【完結】奇跡の魔女

2章 命の重さは平等であり、不平等でもある

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「ノエル、母親の治療も終わったよ」

アステルは穏やかな口調で微笑みを浮かべながら、何でも無いことのないように云っているが、母親の傷は子供たちの傷よりも遥かに深く、生きていたことが奇跡のような状態だった。

「お疲れ様でした、アステル様」

温かい紅茶を淹れながら、最愛の主を労る。

「彼女たちを襲った男たちは貴族のようだね」

アステルにとっては、その言葉を紡いだことに特に意味など無かったのだろう。しかし、長年仕えているノエルにだけは瞬時に理解できた。最愛の主が母親を気に入ったのだということが……。

「気に入った？……僕が？……彼女をかい？」

当然のように心の声に問いかける主に、当然のように返答する……二人にとっては至極当たり前の光景だ。

「…でなければ、願いですら無いというのに助ける理由がございません」

ノエルは穏やかだが嫉妬を含んだ口調で…最愛の主であるアステルに進言した。

「…成る程、それで先程から嫉妬をしてくれている……ということかな？」

嬉しそうに言葉を紡ぐ最愛の主に視線を移したノエルは……当然のように主を背後から抱きしめた。

「嫉妬を喜んでくださるアステル様が可愛いので…このまま二人で……間の悪いことに子供が目覚めそうです」

とても悔しそうに主に進言するノエルの姿を眺めて満足したのか、アステルは子供たちの傍らに近付いた。

「……うわぁぁぁぁ！！…………………あれ？」
10歳くらいの男の子が一番最初に目を覚まし、先程の光景の続きが繰り広げられているかの如く叫んだ……が、痛みは勿論のこと、傷さえも綺麗に無くなっている事実に気が付き、不思議そうな顔で周りを見渡した。
母と弟たちの姿が目に入ると、今度は安心したからなのか男の子の両目から大粒の涙が流れ出す。

「ごきげんよう、目が覚めたようだね」

アステルは男の子に声をかけ、ハンカチを……渡そうとしたのだが、それはノエルに阻止された。
変わりにノエルがハンカチを差し出す……という謎の二度手間が生じたが、アステルは苦笑するに留めた。