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第一章
⑥再会
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キメト警備隊の視察は今日で終わりだ。
ここの隊長は、降格か左遷になるだろう。
可哀想だけど、このキメト警備隊の犯罪検挙率が落ちていたのは、隊長のパワハラが原因だった。
隊員のあら探しをしたり、怒鳴ったり、せっかく犯人を捕まえても手柄は全部自分。
あれでは、ヤル気が起きるはずもない、よく隊長になれたものだ。
日没になる頃、隊長のマカレがジェームズに声をかけて来た。
「ジェームズさん。今日で最後ですよね」
「はい、そうです」
「どうですか?今晩」
マカレが右手でお酒を飲む仕草をした。
「ありがとうございます。ですが今日中に、報告書を書いておきたいので。ちょっと無理ですね」
「そうですか、それは残念」
「いえ、お誘い頂いたのに申し訳ありません」
「ではまたの機会にしましょうか」
「はい。その時はぜひご一緒させて下さい」
マカレは帰って行った。
日没で帰る隊長っているんだな。
ここに視察に来てからずっと日没に帰っている、報告書に書いておこう。
ジェームズは、最後にまだ残った仕事をしている隊員達に、挨拶をして、警備隊事務所を出る。
今から馬車に乗って、王都へ戻ってもいいのだが、もう少し一人でいたかったジェームズは、予定通り、もう一泊することにした。
ジェームズはとりあえず、宿に戻って荷物を置いた後、外へ食事に出る。
大通りから外れた細い道を歩いていると、通りの先の方に、お食事処の、のぼり旗を見つけたので入ってみた。
店の中には、客は誰もいない。
「いらっしゃい」と年配の店主から声がかかる。
壁に貼ってあるお品書きを見て、肉団子定食とビールを頼んで、適当に座った。
ぼーっと店主の仕事ぶりを眺めていると、手際よくトレーに肉団子定食とビールを乗せ、店主が慎重に歩いてくる。
「大丈夫かい?」落とすんじゃないかと心配になり声をかける。
「あー、大丈夫、大丈夫。はい、お待ちどうさま」
美味しそうな料理が目の前に並ぶ。
ジェームズは久しぶりにビールを飲んだせいか、とても美味しく感じて、肉団子定食を食べ終わった後も、焼き鳥も注文して、ビールと一緒に食べた。これもまた美味しくて……
今日は、側にマリアはいない。マリアの顔色を伺う生活をずっと続けてきたせいか、少し飲みすぎたかもしれない。
もう少し飲みたいところだったが、このへんで切り上げることにした。
店を出て、夜風に当たりながらジェームズは、少し散歩をする。
「私もストレスが溜まっているのかな。ビール、美味かったなあ」
ジェームズは少し眠くなってきた。
「さて、もう宿に帰って寝るとするか」
路地裏の風景を楽しみながら歩いていると、ジェームズの目の前に飲み屋の看板が目に入った。
【酒場オリビア】
ジッと看板を見つめるジェームズ。
「オリビアかあ。懐かしい名前見ちゃったなあ」
そのまま看板の前を通り過ぎたジェームズの後ろで、チリンチリンという音がして、ドアが開いた。
ジェームズもなにげに振り返る。
女将の顔をちらりと見て驚くジェームズ。
目の前にはあのオリビアが立っていた。
「じゃあね。女将さん。また来るからね~」と酔っ払った男が言った。
「またのお越しをお待ちしておりまーす。トウキさん。気をつけて帰るのよー」
「はーい」
男は上機嫌で帰って行った。
店に戻ろうとした女将に、ジェームズが声をかける。
「オリビア!」
女将はゆっくりと振り返りジェームズの顔を見て固まる。
ジェームズは女将を抱きしめていた。
そして自然と口に出た言葉は
「会いたかった」
「オリビア」
「ジェームズ……」
ここの隊長は、降格か左遷になるだろう。
可哀想だけど、このキメト警備隊の犯罪検挙率が落ちていたのは、隊長のパワハラが原因だった。
隊員のあら探しをしたり、怒鳴ったり、せっかく犯人を捕まえても手柄は全部自分。
あれでは、ヤル気が起きるはずもない、よく隊長になれたものだ。
日没になる頃、隊長のマカレがジェームズに声をかけて来た。
「ジェームズさん。今日で最後ですよね」
「はい、そうです」
「どうですか?今晩」
マカレが右手でお酒を飲む仕草をした。
「ありがとうございます。ですが今日中に、報告書を書いておきたいので。ちょっと無理ですね」
「そうですか、それは残念」
「いえ、お誘い頂いたのに申し訳ありません」
「ではまたの機会にしましょうか」
「はい。その時はぜひご一緒させて下さい」
マカレは帰って行った。
日没で帰る隊長っているんだな。
ここに視察に来てからずっと日没に帰っている、報告書に書いておこう。
ジェームズは、最後にまだ残った仕事をしている隊員達に、挨拶をして、警備隊事務所を出る。
今から馬車に乗って、王都へ戻ってもいいのだが、もう少し一人でいたかったジェームズは、予定通り、もう一泊することにした。
ジェームズはとりあえず、宿に戻って荷物を置いた後、外へ食事に出る。
大通りから外れた細い道を歩いていると、通りの先の方に、お食事処の、のぼり旗を見つけたので入ってみた。
店の中には、客は誰もいない。
「いらっしゃい」と年配の店主から声がかかる。
壁に貼ってあるお品書きを見て、肉団子定食とビールを頼んで、適当に座った。
ぼーっと店主の仕事ぶりを眺めていると、手際よくトレーに肉団子定食とビールを乗せ、店主が慎重に歩いてくる。
「大丈夫かい?」落とすんじゃないかと心配になり声をかける。
「あー、大丈夫、大丈夫。はい、お待ちどうさま」
美味しそうな料理が目の前に並ぶ。
ジェームズは久しぶりにビールを飲んだせいか、とても美味しく感じて、肉団子定食を食べ終わった後も、焼き鳥も注文して、ビールと一緒に食べた。これもまた美味しくて……
今日は、側にマリアはいない。マリアの顔色を伺う生活をずっと続けてきたせいか、少し飲みすぎたかもしれない。
もう少し飲みたいところだったが、このへんで切り上げることにした。
店を出て、夜風に当たりながらジェームズは、少し散歩をする。
「私もストレスが溜まっているのかな。ビール、美味かったなあ」
ジェームズは少し眠くなってきた。
「さて、もう宿に帰って寝るとするか」
路地裏の風景を楽しみながら歩いていると、ジェームズの目の前に飲み屋の看板が目に入った。
【酒場オリビア】
ジッと看板を見つめるジェームズ。
「オリビアかあ。懐かしい名前見ちゃったなあ」
そのまま看板の前を通り過ぎたジェームズの後ろで、チリンチリンという音がして、ドアが開いた。
ジェームズもなにげに振り返る。
女将の顔をちらりと見て驚くジェームズ。
目の前にはあのオリビアが立っていた。
「じゃあね。女将さん。また来るからね~」と酔っ払った男が言った。
「またのお越しをお待ちしておりまーす。トウキさん。気をつけて帰るのよー」
「はーい」
男は上機嫌で帰って行った。
店に戻ろうとした女将に、ジェームズが声をかける。
「オリビア!」
女将はゆっくりと振り返りジェームズの顔を見て固まる。
ジェームズは女将を抱きしめていた。
そして自然と口に出た言葉は
「会いたかった」
「オリビア」
「ジェームズ……」
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