《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第一章 

⑪姉と弟

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 病院の屋上

「あなたの名前、父と同じなのね」

「ええ、母がつけてくれました」

「何しに来たの?」

「母が先月、亡くなったんです。だから、その報告と御礼を言いに来ただけです」

「お礼?父を恨んでいるんじゃないの?」

「まさか。恨むどころか、感謝していますよ」

「……」

「母は、マリアさんと父が結婚する前は、恋人同士だったんです。知っていましたか?」

 首を横に振るエリア。

「でも、事情があって、別れて、それから13年後に、母がやっていた飲み屋の前を、偶然、父が通って、再会した」

「……」

「運命ですよね、本当に」

「……」

「そして二人は、一夜を共にして、私が生まれた」

「……」

「母は、私を身ごもったときに、父の家庭を壊さないようにと、遠くへ引っ越しました。そして、先月、病気で亡くなった」

「母は、亡くなる前に、私に全てを話してくれました。父に感謝をしていました」

 ジェームズはポケットから似顔絵を一枚出して、エリアに見せた。

「これが母。まだ、25、6の時の似顔絵。父と恋人同士の頃の」

 エリアは似顔絵の女の人を見た。

「私、この人を見たことあるわ」

「そんなはずはないよ、あなたはまだ生まれていないんだから」

「……」

「でも、母は、変なことを言っていたなあ……」

「変なこと?」

「マリアさんの娘さんに、袖を引っ張られて、ありがとうって、言われたことがあるって……もう、記憶が、ごちゃごちゃになっていたのかも知れませんね」

 生まれる前の出来事が、エリアの頭の中に溢れ出てきた。

 私の父と母を許してくれた人だ。

 ちゃんと記憶がある。

 優しい顔した女の人だった。

 ジェームズがハンカチをエリアに差し出した。

「あなたたち親子は、泣き虫だなあ。ハンカチを2枚持っていたのが奇跡ですよ」

「ありがとう」

 エリアは、ハンカチを受取り、そっと涙を拭いた。


 病室に戻って来たエリア。

「お父さん、あの人から全部聞いたよ」

「そうか」

「お父さんも、若い頃は、青春していたんだね」

 ジェームズは目をつむった。

「疲れたから、寝るよ」

「うん。じゃあ私、帰るね」

「うん。気をつけて帰れ」



 3日後、妻マリアと娘エリアに看取られて、ジェームズ・ブラウンは静かに息を引き取った。享年56歳。

 病室のベッドには窓から、暖かい日差しがジェームズの顔を照らしていた。

 ジェームズは穏やかな顔をしていた。

 オリビアさんと父は、結婚はしなかったけど、二人は互いに運命の人であったのだろうと私は思う。

 そして父ジェームズと母マリアもまた、運命の人同士であったのだろうと、私は思う。

 だって、父と母が結ばれていなかったら、私は生まれて来なかったのだから……

 エリアは泣いている母マリアの肩を抱きながら、そう思った。


     
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