トップアイドルのあいつと凡人の俺

にゃーつ

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受験のストレスの捌け口になれと言われ、クラスのみんなだけでなく同じ学年の同級生からも足を引っ掛けられたり物を隠されたり堂々と悪口を言われる。そんな日々だった。

俺は負けたくなくて、勉強だけは必死に頑張った。きっとそれも気に障ったんだろうけど、物は奪われるし友達もいなくなる。でも、頭の中の知識と俺の努力は誰からだって奪われないから。

この頃1番キツかったのは給食に異物を入れられることだった。この中学の給食はお弁当箱が1人1つ配られる方式なのだが、そのお弁当箱に蓋を留める輪ゴムなどはついていなくて他人のものを開けるのなんて簡単だ。だから俺は自分で取りに行きたいのだが、毎度毎度久保くんたちが俺の元へ持ってくる。

「俺たちは優しいよな~。お前なんかのためにわざわざ給食持ってきてやってんだから。」

なんて思ってもないことをいいながら。
給食に入ってるものは日によって違う。消しカスやシャー芯が入っていることもあれば石が入っていることもある。わざわざ拾ってきたのかと思うと呆れる気持ちもある。

そういったものは自分で取り除けばいいから楽だ。だが取り除くのが難しいものもある。白米の上にチョークの粉がかかっていた時や、カレーに砂や泥が入れられた時、トイレの水を食事にかけられたとき、明らかに異臭のする牛乳にすり替えられた時は食べない選択肢を取りたかったが久保くんたちに無理やり食べさせられた。流石に昼休みに吐いてしまった。そんな状態をクラスのみんなは何も無いかのように過ごす。

毎日のように続くと体が勝手に食事に恐怖するんだ。母さんが作った料理も怖くて手をつけるのに躊躇してしまう。食事中もずっと緊張状態が続くような感覚だった。その結果量が食べられなくなり俺の体重はみるみるうちに落ちていった。

それでも毎日学校に行った。

そんなある日、移動教室に向かう途中に久保くんたちに囲まれてしまった。また殴られるのかと体に力を入れたその瞬間の出来事だった。久保くんたちは俺を階段から突き落とした。

落ちるなと頭が働く時間が過ぎた途端に視界がぐるぐるし頭や腕、体中を次々と痛みが襲う。最後にドンと強い痛みが肩と背中に走ると彼らの楽しそうな笑い声が聞こえた。

額が切れたのか目の前にタラタラと血が流れるのが見えた。
立ち上がることすらできずにいると上から

「うゎーーー!5.3秒だ!!」

「久保が5秒予想で1番近いんじゃね?」

「俺なんて3秒予想だぜ?オーバーしすぎだろ!!」

「俺6秒だー!惜しくね?」

俺が階段を落ちるまでの秒数で賭けをしていたみたいだ。当たりどころが悪ければ俺は死んでいたかもしれないのに、、。それなのにこんなに楽しそうにゲーム感覚で人を階段から突き落とすなんて本当に狂ってる。

泣きたかった。誰かに助けて欲しかった。

意識が遠のきそうになる中、視界に裕貴と晋作が写った。思わず手を伸ばそうとしたが2人はふいと顔を背けて立ち去ってしまった。ほんの1年前まで3人で馬鹿な話をしたり宿題を見せ合ったり何でもない日常を一緒に過ごしていたのに現実は残酷だ。

この学校に俺の居場所はない。
それを改めて感じるといじめが平気になった。

階段から突き落とされた次の日は流石に体が痛くて学校を休んだが次の日からは普通に登校した。母さんは俺が痩せてしまったこともありすごく心配していたが受験勉強で寝不足で足を踏み外したと言えば信じてくれた。

俺は、勉強して学区内で1番の進学校である北高校に行くんだ。そして大学進学と同時に上京して蒼の近くに行くんだ。蒼が困った時や辛い時に話を聞いたり慰めたりできるように。蒼のことを近くで応援するために。

そんな俺の意思は自分が思ったよりも俺自身を歩かせ続けた。きっと心の一部はもう止まろう、苦しいのは嫌だと悲鳴をあげていたんだと思う。だが俺の未来への強い意志がその弱い心を俺自身に見せないようにした。

急に飛び蹴りされても、プールに顔を押し付けられ死にかけても、上靴が画鋲だらけでも、真冬に裸にされトイレで冷水をかけられても、毎日学校に行った。

その結果俺は北高校に見事に合格した。

あと3年だ。

あと3年すれば東京に行ける。

蒼に会いに行ける。

お母さんや学校に報告するよりも先に蒼にメールをした。

---北高受かった!!!---

送信してすぐに蒼から電話がかかってきた。メールで返信が来ると思っていたからかなり驚いたが久しぶりの蒼との電話が嬉しかった。

「伊織、おめでとう。すげえじゃん、北高って1番の進学校だろ。」

「うん、、、」

涙が出そうだった。こうして対等な相手からちゃんと、人間として扱ってもらったのは久しぶりな感じがした。

「なに?泣いてんのか?嬉し泣き?」

「泣いてねえ!蒼は?仕事忙しいんだろ?」

「あー、まぁな。実はな、さっきマネージャーから聞いたんだけど映画の主演決まった。なぁ伊織、褒めて?」

「すげえじゃん!!えっ!まじ!すげえ!!映画なんて凄すぎるぞ!いつ公開だ?」

「来年の秋か冬予定らしい。」

「俺、絶対に観に行くからな!」

「公開日に行けよ?」

「観に行ってやるだけありがたく思えよ!!」

「あ、そういやグッズ受け取った?」

先日、うちに蒼から荷物が届いたんだ。中身はグッズだった。俺のお気に入りは蒼のぬいぐるみキーホルダーカバンにつけているとあいつらに何かされるかもしれないから学校には持って行かなかったが今日は合格発表だったしお守り代わりにポケットに入れて行った。

「おう!!蒼の顔ばっかでなんか面白かった」

「なんだよその感想!俺からグッズもらえるなんてありがたく思え!!」

「蒼!さっきの俺の真似してるだろ!」

「げ、バレたか。」

あぁ、俺ちゃんと笑えるんだな。
蒼と話すと何も意識しなくても口角が上がるし腹から笑ってる。

全然平気じゃん。

蒼と話しただけでこんなにも世界が明るく見えるなんてな。いつもは義務的に歩く学校への道も蒼と話したあとなら初めての土地を歩くかのようなワクワクした気持ちで歩くことができた。

いじめになんて屈してない。負けてない。あいつらより成績も良かった。新しい環境でまた一歩踏み出せればそれでいい。

俺はこの街に一生いる気はない。大学生になると同時に東京に、蒼の近くに行くんだから。いじめられていたのなんて中学のたった2年ほどだ。人生100年時代だぞ?誤差じゃねえか。

大丈夫、俺は大丈夫。


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