CREATED WORLD

猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (36)

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僕は使われなくなった、古い巨大なリフトの中に、先程救出に成功した要塞の中にいた人物を輸送し、そして手当てしていた。
僕は数人の研究者と共に手当てをしている中で、こんな事を考えていた。
もしかすると、ミサが囚人服姿で要塞にいたのは、この前に起こった同盟国会議で起こった、あの騒動が原因だったのではないか、と。
公には交渉が決裂し、ひとつの国が脱退したとしか報じられていないが、その現場はそれどころではないほど凄惨な状況だった。
死人がでたのだ。この交渉の場で。
コルートの首相の代理である、ドリスという政治家が、ジカルクの首相の率いる軍隊に直接銃弾の雨に打たれ、散っていった。
周りにいた首相達は、いまにも叫び声をあげたい思いであったかもしれない。だけど、そんな事をしたら自身の身はおろか、自身が収める国や入植地すらも攻撃されかねないので、ただその空間は冷たい静寂に包まれていた。
襲われたドリスという男は、首相であるミサの代理として出席していたそうなので、ミサがジカルクの公安組織に狙われるのも不思議ではないといえる。
おそらくはそうだろう、そうだったらまだいいのだけれど。
数時間後、1人の人物が目を覚ました。
それは僕が一番話を聞きたかった囚人服の女性の1人である、ミサであった。
彼女は僕を見ると同時に、急に身を翻し、怯えた表情のまま後ずさり、そして逃げようとする。
まぁ、この世界で急に見知らぬ全身機械人間に連れ去られ、そして目を覚ましたら顔上にそれがいるというのは、脅威でしかないだろう。
なぜ僕は国のリーダーなのに顔を知られていないのかというと、他国にはおろか、国民すらこの僕が首相だという事を知らないからだ。
なぜかというと、こんな子供の姿をしたロボットが首相を務めていると知られれば、僕をハッキングしようと敵対組織が一気に動き出してしまう事が予測できるからだ。
国内に敵対組織のスパイが潜伏していても不思議ではない。
「まっ...まずは話をしましょう...!僕はマーキナという国の首相、リトゥといいます...」
僕が嘘をついているのか疑っているのか、まだ彼女は震えながら警戒しているのか、まだ彼女の息があがっており、そして激しく震えている。
武器が回収されており、そして出口の戸が鍵をかけられているのを確認すると、彼女は手をあげてそう言った。
「もしその話が本当なら少なくとも君は私とは敵対していないな...私をここに閉じ込めて何を話したいんだ...?」

「私はあなたに伝えたい事があってここに送りました...残念ながら、少なくとも良い情報とはいえません。ですが、落ち着いて聞いて下さい。」
この話を聞くと、この女性、ミサは冷静さを失ってしまう程のショックを受けてしまうかもしれない。だが、僕は真実を伝えようと思う。

「誠に残念な事ですが、お伝えいたします...」
僕は一息置いてからそれを告げる。
「あなたの代理として同盟国会議に出席していた、ドリスという男性は、つい先日に亡くなられました...」


ーーーーーーーーー


「ドリスという男性は、つい先日に亡くなられました...」
見知らぬロボットに突然告げられた事実は、あまりにも残酷なものだった。

私が目を覚ますとそこは室内であり、周りがどうなっているかはわからないものの、何者かの拠点であろう場所のベッドの上で私は横たわっていたようだ。あいにく私にはイリーアにおぶられ逃げていた所から記憶がない。
そういえば彼女は今大丈夫なのだろうか。
だが今は意識がもうろうとしており周りが見えていないのか、それを確認する事はできなかった。
私は目の前にいるロボットに対し恐怖をおぼえ、息があがったまま後ずさりをした。

今までロボットには散々な目に遭わされてきたので、もしかするとこのロボットも私に攻撃してくるかもしれないと感じたからだ。
私は慌ててオーバーオールのポケットをまさぐるが、持っていた銃はそこに無かった。
私は恐怖を感じ、慌ててベッドを飛び出し出口を探すも、入り口は施錠されていた。
これはヤバい、監禁されてしまったかもしれない。
ロボットはゆっくりとした足取りで私に近づいてくる。
私は恐怖のあまり何も喋れなくなり、震えながら追い詰められることしかできなかった。
だが、そのロボットは私に攻撃してくるでもなく、口を動かし何かを訴えかけている様子であった。
狡猾に騙し、私を使おうとしているという可能性も否めなかったが、とりあえず彼の話を聞くことにした。
少なくともこの場で冷静ではないのは私なので、少しづつ息を落ち着かせ、正気を取り戻すよう努めた。

少しづつ彼の言っている事が聞き取れるようになってきた頃、耳をかすめたのは、本当かどうか疑いたくなるような、辛い内容だった。
「ドリス...先日...亡くなられ...た...」
正気が戻りきっていなかったのか、聞こえたのはつぎはぎの言葉だったが、その意味を私はさとった。
そしてそれが衝撃的なあまり、私は一気に意識を現実に戻された。
「え...?ドリスがなんだって...?」

あのドリスが死んだ...?今確かにそう言ったような...
だけどありえないじゃん...平和であるはずの同盟国会議で、出席者の命が奪われるなんて事はなかったし前代未聞だ。

「ドリスさんが...亡くなられました...」
ロボットが再度放った言葉は、やはりそうであった。

彼は政治が苦手な私の代わりに、他国とのいざこざや自国の政治について率先して取り組んでくれた。いわば摂政のような人物だった。
そして、彼がいなければ今の私もいなかった。
かつて200年前に起きた光の革命、その現場である研究所で私達は働かされていた。
そして、そこから脱出する中、ロボットに襲われた。その時彼はリーシャと共に率先しておとりを担ってくれたおかげで、私達は脱出する事ができた。そして、その2人も生還を果たす事ができた。そして、特にリーシャとは現在とても親密な関係にある。
そして、その同盟国会議の無線を聞いていたのもそのリーシャだった。
ドリスは最期に、無線を聞いているリーシャに対し愛を告げたらしい。
リーシャにとっては私とは比べものにならないほど、ショックな事だっただろう。

私はそれを引き起こした張本人だったのだ。
よかれと思って彼を同盟国会議に出席させ、見せしめとして命を散らした。
私のせいだったんだ。
私は首相としてのとてつもなく重い責任に押しつぶされそうになり、そして感情が暗い悲しみに覆われた。
せめて私が会議に出席していたのなら、命を散らすのは私で済んだ。なのに私は無慈悲にも仲間の命を奪い、そして彼と親密だった人物の心に深い傷を残してしまった。
首相というのは、その判断で人の命を左右する。そして、私は誤った判断により命を奪ってしまったのだ。

わたしの眼前には涙がにじんだ。
こんな世界でも比較的安全な居住区を作ろうとしていた私だったが、結局私は仲間の命を奪ってしまった。

私はベッドの上でうずくまり、ロボットから目をそらした。
1人でいたかった。
すると、背中に急に温かい感触が触れるのを感じた。
うずくまる私の頭にあごをのせ、そして抱きつくように私を包み込む。
後ろを振り向くと、そこには彼女がいた。

「おかえり、ミサ。」
カンフィナだ。
私は彼女を見て、また違う意味で涙をこぼした。
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