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第5章 機械の国とウサギ王子
1 決意と出発 (1)
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私が絶望の中にいるときふと背後に体温を感じ、後ろを振り向くと、そこにはカンフィナがいた。
「おかえり、ミサ」
彼女は私を抱きしめて、ただ一言そう言った。
私のせいで1人の命が失われてしまったというのに、私は目の前にいる相棒の存在を感じ、不思議と安堵がこぼれ、私の額には涙がこぼれた。
あの時に起こってしまった事の責任は私にあるのは確かだ。だが、そう責めたてる理性とは裏腹に、私の本能は、ただカンフィナの生存への喜びと、彼女はきっと許してくれるだろうという依存心のようなものを感じていた。
私は自身の無責任さを恥じながらも、私の崩れかけていた精神がそれによって保たれたという実感があった。
「こちらこそ...おかえり、カンフィナ」
私は彼女に向き直り、自身の涙が彼女のオーバーオールを濡らすのを感じながら、抱擁し返した。
私は、子供のようにカンフィナに抱きしめられたまま泣いていたのだ。
私の涙が引いてきた頃、私の横からもう一つの声が聞こえた。
「いってーな...なんか頭クラクラするな...」
イリーアだ。
私は彼女に感謝を伝えにベッドを立とうとするも、イリーアは別の方向を見ていた。
目の前に先程の少年ロボットを見ていたのだ。彼女はすかさず銃口をロボットに向けた。
もうろうとした意識とぼんやりした視界の中、反射神経を研ぎ澄まし、得体のしれないものに対してすぐに武器を向けるという鋭さにはさすがという他なかった。
そして彼女はロボットにこう言い放った。
「オメーは一体何者なんだー?すぐに答えろー。」
私はロボットの事を哀れに思った。まあイリーアならロボットに向かってそうする事もわかっていたが、彼女特有の静かに脅す影のかかった顔を向けられた少年の姿にはさすがに目を当てられなかった。
「僕は...あなた達の救助を行い...ここへ連れてきた技術者キャラバンの...リトゥっていいます...」
そして、イリーアは周りを見渡して急に銃口を下ろした。
なぜ急に彼女が彼の主張に折れたのか一瞬疑問に思ったが、周りの光景をみれば明らかであった。
周りには彼の配下とみられる、体の一部を機械にしたエンジニア達や、白衣を着た研究者たちがイリーアに向けピストルやアサルトライフル、ましてやサブマシンガンまで彼女に向けており、過剰とも言えるほどの数の銃口がイリーアに向かっていたからだ。
そしてイリーアはその異様な光景に、このリトゥという少年が何者かという事をだいたいさとったのだろう。
「オメー、よっぽどかわいがられてるのか、偉いヤツなのか知らねーけどよ...少なくとも今敵対すべきじゃねえってのはわかったぜー...」
リトゥという少年に敵対する事があれば、この場でハチノスにされてしまうのは明らかだった。
そしてイリーアは口調を影のかかった脅しから、無法者のトップに対して行うような、乱暴だが敬意の感じるものに変え、こう言った。
「急に銃口なんか向けてすまない、どうかこの事は水に流してくれねえか。金銭や仕事といった条件は汲むからよ。」
やはりイリーアは本当に緊迫した場面になると特有の伸びた口調はなくなるようだ。
そして、少年はこう言った。
「まあ、元々ミサさん達にお願いしたい事はございましたが、あなた達にも協力してもらいます。それで無かったことにするのでご安心ください。」
「ありがとうございやす。」
イリーアは深く頭を下げてそう言った。
そしてイリーアは顔をあげ、ロボットに対してこう言った。
「そのお願いを聞く前にミサ達と話したい事があるんだが、少しこのリフトを出て表で2人になってもいいでしょーかー?」
伸びた口調が戻った事に拍子抜けしたが、その後私の背筋に寒気がはしった。
一度助け合った仲とはいえ、相手は一つの無法者のグループのリーダーだ。さっきみたいに突然銃口を向けられてもおかしくない。
イリーアは彼に了承を得た後、私の囚人服の裾を引っ張りながら、リフトの出口に歩き出した。カンフィナが制止しようとしたが、イリーアが彼女に目を向けたとたん彼女は萎縮し退いた。
そして、私達の眼前でリフトの出口の機械扉がキーという嫌な音と共に開いた。
そして、しばらく階段を降りた後にあるリフトが頭上に見える金網の橋の上へと連れていかれた。だが、階段を降りた後も未だに下にはリフトが無数につり下がる空間が広がっており、それは私達が木の枝を伝う小さな生き物のようなものにすら思えるほど巨大で壮観な光景だった。今までは比較的に地面(実際には工場の屋根だが)といえるようなものがあったが、ここにはそういったものはなく、足場といえばつり下がったリフトや、今歩いているリフト間をつなぐ橋だけだった。
だが、今はそんな光景に心奪われている場合ではないという事も明白だった。
無法者のグループは仲良し組などではなく完全に利害の一致で動いている集団だ。昨日の友は今日の敵、なんてのも普通にありえる。だからここで私を消そうとしてもおかしくはない。
監獄の中、軍人に呼び出され薄暗い廊下を歩かされた時と同じ様な恐ろしい感覚が私を襲った。
この先で私の命が終わってしまうかもしれない。そう考えると体が震え、額には冷や汗がつたった。
そして、この静かな空間の中歩いている時間はとてつもなく長く感じた。
私達がリフトを出発してから10数分後、橋を歩き続けた先には、リフトが密集し入り組んだ人気のない暗い場所へとさしかかった時、イリーアは足を止めた。
そして、彼女は時間をかけた事により油断していたであろう監視のみずおちを瞬時に肘で打ち、気絶させた。そして、脳機能が一時的に休止した事による機械部分の停止も、カメラにしてある目の動きの停止を覗いて確認した。
そして、彼女は周りを見渡した後に、私に銃口を向けた。
予想通りの展開だった。
だが、不思議と今度の私は彼女に対して冷静でいられた。そんな気がした。
「おかえり、ミサ」
彼女は私を抱きしめて、ただ一言そう言った。
私のせいで1人の命が失われてしまったというのに、私は目の前にいる相棒の存在を感じ、不思議と安堵がこぼれ、私の額には涙がこぼれた。
あの時に起こってしまった事の責任は私にあるのは確かだ。だが、そう責めたてる理性とは裏腹に、私の本能は、ただカンフィナの生存への喜びと、彼女はきっと許してくれるだろうという依存心のようなものを感じていた。
私は自身の無責任さを恥じながらも、私の崩れかけていた精神がそれによって保たれたという実感があった。
「こちらこそ...おかえり、カンフィナ」
私は彼女に向き直り、自身の涙が彼女のオーバーオールを濡らすのを感じながら、抱擁し返した。
私は、子供のようにカンフィナに抱きしめられたまま泣いていたのだ。
私の涙が引いてきた頃、私の横からもう一つの声が聞こえた。
「いってーな...なんか頭クラクラするな...」
イリーアだ。
私は彼女に感謝を伝えにベッドを立とうとするも、イリーアは別の方向を見ていた。
目の前に先程の少年ロボットを見ていたのだ。彼女はすかさず銃口をロボットに向けた。
もうろうとした意識とぼんやりした視界の中、反射神経を研ぎ澄まし、得体のしれないものに対してすぐに武器を向けるという鋭さにはさすがという他なかった。
そして彼女はロボットにこう言い放った。
「オメーは一体何者なんだー?すぐに答えろー。」
私はロボットの事を哀れに思った。まあイリーアならロボットに向かってそうする事もわかっていたが、彼女特有の静かに脅す影のかかった顔を向けられた少年の姿にはさすがに目を当てられなかった。
「僕は...あなた達の救助を行い...ここへ連れてきた技術者キャラバンの...リトゥっていいます...」
そして、イリーアは周りを見渡して急に銃口を下ろした。
なぜ急に彼女が彼の主張に折れたのか一瞬疑問に思ったが、周りの光景をみれば明らかであった。
周りには彼の配下とみられる、体の一部を機械にしたエンジニア達や、白衣を着た研究者たちがイリーアに向けピストルやアサルトライフル、ましてやサブマシンガンまで彼女に向けており、過剰とも言えるほどの数の銃口がイリーアに向かっていたからだ。
そしてイリーアはその異様な光景に、このリトゥという少年が何者かという事をだいたいさとったのだろう。
「オメー、よっぽどかわいがられてるのか、偉いヤツなのか知らねーけどよ...少なくとも今敵対すべきじゃねえってのはわかったぜー...」
リトゥという少年に敵対する事があれば、この場でハチノスにされてしまうのは明らかだった。
そしてイリーアは口調を影のかかった脅しから、無法者のトップに対して行うような、乱暴だが敬意の感じるものに変え、こう言った。
「急に銃口なんか向けてすまない、どうかこの事は水に流してくれねえか。金銭や仕事といった条件は汲むからよ。」
やはりイリーアは本当に緊迫した場面になると特有の伸びた口調はなくなるようだ。
そして、少年はこう言った。
「まあ、元々ミサさん達にお願いしたい事はございましたが、あなた達にも協力してもらいます。それで無かったことにするのでご安心ください。」
「ありがとうございやす。」
イリーアは深く頭を下げてそう言った。
そしてイリーアは顔をあげ、ロボットに対してこう言った。
「そのお願いを聞く前にミサ達と話したい事があるんだが、少しこのリフトを出て表で2人になってもいいでしょーかー?」
伸びた口調が戻った事に拍子抜けしたが、その後私の背筋に寒気がはしった。
一度助け合った仲とはいえ、相手は一つの無法者のグループのリーダーだ。さっきみたいに突然銃口を向けられてもおかしくない。
イリーアは彼に了承を得た後、私の囚人服の裾を引っ張りながら、リフトの出口に歩き出した。カンフィナが制止しようとしたが、イリーアが彼女に目を向けたとたん彼女は萎縮し退いた。
そして、私達の眼前でリフトの出口の機械扉がキーという嫌な音と共に開いた。
そして、しばらく階段を降りた後にあるリフトが頭上に見える金網の橋の上へと連れていかれた。だが、階段を降りた後も未だに下にはリフトが無数につり下がる空間が広がっており、それは私達が木の枝を伝う小さな生き物のようなものにすら思えるほど巨大で壮観な光景だった。今までは比較的に地面(実際には工場の屋根だが)といえるようなものがあったが、ここにはそういったものはなく、足場といえばつり下がったリフトや、今歩いているリフト間をつなぐ橋だけだった。
だが、今はそんな光景に心奪われている場合ではないという事も明白だった。
無法者のグループは仲良し組などではなく完全に利害の一致で動いている集団だ。昨日の友は今日の敵、なんてのも普通にありえる。だからここで私を消そうとしてもおかしくはない。
監獄の中、軍人に呼び出され薄暗い廊下を歩かされた時と同じ様な恐ろしい感覚が私を襲った。
この先で私の命が終わってしまうかもしれない。そう考えると体が震え、額には冷や汗がつたった。
そして、この静かな空間の中歩いている時間はとてつもなく長く感じた。
私達がリフトを出発してから10数分後、橋を歩き続けた先には、リフトが密集し入り組んだ人気のない暗い場所へとさしかかった時、イリーアは足を止めた。
そして、彼女は時間をかけた事により油断していたであろう監視のみずおちを瞬時に肘で打ち、気絶させた。そして、脳機能が一時的に休止した事による機械部分の停止も、カメラにしてある目の動きの停止を覗いて確認した。
そして、彼女は周りを見渡した後に、私に銃口を向けた。
予想通りの展開だった。
だが、不思議と今度の私は彼女に対して冷静でいられた。そんな気がした。
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