《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第五章

55.運命

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走る馬車の小窓から外を眺めていたヤンセン伯爵。

ようやく城下に辿り着いた。

人の往来も多くなってきたので、馬車のスピードも遅くなる。

しかし突然馬車がスピードを緩め……止まった。

御者席のセルフが小窓を開けてヤンセン伯爵に声をかけた。

「大衆酒場の前に我がヤンセン家の馬車が止まっております」

「何?」

伯爵は右側の小窓を開けて外を見てみる。

「……確かに……あるな」

(つまりクロッグとループがあの店で食事をしているというわけか……)

「いかがされますか?」

(捨て置いて、カンフルに会いに行きたいところだが……)

「セルフ、一緒に来てくれるか?」

「はい、旦那様」

その頃店の中では男たちの口論がだんだんと激しくなり、ついに取っ組み合いになっていた。

ギャラン伯爵とループはカンフルとクロッグ、アガサを守るように立ち上がると、伯爵はカンフルたちに声をかけた。

「さ、もう出よう。ちょうど食事も終わったことだしな」

皆も頷いて席を立ち出口へ向かったのだが、カンフルが一人立ち止まり、取っ組み合いをしている二人の男に声をかけた。

「ねえ、あんたたち、店の中で暴れるのは止めてくれないかしら?お店の人も困ってるじゃない」

取っ組み合いをしている二人の男が同時にカンフルを見て怒鳴る。

「うるせー!ブスは黙ってろ!」

と言ってまた取っ組み合う。

自分のことを美人とは思ってはいなかったが、ブスとも思っていなかったカンフルがキレる。

「ちょっと!あんたたち!いい加減にしなさい!」

再びカンフルを見た男たちはカンフルの後ろに鬼の形相で刀を構えるギャラン伯爵を見てぎょっとする。男たちは真っ青になり手の平を見せ、

「まあ、落ち着け落ち着け」

と大人しくなった。

その男たちに満足したカンフルが後ろを振り向くと、ギャラン伯爵が腰にぶら下げていた刀を抜いて上段で構えていたのだ。その両腕を必死でクロッグとアガサが抑えていた。

「ハーちゃん、何やってるの?」

「いや、コイツら、カンちゃんのことをブスって言ったから、手打ちにしようかと……」

そのことばを聞いて、カンフルは笑いながら言った。

「やっだー、ハーちゃんったら、そんなことしていたら私の周り死体だらけになるじゃない」

店の出入り口でその光景を見ていたヤンセン伯爵とセルフがそっと姿を消した。

店の中の騒動も終わって一行は店を出た。

「ハーちゃん、ごちそうさまでした」

カンフルが言うとアガサもクロッグもお礼を言った。少し照れるギャラン伯爵。

「このくらいで礼を言われると、ちょっと照れくさいな、ははは」

「あれ?ループは?」

クロッグがループのいないことに気づく。

「さっきまでいたのにどこへ行ったのかな?」

アガサも周りをキョロキョロしてループを探す。

反対側の通りに止まっていた馬車の中にヤンセン伯爵、セルフ、ループが乗っていた。

セルフが目で合図をしながら、

「もう行った方がいいなループ」

「はい、それでは私はこれで失礼します」

ループが馬車を降りて皆の元へ戻って行った。

「あ、ループ」

クロッグが気がついて声をかける。

「どこへ行っていたんだよ?」

「すみません、知り合いを見かけたもので追いかけたんですが人違いでした」

そしてループは皆に声をかける。

「では皆さん馬車に乗ってください」

クロッグとループはまた御者席に乗って、馬車はゆるりと動き出した。

そしてその馬車の後ろを距離をとってヤンセン伯爵の馬車が動き出した。

ヤンセン伯爵は先程、ループから、かいつまんで説明を受けたのだが……

『ギャラン伯爵様は昨日、駆け落ちの時のお礼をしにカンフル叔母さんの元へ挨拶に出向きました』

『その時に叔母さんと親しくなり旦那さまと同じようにお店を手伝うようになって……』

『旦那さまと同じように叔母さんを好きになられたようでして……』

そして馬車から降りてドアを閉める前にこう言った。

『どうやらギャラン伯爵様は本気のようです』と……
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