【完結】奇跡の魔女

3章 地獄に堕ちても構わない

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俺は何時もの家に帰ってきたはずだった。
リズがいない……たったそれだけの違いなのに、家が静かで暗く感じるのは何故なんだろう？
何時ものように椅子に座って、リズに贈るはずだったプレゼントを見る。
あんなにも色鮮やかだった花束が色褪せて見える。

「リズ」

俺は返事など無いと頭では分かっているのに、幾度も幾度も妻の名前を呼んだ。
俺の世界から光が消えた……。
妻は……リズは俺の光だったのに……。
優しくて明るい……俺の太陽。

「何でだよ……」

家にはリズの最後の手料理が用意されていた。
結婚記念日だったから、リズも気合いを入れて作ってくれんだろうな。
そう思うと涙が止まらなくなって、俺の視界が大きく歪む。
最後の手料理なんだから、大切に味わって食べた。
今までは当たり前だと思っていたんだ。

「美味いなぁ」

俺は自分の服の袖で涙を拭いながら、リズが作った美味い料理を必死に食べた。
腐ってしまわねぇように、俺の胃袋にしまうんだ。
リズの分もあるから結構な量だったけど、最後に食う妻の手料理なんだ……。
残して捨てるなんて勿体無いこと出来るわけねぇだろ！

「リズ、何時も美味しい料理をありがとう」

馬鹿だよなぁ、もっと早くに云っていれば後悔せずにすんだかも知れねぇのに。
俺はリズが妊娠してから、洗い物とか洗濯物とか手伝わせてもらってたから……何とか出来た。
リズみたいには上手くねぇけど。
子供のために買った玩具も……リズの私物も……捨てられねぇなぁ……。
最悪の別れ方でもしたんなら、捨てられたかもな。
けど、いい思い出しかねぇからよ。
なあリズ……俺……立ち直れると思うか？

「リズ……俺は弱い男なんだよ」

そんなことを呟きながら、一人で黙々と皿を洗う。
リズは、こんな俺を笑うだろうか？
痛くなかったか？苦しくなかったか？

「せめて……恐怖を感じる間もなかったなら……」

リズ……俺たちの子供をよろしくな！
俺は多分…地獄に堕ちると思うから。
だから…ごめんな。
弱くてごめん……本当に。