《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第九章

83.国宝の短刀

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バンダーが帰った後オリビアは食事を食べ終えてから開店の準備を始めることにした。

サリーもオリビアの手伝いを始めたが手際もよくとても役に立つなと思ったのでオリビアが褒める。

「あなた本当に王女様だったとは思えないぐらい何でもできるのね」

皮肉を言ったつもりではなかったのにサリーが落ち込む。

「はい、私はお城で掃除、洗濯、馬の世話まで毎日こなしていましたので。あぁ、たまに使用人たちにまかない料理を作ることもありました。」

サリーが微笑みながらつぶやく。

「今思えばお姉さまたちからの愛の鞭だったのでしょうね」

「え?」サリーの話が虐待から愛の鞭へと変化をしていくことに驚く。

「私が城を追い出されても一人で生きていけるように躾けてくれたのでしょう」

いいえ、それはただのいじめよ、とは言えなかったので受け流すことにした。

「さぁ、一段落したら少し買い出しに行かなくちゃ、サリーも一緒に来てくれる?」

「はい、もちろんです……。あ、あのオリビアさん」

「ん?なに?」

「散髪はどうします?短くします?逃亡者じゃないけど」







オリビアとサリーは街中に出かけた。野菜とお肉を買ってのんびり歩く二人。オリビア がサリーに声をかける。

「髪の毛切って良かったじゃない。さっぱりしたでしょ?」

心なしか少しだけ明るくなったサリーが返事をする。

「はい。いい気分です」

背中まで届いていた髪の毛をばっさり切って肩に少しだけ届く長さに整えていた。

「さ、もう戻ろうか」オリビアが声をかけるとサリーは明るい声で返事をした。

「はい」







外が薄暗くなった頃オリビアの店は開店した。

やってくるお客さんがみんなサリーに注目する。

「そう、サリースって言うの、いくつなの?君」

「私ですか?15歳です」

そしてサリーに年齢を尋ねた人はみんなここで言葉を詰まらせる。

「……あ、あ、そうなんだ」







そしてその夜、店が終わってからサリーがオリビアに相談する。

「オリビアさん、私の短刀のことなんですけど」

そう声をかけられてオリビアは短刀のことを思い出す。

「そうだったわね。カイレン国に返すんだったわね」

「はい、ですがこの短刀は父が私にくれた宝なんです」

「そうだけど……あ、でもあなた、追われてないんだから、それもらっといてもいいんじゃないの?」

サリーの目が輝く。

「はい、実は私もそう思いまして、カイレン国に返還するのはやめにしようかと考えていたところです」

「それがいいかもしれないわね」

サリーがもじもじとしだす。

「それで……ですね、この短刀を売ってしまおうかと考えているんです」

オリビアも思わず唾を飲み込む。

「それを売るとなると……かなり大きな骨董屋に行かないと買ってくれないかもしれないわね。大金が必要になるから」

「ええ、それで明日、まだ決心はつかないんですけどいくらぐらいの値段がつくのか調べてみようと思うんです」

「そうね。その短刀の価値だけでも調べておいて損はないわね」

「ですから明日オリビアさんについてきてほしいんです。明日はこのお店、休みでしょ?オリビアさんには申し訳ないんですけど一緒についてきてくれませんか?」

オリビアにもその短刀に、いくらの値段がつくのか興味があったのですぐに返事をした。

「もちろん。ついて行きます」







今2人は街中にある唯一の骨董屋の店の中にいた。

店の主人が二人に声をかける。

「値踏みをして欲しいというお宝はどれなんですか?お出しください」

サリーがカバンから布包みを大事そうに主人の目の前に置いた。

主人は机の上に置かれた布に巻かれた細長い品を見て唾を飲み込む。

ゆっくりと巻かれていた布をはがし 現れた短刀を持ち上げる。

思わずうめき声を上げる主人。

「うっ、こ、これは……見事な」

わくわくする気持ちで主人の次の言葉を待つサリーとオリビア。

「模造品ですな」

予想外の言葉を聞いて何も考えられなくなる二人。

主人は構わず話を続ける。

「これが金ならかなりの重さになりますが……そうだ!これと同じぐらいの大きさの金でできた本物の短刀があります」

そう言うと主人は本物を机の上に置いた。

「持ってごらんなさい」

サリーが持ち上げる。

「あ、重い」

オリビアも続いて持ち上げてみる。

「本当だわ」

そして主人が決定的な言葉を言う。

「これは真鍮製ですな。銅と鉛を混ぜて作った物です」



❖ 



街中を寂しそうに歩く二人を木枯らしが通り過ぎる。

サリーの瞼には父である前国王との優しい思い出が蘇る。

「サリー、これをお前に与える。お前が大きくなって子供ができたらその子に、この短刀を譲りなさい。私も母上からそうやってこの短刀を譲り受けたのだ」

「ありがとうございます。父上」

「幸せになるんだぞ。サリー」

「はい 父上」


後でこの思い出話をサリーから聞いた時オリビアは思った。

きっと国王様はサリーに、自分の子供にこの短刀を渡せるぐらいゆったりした幸せな人生を送ってもらいたいと思ったんじゃないのかしらと。









    
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