《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第三章 もしも、あの時、自然消滅していなかったら……

㉔王都の隠れ家

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翌日、ヤンセン伯爵家の執務室

机の上にはクロッグの置き手紙があった。

『  父上様

私はアガサ・ギャラン伯爵令嬢と駆け落ちします。

探さないでください。

クロッグ    』


ヤンセン伯爵は手紙をじっと見つめて、

「クロッグの奴……」と呟く。

「旦那様」と、傍らにいた執事のセルフが声をかける。

疲れた表情で生返事をする伯爵。

「ん?」

「クロッグ様は馬には乗れません。馬の扱いも出来ません。ですから、馬車を操縦して逃げることもできないはずです」

「……」

「そして両家の追手から逃れるために、おそらく隣国へ向かわれるのではないかと思われます」

「王国を出ていく、と?」

「はい。そのためには、隣国行きの長距離馬車に乗る必要があります」

「では、その馬車を見張らなければならんな」

「はい、すでに見張りを昨夜から馬車乗り場に張り付かせております。それから、国境付近にも一人配置しております」

「そうか」

「問題は行商人の馬車に潜り込んで乗ってしまうことです」

「では、行商人の馬車も見張らなければ」

「ですが、行商人の馬車は荷物でいっぱいです。なかなか、乗せてもらえないでしょうし、たとえ、行商人に話を持ちかけてもおそらく無理でしょう」

「なぜだ?」

「荷物に紛れて人を運んで越境すれば、我が王国では罪になりませんが、隣国は死罪になります」

「し、死罪……」

「ええ、しかもクロッグ様の駆け落ちはずっと前から計画されていたのではなく、思い余っての行動から来ているとお見受けします。ですから、たとえ隣国を目指していたとしても、準備はまだ整っていないかと存じます」

「おい、セルフ!それでは、あの子はまだ国内にいるということか?」

「はい。そして王国内に潜伏するとしたら城下の外れ……ではなく、城下に身を隠しておられるのではないかと思われます」

「まさか、城下って、目と鼻の先だぞ?」

「はい、この方がかえって安全かと」

「うーん、セルフの言う通りなら、クロッグはかなり頭を使っておるな」

「コホン、えー、少し言いにくいのですが……」

「ん?どうした?」

「この駆け落ちには手助けをしている者がおります」

「……あ、もしかして知恵を与えたのは……ギャランの娘か?」

「いえ、違います。私の調べでは、クロッグ様がアガサ様のお見合いの席に現れた時、アガサ様はとても驚いた表情をされていたと情報を得ております」

「では誰が……誰が倅に手を貸した」

「旦那様」

「ん?」

「ループは昨日休みでございました」

「それが?」

「ループが休みの日にクロッグ様が駆け落ちを実行しました。ループは馬にも乗れますし、もちろん馬車も操れます」

伯爵は、ループの名前を聞いて、ほっとしたように、でも少し怒りを滲ませた表情で、

「では、ループを取り調べるとしようか」

「お待ち下さい。ループはたぶん、口を割らないでしょう。あの子は口が堅いですから」

「しかし、早くクロッグの居場所を見つけねばなるまい?」

「ループは昨日、叔母のところへ行くと申して休みを取っております」

「……」

「ループの叔母は、王城の前で串焼き屋をやっておりまして、私は使用人にループがいるか確かめに行かせました」

「それで?」

「ループは店に出て叔母の手伝いをしていたと確認は取れております」

「じゃあ、ループは関係ないのでは?」

セルフは全てを見透かしているかのように静かに答えた。

「使用人が店の裏を確認したところ、裏には馬車が止まっておりまして、馬車の中を覗いてみたそうです」

「馬車の中には貴族が着るような服が女用、男用と置いてあったと」

伯爵は立ち上がり、

「ではクロッグたちは!?」

「はい、お二人は串焼き屋の店の中におられます」

「あっ、セルフ、では国境付近の見張りはいらんのではないか?」

セルフは表情を変えずに言った。

「念には、念をいれておきませんと、何があるか分かりませんから」
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