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護衛と季節雨編
32話 砂漠の戦
しおりを挟む黒鳶国、それは熱砂楼連邦を超えてある蹄鉄連合国の一国である。たしかに場所的には熱砂楼と面している場所にある国。けど、今いる場所とは逆側のはずだ。
飛び起きた僕は、バッと顔を向けると同じ天幕にいて、今起きただろうシュウエンと目が合う。
「敵襲か」
「はい、早く向かわないと」
シュウエンの問いかけに返事をし、僕は反射的に天幕から飛び出した。
「はあ!? まじぃ!?」
「ルオ起きてください!!」
「ううっ、ぁ、お、きてる……」
外に出ると焦った声のハオジュン、ルオを起こしてるだろうジョウシェンと、寝ぼけたルオの声が聞こえてくる。
しかし、それよりも目の前に広がる光景に絶句するしかなかった。
カタッ ガタ、ガチャッ、ガタガチャガガガチャタガカタ!!!!
おびただしい数の骸骨たちが、骨をぶつけ、鳴らし、砂漠から這い出てきている。しかも、骨に残った血肉の腐敗した匂いなのか、砂風にの乗って吐き気を催す匂いが漂ってきた。
「なんて臭いっ……!」
「人の肉の腐敗臭とは懐かしいな」
ジョウシェンの悲鳴に近い声と、ルオの気が抜けそうな言葉が聞こえる。僕は、まだ花用の肥料のほうが良いと思いつつ、砂が舞う視界で目をぐっと顰める。
もちろん、ただ這いずり出てくるだけなら良いだろう。残念ながら、その骸骨の手には様々な禍々しい得物が握られていた。錆びついた、刃毀れも甚だしいそれらは、整えられた刃とは違う危さを持っている。
それをグユウの龍とジンイーの龍が対峙していた。
「ジャヨ、骸骨兵士ども粉砕しつづけろ! 全方位だぞ!!」
ジンイーの指示で、ジャヨの身体は何度もしならせながら、骸骨兵士たちをその尾鰭で粉砕していく。
ガジャン!! ガジャンッ!!!
砂と骨粉がその動きの波動に合わせて、邪魔するように舞った。
龍らしい随分な力技で、多くの骸骨が粉々にしていく。しかし、その龍の猛攻でも、打ちそこねた骸骨たちもいる。それを、ジンイーの鋼の大鎚が片っ端から潰しいていた。
その間、グユウは牛車を守るようにシュイシュイによる水の膜で護衛へと回っている。そちらにも勿論骸骨兵士たちが何体も襲っているが、膜の中からグユウの剣が水を纏い、兵士たちを切り刻みつつ、水流でふっ飛ばしていく。
「新人ども! 今はとにかく、こっちに漏れてきたやつを仙力でぶち抜け。できなきゃ、必死に武器やら龍やら呼び出してみろ! ハオジュン! グユウの方へ! 牛車抱えて、熱砂楼の“大蛇市”へ飛べ!!!」
シュウエンの無茶振りに近い指示が飛ぶ。あまりのことで驚きのあまりシュウエンの方を振り向くが、時は一刻を争う。
「おう! モグィ!!!! グユウのところに!!!!」
僕は思わずその声が響く方へと向いてしまう。声の主であるハオジュンは、黒鉄の大斧をグユウの方へと投げた。その斧は次第に龍となり、グユウの元へと届く。
「リュウユウ! 前を向け! 来るぞ!!!」
「え!! あ!! わああぁ!」
よそ見していた僕は、ルオの言葉に慌てて前を向く。そこには、ジンイーさんの猛攻を掻い潜った骸骨兵士が二体。僕は慌てて、自分の金丹から仙力を放出させた。
ガシャンッ!
ガシャンッ!!
一体は自分の仙力で何とか肋骨から上を飛ばす。そして、もう一体は、上から何かで撃ち抜かれた。
「新人たち! よそ見するなよ!!! 俺は完全に術を止めるために、黒鳶の狂った奴ら探し出してくる!!!」
その鎖の先にいた、不思議な弓のような何かを持ったシュウエンはすでにダァジに乗り込み、空に飛んでいく。
言われたとおりに、やるしかない。
「二人共、やろう」
気合を入れて、近くにいるはずの二人に言う。
「ああ、まさか初任務がこんなことになるとは」
「本当に、こうなったら、砂漠の中泳いででも熱砂楼に行かないとな」
嘆きながらも覚悟の決まったジョウシェンの言葉に、ルオはこの状況で冗談を返した。
前で大鎚を振るうジンイーにも、確実に体力や集中、なによりも対処できる数がある。少しずつ、破りそこねた骸骨兵士たちがこちらに向かってきた。ルオ、ジョウシェンと近寄りお互いの背中を預け合う。
「はああああ!!!!」
ガシャンっっ!!!!
ルオの一撃は大きく、まとめて骨たちが仙力にふっ飛ばされる。
「右からくるよ!!」
「なるほど、放出!!!!」
「足元!!!」
「ジョウシェン、仙力で覆って、足で砕いてください!!」
仙力が一番あるルオが、大きく放出をし続け、ジョウシェンは撃ち漏らしを処理をする。僕はこの二人より目はいいので、指示を出しながら二人の手助けに回る。
ガチャガチャガチャ!!!
撃つたびに骨同士がぶつかり、派手な音が不気味を通り越し、気持ち悪いくらいに鳴り響く。
もう、作戦はない。シュウエンが何かを探しにいったので、それを頼りだろう。とにかく、今は自分たちの命を優先して、我武者羅にやるしかない。僕たちはとになく、仙力を体から捻り出しては、骸骨兵士を破壊し、力が枯渇し始めたら、骸骨兵士の剣を奪って、無理やり骨を粉砕する。
そうしていると、バサリっと大きな風が吹いた。自分の視界に丁度モグィが牛車を持ち上げ、空に飛び上がったのが見えた。ハオジュンはそのモグィの尻尾に捕まって飛んでいく。
少なくとも、これで任務は!
僕は自分の足にしがみつく骸骨の、頭蓋骨を足で粉砕しながら、どこか安堵した。
しかし、そう思ったのはつかの間だった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!!!!!!
無数の骸骨が、骸骨の破片がモグィが飛ぶ方へと追いかけて行き始める。しかも、身体で階段を作っていくではないか。その勢いは、龍の飛ぶ速度を確実に捉え、高度を上げていくモグィに近づいていく。
尻尾にしがみついていたハオジュンも気づいたのだろうか、黒鉄の斧を振るって、炎を放っていた。炎は勿論骨を粉々にするが、それでもなおこの砂漠の下から骨が這いずり出てくる。
モグィは高度を上げていくが、まさに攻防戦。ジャヨが粉砕してるから少しばかりこちらに妙光が見えてくる。
でも。
「いっ!! まじか!!!」
僕の足を掴む骸骨の手。それを仙力を纏った足で叩き割る。体の強化に繋がるとはいえ、足で骨を踏み潰すのは感触も、力も至難の業だ。
どうすれば。
「チッ! 新人ども! これから気合入れろよ!!! ジャヨ、あの階段粉砕しろぉ!!!」
ジンイーがジャヨを使い、骸骨階段を壊しにかかる。しかし、その骸骨階段はすぐに直ってしまう。シュイシュイの水も、勢いの良い骸骨階段の修復力に負けて、破壊には繋がらない。
しかも、僕たちの前にはジャヨという心強い龍が居なくなってしまったため、戦わなければならない這い出てくる骸骨の数が増えてしまった。
「一体! この砂漠は何人、人を食ってるんだ!!!」
切りがないことに苛立ったジンイーは、絶叫しながら、大鎚ですり潰していく。
どうすれば、いいのだろう。
焦る気持ちを抑えることはできない。ただそれでも、冷静に冷静にと言い聞かせて、必死に考えた。
もしやるとしたら、残った力で龍を生み出すしかない。
「もう、やるしかない……!!」
僕は、覚悟を決めて腕を突き出した。
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