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第1話 衝撃
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「お前みたいな奴、早く消えろよ!!!」
そう言われながら、ヨルドは泥水の中に無理やり顔を押さえつけられた。
「うぐっ」
口の中に泥が入ってくる。じゃりじゃりしていて気持ち悪い。早く口を拭いたいが、手を片方ずつ別の人間に押さえつけられているため、拘束から抜け出せない。
ヨルドの顔を押さえつけている男はギルベルトといい、黒髪にエメラルドグリーンの瞳をした目つきの悪い男である。彼の指示によりヨルドを拘束しているのは、アダムとヨーデルでギルベルトの手下である。
必死で拘束から抜けようともがいていると「雑魚が居座り続けて、気持ち悪いんだよ!!!」と背後にいたギルベルトから脇腹を思いっきり蹴っ飛ばされた。
「うっ……」
蹴られた脇腹は、肉片をえぐりとられたように激しい痛みが生まれた。痛みで顔を歪めていると、今度は顔を思い切り殴られた。
「クソ野郎が!消えろよ!!!」
ギルベルトは、憎しみに満ちた声でヨルドに怒鳴りつけた。
ヨルド・チェルノボグは、名誉騎士フィオリ・マクベインが運営する平民向けの道場に2年前から滞在していた。
実は、ヨルドは王族であり、反乱を起こした宰相ラヴェル・ヘイムダルから身を隠すためと強くなるためにフィオリの道場に滞在していた。王家と関りがあったフィオリは、王族であるヨルドを特別扱いしてしまった。事情を知らない他の少年は不満を持ち、ヨルドをいじめるようになったのである。
その日も、訓練が終わって一人になったヨルドは、ギルベルト達から急に囲まれ殴られた。
ギルベルトは、イライラした様子で泥水に押し付けられたヨルドの顔を踏み付けた。
「目障りなんだよ。さっさと消えろ、このゴミが!」
「うぐっ」
口の中には泥の味だけではなく、血の味も広がった。先ほど殴られたときに、頬も切れてしまったみたいだ。
「コネで入った奴が調子に乗るな!! 気持ち悪いんだよ!死ね!消えろ!!!」
「あがっ」
呼吸がうまくできなくて苦しい。早く終わりにしてくれと願っていると、「弱い者いじめは、感心しないな」というベルベットのように滑らかな声が聞こえた。
顔を上げるとオールバックにしたダークブロンドに、ヘーゼルの瞳をした美男子がこちらに向かって歩いてくる様子が見えた。
彼を見たヨルドは「レイヴン……」とすがるように呟いた。
ヨルドに近づいてきたレイヴンは、ヨルドと同じ部屋に暮らすフィオリの生徒の一人である。剣の実力者であり、毎回行われる試験で上位となっていた。
少したれ目をしていて優しそうに見えるが、怒った時は人を殺しそうになるくらい怖かった。
レイヴンは、ギルベルトの胸倉を掴み上げ、今にも殴りそうな勢いで睨みつける。
「ギルベルト、君は本当に大人げないな。いつまでこんな幼稚な遊びをするつもりだ」
「ちっ。うるさいな」
ギルベルトもレイヴンを射殺すように睨みつけるが、レイヴンはひるまない。
「この間、ヨルドは、君に1対1の勝負では勝っただろう。八つ当たりは、やめろ」
ギルベルトは、よく取り巻きを率いてヨルドを虐めるが、最初は弱かったヨルドは誰よりも練習に励んだこともあり、剣の腕は向上していた。1対1の勝負では、すでにヨルドの方がギルベルトよりも実力が上になっていた。そのことも、ギルベルトをイラつかせていたのだ。
「八つ当たりじゃねぇ」
「悔しいなら、実力で示せ。順位決めは、また来月もあるだろう」
「うざいんだよ、この老害が!!!」
ギルベルトは、そう言い捨てて取り巻きと共に逃げるように去っていった。レイヴンは、「大丈夫?」と泥だらけになったヨルドに手を差し伸べてきた。
「ありがとう、助かった」
ヨルドは、起き上がり泥を払ったが、服や顔にべったりと大量の泥がこびりついている。
「ギルベルトも懲りないな。君に負けてから虐めが悪化している」
レイヴンは、こめかみに手を当てながらため息をついた。
「そのうちおさまるよ。今日は、この汚れでは風呂場は使えないから、近くの川で水浴びをしてから戻るよ」
「わかった。気をつけて」
「ああ」
ヨルドは、着替えとタオルを持って近くの小川に水浴びに向かった。
水浴びをし終わる頃には、すっかり日が暮れていた。帰り道、近くの茂みで何かがキラリと光り輝いた。
(何だろう。宝石でも落ちているのだろうか)
不思議に思い近づいてみると、そこにあったのは鏡の欠片であった。月光によりダイヤモンドのようにキラキラと光り輝いている。
(本当に鏡か?鏡にしては、輝きすぎじゃないか?)
導かれるようにそれを拾い、じっと観る。何か文字が書かれているようだ。
「この鏡の欠片を集めれば神になれる。そして、一つだけ何でも願いを叶える」
興奮のあまり、鏡を持つ手がブルブルと震える。
「そんな……これは、まさか真鏡なのか!」
真鏡。それは天界の神器の一つであり、どんなことも知ることができる魔法の鏡である。
(これが、真鏡の欠片なのか。あのゲームが開催されているのか……)
この鏡が、本物の真鏡が確かめる方法ならある。
ヨルドは、鏡に月光を当てた。すると月光を浴びた鏡は、西に向けて光を放った。鏡の角度を変えても、西しか示さない。
「本物だ!」
やっぱりこの鏡は、天界の鏡なのか。
服で月光を遮ると、真鏡の輝きは消えて動かなくなった。真鏡は、月光に当たると他の一番近くにある鏡の位置を示すと聞いたことがある。
これは、きっと神様の鏡だ。ここに書いてある通りに、全ての欠片を集めれば、神様になれてどんな願いも叶えてもらえるはずだ。
「これさえあれば、モニカを救うことができる……」
興奮しながら、ヨルドはそう呟いた。
2年前、妹のモニカは、宰相ラヴェル・ヘイムダルにより殺された。モニカが殺された復讐をすることが願いであったが、真鏡の欠片があるのなら、モニカを生き返らせることもできるかもしれない。
(早く残りの欠片を集めたい。フィオリに報告して、この道場を出よう。そして、真鏡の欠片を集める旅に出よう)
道場の師匠であるフィオリは、ヨルドにだけ特別優しい。真鏡を巡っては血で血を洗う醜い争いが繰り広げられたということを聞いたことがあるが、フィオリならヨルドから真鏡を奪ったりしないだろう。それにお世話になったフィオリに、本当のことを告げずに立ち去るのは気が引けた。
道場に戻ったヨルドは、さっそくここの道場を束ねるフィオリの部屋を訪れた。
コンコンとドアを叩くと「誰だ?」とフィオリから返事があった。
「ヨルドです。話があって来ました」
「入ってこい。話は何だ?」
フィオリは、茶色の長髪に茶色の目をした中年の男である。中年といっても、無駄な脂肪なんて少しもない、鍛えられた騎士だ。毎日休むことなく訓練をしているせいか、実際の年齢よりもずっと若そうに見えた。
彼は、机の前の椅子に腰かけ、紅茶を飲んでいる様子であった。
「師匠。大事な話があって来ました」
「何だ?」
フィオリは、紅茶を飲む手を止めて、ヨルドをまっすぐに見つめた。
「今夜、俺は、この道場を立ち去ろうと思います」
それを聞いたフィオリは、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、ヨルドに近づいてきた。
「何が起きたんだ?もしかして、ギルベルトがまた問題でも起こしたのか」
「そうじゃありません。信じられないかもしれませんが、俺は……真鏡の欠片を見つけました」
それを聞いたフィオリは、目を丸くし息を呑んだが、ヨルドの言葉を否定するように首を振った。
「……そんなもの迷信だ。あるわけない」
そう呟いたフィオリの目は、永遠に朝が来ない海のように光がなかった。
「これを見てください」
ヨルドは、自身の胸の内ポケットにしまいこんだ真鏡の欠片を取り出して、左の手のひらに乗せた。
鏡は、月光を浴びて青白く光り輝く。そして、他の鏡の位置を示すように西に向けてゆっくりと移動した。
「そんな……ありえない!だが、これは、真鏡だ。200年以上前にも、シルヴェスト・スノーがこのゲームの勝者になったという言い伝えがあるが……そのゲームが再び開催されるのか!!!」
フィオリは、雷に打たれたように震えながら真鏡を見つめ出した。
「この欠片を集めれば……神になれるのか……。何でも願いが叶うのか!」
興奮気味に、そう叫び出す。彼の目が、ランランと輝く。まるで獲物を狙う爬虫類みたいで、背中にぞくりとしたものを感じた。
「師匠?」
「ああ……。すまない。取り乱してしまった。もうちょっとだけよく調べさせてくれ」
鏡を持ったフィオリは、机の前にある椅子に座り、引き出しを漁りながら、様々な文献を取り出した。そして、鬼のような形相で文献と鏡を見比べていく。
ふいにコンコンとノックする音が、ドアの外から聞こえた。
ハッとしたフィオリは、素早く自分の上着の内側に真鏡を隠した。そして、用心深げに息を潜めてドアに近づき、ゆっくりとドアを開けた。
そこにいたのは、先ほどヨルドをいじめから助けてくれた少年であるレイヴンであった。彼の顔を見たフィオリは、安堵したようにため息をついた。
「やあ、レイヴンか。いきなりどうしたんだ?」
「師匠。聞きたいことがあって来ました」
なぜかレイヴンの声は、いつもと違う気がした。やけに熱っぽい声だ。彼の頬も、高揚しているように赤く染まっている。まるで酒に酔って、甘い夢でも見ているようだ。
「何が聞きたいんだ?」
次の瞬間、フィオリの胸から剣が生えたように見えた。
「ごはっ」
レイヴンから剣で刺されたフィオリは、血を吐きその場に崩れ落ちた。
「え……」
全身の血が凍り付きそうな衝撃が襲う。
(あの優しいレイヴンが、師匠を殺したのか!?)
ヨルドは、倒れたフィオリを見て目を見開いた。
そう言われながら、ヨルドは泥水の中に無理やり顔を押さえつけられた。
「うぐっ」
口の中に泥が入ってくる。じゃりじゃりしていて気持ち悪い。早く口を拭いたいが、手を片方ずつ別の人間に押さえつけられているため、拘束から抜け出せない。
ヨルドの顔を押さえつけている男はギルベルトといい、黒髪にエメラルドグリーンの瞳をした目つきの悪い男である。彼の指示によりヨルドを拘束しているのは、アダムとヨーデルでギルベルトの手下である。
必死で拘束から抜けようともがいていると「雑魚が居座り続けて、気持ち悪いんだよ!!!」と背後にいたギルベルトから脇腹を思いっきり蹴っ飛ばされた。
「うっ……」
蹴られた脇腹は、肉片をえぐりとられたように激しい痛みが生まれた。痛みで顔を歪めていると、今度は顔を思い切り殴られた。
「クソ野郎が!消えろよ!!!」
ギルベルトは、憎しみに満ちた声でヨルドに怒鳴りつけた。
ヨルド・チェルノボグは、名誉騎士フィオリ・マクベインが運営する平民向けの道場に2年前から滞在していた。
実は、ヨルドは王族であり、反乱を起こした宰相ラヴェル・ヘイムダルから身を隠すためと強くなるためにフィオリの道場に滞在していた。王家と関りがあったフィオリは、王族であるヨルドを特別扱いしてしまった。事情を知らない他の少年は不満を持ち、ヨルドをいじめるようになったのである。
その日も、訓練が終わって一人になったヨルドは、ギルベルト達から急に囲まれ殴られた。
ギルベルトは、イライラした様子で泥水に押し付けられたヨルドの顔を踏み付けた。
「目障りなんだよ。さっさと消えろ、このゴミが!」
「うぐっ」
口の中には泥の味だけではなく、血の味も広がった。先ほど殴られたときに、頬も切れてしまったみたいだ。
「コネで入った奴が調子に乗るな!! 気持ち悪いんだよ!死ね!消えろ!!!」
「あがっ」
呼吸がうまくできなくて苦しい。早く終わりにしてくれと願っていると、「弱い者いじめは、感心しないな」というベルベットのように滑らかな声が聞こえた。
顔を上げるとオールバックにしたダークブロンドに、ヘーゼルの瞳をした美男子がこちらに向かって歩いてくる様子が見えた。
彼を見たヨルドは「レイヴン……」とすがるように呟いた。
ヨルドに近づいてきたレイヴンは、ヨルドと同じ部屋に暮らすフィオリの生徒の一人である。剣の実力者であり、毎回行われる試験で上位となっていた。
少したれ目をしていて優しそうに見えるが、怒った時は人を殺しそうになるくらい怖かった。
レイヴンは、ギルベルトの胸倉を掴み上げ、今にも殴りそうな勢いで睨みつける。
「ギルベルト、君は本当に大人げないな。いつまでこんな幼稚な遊びをするつもりだ」
「ちっ。うるさいな」
ギルベルトもレイヴンを射殺すように睨みつけるが、レイヴンはひるまない。
「この間、ヨルドは、君に1対1の勝負では勝っただろう。八つ当たりは、やめろ」
ギルベルトは、よく取り巻きを率いてヨルドを虐めるが、最初は弱かったヨルドは誰よりも練習に励んだこともあり、剣の腕は向上していた。1対1の勝負では、すでにヨルドの方がギルベルトよりも実力が上になっていた。そのことも、ギルベルトをイラつかせていたのだ。
「八つ当たりじゃねぇ」
「悔しいなら、実力で示せ。順位決めは、また来月もあるだろう」
「うざいんだよ、この老害が!!!」
ギルベルトは、そう言い捨てて取り巻きと共に逃げるように去っていった。レイヴンは、「大丈夫?」と泥だらけになったヨルドに手を差し伸べてきた。
「ありがとう、助かった」
ヨルドは、起き上がり泥を払ったが、服や顔にべったりと大量の泥がこびりついている。
「ギルベルトも懲りないな。君に負けてから虐めが悪化している」
レイヴンは、こめかみに手を当てながらため息をついた。
「そのうちおさまるよ。今日は、この汚れでは風呂場は使えないから、近くの川で水浴びをしてから戻るよ」
「わかった。気をつけて」
「ああ」
ヨルドは、着替えとタオルを持って近くの小川に水浴びに向かった。
水浴びをし終わる頃には、すっかり日が暮れていた。帰り道、近くの茂みで何かがキラリと光り輝いた。
(何だろう。宝石でも落ちているのだろうか)
不思議に思い近づいてみると、そこにあったのは鏡の欠片であった。月光によりダイヤモンドのようにキラキラと光り輝いている。
(本当に鏡か?鏡にしては、輝きすぎじゃないか?)
導かれるようにそれを拾い、じっと観る。何か文字が書かれているようだ。
「この鏡の欠片を集めれば神になれる。そして、一つだけ何でも願いを叶える」
興奮のあまり、鏡を持つ手がブルブルと震える。
「そんな……これは、まさか真鏡なのか!」
真鏡。それは天界の神器の一つであり、どんなことも知ることができる魔法の鏡である。
(これが、真鏡の欠片なのか。あのゲームが開催されているのか……)
この鏡が、本物の真鏡が確かめる方法ならある。
ヨルドは、鏡に月光を当てた。すると月光を浴びた鏡は、西に向けて光を放った。鏡の角度を変えても、西しか示さない。
「本物だ!」
やっぱりこの鏡は、天界の鏡なのか。
服で月光を遮ると、真鏡の輝きは消えて動かなくなった。真鏡は、月光に当たると他の一番近くにある鏡の位置を示すと聞いたことがある。
これは、きっと神様の鏡だ。ここに書いてある通りに、全ての欠片を集めれば、神様になれてどんな願いも叶えてもらえるはずだ。
「これさえあれば、モニカを救うことができる……」
興奮しながら、ヨルドはそう呟いた。
2年前、妹のモニカは、宰相ラヴェル・ヘイムダルにより殺された。モニカが殺された復讐をすることが願いであったが、真鏡の欠片があるのなら、モニカを生き返らせることもできるかもしれない。
(早く残りの欠片を集めたい。フィオリに報告して、この道場を出よう。そして、真鏡の欠片を集める旅に出よう)
道場の師匠であるフィオリは、ヨルドにだけ特別優しい。真鏡を巡っては血で血を洗う醜い争いが繰り広げられたということを聞いたことがあるが、フィオリならヨルドから真鏡を奪ったりしないだろう。それにお世話になったフィオリに、本当のことを告げずに立ち去るのは気が引けた。
道場に戻ったヨルドは、さっそくここの道場を束ねるフィオリの部屋を訪れた。
コンコンとドアを叩くと「誰だ?」とフィオリから返事があった。
「ヨルドです。話があって来ました」
「入ってこい。話は何だ?」
フィオリは、茶色の長髪に茶色の目をした中年の男である。中年といっても、無駄な脂肪なんて少しもない、鍛えられた騎士だ。毎日休むことなく訓練をしているせいか、実際の年齢よりもずっと若そうに見えた。
彼は、机の前の椅子に腰かけ、紅茶を飲んでいる様子であった。
「師匠。大事な話があって来ました」
「何だ?」
フィオリは、紅茶を飲む手を止めて、ヨルドをまっすぐに見つめた。
「今夜、俺は、この道場を立ち去ろうと思います」
それを聞いたフィオリは、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、ヨルドに近づいてきた。
「何が起きたんだ?もしかして、ギルベルトがまた問題でも起こしたのか」
「そうじゃありません。信じられないかもしれませんが、俺は……真鏡の欠片を見つけました」
それを聞いたフィオリは、目を丸くし息を呑んだが、ヨルドの言葉を否定するように首を振った。
「……そんなもの迷信だ。あるわけない」
そう呟いたフィオリの目は、永遠に朝が来ない海のように光がなかった。
「これを見てください」
ヨルドは、自身の胸の内ポケットにしまいこんだ真鏡の欠片を取り出して、左の手のひらに乗せた。
鏡は、月光を浴びて青白く光り輝く。そして、他の鏡の位置を示すように西に向けてゆっくりと移動した。
「そんな……ありえない!だが、これは、真鏡だ。200年以上前にも、シルヴェスト・スノーがこのゲームの勝者になったという言い伝えがあるが……そのゲームが再び開催されるのか!!!」
フィオリは、雷に打たれたように震えながら真鏡を見つめ出した。
「この欠片を集めれば……神になれるのか……。何でも願いが叶うのか!」
興奮気味に、そう叫び出す。彼の目が、ランランと輝く。まるで獲物を狙う爬虫類みたいで、背中にぞくりとしたものを感じた。
「師匠?」
「ああ……。すまない。取り乱してしまった。もうちょっとだけよく調べさせてくれ」
鏡を持ったフィオリは、机の前にある椅子に座り、引き出しを漁りながら、様々な文献を取り出した。そして、鬼のような形相で文献と鏡を見比べていく。
ふいにコンコンとノックする音が、ドアの外から聞こえた。
ハッとしたフィオリは、素早く自分の上着の内側に真鏡を隠した。そして、用心深げに息を潜めてドアに近づき、ゆっくりとドアを開けた。
そこにいたのは、先ほどヨルドをいじめから助けてくれた少年であるレイヴンであった。彼の顔を見たフィオリは、安堵したようにため息をついた。
「やあ、レイヴンか。いきなりどうしたんだ?」
「師匠。聞きたいことがあって来ました」
なぜかレイヴンの声は、いつもと違う気がした。やけに熱っぽい声だ。彼の頬も、高揚しているように赤く染まっている。まるで酒に酔って、甘い夢でも見ているようだ。
「何が聞きたいんだ?」
次の瞬間、フィオリの胸から剣が生えたように見えた。
「ごはっ」
レイヴンから剣で刺されたフィオリは、血を吐きその場に崩れ落ちた。
「え……」
全身の血が凍り付きそうな衝撃が襲う。
(あの優しいレイヴンが、師匠を殺したのか!?)
ヨルドは、倒れたフィオリを見て目を見開いた。
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