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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.15 買い物日和の秋の日は
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お買い物に出ようと屋敷の扉を開けたら、ひらりと一枚の紅葉《もみじ》が石畳に落ちてくる。スチュアート伯爵領にも秋がやってきた。
今年も紅葉《こうよう》が綺麗だけど、今日はお天気が悪くて残念だなぁ。晴れてたらお弁当でも用意して皆で紅葉狩りとか行けるのに。まぁいいや、とりあえず今日はお買い物……と、一歩玄関から踏み出そうとしたら不意に引き留められた。
「おい、こんな雲行きの怪しい日にひとりで出かける気なのかお前は」
「ガイア!う、うん、ちょっとお買い物に行こうかなって」
「はぁ、お前と言う奴は……」
振り返ってそう答えたら、何故かため息混じりに外出用のコートを羽織るガイア。ガイアも出掛けるのかな?とその姿を首を傾げながら見てたら、私を追い抜いて玄関から外に出たガイアがふとこちらを振り向いた。
「ほら、どこに行くんだ?」
「え?」
「え?じゃない。一人で外に居るときに雷に鳴られたらどうするつもりなんだ」
「ーっ!」
今にも雷が鳴り出しそうな空を指差したその姿に、彼の意図をようやく理解した。私が雷にトラウマがあることを知ってるから、買い物に着いてきてくれるつもりなんだ……!
「ありがとう。でも近くの商店街までお買い物に行くだけだし、もう雷で倒れたりしないから大丈夫よ?」
「駄目だ、お前の『大丈夫』はどうにも信用ならない」
呆れたようにそう言って、ガイアがこちらに右手を差し出す。掴めってことだろう。ぶっきらぼうな仕草なのに、キュンと胸が弾んだ。か、カッコいいじゃないですか……!
好きでもない女《わたし》にはこう言うこと出来るのに、なんでナターリエ様相手だと都合の良い男になっちゃうのかしらこの人。
「……おい、お前何か失礼なこと考えてるだろう」
「あら、そんなことないわよ?」
「どうだかな。ほら、早くしないと降りだすぞ」
意地でも言葉で『一緒に行こう』とは言わない不器用なガイアの右手に、クスリと笑いながら自分の左手をそっと重ねた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
秋は美味しい食べ物が多いからと商店街で食材を大量に買い込んで。せっかくガイアが一緒に来てくれたので、一人の時じゃ運べない重たいもの(お米とか飲み物とか)もちゃっかり購入。
両手で米俵を抱えたガイアの『なぁ、これはどうしても今日買わないといけなかったものか……?』と言う呟きは、聞こえなかったふりをした。
「セレンお前、来る前はあんなに遠慮してたくせにここぞとばかりに重たいもん買い込みやがって……!」
「あはは、ごめんね!運んでくれたお礼に今夜はガイアの好きなグラタンにするから許して!……あ」
なんて二人で両手いっぱいの食材を抱えて談笑していた帰り道、髪飾りやネックレス等の小物が並ぶ雑貨店の前でふと足が止まった。一歩前を歩いていたガイアが振り向いて首を傾ぐ。
「どうした、気になるものでもあったか?」
「うん、料理の時とかに髪を留めるリボンかバレッタが欲しくて。前のが壊れちゃったから今は結ぶに結べなくて困ってたのよね」
「あぁ、そう言えば最近夕飯作ってる時もずっと髪下ろしてたな。少し見ていくか?」
ガイアはそう言ってくれるけど、そう言う彼の腕には荷物がいっぱいだ。元々善意でついてきてくれたのにこれ以上付き合わせるのは申し訳ない。
首を横に振って、帰り道を歩き出した。
「見ないのか?」
「えぇ、今日はもう荷物もいっぱいだし、あのお店だと好みの奴が無さそうだったから」
「そうなのか?いかにも女が好きそうな店だったけどな」
隣を歩いているガイアが、遠くなった雑貨店をちらっと振り返った気配がした。あの雑貨店は、お花とフリルをメインにしたロリータ系のメルヘンなお店なのだ。
艶やかな黒髪と切れ長の目がクールな印象の隣の美男子《ガイア》を見て、やっぱり入らなくてよかったなと心底思った。あのラブリーな、しかもスタッフもお客さんも女の子だらけのお店にこんなイケメンが入ってみろ、絶対浮くしナンパされる!!ライバル増えるの駄目、絶対!!
「……難しい顔してんな。あぁ言う装飾品は好きじゃないのか?」
妄想の恋敵に敵意を燃やしてた顔を正面から覗き込まれてドキッとした。またこの男は無自覚に距離つめてくるんだから……!
「う、ううん、見る分には好きよ?でも大人が普段使いでつけるにはあのお店の髪留めは可愛すぎちゃうんだよね。スピカとかルナみたいに小さい女の子がつけるなら可愛いと思うけど」
「まぁ確かにかなり派手だったな。……じゃあ、お前はどんな物が好みなんだ?」
「私?私は天体モチーフの物が好きかな、星空とかお月様とか入ったキラキラした奴」
「星が好きなのか?」
「うん。屋敷の窓から昔よくお母様と天体観測してたからかもね。でもこの辺りの雑貨屋さんは天体モチーフを扱ってるお店が無いのよね」
自然が豊かで可愛いお花がたくさん咲く土地柄だからか、スチュアート伯爵領ではお花やクローバーなんかの自然をモチーフにした小物が主流なのだ。残念だけど売ってないものは仕方ないわねと苦笑を浮かべる。
「さっ、早く帰ろ!急がないと食材が痛んじゃうわ」
「そうだな……っておい、走るなよ!転んで泣いても助けないからな?」
「失礼な!いくらなんでも子供じゃないんだからそんなことしないもん!!」
~Ep.15 買い物日和の秋の日は~
『ただの買い出しも、二人なら楽しくなるのです』
今年も紅葉《こうよう》が綺麗だけど、今日はお天気が悪くて残念だなぁ。晴れてたらお弁当でも用意して皆で紅葉狩りとか行けるのに。まぁいいや、とりあえず今日はお買い物……と、一歩玄関から踏み出そうとしたら不意に引き留められた。
「おい、こんな雲行きの怪しい日にひとりで出かける気なのかお前は」
「ガイア!う、うん、ちょっとお買い物に行こうかなって」
「はぁ、お前と言う奴は……」
振り返ってそう答えたら、何故かため息混じりに外出用のコートを羽織るガイア。ガイアも出掛けるのかな?とその姿を首を傾げながら見てたら、私を追い抜いて玄関から外に出たガイアがふとこちらを振り向いた。
「ほら、どこに行くんだ?」
「え?」
「え?じゃない。一人で外に居るときに雷に鳴られたらどうするつもりなんだ」
「ーっ!」
今にも雷が鳴り出しそうな空を指差したその姿に、彼の意図をようやく理解した。私が雷にトラウマがあることを知ってるから、買い物に着いてきてくれるつもりなんだ……!
「ありがとう。でも近くの商店街までお買い物に行くだけだし、もう雷で倒れたりしないから大丈夫よ?」
「駄目だ、お前の『大丈夫』はどうにも信用ならない」
呆れたようにそう言って、ガイアがこちらに右手を差し出す。掴めってことだろう。ぶっきらぼうな仕草なのに、キュンと胸が弾んだ。か、カッコいいじゃないですか……!
好きでもない女《わたし》にはこう言うこと出来るのに、なんでナターリエ様相手だと都合の良い男になっちゃうのかしらこの人。
「……おい、お前何か失礼なこと考えてるだろう」
「あら、そんなことないわよ?」
「どうだかな。ほら、早くしないと降りだすぞ」
意地でも言葉で『一緒に行こう』とは言わない不器用なガイアの右手に、クスリと笑いながら自分の左手をそっと重ねた。
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秋は美味しい食べ物が多いからと商店街で食材を大量に買い込んで。せっかくガイアが一緒に来てくれたので、一人の時じゃ運べない重たいもの(お米とか飲み物とか)もちゃっかり購入。
両手で米俵を抱えたガイアの『なぁ、これはどうしても今日買わないといけなかったものか……?』と言う呟きは、聞こえなかったふりをした。
「セレンお前、来る前はあんなに遠慮してたくせにここぞとばかりに重たいもん買い込みやがって……!」
「あはは、ごめんね!運んでくれたお礼に今夜はガイアの好きなグラタンにするから許して!……あ」
なんて二人で両手いっぱいの食材を抱えて談笑していた帰り道、髪飾りやネックレス等の小物が並ぶ雑貨店の前でふと足が止まった。一歩前を歩いていたガイアが振り向いて首を傾ぐ。
「どうした、気になるものでもあったか?」
「うん、料理の時とかに髪を留めるリボンかバレッタが欲しくて。前のが壊れちゃったから今は結ぶに結べなくて困ってたのよね」
「あぁ、そう言えば最近夕飯作ってる時もずっと髪下ろしてたな。少し見ていくか?」
ガイアはそう言ってくれるけど、そう言う彼の腕には荷物がいっぱいだ。元々善意でついてきてくれたのにこれ以上付き合わせるのは申し訳ない。
首を横に振って、帰り道を歩き出した。
「見ないのか?」
「えぇ、今日はもう荷物もいっぱいだし、あのお店だと好みの奴が無さそうだったから」
「そうなのか?いかにも女が好きそうな店だったけどな」
隣を歩いているガイアが、遠くなった雑貨店をちらっと振り返った気配がした。あの雑貨店は、お花とフリルをメインにしたロリータ系のメルヘンなお店なのだ。
艶やかな黒髪と切れ長の目がクールな印象の隣の美男子《ガイア》を見て、やっぱり入らなくてよかったなと心底思った。あのラブリーな、しかもスタッフもお客さんも女の子だらけのお店にこんなイケメンが入ってみろ、絶対浮くしナンパされる!!ライバル増えるの駄目、絶対!!
「……難しい顔してんな。あぁ言う装飾品は好きじゃないのか?」
妄想の恋敵に敵意を燃やしてた顔を正面から覗き込まれてドキッとした。またこの男は無自覚に距離つめてくるんだから……!
「う、ううん、見る分には好きよ?でも大人が普段使いでつけるにはあのお店の髪留めは可愛すぎちゃうんだよね。スピカとかルナみたいに小さい女の子がつけるなら可愛いと思うけど」
「まぁ確かにかなり派手だったな。……じゃあ、お前はどんな物が好みなんだ?」
「私?私は天体モチーフの物が好きかな、星空とかお月様とか入ったキラキラした奴」
「星が好きなのか?」
「うん。屋敷の窓から昔よくお母様と天体観測してたからかもね。でもこの辺りの雑貨屋さんは天体モチーフを扱ってるお店が無いのよね」
自然が豊かで可愛いお花がたくさん咲く土地柄だからか、スチュアート伯爵領ではお花やクローバーなんかの自然をモチーフにした小物が主流なのだ。残念だけど売ってないものは仕方ないわねと苦笑を浮かべる。
「さっ、早く帰ろ!急がないと食材が痛んじゃうわ」
「そうだな……っておい、走るなよ!転んで泣いても助けないからな?」
「失礼な!いくらなんでも子供じゃないんだからそんなことしないもん!!」
~Ep.15 買い物日和の秋の日は~
『ただの買い出しも、二人なら楽しくなるのです』
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