
そして開いたスライド式自動ドアから出て、僕達が一時的に拠点としている、リフトの林の空中に、ツリーハウスのように佇む大きな四角い建造物へと橋をつたって移動した。この辺は立体的にリフトで複雑につながっていて、もし緊急時に何かあったとしても分散して逃げやすいという利点があった。前線の中心基地はその建造物だけど、研究者やエンジニア達はそこではなく、周りのリフトで過ごしている。

そして、そこには、先程僕と話していた、要塞に向かって一緒に出動した1人のエンジニアが、包帯で覆われた足を引きずりながら僕に対峙していた。
そして、彼のうつむき、無表情を貫こうとするも涙がこぼれ落ちている表情から僕はさとった。
犠牲は免れなかったのだ。
彼が言うには、5人は帰還したものの軽傷含め全員が傷を負っており、そして5人が行方不明とのことだった。
10人が全員分散して1人づつ動いていたため、生死は不明とのことだった。
5人はどこにいったかすらわからなくなっちゃった。もしかすると、この世にすらいなくなってしまったのかもしれない。そう考えると、目の前がノイズで覆われて何も見えなくなった。

これが起こってしまった原因は、少なくとも僕にあって、その責任も僕にあることはわかっていた。僕の発言力の大きさが、他の人々の命すら奪いかねない事に、僕はまた怖くなって泣きたくなった。

そして、エンジニアは僕に向かって話を続ける。
「ですが、少なくとも成果はございました。このロボットが輸送した、5人の人物の救出に成功しました...」
彼は僕をなだめるようにそう言った。少なくとも僕の発言はこの5人の人物の命を救ったという事を、エンジニアは教えてくれたんだ。
逆関節の足が動く机のような、数体の輸送用ロボットの背の上には、合計5人の人物が気絶したまま横たわっていた。
全員いずれも打撲や、多くの切り傷を負っており、要塞であった事がどれほど過酷であったのかを物語っていた。
囚人服の女性が2人、白衣の男性とサイボーグ、そして、オーバーオールの女性が1人。
白衣の男性とサイボーグは、僕の国の人物として登録された、友好的な人物であると認識できたので、一安心できた。まさかばったり顔以外の身体の大半を機械にしているサイボーグに会うとはさすがに思わなかったが、彼は有能な科学者、クレッチュマー博士だっていう事は一目でわかった。そして、そのそばにいる白衣の男性からも、敵対している感じは見受けられなかった。
そして、最も僕が疑問に感じたのは、囚人服の女性のほうだった。
1人の囚人は無法者である事がわかった。だが、彼女と共に行動していたとみられる、もう1人の囚人は、コルートの首相である、ミサであった。
僕は混乱した。なんで一国の首相が囚人として捕まっていて、そして無法者とつるんでいるんだろう...?と
まあ無法者も根っから悪い人っていう風には言えないのはわかっている。だけど、良い人として知られているミサが、突然囚人として捕まっているとわかると、不自然でしかないし、それには複雑に政治的だったりいろいろな事情がありそうな感じがした。

色々聞きたい事はあるが、完全に信用できるとは言えなかったから、僕は離れたリフトで話をする事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...