《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第一章 

⑩オリビアの息子

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 ジェームズの寿命は間もなく尽きようとしていた。

 コンコン

 ドアをノックして一人の青年が入って来た。

「ジェームズ・ブラウンさんですね?」

 ジェームズは力なく返事をした。

「ああ」

「オリビア・ヤンセンをご存知ですか?」

「……」

「私はオリビア・ヤンセンの息子です」

「…オリビアの息子?」

「ええ」

「オリビアは、いや、お母さんは元気かい?」

「先月、亡くなりました」

「…そう…か」

「母が亡くなる一週間前、私に
 過去の想い出話をしてくれました」

「……」

「私の父が誰なのかも」

 ジェームズが少し首を横にして青年を見た。

「まさか」

「ブラウンさん。私はあなたの息子です」

「……」

「母が酒場の女将をしていた時に、あなたは一度、訪ねて来ましたよね?」

「今からちょうど20年前です」

「……」

「そして一泊した。覚えていますか?」

「……ああ」

「その時に出来た子供が、私です」

 食い入るように青年を見つめるジェームズ。

「母は私を身ごもった時、あなたの家庭を壊したくなくて、引っ越しました」

「そう…だったのか。私はまたオリビアに辛い思いをさせてしまったのか……」

 青年は近くに置いてあった椅子を引き寄せて、座った。

「いいえ、お父さん」

 ジェームズは青年を見た。

「私を…お父さんと呼んでくれるのか…」

 青年はさとすようにジェームズに話しかけた。

「母はあなたのことを一度も悪く言いませんでしたよ」

 青年は、ジェームズにハンカチを手渡した。

「ああ……」

「あなたのことはジェームズって呼んでいましたよ」

「ジェームズはねって、嬉しそうに」

 嗚咽するジェームズ。

「あなたはあの日、一度は帰ろうとしたそうですね」

「でも暫くして店のドアを叩いた」

「ドアを開けた母を抱きしめて、愛してる、もうこの気持ちは止められないって」

「言ってくれたのジェームズはって……母はそう言っていました」


 ジェームズは、はっきりとあの日のことを思い出していた。

 後ろめたさもあって、あの日の記憶を心の奥底に深く沈めていたことを思い出していた。

 やっぱりあの日、私はオリビアと愛し合っていたんだ。

 オリビアの何もなかったと言う言葉にすがって、何もなかったと信じ込もうとしていた。

「母はブラウンさん、あなたのことが、お父さんのことが大好きでした」

 青年は椅子から立ち上がった。

「今日は母の想いをあなたに伝えに来ました」 

 青年は入口まで歩いて立ち止まり、振り向くと

「私の名前はジェームズ・ヤンセン」

「母は私にあなたの名前をつけてくれました。会えて良かったです。お父さん」

 男はお辞儀をして帰って行った。

 ジェームズは静まり返る病室の中で、泣いていた。

 涙が止まらなかった。 

 病室のドアが開いて、娘のエリアが入って来た。

「お父さん、今この病室から出て行った人がいたけど。誰?」

 父の様子がおかしいことに気づいたエリアは、すぐに父の側に来た。

「お父さん、具合悪いの?看護師さん呼ぼうか?」

「いや、いいよ。いらない」

「どこか痛むんじゃないの?泣くぐらいなんだから」

「エリア、お前にだけ話しておきたいことがある」

「何?お母さんには言えないこと?」

「マリアには言わないでくれ。悲しませたくない。今、出て行った青年はお前の腹違いの弟なんだ」

「お父さん」

「名前はジェームズ・ヤンセン」

 エリアはすぐに病室を飛び出していた。

どうして病室を飛び出したのかエリアにも分からなかった。だけど会わないといけないと思った。

廊下を走り、受付の前を横切り玄関の前に出る。

「どこだろう…」

周囲を見回すと…ちょうど馬にまたがったばかりの男の人が見えた。

急いで駆け寄るエリア。

男は繋いであった馬に乗ったまま前を見た。

目の前に息を乱して女性が立っていた。

「はぁはぁ……待って下さい…」

 やっと追いついたエリアは、馬の前に立ちはだかっていた。

「待って下さい。私はジェームズ・ブラウンの娘でエリアと言います」

「あなたに聞きたいことがあるの」

 男は、馬上からエリアを見つめていたが、馬から降りてエリアに挨拶をした。

「ジェームズ・ヤンセンです」

「初めまして、姉さん」
                  
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